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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
31/364

ガナーシュとスガワラ

俺の名は、スガワラ・トゥア。


3等市民の家に生まれた。


父親は土木会社を経営している。


郊外とケラムの間にある13番目の太陽光受光施設。


それを建設しているゼネコンの孫請け会社。


俺はスガワラさんって呼んでる。


経営といっても従業員はジョナサン一人だけ。


事務は母さんがやってる。


俺はスガワラさんの奥さん。それか、おばさんって呼んでる。


社長という肩書きも名ばかりで、大型のショベルカーの操縦をする体力的にもキツイ仕事。


太陽光受信施設は、大気圏外の反射衛星群に集められた太陽光線フォトンを、地上の集光板で集め、一気にエレクトロンに変換する。


と、言っても、単に植物の光合成を利用したもの。


クロロフィル(葉緑素)で光をあつめ、クロロフィルでフォトンをエレクトロンに変えるだけ。


電気がなぜ発生するかって?笑。


小学校で習ったろ?笑。


電気分解だよ。


単に。


植物は光合成の過程で、水を分解する。


つまり還元する時に電気を生み出す。


それから、二酸化炭素と結合させてでんぷんを作る。


ただそれだけ。


でも、規模と効率が圧倒的に違う。


集光板の僅か1mmのセルが、アサガオの973京倍だ。


京って分かる?。


10000兆のことだぜ?。


集光板は半径700mにもなる巨大な円形のパラボーラ。


あの地区には全部で22機備えられてる。


第13施設は、来年3月の再稼働に向け、突貫工事が続いてる。


俺は、兄貴と二人兄弟。


3等市民が郊外とは言え指定都市で暮らしていくのは簡単じゃない。


スガワラさんは朝から晩まで身を粉にして働き、おばさんは、スガワラさんの会社の事務以外に、二等市民向けの食事サービス会社のパートで働いている。


3等市民に生まれる位なら、生まれて来なければ良かった。


無理をして指定都市に住みたがるスガワラさんと、おばさんが、本当に鬱陶しい。


あの人達の夢は、2等市民に昇格すること。2人とも少しでも評点を上げるためにいつも必死だ。


休みの日は、スガワラさんは、エルカーの公営停車場の清掃、おばさんは、二級市民の自治会長の下僕のように働く。


どんなになじられようと、理不尽なことを言われようと、おばさんは深々と頭を下げ、不自然な笑顔で笑っている。


まるで心を無くしたロボットだ。


俺は昇格のためなら、どんなことでもする両親が大嫌いだ。


2等市民に取り入っては、理不尽なことを言われ、それでも頭を下げ、笑っている父さんと母さんが。


時々スガワラさんは、酔っ払って帰ってきては、母さんを殴る。母さんは陰で泣き、俺たちにスガワラさんの悪口を言う。


スガワラさんは、俺たちを一流企業のサラリーマンに、おばさんは教師にしたがっている。


2人は俺たちに自分達の感じてきた抑圧を晴らして欲しいと思っている。


そんなことホントどうでも良い。


俺にとっては。


ホント下らない。


あんなバカな両親を持って恥ずかしい。


兄貴は、外見も運動神経も要領も良い。


両親の期待に応え、3等級市民向け大学に推薦入学をした。


俺は、色白でぽっちゃりしている。


おばさんに似たキツイ目。


キツネみたいで嫌いだ。


運動神経もあまり良くない。


子供のころから徒競走は万年ビリ。


スポーツはいつもベンチ。


そして、両親の必死の努力で、俺は私立の無等級学校に入学した。


何の取り柄もない3等市民。


ホント生きてる価値無い。


親は、1等市民にも負けない教育をと考えた。


エスカレーター式の学校は、3等市民は大金持ちの子供や、間も無く昇格するプロスポーツ選手の子供ばかりで、俺みたいな奴はいない。


スポーツで3等市民から2等市民になる人はいる。


凄いスーパープレイヤーの人とか。


でも、普通のサラリーマンや教師が昇格することなんか無い。


ましてや、肉体労働者なんか...。


俺は格好のターゲットだ。


愛想悪いし、取り柄もない。


色白で目がおばさんそっくり。


強くもない。


他の3等市民みたいにペコペコしない。生意気でムカつくからだ。


学校帰りに、突然真冬の川に突き落とされたり、靴やパンを捨てられたり、理由無く体育館の裏に呼び出されボコボコにされたり、公園の木に裸で吊るされたり...。


傷ついたし、泣いたり、誰かに助けて欲しかった。


でも、何か意地あるし、心が鉛のように冷たく硬くなってしまった。


石を校舎の二階から投げられ、頭を血だらけにして、病院に運ばれたこともある。


1番キツかったのは、女子の前でパンツを脱がされ無理やりしごかれイってしまった時だ。


「おら、白ブタ、ぶーって泣けよ。」


「何で黙ってるんだよ。」


「おまえら可哀想だな!。」


「なに?この野郎!。」


まるで、重罪人のような扱いだ。


一体俺が何をしたというのか。


「なんだそのツラは!。」


「存在自体が犯罪なんだよ。白ブタ。」


「おまえより、哀れな奴いるわけないだろ?笑。ブタ野郎。笑」


「いるよ目の前に、1等市民には頭上がらないくせに!。」


俺は殴られ続けた。


俺は、怖くても思っていることを直ぐに言い返してしまう。


生まれた時から。


だから、余計に酷い目に合う。


「おまえらだって、1等市民にいじめられてんだよ!。」


...ウィーーーーーーーーーーーーーン...バリバリ...


同級生がバリカンで俺の髪を剃り始めた。


明日も笑い者だ。


でも、そんなの慣れた。


耳を切り落とされそうになり、必死で抵抗した。


「この野郎!。」


...ドス...


腹を蹴られ地面に頭をすりつけられた。


「1等市民にいじめられて、ストレス溜めて、どうしようもなくて、無抵抗な奴にウサ晴らしてんだろ!。最低だな!。理由つけて、正当化して!。」


足で頭を踏みつけられた。


「感情を...都合良く...ゥッ...固定化して。いて...安全な弱い者を...はけ口にしてさ!。」


奴らは、鉄パイプで殴り始めた。


「哀れだよ、お前ら、自分で世界を決められるのに!。」


「は?!何言ってんだ、ブタ!。世界なんか誰にも決められねぇんだよ。」


「人間は生まれながら運命が決まってんの!。白ブタ!。分かるか?。ブタはブタらしくブー、ブー泣いてりゃいいんだよ!。」


「おら、ブーって言えよ!。ブタ野郎!。」


パイプが喉に食い込む。


「い...言わない。俺は...うぐっ...ブタじゃ..ない!。」


「てめぇ、ブタのクセに生意気だぞ!。」


喉に鉄パイプが。


「うぐっ。」


「うぐっじゃねえよ、ブーだろ?。笑。」


「こんなことして、こんな場面創り出して...。おまえらの責任じゃねぇか!。この場面を支配して...。」


「うぜえんだよ。何訳のわかんねぇこと言ってんだ!。このクソブタ野郎!。」


「クソブタ野郎?。糞まみれにしようぜ?。ウケるそれ。」


「世間や人のせいにして...。卑怯なんだよ...フゥ...貴様ら!。一生クズ...ァ...として生きろ!。」


俺は言葉を止めなかった。


唯一の取り柄...。


口が達者なこと。


どんなに怖くても言い返してしまうこと。


パイプで滅多打ちにされる。


のたうち回るほど痛い。


必死で歯を食いしばって我慢する。


そんなつもりは無いのに、すすり泣くような悲鳴が出てしまう。


女みたいな声。


こんなクズみたいな奴らに、思い通りされるのだけは我慢ならない。


でも、痛すぎる。身体が勝手にすすり泣いてしまう。


「こいつ女みたいな声で泣いてんぜ。笑。」


「もっと泣けよ?。こら!。謝んねぇと、殺すぞ?。おら!。」


「おまえが心を入れ替えるまで、毎日教育してやんよ!。笑。」


「調教だろ?。豚なんだから。笑」


「まあ、月末までには、俺の立派な奴隷に育てるから。このブタ。笑」


「謝るのか?。こら!。あん?。ブタでごめんなさいってなぁ!。」


...ガツッ...


