境界の国8
黄金の兵曹の二つの目は、青い光を放っている。
冠のような角が生えている。
背中を真っ白な眩い炎を纏った多角形がゆっくりと回転をしている。
放電翼だ。
放電翼の炎がまるで布のようにたなびいている。
その黄金の金属の身体は、老兵ながら、極限まで筋肉が発達している。
その身体の重厚さは、他の兵曹が比較にならない。
...ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ...
黄金の兵曹は地鳴りのように唸っている。
呪文のような、奇妙な音階だ。
空にはイプシロン(ナジマの波紋)が、地にはナジミール山脈一帯のようにプラズマ放電帯が広がっている。
ザザルスを分断するボルガ大河の水は、狂った津波のように海から逆流して来る。
「は、ハイドゥクだ!。」
「もう出て来てしまった!。」
「ば、化け物!。」
アマル全軍の誰もが震え上がる。
アマル大帝国の舞楽隊は、進軍行進曲を鳴らしている。
しかし、帝国軍の前衛部隊は一斉に離散し始めた。
前代未聞だ。
鉄の掟と冷徹な軍規で知られる、世界最強のアマル帝国軍の突撃部隊。
イプシロン(ナジマの紋様)は、上空数十キロにわたって浮き上がり、次々と光の巨槌をアマル軍に落とし続ける。
爆発が立て続けに起き、無数の兵士がまるで煙のように宙に舞い蒸発して行く。
広範囲に渡る赤い地面は、巨大なエイのように地を泳ぎアマル軍の足元に到達する。
そして、突然の閃光と共に炸裂し、噴きあがる。
その爆発は、無数のアマルの兵を黒焦げに焼いた。
ボルガ大河は、氾濫し、まるで生き物のように、川を越えようとするシムセプト(陸用戦車)や兵曹を狙い呑み込んで行く。
水は重い。
空から降りかかる、海のような水の塊に、アマル軍の何もかもが粉々に潰れ、跡形も無く押し流される。
僅か57機残存している、ハイドラの攻撃衛星オグワンが、呼応するように地上に雷を落とし始めた。
オグワンには、もうエネルギーが無いはずだ。
ハイドラの守護神は、大帝国アマルの大軍隊を押し返し始めた。
太陽が暗闇を退けるように。
世界最強のアマル軍が、赤碧の軍が、雪崩のように後退し始める。
赤碧は、追随するザビルのシムキャスト(兵曹用戦車)を見下ろし言った。
「ザビルよ。」
「ハッ。」
ザビルは、豪華な椅子からおり、シムキャスト上で、頭を床につけた。
「余の軍には後退などない。」
「ハハッ!。」
「行け。」
「ハハァッ!」
ザビルはゆっくりと立ち上がると、自らのシムキャスト(兵曹用戦車)の頂上に戻った。
赤碧は、聳えるほど高い白いシムキャスト(兵曹用戦車)に座り、空に展開する巨大なイプシロンを見つめている。
ザビルは、シムキャストの舵を、ハイドゥクのいる方角へと切らせた。
赤碧の本隊から、右翼のザビル軍が離脱し、ザビルに追随する。
ザビルの乗るシムキャストは、爆音を轟かせ、加速する。
そして...。
ザビルは、シムキャストを踏みしめ、ザザルスの地に降り立つ。
ボルガ大河の支流ツバイを挟み、ハイドゥクと、赤碧の18使徒ザビルは対峙した。
ザビル軍が鎮まりかえる。
しばらく間が空く。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーン...
突然重い破裂音が響いた。
...グワァン...グワァン...グワァン...グワァン...グワァン...
重く鈍い回転音が轟く。
ザビルの低いうなり声に呼応し、赤黒く大きな雲が竜巻となりザビルを取り囲む。
おおお...。
...ゴゴゴ...
おおおお...。
....ゴゴゴゴゴ...
おおおおおお。
....ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ....
