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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
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ダヌアの空に132 / バイキールの魔女編 2

…ガガガ…ドン…ゴゴゴ…


反重力ギア…また切り替わった。


ハイテクでも重戦車。


ホントゴツい音だよ。


『…ギアを3連速に入れられるか?…』


「入れてるんだけどね。もう一回してみようか」


『…了解…』


「ボハヘッド[※]外してみるかい。時間はかかるけど。」


[※ボハヘッド : レオパード用6足歩行機。全長55m 全高15.5m。ハイパーアルマダイ高圧炉搭載]


『…いや。この急斜面では無理だ…』


モニター2にラムダ9。


ラムダ9はレオパードの上でホバリングしてる。


上空500m辺りかね。


白い煙を下に向けて吐いてる。


「じゃ。も一回行くよぉ?」


『…了解…』


….ピーピーピーピーピーピー…


….キュウゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン…


…ドドドドドドドド…


….ピーピーピー…


コントロールパネルがまた点滅してる。


「ダメみたいだね…はぁ。こうなったらこの子、テコでも動かないから」


『…困りましたな。ここはレオパード頼みなんだが。ブリュイエールがもう動けない…』


「見たところ、アルガードとムスタファさん達しかいないみたいだけど?」


『…そうだ。だからレオパードにはどうしても出て貰いたい。ジャミー隊の合流まで40分はかかるが…』


「随分と先だね?」


『…このままでは全滅する…』


「ホント何とかしなきゃだね。」


モモちゃんの家族はみんな、本当に腕の良い漁師だった。


弟のキキもね。


そして…タロウも。


モモちゃんにお似合いの旦那さんだったさ。


タロウはいわゆるハイドラ孤児さ。


あの子も本当に苦労して生きてきたんだ。


結婚式を次の日に控えてた。


モモちゃんがやっと手にした温もりだった。


タロウは、寡黙だけど、誠実で、本当に優しい男だった。


結婚式の引き出物。


レッドアイの干物…。


もっと洒落たものにすりゃ良いのにね。


2人で準備してたさ。


ニコニコ笑って…泣。


やっとのことで、幸せを掴むって時だったんだ。


『…こっちのコンソールに出ないから、多分物理的な問題だと思う。…リアクターの制御パネルは見られないか?…』


「お手上げだよ。レオパードのは機械ってレベルじゃないもの。トローラーならスパナとレンチで何とかなるけど。」


『…うーん。どうしたものか….。うーん….ん…。ん。…』


「困ったね。打つ手はないのかね。」


だけど…無理な話だよ…。


ヴリトラを倒すなんて。


いくらなんだって。


40mもあるバケモンだよ。


トローラーじゃ華奢過ぎる。


軍もお手上げだったってのに。


あんな大しけの日に、バイキールに出た事は無い。


出るバカもいない。


死にに行くようなもんだ。


しかも、ヴリトラが大暴れする雨季に。


『…いや。無いこともない。うむ。…もう一度やって見て貰えますか?…』


「あぁ。何回でもやるよ。」


『…アルガード デルタ隊 合流します。…』


『…数は?…』


『…18です…』


…ドンドン…ゴゴゴゴ….ウィィィィーーーーーー…


「あれ?ちょっとバウザンさん。リアクターインジェクター止めるのかい?」


『…リバースで点火させる。そしたら…』


「あぁ。なるほど。逆回転するのかい。」


….ドッ…ドッ….ドッ…ドッ….ドッ…ドッ….ドッ…ドッ


…ピーー…ピーー…ピーー…ピーー…


…ガンガン…


でも、大しけの日、モモちゃんは出ちまった。


バイキールの沖に


たった1人で。


可愛がっていたシーホエール達の背に乗って。


高波一つで命は無い。


おバカさんだよ。


モモちゃんは死ぬ気だったのかもしれない。


大切な人を奪われて。


家族も夢も希望も奪われて。


シーホエールだって、ヴリトラの前じゃ金魚みたいなもんさ。


勝てる訳はない。


…ゴン..ガン…カチッ…


…ガタン…ゴトン…ダン…


『…行けるか?…』


「ちょいと持っておくれ。座席の高さ変えるから。あたしゃ小さいから足届かなくなっちまうんだよ。リバースだと。」


『…ん?。どうやっていつも動かしてるんです?…』


「いやなに。あたしゃ、リバースモード何て使いやしないよ。ルイスさんと一緒さ。」


『…な、なるほど、なるほど…汗。中々の豪腕ですな…』


みんな口々にウメを引き止めたさ。


…行きたきゃウメあんた1人で行きゃいいじゃないか!…


…犬死に決まってる!..