必死で頭を横に振った。血の匂いがする。


死んだって、従うものか。


「あん?。何だと?。」


「こーのー野郎!。」


...ドガッ...


余計に激しくなる。


...ガッッ...


...ガゴ...


...ガッッ...


あぁ、俺、ここで死ぬんだ...。


トモワ叔父さん。悲しむだろうな...。


でも、考えると辛すぎるから、このまま死ぬよ。


身体って、自分自身じゃないのかもしれない。


誠実な動物。


可哀想。


鉄パイプで殴られて女みたいに泣いて、のたうち回る自分を側から見てる。


おかしくなりかけてるのか?。


分裂病?。


人間の顔。


こんなに腫れるんだな...。


風船みたいだよ。


自分が壊れていくことほど怖いことはない。


自分より遥かに程度の低いケダモノに、理不尽に支配され、殺されることほど。


物理的にも、精神的にも、壊れて行く。


何も悪いことしてないのに。


低俗な奴らの気まぐれで...。


...グジャァ!...


後頭部で何かヤバい、鈍い音がした...。


目から火花が止まらない。


何か一線超えたかも。


こんな酷いのは初めてだ。


「...うっ。やべえ。めり込んだ...。汗。」


「ヤバ。死ぬかも、こいつ。」


「いいよいいよ。笑。」


「だって、ブヨブヨだぜ、ここ。笑」


「別にいいじゃん。」


「俺はやだよ。」


「キモ!。やめた。」


「何で?。もっとやろうぜ?。笑。」


「バーカ。おまえもキモいんだよ。」


「おまえだけ、異常だよ。」


「こいつ異常者じゃね?。」


「1人でやれよバーカ。」


「全部おまえの責任だかんな。」


「こいつがやったことにしようぜ?。」


「お、おい、ま、待ってくれよー。それはないよぅ。笑」


「うぜぇ。消えろ!。クズ!。」


「おまえも死ね!。変質者!。」


意識が遠のいていく。


ガナーシュも出来なくなるな。


こんな馬鹿げた仕組みに乗っかるなんて、バカだ。


スガワラさんもおばさんも、バカだ。


大バカだ。


バカなあんた達の息子がどんなに無様に死ぬか良く見て.....ろ.......よ........................



