ダヌアの空に107
...ゴゴゴゴ...ゴゴ...
メインモニターが見下ろす地上。
500m上空から。
...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...サッサ...
青い犬神の巨大な肩がモニターを覆い隠す。
砂煙が舞い上がっている。
炎のように蒼く荒々しい獣毛。
避雷針のように太い。
犬神の巨体を覆っている。
メインスクリーンに映し出される不規則な色と艶。
決して創り物ではない。
強風になびいている。
美しくもあるリアル。
隙間から見える地上が驚くほど遠い。
207mの巨体が脚を踏み下ろす。
まるで落下する高層タワー。
スローモーションで。
地上で小さな兵曹が構えている。
光輪を発して。
サビアノーアはまるで小さなフィギュア。
『...サ..ー.ティ...ー!。こ..っち...は..余.裕...が..ある!。サ...ビ..ア....ノー..ア...のバ..イ......タル...が下..がっ...て..いる..。』
「スードラだ!。スードラが来たぞ!。」
スードラがユーフォウム〔※〕で戻って来た。
〔※ユーフォウム : 兵曹が原子レベルで分解、移動、任意の場所で実体化する現象〕
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
「キャァ...。」
地上からの衝撃波。
「ううっ..。」
「おおぉ...。」
まるで山脈同士が激突したような...。
サビアノーアがゾアーグの蹴りを受け止めた。
一見何にぶつかったかさえ分からない。
鑑が激しく揺れる。
恐るべき力。
サビオには重力を制御する力がある。
あの小さな身体で。
今は、彼に頼るしかない。
彼こそチャクラの兵曹。
エメドラドがアマルに出現すると恐れていた明王。
次の世代の覇者。
えぐれてクレーター化する大地。
...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...
持ち上がり削れて行く。
土砂を噴き上げながら。
...ズドォオォォォゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...
サビアノーアという楔によって。
奴が火口包囲陣を守る最後の砦だ。
...ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
!
「シメオンだ!。シメオンが来た!。」
白い犬神をシメオンとエフライムが抑える。
主力級のラキティカが戻って来た。
サビオ!。
頑張れ!。
もう少しだ。
....
!?
...チカッ...
眩しい...。
モニター下弦中央。
明るい灰色。
金属のカメムシが飛び込んで来る。
ラムダ17(セブンティーン)だ。
『...サ...ビ..ア...ノー...ア...の...バ...ッ....ク...ア...ッ.....プ....に....入...る。...』
「...ま、ま、ま、待って!。待ってくれ!。バ、バ...。」
「セブンティーン!。本艦の管轄だ!。それ以上近づくな!。危険だ!。」
ラウルがナイジェルを遮る。
『...音...叉..ミサイル...を発..射...する。...』
「だ、だ、ダメ。お、音叉ミサイルは撃っちゃダメ!。」
「音叉ミサイル撃つな!。ダメだ!...」
...バスッ...
「や、やりやがった...。汗」
ラムダ17の発射管が火を噴く。
...バス...バスウゥッ...
3つの白い煙が上昇する。
...シュウウウウゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
弧を描き青い犬神へ。
「艦長。サビアノーアのバイタル!。50を切ります!。何とか!。何とかしなくては...。」
ロベルトが振り返る。
大汗をかいてる。
サビアノーアは予想以上にボロボロ...。
分かっている。
あんな小さな身体で...。
そんなことは分かっている!。
...ドゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
音叉ミサイルが炸裂した。
「何てことを!。」
エマが気づいた。
両手で口を押さえる。
ブリュイエールのガイドをしていた。
...ゴワァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーンン...
艦自体が激しく振動する。
やらかしてくれた...。
こちらからロックすべきだった。
「イッカサル、ポルシト、シメオン来ます!。」
早く!。
早く来てくれ!。泣
...ドゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーン...
...BUUUUUBOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA...
「うっ。」
鼓膜が吹き飛びそうだ。
跡形もなく。
「うわあああぁぁぁ。」
「キャァァァァァ。」
犬神怒りの咆哮。
激昂している。
潜航特性を持つゾーグの生き物は、音叉を嫌う。
「ね、ね、熱線を、う、撃つぞ!。リタ!。計測!。」
「了解!。」
6つ目の悪神が極限まで口を広げる。
動物の口の開き方ではない。
やはり化け物。
顔面から裂けていく。
「や、や、奴のし、しゃ、射線は広い。」
「了解!。射線、下弦222サス16エン37。影響無し。」
!
よ、良かった...。汗
リタの予測は早くて正確。
外れたことが無い。
慎重過ぎるレーダーチーフでさえ腕組みをして見ている。
...ゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
ナイジェルのことだ。
犬神が熱線を放つ。汗
焼けるような光。
ナイジェルのヘッドセットは斜めにずれている。
この熱線が直撃すれば、ラムダ17だけではない。
ラキティカですら致命傷を負う。
イブラデなどひとたまりもない。
甲殻の脆いサビオにはクリティカルだ。
!?