稲妻を伴い赤黒い竜巻が、ザビルを中心に回転していく。
地鳴りが。
大地が揺れ始める。
激しく。
ザビルの雄叫とともに、地鳴りは最高潮に達し、大地は嵐の水面のように波打ち歪む。
ザビルは、巨大化し始めた。
空は突然深い赤黒い雲が数十キロに亘り広がる。
サラウバルクロスの前兆だ。
サラウバルと呼ばれる第二太陽ゼノンの発する太陽風に呼応して、アルマタイトが発するエネルギーの出力が最高潮に達した時、サラウバルクロスというプラズマの嵐が発生する。
サラウバルクロスを発生させる出力のある兵曹は、世界に数体しかいない。
稲妻が、地面を舐めるように次々と降り注ぎ、竜巻がザビルを中央に激しく巻き上がる。
竜巻の中に2つの大きな赤い光が見える。
ザビルの両眼の光だ。
アマルの軍事兵曹の多くは、人と同じく、目が2つしか無い。
カマキリや蜘蛛の力を宿した兵曹、ザビルですら大三の目を持つのみだ。
アトラの軍事兵曹や、ハイドラの兵曹とは違う。
ザビルはいきなり100mを越え、ゆっくりと竜巻の中から姿を現した。
最終兵曹と言われる形態だ。
大きく赤い眼は光を放っている。
眼は額にもある。
その外観は黒い金属の鬼だ。
銀色の大きい二本の牙が鈍い光を放っている。
手、足、手足の爪が肥大化している。
黒いその巨体は、厚い甲殻から、肥大化したジニリウムの筋肉が盛り上がり、頑強で重厚な身体が、歩くたび大地を揺さぶる。
身体は燃える石炭のように煙を放ち、ところどころ、赤く鈍い炎を放っている。
背中の八基の放電口が、時折赤い光を放つ。
まるでカマキリの羽根のように。
銀の分厚いノコギリのような歯や牙の並んだ口からは灼熱の煙が出ている。
ハイドラ軍の誰もが、いや、この場を知る全ての者が震え上がる。
声を発する余裕のある者はどこにもいない。
誰もが沈黙するまま、ザビルは、サラウバルの竜巻を纏ったまま、ツバイを渡り始める。
竜巻はツバイ大河の水も激しく巻き上げ、空に噴き上げる。
ザビルはその重量にも関わらず、広大で深いツバイの川底に沈むことなく、ゆっくりと川を進み始める。
10kmの川幅の中央まで来た辺りで、ザビルを取り巻く竜巻は、激しさを増し、プラズマ放電を始めた。
「さ、サラウバルクロスか...?。」
「殿下の、殿下の、がサラウバル...サラウバルクロスを...。」
アマル軍は、どよめき始める。
ザビルの纏ったサラウバルクロスは、益々激しく舞い上がる。
巻き込まれる大量の水は、荒れ狂い、川の中域で停泊していた大きな輸送船を次々と上空に噴き上げる。
とうとうツバイ第二大橋は吹き飛ばされた。
巨大な橋や輸送艦の大きな残骸は、空高く舞上げられ、次々と落下し、大地にめり込んでいく。
凄まじい勢いで回転する風と、膨大な量の水は、途轍もない破壊力を見せつける。
サラウバルクロスは、質量の大きな巨大兵曹との戦いでは、敵の身体を粉々に削り砕す。
そして、触れる者全てを、激しい界面爆発で消し去ってしまう。
街であろうが山であろうが、何もかも粉々に吹き飛ばしてしまう。
ハイドゥクは、再び低く唸り、身体は薄い緑色の炎を纏った。
ザビルは遂にツバイを渡り切り、ハイドゥクの間近に立った。
ザザルス平原の2000万の兵士は固唾を飲む。
「戦は...所詮。」
赤碧は、呟いた。
「ハッ。」
ザビルのいた位置には、18使徒のデスパイネが付いている。
デスパイネ、外様の使徒を除いては、筆頭の6位だ。
外様のリューイ。
そして、リューイのしもべである、ハデス、イオ、イクシデン、クロノスの姿は未だない。
「兵曹の戦いである。」
「ハハッ。」
デスパイネは、シムキャストの頂上で頭をすりつけた。
赤碧は、ザビルとハイドゥクの方を見た。
ザビルとハイドゥクは、近づき、接触する。
巨大なはずのハイドラの守護者は、近づくザビルと比べ遥かに小さい。
突然、ハイドゥクと接触しているザビルのサラウバルクロスの表面を真っ赤な眩い閃光が走った。
ハイドゥクの巨大な身体は、爆発の轟音とともに、一瞬で弾き飛ばされた。サラウバルの圧倒的な破壊力によって、巨兵の重い身体は、きりもみ、上空まで弾きとばされた。
ハイドラ軍の誰もが衝撃を受けた。
誇り高き、ハイドラの守護者は、まるで捨てイヌのように、投げ飛ばされ、大地に叩きつけられた。
沈黙の中、大地は揺れた。
守護者が、あの高さから地面に叩きつけられることなど、誰もが想像しなかった。
そして、ハイドゥクの輝いていた黄金の身体は、放電翼も無くし、黒焦げになっている。
ザビルの背中の放熱口から爆音とともに、青白い炎と放電がおきた。
...ゴゴゴゴーーーーーーーーー...