----------------------------------


あれから、何年経っただろう。


俺は、また、病院のベッドにいる。


久しぶりだ。頭を包帯でぐるぐるに巻いている。


さっきまで、スガワラさんの奥さんがいた。


おばさんは、二等市民のリョアンさんに相談しに行くらしい。


また、殴った奴らとお互いに謝って終わりだ。


何で一方的に痛めつけられた俺が謝らなきゃなんねぇの?。笑。


俺が死ぬまで気づかないだろう。この人達は。


いや、死んでも気づかない人達だ。


下らない。


バカだ。


大バカで低脳な小市民。


俺の成績は相変わらず中の下。


でも、時々、物理のテストや、生物や生命理論のテストで満点を弾き出すことがある。


難しくてみんなが点を取れないときに限って。


みんな不正を疑ってくる。


不正する方法なんか無いのに。


そんな下らないことするか。


そんな俺にも、一つだけ好きなこと、得意なことがある。


ガナーシュという、伝統的なゲーム。


11の地形、7つの季節、54種の駒を使い、自分の陣地を守り、国を豊かにしながら、敵陣を落とす。


2人から16人で戦う。


歴史が始まって以来、群雄割拠の続く、ローデシアーエイジン地域で必然的に生まれたゲームだ。


俺にこれを教えてくれた人。


命の恩人。


叔父のトモワだ。


今はもういないけど。


母さんの弟。


人生でたった1人の理解者。


そして、唯一の親友。


行く場所もなく、落ち着ける場所もない俺を、いつも気遣い、自分の子供のように可愛がってくれた。


トモワ叔父は、目が見えなかった。


軍事兵曹の適用手術に失敗したからだ。


兵曹になれば、等級は関係ない。


強ければ良い。


金も才能も関係ない。


下層市民が、悲しく厳しい階級制度を飛び越えるには、それしかない。


俺も良くわかる。その考え。


トモワ叔父は人の力を借りずに、生活をした。


貧しかったけど、辛い風当たりも気にせずしっかりと生活をしてた。


叔父だけは、俺の誕生日には必ずプレゼントをくれた。


ささやかだったけど。


でも、どんな贈り物よりも嬉しかった。


どんなに周りの大人たちが、叔父を迫害しようが、俺だけはトモワ叔父の味方だ。


そう思っていた。


叔父は、風変わりで頑固者なんかじゃ無い。


人より真っ当なだけだ。


トモワ叔父。


トモワ叔父...。


あれは、10歳の誕生日。


叔父は、約束通り誕生日プレゼントを買ってきてくれた。


その当時は、空前のスーパーエルカーの(飛行車)ブームだった。


みんなは、沢山持っていた。


スーパーエルカーの模型。


俺が好きだったのはガラージュ。


ガラージュ1800。


地味だけど、それでいて車高が低くてスマート。


とても格好良い。


一つくらい欲しいと思った。


それくらい、ワガママ言っても良いじゃないかって。


トモワ叔父にだけは甘えられた。気が合う唯一の肉親。


最初で最後のワガママ。


ガラージュ1800の模型。


俺は叔父に自分からどうしても欲しいってせがんだ。


叔父は、いつもと同じ。


笑って二つ返事で約束してくれた。


前からトゥアに買ってやろうと思ってたって、叔父は言った。


トゥアにぴったりだって。


ちょっと?な感じだったけど、そんなに気にしなかった。


そして............。


そして...あの日。


忘れもしない。


あの日...。


誕生日の日、父さんも母さんも夜遅くまで仕事だった。


また、叔父から電話がかかって来た。


叔父の家に呼んでくれた。


いつものように。


ささやかだけど、不器用で、目も見えないながら、一生懸命作ってくれた晩ご飯、いつもよりも多く買ってあった菓子が置いてあった。


そして、叔父が帰って来て、待ちに待ったそれを持ってきた。


思ったより大きな箱だ。


嬉しすぎて、慌てて包み紙を破った。


ビリビリに破った。


叔父は嬉しそうな顔をしていた。


少し違う方向を向いて耳を傾けてた。


そして、俺はそれを開け、がっかりした。


びっくりした。


俺は大きな声で泣いた。


欲しかったのは400ギルダのガラージュ。


エルカー(飛行車)の模型だ。


叔父の贈り物は28ルピアもするガナーシュ。


〔※1:アトラでは等級により使える金の種類が違う。1ルピア=10000ギルダ〕


叔父さんは聞き間違えたんだ。


俺はわざと大声で泣いた。


ガキだったんだ。


我慢できないことは無かった。


ワガママなんて言ったことない。


貧しい3等市民のガキがワガママなんて。


それに俺は我慢強い方だ。


でも、この日は、我慢できなかったんだ。


トモワ叔父は飛び出していった。


叔父さんは行ってしまった。


初めは叔父のプレゼントを蹴ったり、叔父をボロカスに罵倒した。


本当にガキだった...。


しかし、10分もしないうちに寂しくなった。


叔父が恋しくなった。


怒りに任せて酷いことを言ってしまった。


叔父がこれを買うのにどれだけ大変だったか。


高校生も、大学生も持ってないのに。


俺は、トモワ叔父の帰りを待った。


でも、叔父は2時間たっても4時間たっても戻らなかった。


「こっちで良かったよ。」


呟いた。何回も何回も呟いた。


でも、叔父は戻らなかった。


心配になって、叔父を探しに行った。


「こっちで良かったよ。」


呪文のように呟きながら。いつの間にか、俺は泣いていた。


いつも一緒に行く公園、定食屋、河川敷、機動列車のホーム、飛行車の製造工場。


どこも思い出がいっぱい。


叔父を見つけたら最初にごめんなさいって言おう。


ありがとうって、大好きだよって。


少し元気が出てきた。


しかし、叔父は帰って来なかった。


帰って来てくれなかった...。


二度と...。


...二度と。


だった一度のワガママが、こんなに大切な物を奪うなんて...。


想像すらしなかった...。


.......。


叔父は、メインストリートで、大型のエルタンカー(航空貨物船)に跳ねられていた。


...。


俺は、病院で叔父に会った。


叔父の枕元には潰れたガラージュの模型が置いてあった。


グチャグチャに潰れていた。


グチャグチャに、粉々に...。


さぞ、痛かったろうに。


叔父は手紙を持っていた。


いつもみたいに、定食屋のイワさんに手伝って貰って少しずつ書いたんだろう。


プレゼントに入れ忘れたんだ。


『トゥア。誕生日おめでとう。トゥアがガナーシュをやりたいって...』


手紙は何枚も書かれていた。見えない目で。


俺が叔父を殺した。


俺が殺してしまった。


大切な宝物。


自分で壊してしまった。


でも、叔父の手紙には、この難しいガナーシュが俺の生きる道を示してくれると書いてあった。


ずっと、ずっと、苦しんでる俺を見ていてくれた。


ずっとずっと俺を助けようとしていてくれた。


同じように、いや、それ以上に俺の痛みを感じてた。


最初から。ずっとずっと。


叔父さんだけは、叔父さんだけが見ていてくれた。


俺のこと、ずっとずっと。


...。


ひとりぼっちになった。


ひとりぼっちになった俺は、その日から、毎日ガナーシュに取り組んだ。


毎日。毎日。


何にも熱中したことが無かった俺が。


何にも興味を持てなかった俺。


生きる気力すら無かった俺。


人が変わったように。


ガナーシュは10歳の子供には難しすぎた。


でも、寂しい時は、ガナーシュに打ち込んだ。


虚しい時はガナーシュに打ち込んだ。


理不尽に憤る時も、トモワ叔父が恋しい時も、ガナーシュにひたすら打ち込んだ。


ひたすら、ひたすら。


雨の日も、風の日も、毎日、毎日。


来る日も、来る日も、眠らず、飯も食わず、毎日、毎日...。


わずか1年でボードや駒は真っ黒に、ボロボロになった。


会いたい。


トモワ叔父さん。


会いたい。


叔父さんに会いたいよ...。


これ、頑張ったら、また会えるかな?。


また、会いに来てくれるかな。


会いたい...。


僕は一人ぼっちだけど、一人じゃない。


なぜなら...なぜなら、心の中にいつもトモワ叔父がいるから。


きっと、見ていてくれるから。


そうやって、日々は過ぎていき...。


そして、時間は流れた。


俺は、叔父の手紙に書いてあった通り、僅か2年で、ガナーシュの大会で優勝した。


ネオヤマトで開催された成人の大会で。


マスコミは天才少年の出現と騒ぎたてた。


俺はこの地味な外見を活かし、サディストのあいつを替え玉にして逃げた。笑。


逃げられない状態にして、大勢の前でマスコミというピラニアに骨だけにされるのを見てた。


笑いながら。


奴が、自分が虐待される姿を自分でどう見るのか。


全く興味は無いが。


別にあんな奴死んだって良い。笑


さておき、こんな素人に勝っても時間の無駄だと。


このままでは駄目だと。


俺は思った。


狭い世界から抜け出したいと。


今いる世界が自分にとって狭すぎると。


トモワ叔父。


叔父さんの言っていたことは、こういうことだったのかと、その時初めて気づいた。


叔父は俺を見つけてくれたんだ。


誰もが、内に才能を秘めている。


宝石を持っている。


そして、魂の目的を持っている。


気づかないで死んでいく人ばかり。


それに気づけた俺は幸せ。


見つけてくれた、叔父こそが救世主。


自分の神様。


誰でも見つけられる訳じゃない。


だから、出会いは大切。


見出された瞬間、魂は、人生は、誰にも汚すことはできない。


いや、違う。


最初から、誰にも、誰かを汚すことなんて出来ないんだ。


誰もが、何者にも汚されない。


そう。


自分を見つけた時。


自分を見出した時。


それに気がつく。


でも、大半の人達はそれを知らず、人生を終える。


叔父さん。


これからも、俺の側に居てよ。


側で俺を見ていてよ。


大きな世界に飛び立つ俺を。


俺のたった一人の肉親。


親友。


そして救世主。


トモワ叔父さん...。


ある日チャンスはやってきた。


52階の自分の家のベランダで、殴られた痕を消毒していた。


兄貴がにやけながら頬にゲンコツを擦り付けてきた。


家に連れ帰ってくれたのは兄貴だけど、パンパンに腫れた顔にはとても痛かった。


俺は、兄貴に掴みかかった。


しかし、いつものように、足をひっかけられてバルコニーのコンクリートにたたきつけられた。


流石に応えた。


動けなくなった。


でも、兄貴は笑いながら俺の顔に何かを放り投げた。


「ほらよ!。」


...パサッ...


それは、20000ギルダの金と、ベイサイドで開催される、ガナーシュの国際大会の予選の参加者証だ。


奴は、いつもそうだ。


照れ隠しだ。


一般の成人でも、本戦に勝ち上がれる可能性は皆無だ。


でも、俺には、それで十分だ。


兄貴もそう思っているんだ。


きっと。


いつも意地悪な兄貴。


でも、いざという時、助けてくれる。


昨日、あいつらに頼んで、許されなかった兄貴の名前の大会参加証と、旅費。


兄貴は言った。


「頑張ってこいよ。」


「兄貴。泣」


俺は泣いてしまった。


「おばさんが来るぜ。早く隠せよ。」


そういうと、兄貴は宅配ランチのバイトに戻っていった。


20000ギルダ。


それは3等市民にとっては、普通の会社員の給料並みの金額。


-------------------------------------


2等市民以上が頻繁に使用するトランスエクスプレスは、ベイサイドまでの運賃は片道で90ルピア。


トランスエクスプレスで1時間の距離は、超電導列車スカイラインでは乗り継ぎや待ち合わせがある。


最短距離をいけないから半日かかる。


その日俺は、朝5時に起きた。


兄貴は早朝トレーニングとかで既に起きてタブレットを読んでいる。


兄貴に声をかけたが、返事は無い。


スリーブマイル駅からスカイラインに乗り、ネオベイサイドに向かう。


途中高度1000mの位置でスカイラインが停止する。


この列車が管理区域の手前で長時間停止するのは、極めて珍しい。


自動アナウンスが流れた。


「この度は、NTTスカイラインをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。只今、治安警察局より第一級警戒警報が発令されました。当車輌は、ネオヨコハマからキャンベラ駅へ目的地を変更致します。」