…生きたままエサになるに決まってる!。冗談じゃない!私ゃゴメンだよ!…


….あんたボケちまったのかい!バイキールの潮、レッドアイの獰猛さ、忘れちまったのかい!…


だけど、ウメは出て行っちまった。


単独で。


ポンコツのハイパートローラに乗ってさ。


70超えた婆さんが、たった1人で。


ウメは10日も戦った。


一人っきりで。


そりゃ過酷で、壮絶な戦いだった。


だけど、相手が悪過ぎるよ。


毎日葛藤だった。


ウメとは60年の付き合いだ….。


私たちゃ覚悟を決めた。


孫達との平凡な日常を捨てたさ。


いよいよトローラーが沈みそうになった時。


ついに折れたよ。


ウメの強情さに根負けさ。


見殺しになんて出来やしない。


仲間だもの…。


60年も一緒にやって来た。


怖いなんてもんじゃなくて。


恐ろしいなんて生易しいもんじゃなかった。


だけど、行ったさ…。


おめおめと出て行ったさ。


大しけのバイキールに。


『…もう時間がない。…』


「動いてくれさぇすりゃあね。」


『…パルス出しますよ。…』


「はいよ。」


….ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ…


「良し。行くよ!よっこらせ!」


….ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン…


あ…点火した?。


アルマダイ高圧炉。


….キュウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン…


あれ…ダメみたいだね。汗


『…あぁぁ…ダメか…』


「いや、行けそうだよ。手応えがある。いつもこうなんだよ。一度じゃ起動しない。」


…ガチャン…


「バウザンさん。もう一度頼むよ。」


『…了解。キュー出して。…』


「キユウね。はいはい。キユウだね。」


….ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ…


『…どうだ?汗…』


….ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ…


「そのまま流しといて。悪いね。」


『…そろそろタイムリミットだ。汗…』


「もうちょっと待っとくれ。」


….ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ…


『…もうタイムリミットだ。別の作戦に切り替える…』


「いや、もうちょっと。」


『…エンジェル。レーダー確認して。…』


『…今のとこ、異常無いみたい…』


….ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ…


『…エンジェル。ちょっと待った。何だこれ…』


『…次元レーダーは?どうなってる?…』


….ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ…


『…あれ。変だわ。魔獣ボルボーレの背後に影。でも、質量もエネルギー反応も無い…』


『…影?影が?…』


….ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ…


….ピピピピピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…


「オッケー!。じゃ行くよー!」


…ゴーーン…


『…よし行こう!…』


…ガガガ…ドン…ゴゴゴ…


…ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…


「よっこらせ!」


…ガゴーン…ドーーーン…


そして、私達ゃヴリトラを倒した。


30日の激闘の末。


奇跡だよ。


命からがら。


最後は運が味方した。


幸運に幸運が重なってね。


ナジマ様が助けて下さったのかもしれない。


『…ムスタファ ワスプ3隊…合流しました…』



……



…ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン…


艦が激しく揺れる。


….ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガガララガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガガララガラガラガラ…


動いた?。


『..どうだ?…』


「動きましたぁ?」


「動いた。」


ウメが腕組みをしてる。


レオパードが振動し始めた。


生き返った。


….ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


レオパードの重い重い、アルマダイエンジンが。


…ドーーーーーーーーーーーーーン…ドン…ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン…


鼓動を打ち始めた。


『…やったぞ!…』


巨人の心臓の音みたいに。


…ドーーーーーーーーーーーーーン…ゴン…ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーン…


動き出した…笑。


「やったね!ウメさん!」


「うん。やった。」


だが、その後すぐ、リューイと言うもっとデカくて獰猛な奴がバイキールの主に取って変わった。


ヴリトラは、リューイからのがれてだけだったのさ…。


….。


空調が、また空気を吐き出したね。


『…レオパード11。発進どうぞ。…』


フネさんが艦長席に。


「出ますよ。レオパード11。」


ウメが両腕でオッケーサイン。


シートの背中越しに。


「レオパード11。発信します。」


『…レオパード11出ます….』


『…良し!でかしたぞ!…』


「来るよ!。」


「耳塞ぐんだよ!みんな!。」


「あ、そうか。」



…..