ザビルの額の赤い眼が連続してフラッシュする。
...パシッ...パシッ...パシッ...
...コーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
ザビルの口から閃光が放たれる。
....ズズズーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
大気が白む。
何も見えない。
凄まじい爆風が噴き上げる。
音も光も聞こえなくなった。
地面が大嵐の海のように、激しく波打つ。
...ドドーーーーーーン...
...ズズ...ズズズ...ズ...
迫撃放射だ。
凄まじい威力。
爆発は一瞬で、大河ツバイの水を半減させた。
爆風が辺りの木々や山、岩、全てを燃やし、吹き飛ばした。
巨大なキノコ雲を立ち上がる。
...ゴゴゴ...ゴゴ...ゴゴゴ...
全てのものが空高く噴き上げられている。
ザビル軍は、ツバイからの津波に飲まれ本軍の近くまで流される。
赤碧は何故か不快な顔でそれを見ている。
「コウを呼べ。」
赤碧が口を開いた。
「コウソンライを...。でございますか?。」
デスパイネは、不思議そうな表情をした。が、すぐさま、下段の兵曹に命じた。
...ゴゴゴ...ゴゴ...ゴゴゴ...ゴゴゴ...ゴゴ...ゴゴゴ...
!?
立ち上がる煙の中から、ハイドゥクは現れた。
再び、ツバイに水が雪崩込む。
空に同時に三つのイプシロンが立ち上がった。
三つのイプシロンは、同期し、回転し始める。
まるで狂った火車のように。
...パシッ...パシッ...パシッ...
...コーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
ザビルの額の目がフラッシュし、迫撃砲が放たれる。
しかし、今度は一瞬でハイドゥクに吸収された。
...シュウゥゥゥゥゥゥゥゥ...ゴゴ...ゴゴゴゴ...
「お呼びございますか。」
100m超級の怪獣達の対決を背景に、コウソンライは、デスパイネのシムキャストの下段で、片膝をつき礼をした。
「余が呼んだ。」
赤碧が言う。
「ハハッ!。」
コウは、下段の床に頭をすりつけ礼をした。
「そなたの予測は当たった。」
赤碧は言った。
デスパイネも頷いた。
「しかし、まだ...。」
コウソンライは、赤碧に答えようとした。
デスパイネは、コウを睨みつけた。
「も、申し訳ございません...。汗。」
コウは再び下段の床に頭をすりつけた。
「良い。備えよ。」
赤碧は言った。
「ハハッ!。」
コウは、自らのシムキャストに馳け登り、隊の後方へ移動するように、操舵をしている兵曹に指示を出す。
軍の最後尾には、百メートル近くある長い大型のトレーラーが止まっている。
ジニリウムの鎖でつなぎとめられ、大きな筵が何かを隠している。
その何かは時折激しく暴れる。
トレーラーは軋み、もはやスクラップだ。
ジニリウムの鎖は今にも切れそうだ。
トレーラーの横に、シムキャストが止まっている。
横には、アマルの装甲歩兵と奴隷らしき痩せた男がいる。
奴隷の頭部には、何らかの装置が埋め込まれている。
頭と金属の接合部は、血が滲み、化膿している。
奴隷の両腕、両足は切断され何らかの装置と置き換えられている。
「来やがったか?。このクソ野郎。」
コウソンライを見て、シムキャスト上の兵曹は言う。
「お役目ご苦労。アギラ殿。」
「き、貴様!。それが上位の者に対して言う言葉か!。」
アギラと言われる兵曹は、怒り狂い、持っているジニリウム製の鞭を振りかぶった。
「赤碧様のご命令だ。」
コウソンライは怯まず言った。
アギラは眼を見開き、一瞬で汗だくになった。
アギラは激しく動揺し、ジニリウムの鞭を手放してしまった。
...ガタン...
...ガタ...ガタン...