俺は、慌てた。キャンベラからネオヨコハマまでは、路線図上は一駅分の距離だ。


でも50キロある。


定刻に会場には間に合わない。


無人列車なので、小型の情報端末バンドルを持っていない俺は、インフォメーションをモニタで確認するしか無い。


大人の脇から何とか覗いたモニタは、全ての交通機関の停止を表示している。


何てついてないんだ。


そう思った。


叔父や兄貴の顔が浮かぶ。


涙が出そうになった。


どうしようもない。


2度とこんなチャンスは無い。


今何とかしないと、いつか俺はあいつらに殺される。


間に合わないのは分かっている。


でも、走ろうと思った。


ホームに到着すると必死に走りネオヨコハマ方面のe1396番出口に向かうエスカーに乗った。


1396出口は、乗客でごった返している。


制止する警備員の股をすり抜け地上に降りた。


2時間前に着くはずだった会場。


後1時間も無い。


どうしても行かなければならない。


今までの自分とサヨナラをするために。天国にいるトモワ叔父を喜ばせるために。


俺は、走った。


走るのなんていつ振りだろう。


息が切れても苦しい。


でも、止まらなかった。


必死に走ってるうちに、誰かにぶつかって倒れた。


すぐに起きて走ろうとした。


でも、強い力で押さえつけられて動けない。


「おい。小僧!。」


酒と汗のすえた匂いがする。


5人組の男達だ。


俺を捕まえている男は緑のキャップを斜めに被り、黄色い半ズボン。


茶髪の長い髪を束ね、長いコートを着ている奴。


ヒゲを生やし髪を編んでいる奴。


みんな厳つく刺青をしてる。


思い出した。


そうだ、ここは辺りで1番治安の悪い場所。ネオイシカワだ。


「小僧、酒持ってねえか?。」


「ガキが持ってるワケねーだろ!。バーカ!。ギャハハハ!。」


俺は逆さまにして振られた。


...ジャリジャリジャリーン...


...パサッ...


兄貴から貰った残り10,700ギルダと、参加者証が音を立てて落ちる。


「おぉ!。金持ってるぜ?。こいつ。もっとないか?。」


男達が、俺の服を捲り上げる。


「この小僧、顔は?。」


「ダメだこりゃ、このぽっちゃり全然可愛くねぇ。笑。」


「いや肌が白くて女みてえじゃねえか?。」


俺は必死で抵抗した。


「や、やめろ!。」


「やぁだねぇー。笑」


「おい、そいつ俺によこせ!。笑。酷い目に合わせてやる。」


俺は必死で暴れた。


必死に抵抗した。


ヒゲの男が寄って来る。


俺を見る目が違う。


目が血走ってる。


気持ち悪い。


怖い。


何か黒い棒を持ってる。


血がついてる。


何とかしないと。


このままでは、こんなクズどもに殺される。


最悪だ。


そ、そうだ!。何とかこの金で仲間割れを...。


「やめろ!。」


!?


空から声がする。


「なんだ?。」


「あん?。」


空中に1台の無人のスピーダーが止まっている。


いや、誰かが乗っている。


「離してやれ!。」


子供だ。


いや、半分金属の、半分は透明なカプセルに入った脳が露出していて...。


半分は人間の顔。


肌と金属の接合部は、青く死んだような色をしてる。


また、気持ち悪いのが...。


ホントついてない。


「あんだ、あの化け物は?。」


ぞっとする。


「化け物じゃない!。人間だ!。」


「人間だと?。笑わせる!。」


それがスピーダーから飛び降りた。


...ダーーーーーーーン...


「うっ!。」


...ズザザザザァ...


そいつは、男達を引きずり回している。


...バスッ...


「痛え!。」


...ドゴ...


「こ、この野郎!。」


...グッ...


...バン...バサッ...


「こっ、こーのヤローウ!。」


凄い力だ。


...ドサ...


俺は地面に落ちた。


機械の子供が俺の手を掴んで叫ぶ。


「行こう。」


手を引っ込めた。


こんな得体の知れない化け物に、ついていけるか!。


「何してる?。俺はキリシマタクヤ!。キリシマケインの息子だ!。心配するな。」


え?。


キリシマケイン?。


聞いたことある。


半分、サイバーパーツのガキのことも。


解放同盟のボス、キリシマケイン?。


俺は、機械、いや、そいつの手を掴み直した。


キリシマは走り出した。


年は俺と同じ位だ。


キリシマは、スピーダーに向けてリモコンを押した。


スピーダーがスルスルと、近寄って来る。


「コオォラ!。待てぇ!。」


「小僧がっ!。」


キャップの男がキリシマにタックルをして来る。


...ドッスン...


キリシマは、ビクともしない。


俺とあまり変わらないのに。


ドレッドヘアの男も、のしかかって来る。


キリシマは男二人に押さえつけられ、馬乗りになられてる。


ど、どうしよう。


ど、どうしたら?。


今まで、俺はやられるばかりだったから...。


男達が手加減なく、キリシマを殴りつけている。


あぁぁ...。


で、でも、た、助けなきゃ。


た、助けなきゃ。


足がすくむ。


でも、俺を助けようとしてくれた。


トモワ叔父や、兄貴以外で初めてだ。


でりゃあぁぁぁーー!。


思いっきりキャップの男に体当たりをした。


...ドン...


キャップの男はよろめいた。


...バーーーン...


一瞬の隙をついて、キリシマが、大男二人を跳ね飛ばした。


すごい力だ。


びっくりだ...。


何だこの力...。


か、かっけぇ...。


「いくよ!。」


キリシマが、また俺の手を引っ張っる。


え?。


こんなに危ない思いをしてるのに、俺を見捨てないのか?。


あ、あれ!。


さ、参加証が無い!。


あれ?。金、金も。


あ、あの男が!。


キャップの男、頭を押さえて、のたうちまわっている。


「金諦めて!。」


「金じゃない!。参加者証だ!。」


俺はキャップの男の元に走って行った。


俺にはもうこれしかない。


ガナーシュしか。


例えここで惨殺されたとしても、後が無い。


俺にはこれしか無いんだ。


男三人がキリシマに飛びかかって、乗っかった。


!?


キリシマは、三人を乗せたまま、抱え上げた。


そのままクルクル回転してる。


結構なスピードだ。


あれ、多分、凄く目が回る。


「ヘッヘッヘ。わざわざ戻っ来たのか。笑。」


キャップの男だ。


掴まれた。


凄い力だ。


ジタバタしてもどうしようもない。


キリシマが何かを叫んでる。


え?。


え?!。


「急所!。急所攻撃だっ!。これ使え!。」


...ガラガラガガガーーーーーーーーーー...


キリシマは、男達の1人が持っていたハンマーを俺の方へ蹴って滑らせて来た。


「えっ?!。...あ...。でりゃぁぁ!。」


俺は、素早く拾い上げると、男の股間に嫌と言うほど見舞ってやった。


...ドスッ...ドスッ...ドスッ...