….


….グゥウオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ….


….


「ひっ…汗」


レオパードの雄叫び。


ゾーグの大地にこだまする。


『…エンジェル。あれ何だ?…』


『…兵曹達のアルマダイが。オパの所に…』


『…違う。次元レーダーを見ろ…』


ん…何だい?汗


〈...迂闊じゃった...〉


〈…来たぞよ…アルマダイを奪いに…兵曹達のアルマダイを強奪しに…〉


〈…深傷を修復する気じゃ…汗…〉


聞こえる…。汗


エメドラド様の声が。


「い…いつの間に…汗」


ここが主戦場てことか…汗


「ウメ!どしたんだい?」


〈...うひひひ。備えよ。犬神ゾアーグじゃ。うひひ...〉


『…嘘つくのやめて貰って良いですか?犬神ゾアーグならまだ魔獣ボルボーレの背後に…』


〈...それは虚像じゃ...〉


〈...実体は潜行している。ワシらを謀っておる...〉


〈...ジェイや。奴に錯誤させられぬか?...〉


〈...犬神ゾアーグの視点を歪めるのじゃ...〉


〈...しかしドラド..間に合わぬ...〉


『…き、来たわ!。汗。座標124n,56,118に大きなエネルギー反応。大きい。2つ。1つがカルーデラ換算7兆飛んで32億。もう一つはその約3倍。レーダー…』


「ぞ、犬神ゾアーグだよ。」


「タフ座標は?!」


「お、同じ。オパと同じ124n,56,118。距離500」


『…ブリュイエール防衛不能。レオパード11。防衛を…』


「トメ。そろそろモリの準備頼むよ。」


ウメが唸るような声だ。


勝負師のウメが。


『…ジャミー クロン隊 来ます…』


だが、犬神ゾアーグってなると、簡単じゃない。


「モモちゃん。ピーカーはどうだい?」


「ピーカー出られます!。」


「タフさん。ジャミナキラはどうだい?」


「まだダメだ。この子まだ柔らかい。今90%ってとこだよ。」


「私らとモモちゃんで間を繋ぐしかない….。」


〈…うひひ。ジャミナキラ…。心強い…〉


『….ぞ、ぞ、犬神ゾアーグが!犬神ゾアーグ実体化します…』


...BOBAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA...


「きゃぁぁぁ!」


「きゃあーーーーー!」


す、す、凄い音だ。


レオパードが、艦全体が震えてる。


...BOBAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA...


『…何なんだ…このデカさ…』


で…でかい…。


「何てデカさだい…汗」


『…あぁぁ…あ...あぁ...。あ、アルマダイが!アルマダイが!す、吸い上げられてる!…』


え!汗。


何だって?。


〈...うひ…下級神めが...汗...戦士達の祈りを横取りしおって..意地汚い…うひひ...〉


『…凄い勢いだわ…2011億カルーデラ。この短い間にこんなにも…』


〈...歯止めが効かぬ...〉


『…ブリイェールが出ます!…』


『…止めろ。どうやって戦う気だ….』


「さぁ。行くよ。トメ!もり頼むよ!」


大砲だろ?。汗


『…ラムダ13からだ…』


『...スー..ドラ....エフ..ライ...ム....後方45...000。養生..を解...いて...ユーフォ...ウム..開始..しま...す...』


『…間に合わない…』


『…大丈夫だ。レオパードがいる…』


頑張らねば。


みんな。


モモちゃん。


だって、今日、命日だもんね…。


キキの。


父ちゃんや母ちゃんの。


そして、タロウの…。


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