鞭はシムキャストの装甲にぶつかりながら地面に落ちる。
「赤碧様が...。」
アギラは、赤碧を極端に恐れているようだ。
「赤碧様は備えよと。」
コウソンライの伝言に、アギラは、打って変わり、愛想笑いをした。
アギラは、玉座から転げ降り、自分の軍に、命じた。
「そいつのホロを取れ!。赤碧様のご命令だ!。」
「ハッ!。」
100人ほどの兵士達が一斉に動き始めた。
「臭くてかなわん...。」
アギラは、呟いた。
辺りには、肉の腐るような異臭が漂う。
作業する兵士達は堪らず吐いた。
「貴様も手伝わんか!。」
アギラは、奴隷をジニリウムの鞭で叩いた。
奴隷は弾き飛ばされた。
両手両足のない奴隷に手伝えるわけがない。
「だ、大丈夫かっルコ!。ルコーっ!。」
トレーラーから、兵士が慌てて降りて来て、機械だらけの奴隷を庇う。
兵士は他の兵と戦闘服が違う。
アギラは笑っている。
「こ、コウ様っ!。こ、このままでは、ルコが、ルコが...。」
「き、貴様っ。コウソンライに告げ口する気か!。」
アギラは、鞭を構えた。
コウはアギラを制し兵士に言った。
「あまり、感情を入れ込むな。それは奴隷だ。」
そして、アギラの方に向き直って言った。
「作戦が失敗すれば、作戦で使えなければ、おまえも私も生きてはいられない。これは赤碧様の戦なのだ。覚悟しておけ。」
アギラは、再び、顔面が蒼白になった。
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ザビルの時以上に、地鳴りは響き、大地は畝っている。
三つのイプシロンからそれぞれ、ハイドゥクに対し光が降り注いでいる。
何らかのエネルギーを供給している。
...ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ...
低い雄叫びとともに、今度はハイドゥクが巨大化しはじめる。
直ぐに大きさは、デスパイネを上回った。
最終兵曹のハイドゥクの四つの青い眼は、より一層の光を放つ。
冠のような角は、より大きく、ヘラジカの角のように、多角形の放電翼は、巨大な光の十字架となり、ハイドゥクの背を回転し始めた。
...ズッ...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
ハイドゥクは、両脚だけでは、自重を支えられなくなり、太く巨大化した両腕を地面につけた。
地面が激しく振動する。
ハイドゥクは今、緑色の光を纏っている。
「ろ、ローレライだ...。」
「ハイドゥクを怒らせてしまった...。」
「ハイドゥクは不動明王。神の使いと戦って勝てるわけがない...。」
アマル軍は、ざわめいた。
ザビルは、ハイドゥクに向かい進んだ。
両者はがっちりと両腕を組んだ。
両者の纏ったエネルギーは、接触した瞬間に大爆発を起こす。
激しく爆発し続け、周囲の物を溶かし巨大なクレーターを作り上げて行く。
しかし、両者は腕を離さない。
空が白む。
三つのイプシロンから、ザビルに対して眩い光の巨槌が立て続けに叩き落とされている。
イプシロンによる雷爆と、ローレライの界面爆発で、ザビルの巨体は彼方に吹き飛んだ。
...
...
...ズッ...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
ザビルは、ザザルスの地に叩きつけられる。
まるで何かが爆発するような大きな音と衝撃波...。
ザビルは、倒れている。
地面がまた波打つ。
立っているのがやっとだ。
三つの巨大な波紋イプシロンは、再びゆっくりと回転し始めた。
三つのイプシロンの光がザビルに射し、ザビルは宙に浮き始める。
「しまった....。手負いとは言え、奴では相手にならん。このままでは...。やはり私が出るべきだった。」
デスパイネが呟き、慌てて、下段の兵曹に合図を送る。
シムキャストを動かすつもりだ。
筆頭のデスパイネは、ザビルの成果に責任を負っている。
歯向かう部下であったとしても、部下の不手際は、全て、総べる者の責任となる。
しかし、その必要は無くなった。
赤碧アブドーラは、白く巨大なシムキャストの上で目を閉じ、何かを呟き始めた。
...ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...
再び、空は赤黒く曇り、稲妻が光り赤黒い雲のようなエネルギーの塊はゆっくりと回り、イプシロン(ナジマの紋様)を遮って行く。
デスパイネは茫然と言った。
「帝(赤碧)は、お姿を変えずに、サラウバルをお操りになられる...。」
コウソンライのシムキャストが、巨兵の足音とともに、後方から近づいて来る。
「出せ。」
赤碧は振り向かず、呟いた。
「はっ。」
その微かな声を逃さず聞いた、コウは、立ち上がり、後方の伝令に指示をした。
...ズズドーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ズズ..ズズ...
...ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
足を引きずるような、大きな足音がする。
ハイドラの国旗を腕に巻いた青い兵曹が、まるで浅い川を渡るように、アマル軍を悠々と抜き先頭に躍り出る。
兵曹は目が死んでいる。
泣いているようにも見える。
頭部は歪に変形し、大きなこぶのようなものが隆起している。
その部分の傷は塞がらず、体液を垂れ流し腐っている。
時折その傷の中から激しいスパークが起きる。
奴隷のルコと同じように動く。
歩くことすらできない、ルコの機械の腕と足は、兵曹と同じ動きをしている。
奴隷のルコは、苦しそうだ。
血を吐いている。
ルコと兵士を乗せたシムセプト(陸用戦車)、の後ろからは、使徒アギラが追従している。
青い戦闘服の巨人が現れた瞬間に、空のナジマの波紋は、多角形から、円形に、なおかつ波紋の形状も変わり逆に回転し始めた。
イプシロンが塗り替えられる...則ち...。
ハイドゥクよりも、その兵曹が、遥かに力が上回っているということだ。
信じ難いことに...。
「やはり本当だったのか...。」
「も、モルフィン様...。」
「う、嘘だ!。マジゥ様が!。マジゥアンティカが?。」
「モルフィン様が...。」
「な、何と言うこと。モルフィン様が...。」
「マジゥアンティカが...。」
「ほ、本当にモルフィン様が...。」
ヒドゥィーン達は動揺が隠し切れない。
....ゴゴゴオオオオォォォォーーーゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオォォォォーーー...
ハイドゥクは咆哮を上げる。
「!?。いや、違う!。モルフィン様ではない!。」
「な、何だと!?。」
「あの波紋を見ろ!。多角形ではない!。円だ!イプシロンの形が違う!。」
「マジゥアンティカではないぞ!。」
「見ろ、マジゥではない。放電翼の形も色も、顔も目の数も違う!。」
「い、一体この兵曹は?。い、い、一体何者...。」
ハイドラの兵士が騒めく。
...チカッ...チカッ...チカッ....
...
....
...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
雷爆がハイドゥクを叩きのめす。
ハイドゥクは再び咆哮を上げる。
...ググググググゥゥゥゥオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーー...
絶望に似た、絶叫のような雄叫びだ。
「ハイドゥクはどうした!?...。」
イプシロンは、ハイドゥクに雷爆を立て続けに浴びせ続ける。
このイプシロンは、ハイドゥクのものではない。
ハイドゥクは、全く反撃をしない。
ひたすら、ただ、ひたすら、逆に回りだした雷爆を受け続ける。
...グググーゥゴゴゴーーーオオオオオオオオォォォォ...
何か大きなショックを受けているような...。
悲しみしか伝わって来ない。
かつてこんなに悲しい不動明王の鳴き声を聞いたことがあるだろうか....。
まるで泣いているように物悲しい咆哮。
ハイドゥクは、全く反撃をせず弱っていく。
....グググーーーーーーゥゴゴゴーーーゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオーーーーーーー...
物悲しいハイドゥクの、最強の、最強であるはずの兵曹の、悲痛な咆哮がザザルスをこだまする。
...シャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーー...
...ブッシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーー...
...シュウッ...
...シャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーー...
とうとう、ハイドゥクは、マジゥとの戦いで受けた深傷から体液が噴き出した。
...チカッ...チカッ...チカチカッ...
...
...
...ズッ....
...ズズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...
...
...ゴゴゴゴゴゴ...ゴゴオオオオォォォォ...
雷爆は、ハイドゥクの冠のような角を直撃し、吹き飛ばした。
ハイドゥクは、ただ、ただ、青い兵曹にやられるばかりだ。
徐々に弱っていく。
全く反撃を全くしない。
ハイドゥクは、地に倒れた。
血の涙を流しながら。
「何と無様な。笑。何と怖ろしきかな。我が戦術予報士たるや。笑。」
使徒アモンは、笑いが止まらない。
「祖国を、使命を、そして愛する者達の命を。自らの手で破壊してしまった哀れな守護神の魂の傷....。浅くはあるまい。」
デスパイネは呟いた。
ハイドゥクはもう動けない。
ザビルは、再びサラウバルクロスを纏い、ハイドゥクに近づいた。