渾身の打撃を!。


「ひぃぃひぃーっ!。」


ぜってぇやめないぞ!。


...ドスッ...ドスッ...ドスッ...


俺はいつもやられてばかりじゃない!。


「タマがっ。タマがぁぁぁあ!。ひっ、ひいぃぃーーーーーーーっっ!。た、助け、や、やめてぇ。」


オカマみたいな声出しやがって!。


...ドスッ...ドスッ...ドスッ...


人にはもっと酷いことをするくせに!。


大丈夫だ。


潰しやしねぇよ。


おまえのタマタマ。


今までの行い悔い改めよ。


悔ーーーいーーー改ーーーめーーーーよーーーーっ♪。笑。


...ドスドスドスドスドスッ...


乱れ打ち...。


「ひっひぃーーーー!。タマが、タマがぁぁぁぁぁぁ。いやぁん。つ、潰れちゃうー。」


ダメだ。まだまだ。


まだまだまだまだ。


俺は。


俺はやめなかった。


...ドスッ...ドスッ...ドスッ...


「ごめんなさいは?。」


「ぐふぇめもんなそーい。ひっひぃーーーー!。」


「ダメだ!。許さん!。おまえみたいな悪党!。許ーーーさーーんーーーぞ〜〜〜♪。」


...ドスッ...ドスッ...ドスッ...


男は、泡を吹いて、握っている札と参加者証を離した。


俺は、素早く取り上げて、ダッシュで逃げる。


男は泡を吹いて倒れてる。


キリシマ君は回転をやめ、抱えている三人をキャップの男に投げつけた。


...ドタドタドターーーーーーーン...


全員激突して、石のタイルの地面にダウンした。


「こ、ゴォラアァア!。あれ?。」


...ドスッ...


「ま、待て、あ、あれ。てめぇぶつかって..。」


「ぶち殺し...ありゃ、ま、前に、すすめねぇ...。」


...ゴン...


「てめぇ、ちゃんと前向いて走りやがれ。」


...ゴチン...


「痛え!。てめぇ何だって何フラフラしてやがる!。」


男達は、キリシマ君にぐるぐるに回されたせいで、フラフラしてお互いに激突してる。


酔っ払って踊ってるみたいだ。


スピーダーは、地上すれすれまで降りて来ている。


え!?。ここに座るの?。


「トーア。遊び過ぎだよ!。」


キリシマが少し怒りながら、スピーダーのリアシートを指差す。


「トゥアだよ。」


...シュルシュルシュルシュルシュルシュル...


スピーダーのアフロダイエンジンの音。


これ大型だ。


大人でもあまり乗っていない。


黒い光るボディ。


カッコイイ。


コントロールパネルが光ってる。


薄い緑。赤、青。眩しい。


キリシマって凄い!。


黒いシート。


革とアフロダイ、機械油の匂い。


カッコイイ。


こんなの乗ったことない。


スピーダーって小さいイメージだけど、こんなに大きいんだ...。


ホントに乗っていいの?。


キリシマとグータッチをして、リアシートに座った。


「いくよ!。」


そういうと、キリシマがスロットルをふかした。


...フオォォォォーーーーウゥン...


凄い。地面の砂が噴き上がる。


...フオォォォォーーーーウゥン...


...フオォォォォーーーーウゥン...


...フオォォォォーーーーウゥン...


追ってきた、男達を吹き飛ばしてる。


すげぇ!。すげぇ!。


赤いテープランプが光ってる。


かっけぇーーーー!。


...フオォォウゥン...


...フオォォォウゥン...


...フォフォフォーーン...


すげぇ!。


アフロダイエンジン!。


すげぇ!。すげぇ!。すげぇ!。


...フオォォォォーーーーーーーーーーーーーーーー...


スピーダーは、轟音を上げ急上昇を始めた。


キリシマと俺はまたグータッチをした。


風が強い。


...ウィーーーーーーン...


シールドが自動で閉まる。


スピーダーが少し変形して。


かっけぇ!。かっけぇーーーー!。すげぇ!。


「何であんな危ないとこ走ってた?。あそこはF指定区域だよ?。」


スピーダーは、風を切って空を駆け抜ける。


男達も街もますます小さくなっていく。爽快だ。笑。


飛び跳ねて怒ってやがる。


豆粒みたいになって。


ざまあみろ!笑。


凄く爽快!。


「すげー!。気持ちいいー!。」


俺、こんな元気な大きな声出せるんだ?笑。


知らなかった。


爽快ー!。気持ち良い!。


俺も欲しいぞ。


スピーダー。笑。


あれ。


俺、笑ってる?。


いつの間に?。


笑ってるよ。


「なぁ!。なんであんなとこ走ってた!?。」


「えーっ?。聞こえねぇ。」


「何でー走ってーたー!?。」


「あ!。今、時間。ヤバイ、間に合わない。」


そ、そうだった。


時間...。


ど、どうしよう。


ヤバい。


キリシマはスピーダーを停車した。


中継所上空300m辺り。


ゼフト中継所って書いてある。


これ、空中で制止している。


凄い。


「なに、どうした!?。」


キリシマが。


俺はガナーシュの参加者証を見せた。


「あれ、ガナーシュ?。君がやるの?。え?。キミできるの?。第一警戒体制でもやるの?。ナショナルコンベンションコンプレックス...?。」


キリシマが質問責めにしてくる。


「もう、間に合わない...。」


ボロボロ涙が溢れる。


情け無い...。


「おい、泣くなよ。大丈夫。これで行けば近いよ!。でも、危ない。何かヤバイことが起きてるから。ニュースが流れてる。」


俺は首を横に振った。


「キリシマ君。連れてってよ!。頼むよ!。」


「あ、タクで良いよ。キリシマって誰って感じ。笑。まず俺のバンドル(小型スーパーコンピューターフレーム)で...正しい情報を...と...あっ!。」


タク君の腕には、オモチャのバンドルがついている。


しかも女の子用ピンクの可愛いウサギがついている。


何これ... 。


「何それ?。」


俺は思わず声が出ていた。


タク君はそれを見て呆然としている。


オモチャのバンドルにはサラカイミーナとペンで名前が書いてある。


どう反応して良いのかわからない。


何か可哀想...。


「ビンセントの野郎!。生かしておかねぇ...。...。分かった。行った方が早いや。掴まって、行くよ!。」


え?


タク君がスロットルを回した。


...フオォォォォーーーーーーーーーーーーーーーー...


轟音とともにスピーダーは発進し、方向を変える。


スピーダーが、管理区域を越えNCCに近づいていった。


...ウーーーーーーーーー...


...ウーーーーーー...


途中治安警察隊のアパッチが十数機が、赤いライトを点灯させながら、ゼフト中継所方面へ飛んで行く。


「市民を全て避難させた最終隊らしい。」


タク君が。


「え?。」


「第3警戒警報!。」


タク君がスピーダーのコントロールパネルを指差す。


「警戒警報?。何で?。何かあった?。」


「そう。アパッチ隊は撤退しながら、救助もしていくはず。見つかったら、ちょっと面倒だ。」


...ウーーーーーーーーーーーー...


『...*************...』


一機こっちに気づいた。


こちらに向いてなんか言ってる。風が強すぎて聞こえない。


...ビュウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーー...


...ブゥウウウウゥゥゥゥオオオォォォォォォーーーーーー...


また、サイレンを鳴らした。


...ウーーーーーーーーー...


何でこんな強風が...。


でも、そのアパッチはすぐに向きを変え仲間の下へ戻った。


「あ、いなくなった。ラッキー。...それにしても、この風いったいなんだろ。」


スピーダーは、強風に時折進路を曲げられながらも、ベイフロントに近づいて行く。


円や、四角の大きな建物や、色んな形の建築物、塔やホールがぎっしり建っている。


スピーダーは高度を下げ、道路標識の隣に止まる。


「参加証、何て書いてある?。」


「え?。」


「場所だよ、どの建物?。」


「あ、ビル?シュート何とか...。」


「どれ?。あ、エスユーティだよこれ。南側だ。行くよ。警戒区域に近いよ。いい?。」


「頼む!。」


「30分で着く!。しっかり捉まって!。」


タクはスロットルを全開にした。


うっ。


落とされそう。


葉巻型宇宙船の様なメインドームを過ぎ、巨大な鏡製のカリフラワーのようなビルが見えてきた。


「うわ、でけえ!。」


「降りるよ!。」


タクがそう言ってスピーダーを傾る。


スピーダーはグンと加速し弧を描きながら下りて行く。


正面ゲートは閉まっている。


「他のゲート探そう。」


タクは、すごくまっとうな奴なんだ。


「ダメだ。閉まってる。全部。」


スピーダーは、また空中で停止した。


揺れはするけど、まるで太いワイヤーでぶら下がっているようだ。


落ちる気配がない。


「不思議だな。これ...。」


「誰もいないよ、やっぱ。こんな時に絶対やらないよ。ガナーシュの大会なんて。」


「だよね。」


「だよねて...。」


「今日が最初で最後のチャンスだったからさ...。」


「最初で最後?。」


...ウォーーーーーーーーーーーーーン...


...ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


...ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


『...こちらは...ネオヨコ....治安警察....部です。ただいま、第3警戒......の方達は....』


突然広域警報と緊急アラームがけたたましくなり始める。


昼間なのに、暗くなってきた。


全域視界がかなり悪くなった。


風は台風のような強風になり、スピーダーが激しく揺れ始める。


...ダンダンダンダーーン...


ベンチが舞い上がり、落ちていく。


街灯が一斉に落ち、赤色灯が一斉に点灯した。


...ドゥン...ドゥン...ドォン...ドドドゥン...


同時に地響きがするようになった。


「な、なんだろ、いったい...。」


タクが真顔で言う。


拡声器で、叫ぶ声と地響き...。


いや、地響じゃない。


足音だ!。


何かの。


何か大きな生き物の。


こ、怖い...。


「まずい!。トーア!。」


「トゥアだよ。」


「トゥア。ケラムの獣だ!。隠れよう。このでかい道を来るよ。」


「でも、どこに...。」


「あそこしかない!。もう間に合わない。食われちゃう。この音、相当デカイ。第3警戒なんて、マナ級かも。」


タクは、スピーダーを操り、巨大カリフラワーを指差す。


「どうやって?。」


「トゥア、そのレバー引いて!。」


「これ?。」


うわぁぁぁぁぁ!。


レバーを引くとスピーダーは、一気に落下した。


「うわっ!。違う。違う。」


タクが振り返って、慌ててレバーを戻した。


そして、赤い点滅するボタンを押した。


スピーダーは落下が止まり一気に浮上する。


うわぁぁぁぁぁ!。


タクがブレーキみたいなのを踏む。


スピーダーがゆっくりと停止した。


「こっちこっち。」


タクが横の小さいレバーを引いた。


...ウィーーーーーーーーーーーーン...


...ガチャ...


...ビュウウーーー...


黒いキャノン砲がスピーダーの前から飛び出した。


重くて硬そう。


照準モニターが立ち上がった。


タクが操舵ハンドルの下のボタンを押す。


...ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...


スピーダーのキャノンが火を噴く。


スピーダーごと振動する。


す、すげえ...。


...ガシャーン...バシャーーーン...バリン...パリン..ガシャーン...


カリフラワーの中層階。


鏡のような強化ガラスを弾き飛ばす。


...パリン...ガシャ...


...ガシャーーーーーーーーーーーーーン...


「行くよ!。」


...ウィーーーーーーーーーーーーーン...


スピーダーは、カリフラワーの中に突進した。


うわぁぁぁぁぁあ!。


...ガガガガガガボボボボボボゴゴゴゴゴゴゴゴ...


スピーダーは、絨毯敷のフロアを50m滑って止まった。


絨毯がふかふかだったのが幸いだ。


深いワインレッドのカーペットは、高級な織物の匂いがする。


この匂い...。


緊張感が伝わって来る。


緊迫したイベントが普段からあるんだろうな。


外からはミラーに見えるこのドームも、内側からは透明で全てが見渡せる。


10m以上高さのある天井に、豪華なシャンデリアがいくつもついている。


ドでかいシャンデリアだ。


...ビュウウーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


...ガシャーーーーーン...


風が益々激しくなる。


キャノン砲の開けた強化ガラスを壊すほど。


...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ズドーーーーーーーーーーーーーン...


地響きが近くなる。


時折、大きな獣の咆哮も聞こえる。


何だこれ...。


ほ、本当に怖い。


意味なんか無い。


ただ怖い。


...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ズドーーーーーーーン...


この左右18車線の大きな車道。


この車道の彼方から、何かが近づいてくる。


このホールは透明だから、全方位見渡せる。


東の空、大型攻撃艇が4機、いや、5機。


近づいて来る。


かなりのスピード。


大きな何かに軍用のホーネットが、5機併走している。


拡声器から大きな声で何かを叫んでいる。


「...形態のため、制御が...車両は...から退き安全距離を保...。」


俺は端に設置された、大きなブロンズ像の下に隠れた。


タクは、スピーダーを起動しようとしてる。


「なぁ!。キリシマケインさんって、階級開放同盟の偉い人だろ?。俺知ってる。知ってるよ!。」


「そう。俺の父さんだよ。トゥアは?。いつからガナーシュを?。」


地響きは、耳を塞ぐほど大きく、建物を大きく揺らす。


!?


間近に巨大な物体の一部が見えた!。


金色だ!。


光ってる。


な、な、何だこれ?。


「何だぁーこれー!。」


「うわーーっ。でっけえ!。」


タクも驚き大声で叫んでいる。


でも、それの騒音で声はかき消される。


...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー..,


まるで、ジェットエンジンみたいな大きな音がする。


...ブゥウオーーーーーーーーーーーーーン...


ジェットエンジンみたいな音。急に大きく、高い音になった。


こ、怖い。


本当に怖い...。


「こ、これ、アトラの軍事兵曹だ!。」


タクが叫ぶ。


とても大きい、特に先頭の金色のやつは100m以上ある。


デカ過ぎる。


軍事兵曹って、普段何気なくニュースとかで聞くけど、こ、こ、こんなにデカいのか...。


デカイ...。


怖い...。


知性なんか無さそうだ...。


頭に黄金の髪が生えている。


金色の髪から、真っ青な電気のようなものが放出されている。


頭には角が二本。


身体の形が他の二体と違い、やや丸く胸が盛り上がっている。


メス?。


女の兵曹!?。


「こちら、アトラ北軍です。出征中の軍事兵曹三体は、最終形態のため人的制御が不安定です。公益車両ほか人民は、安全のため1000メートル以上の距離を取り、無駄な動きを避けてください。」


「これ、最終兵曹?。」


「最終兵曹?。」


「ガナーシュでは13が最終兵曹で、シモーヌが最強なんだ。」


タクは、肩をすくめて、さっぱりという、顔をした。


拡声器から流れている音声は、音楽というよりは、動物を洗脳して動かすような音。


太鼓や木管楽器の音で刻まれたリズム。


その聞き慣れない旋律とリズムが、余計、軍事兵曹への漠然とした恐怖感と神秘性を煽ってくる。


タクが言う。


ドームの中は見えないけど、軍事兵曹はケラムの動物以上に鋭いから、もう見つかってるだろうって。


それに、最終兵曹は獣だから、民間人とか人とかの概念が無いって...。


怖い...。


こんな大きな怪獣。


怖すぎる...。


突然、拡声器から人間の声が、聞こえる。


『...ま、まずい!。ジェニファーが!。ジェニファーがな、な、何かに反応している!。...』


じ、ジェニファー!?。


「ジェニファーって?。ま、まさか、あの。マバナカタールのクシイバ...。」


「いや...。そ、そのまさかだよ。汗」


「こ、怖い...。」


「ヤバイよ。戦闘前の兵曹に近づくなって父さんが...。食われるって。」


タクは顔をしかめた。


拡声器から叫び声がする。


『...そこに誰かいるのか!?物陰に隠れて動かないで!。...』


...ググゴゴゴゴゴゴオォォォォーーーーーーーーーーーーーー...


「うわぁぁぁぁぁ!。」


「うおぉぉぉぉーーー!。」


さ、叫んだ。


じ、ジェニファーが咆哮を上げた。


ガシャガシャ。


強化ガラスが音を立てて崩れる。


汽笛のような、獣の遠吠えのような叫び声。


フロア全体が震え、柱はなぎ倒される。


...ズバーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ドッバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ボウン...


「うっわーーーーーーー!。」


「うわっ、うわっうわぁぁぁぁぁ!。」


黄金に輝く巨大な大きな腕がフロアをまさぐっている。


上のフロアも何もかもぶち壊している。


餌を探しているクマみたいだ。


このホールも、ジェニファーにとっては紙の箱のようなものなのかもしれない。


『...スサノオに再接続!。中に人がいるのか!?。何でまだ人が残っているんだ...だ、ダメだ!。ジェニファーの方が...。逃げて下さい!。中にいる人!。逃げて!。逃げて下さい。ジェニファーに気づかれてる!。...』


拡声器から音が聞こえる。


...ガシャガシャガシャ ...


...ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーー...


巨大な腕が突然抜ける。


ホールの上にぽっかりと大きな穴が空いた。


...ググッ。ガガガーーーーーーン...


!?


ホーネットを握り潰した。


「うわあああ!。」


...バシュ...


...バシュ...


乗組員は慌てて脱出している。


黄金の巨大兵曹はホーネットを口に放り込んだ。


!?


「うわぁ、うわぁ。」


「た、食べた。食べた。」


軍事兵曹達は、アンドロイドやサイボーグを捕食して、自分の身体の一部にすることがあるらしい。特に不安定な最終形態の時には。


そして、稀に人間も食べられてしまう。たまにニュースになる。


その点ではケラムの生物との違いは何も無い。


「た、食べたぁ...!。」


ジェニファーの口の中で、ホーネットの砕ける鈍い音がする。


....ガシャガシャ...


...ゴシャ...


今度は、ジェニファーの巨大な顔が透明なミラーの壁を押し壊して入って来る。


デカイ!。


怖い!。


こ、怖すぎる...。


ひぃ...。


黄金に輝く金属と、獣が混ざり合った顔。


切れ長の大きな目は、ネオンの様に、薄いピンク色の光を放っている。


かなり強い光だ。


...ガシャガシャ...


...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...


...ズドーーーーーーーーーーーーーン...


...ズドーーーーーーーン...


また、腕がホールに入ってきた。


3000人は入れるホールが、空が見えるほど剥き出しになった。


ジェニファーの右腕は隣のホールの壁もぶち壊した。


カリフラワーの中層は瓦礫でメチャメチャだ。


ジェニファーは、何かを探している。


俺じゃない。


スピーダーでもない。


!?


タクを探している?!。


え!?。


半分機械のタクを!?。


エネルギーを蓄積しようとしている?。


戦うのか?。


こ、こんな大きな兵曹が。


反対側のブロンズ像が倒れ、ジェニファーはタクを見つけた。


タクはなす術なく、呆然と立ちすくんでいる。


まずい...。


何とかしなきゃ...。


ジェニファーが左手でタクを掴んだ。


!?


あぁぁぁあ...。


タクが食べられてしまう...。


タクが必死でもがいている。


何とか、何とかしなかゃ!。


何とかしなきゃ!。


俺のために、こんな。


俺を助けたばっかりにこんな!。


ダメだ!。


ダメだ!。


絶対にダメだ!。


俺を助けた見返りがこれなんて!。


ダメだ!。


ダメだ...。


ダメだ....。


俺は足がもつれながら走った。


ジェニファーの小指に飛びついた。


どうやったのかは覚えていない。


兎に角、ジェニファーの手に飛びついた。


俺は叫んだ。


狂ったように頭や拳を打ちつけた。


「やめろ!。俺の友達なんだ!。まだ友達じゃないかもしれないけど。友達なんだ!。大事なんだ!。やめろー!。」


頭も、拳も膝も血だらけになり、青アザになっていく。


一方で覚めた俺がいる。


俺どうした?。笑。


「食べるなら俺を食べろよ!。助けてくれたんだ!。バカヤロウ!。」


俺は泣き出してしまった。


何で泣いてる?。


「もう、いい!。逃げろーー!。トゥア!。お前も食べられちゃうぞ!。」


何でそんなこと言うんだよ。


何でそんなに、人のために考えられるんだよ。


何でそんなに諦めが早いんだよ。


「イヤだ!。イヤだ!。イヤだ!。友達は死なせない!。死なせない!。初めての友達なんだ!。」


俺、何言ってんだ?笑。


友達って。笑。


眼鏡が壊れて額に刺さる。


!?


ジェニファーが沈黙する。


...グググゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


俺はチビってしまった。


怖い。


流石に...。


大きな目、ピンク色の目。


機械なんかじゃない。


生きている。


目の奥で光が渦巻いている。


でも、人間じゃない。


大きな口。


ホールごと入ってしまいそうだ。


柱よりも大きな牙が生えている。


黄金の皮膚。


指がガチガチに硬い。


金属のようだ。


恐ろしい...。


目の前に手を持ってきた。


「トゥアーーーーーーーッ!。逃げろーーーーーーーっ!。」


あぁ...。


手が...。


手が...。


痺れる。


もうダメだ...。


ち、力が...。


タク。


ごめん。


俺は力尽きた。


落ちて行く。


...フッ...


あああーーーー!。


あれ。床が上がって来た...。


何で?。


床が...。


!?


ジェニファーの手だ!?。


「わあああああーーーー!。」


ひえぇ!。


ひっ!。


ば、化け物!。


た、食べられる!。


た、食べられてしまう!。


「ぎゃああああーーーーーーーーーーーー!。」


ジェニファーが右手に俺を載せた!


「トゥアーーーーーーーーーー!。トゥアーーーーーーーーーー!。」


こんな時にも、タクは俺を心配してくれる。ごめん。


...ググゴゴゴゴゴゴオォォォォーーーーーーーーーーーーーー...


...ググゴゴゴゴゴゴオォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


...ググゴゴゴゴゴゴオォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


み、耳が!。


こ、鼓膜が破れる!。


凄い音圧だ。


ジェニファーが咆哮を上げる。


...バラバラ...


....ガラガラガラガラ...


...ガガガガガガ...


ググゥ...。


ジェニファーはゆっくりと振り返りもう一体の兵曹に地響きのような声で叫んでいる。


何かを命令している。


もう一体の兵曹は、咥えているホーネットを離した。


『...ジェニファーが、ジェニファーが落ち着いたぞ。...』


拡声器から声が響く。


ジェニファーは明らかに様子が変わった。


...バリバリバリバリバリバリバリバリ...


...ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...


...ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャ...


ジェニファーが、タクと、俺。


そのままホールに戻した。


もう一体の兵曹も、ジェニファーに従い、ホーネットを放した。


残りのホーネットはまた、制御音を大音量で流しはじめる。


...ググゴゴゴゴゴゴオォォォォーーーーーーーーーーーーーー...ググゴゴゴゴゴゴオォォォォーーーーーーーーーーーーーー...


ジェニファーがこっちを見て咆哮を轟かせる。


耳がキーンとなる...。


...ズドーーーーーーーン!...


...ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


ジェニファーは、このホールを離れ西に向かい進み始めた。


...ヒュウウウーーーーーーー...


ジェニファーの黄金の髪は燦然と青い光を纏い、逆立った。


「ジェニファーが、ザネーサーを!ザネーサーを倒しに向かいます!。」


ザ、ザネーサー!?。


あのザネーサー!?。


別の方角から、ジェニファーよりもひときわ低い咆哮が響く。


地鳴りのように。


彼方から、黒い巨人が迫って来る。


ジェニファーより大きな兵曹だ。


頭の辺り。まるで電飾のように色んな光が輝いてる。


赤い目が8つ...。


光っている。


聞いたことがある。


あ、あ、あれ。


あのドデカイの...。


ザネーサーだ。


...ヒュウウウーーーーーーーーーーーーー...


大きな風が切れるような音が響く。


ジェニファーの黄金の放電毛は、更に眩いを増して逆立つ。


....ゴゴゴゴォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


爆音とともに、ジェニファーの口から眩く太い閃光が放たれる。


閃光は、緑色の光のドームを纏った黒い巨人を直撃する。


...


...


...ッッ...


....


...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


大爆発を起こした。


爆風が、瓦礫や土煙とともに、次から次へとビルを薙ぎ倒し、迫ってくる。


タクと俺が、巨大カリフラワーの中で一部始終を見ていた。


凄まじい速度で爆風は迫ってくる。


「うわっ!。うわっ!。うわぁー!。」


「うわぁぁぁぁぁ!。」


ジェニファーと両脇の巨大な兵曹は、青い光を身に纏う。


青い光のドームが、タクと俺たちのいるホールや周囲のビルを覆っていく。


彼方の爆炎の中から巨大な黒い兵曹ザネーサーが姿を現した。


遠目に大きな翼を広げているのが見える。


まるでオニヤンマのように、大きくて4枚の羽。


大きな大きな翼。


さっきまで電飾みたいに、微かに光っていた。


真っ青に輝く。


眩しい!。


大きな翼は更に焼けるような光を放つ。


今度はザネーサーから閃光が発せられた。


辺りは何も見えないほど真っ白になった。


何も聴こえなくなった。


身体が宙に浮き揺さぶられる。


目が!。


目が焼けた!。


何も見えない!。


何も聞こえない!。


俺はパニックを起こし叫んでいる。


誰がが抱きしめてくれている。


タクだ。


きっと。


激しい揺れや空気の振動はいつまでも止まない。


むしろエスカレートしていく。


助けて...。


トモワ叔父さん...。


助けて...。


また、意識が遠くなる。



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あれ以来、あのタクという少年に会うことは無かった。


運んで来てくれたタクを、おばさんは連絡先も聞かず、礼も言わず追い返したらしい。


不気味だからと...。


おばさんの低脳さには、呆れるばかりだ。


全くため息しか出ない。


時折、あの兵曹の戦いがフラッシュバックする。


真夜中に汗だくになって目を覚ます。


でも、タクを思い出し、温かい気持ちにもなる。


ジェニファーは、あの後、ベイエリアを護ったが、ザネーサーに破れた。


ジェニファーの他の二体の最終兵曹は、ザネーサーに滅ばされた。


ジェニファーは、アダムゼロの時以来、二度目の致命傷を負った。


今回の深傷ふかでで、あの老兵は、もう何回も戦いに出られないだろうと。


今までのように強くはいられないだろうと。


皆が言っている。


あれから生活は、もとに戻った。


唯一、変わったことは...。


俺をいじめていた連中が、全員俺の舎弟になったこと。笑


俺が連中にした仕返しは、少し凄惨なものだ。


楽しみながら奴らを調教してやった。


奴らは、俺に服従してる。


俺を見るだけで気絶する奴もいる。笑。


俺をいじめたムカつくやつを、処刑して遊んでただけなのに...。笑。


俺はいつの間にか数万人の不良グループを束ねている。


過激なことも結構やった。


グループとグループをデマで戦わせたり。


不信感を植え付け自滅、崩壊させたり。


自尊心を粉々に打ち砕いたり。笑。


楽しいからやっただけだが...。


俺からすれば、たかだかティーンエイジャーの不良どもを恫喝し洗脳することなど、容易いことだ。


俺は、こいつらに、叔父から貰ったガナーシュを粉々に砕かれた時、一つのこだわりを捨てた。


叔父の贈り物が唯一繋ぎ止めていた良心を。


そして、心は以前にも増して光を失った。


心が、闇を彷徨う。


でも、その方が楽だ。


おまえらも、そうしたら?。笑。


ただのジャンクフード好きのおたくが、数万人の不良少年の黒幕だとは、誰も思わない。


世界中を驚嘆の渦に巻き込んでいる天才ガナーシュプレイヤーだとは、誰にも気づかれていない。


学校にも、どこにも、俺の能力に気づくものはいない。


奴らはバカだから。


奴らは鈍いから。


奴らは低脳だから。笑。


今まで才能を覆い隠してくれていた、間抜けな容姿や、鈍い動作は。


幸い今は隠れ蓑になっている。


俺はある日姿を消した。


去年のガナーシュの国内大会で、竜王がわずか3時間で無名の新人に倒されただろ?。


国中では大変な騒ぎになった。


その無名の新人は永世名人を皮切りに、次々と有力者を倒し、決勝で姿を消しただろ?。笑。


翌年の大会の優勝者と、スーパーインテリジェンススサノオとのエキシビションマッチで、優勝者のホログラムが乗っとられただろ?。


エスカトラからの何者かに。


そして、乗っ取られた優勝者のホログラムは、世界最強の軍事スーパーシナプスフレーム スサノオを打ち負かした。


国家の軍事スーパーシナプスフレームがガナーシュで負けることは、戦争負けることに匹敵する。


ニュースで、アトラの国家的危機って、大袈裟に報道されてた。


大袈裟だ。笑。


明らかに。


俺にとっては遊び。


ただの遊びだ。


俺は、独自に変化する陣形を小隊単位布陣する。


ガナーシュ始まって以来初めての動的手法だ。


伝説は一気に世界中に広まった。


謎のガナーシュプレイヤーが誰だったのか、誰にもわかりはしない。笑。


兄アッシュを除いては。

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