ナイジェルが腕組みを外しリタを見る。汗
慌てている。
何だ?...。
「待って!?。汗。ま、まさか...い、いや...。汗。やだ...私としたことが...。」
!!。汗
「どうしたリタ!。」
...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...
「大変!。」
リタがパスタップを引き取る。
なんだ!?。汗
「どうしたんだ!。」
「逃げて!。逃げてぇぇ!。汗。逃げてぇぇぇーーーーーーー!。」
リタのこんな声。
リタが取り乱すのは初めてだ。
イーシャスがクレランスを見る。
「回避!。シフトダウン、バレルロール、インセプションエイト!。セブンティーン!。ラムダセブンティーン!。バレルロール!。バレルロール!。」
クレランスが叫ぶ。
『...む、む...無...理..だ。汗...』
「ふ、ふ、フェイ...フェイントか、かけ、かけやがった!。」
「何だと!?。汗」
「何ですって!?。汗」
...サッサ...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...サッサ...
ナイジェルが慌ててヘッドセットをつける。
リタは必死に操作しようとする。
だが、震えてコンパネが押せない。
こんなに慌てるリタは珍しい。
...ゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
業火が止まない。
勢いが凄まじい。
「キャァァアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーー!。」
「訂正!。し、し、射線、下弦!。122サス18エン34。また変えた!。い、犬が射線!。汗」
「やだ!。サビオが!。汗」
!!
「な....何だと...。」
何という首の力。
この熱線の推力。
戦艦のスラスターどころではない。
「ラムダ17消滅!。汗」
「さ...さ...サビアノーアを直撃!。汗」
「あぁぁ。」
「ひっ...汗。」
「サビオ...。」
「おぉ...。」
動けないのか?。汗
「サビオ!。」
「サビオ!。」
「サビオー!。」
サビアノーアが10000度の炎で焼かれている。
10秒、20秒、30秒...。
「サビオーーーッ!。汗」
「いや...。そ、そんな...。」
耐えられるはずがない。
あの小さな身体で。
「キャァァァァァーーーーーー。」
あまりにも残酷な結末...。
「サビオ!。」
「サビアノーア。バイタル下がります!。汗
40。24。16。」
...。
...。
悪魔が我らの子を焼き尽くそうとする。
何とかしなくては...。
何とか。
「し、し、しし、シメオンだ!。汗。シメオンを呼べ!。」
...ソーーセーリャァ...チョーーサージャア...
「サビアノーアが!泣。」
サビアノーアの動きが止まった。
完全に。
...チョーーサージャア...ソーーセーリャァ...
や、焼け焦げて...。汗
真っ黒に.....。
そんな...。汗
「生きてます!。で、でもバイタル7。」
そんな.......。汗
...チャン...チャララ..チャン...チャララ...チャンチャ...チャンチャ..チャチャチャチャ...
7?!。汗
7!。
瀕死じゃないか...。泣
甲殻が燃え血が噴き出している。
煙が立ち昇る。
山火事のように。
...ボタヌー..カラァ.ジシ...ナミ..ウツフ...サニー...
エマも振り向く。
この女も共犯。
これで3度目だ。
...イキガブ..ツ...カール...タイクーダイ...
まただ...。
サビオは我慢強い。
...ヨイヨエー...ゾナ..ニイー..ハ...マダイクー...
強いサビオには、期待をしてラキティカと同じ訓練を受けさせていた。
サビオは弱音を吐かない。
泣き言も言わない。
我々に気づかせすらしない。
...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...
そして...。
キドーの若者衆が怒鳴り込んで来た。
...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...サッサ...
ザブル•ペルセア大闘技場に。
...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...
メルウガとか言う男。
話も何もあったものではない。
怒鳴りまくしたて大暴れしやがった。
サビオを連れて帰ると。
...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...サッサ...
キレるような男ではないそうだが。
...ソーーセーリャァ...チョーーサージャア...チョーーサージャア...ソーーセーリャァ...
サビオは一人でいつも頑張る。
サビオの内臓はもうボロボロだ。
どうしてこんなことをさせた?。
あの子は痛みすら隠して頑張る。
無理をしてしまう。
周りの大人が見ていてやらないと死ぬまでやる。
あいつは人の笑顔のためなら、何でもする男だ。
我々の兄者は、それを良く知っていた。
お前達にはただの一兵卒かもしれない。
だが、俺たちや兄者にとっては、何よりも大切な宝物だ、魂だ、命だ。
だから連れて帰る。
我々の弟を連れて帰る。
我らのロコウへ。
セクトルジーナンへ。
キドーの大水郭城へ。
...チャン...チャララ..チャン...チャララ...チャンチャ...チャンチャ..チャチャチャチャ...
メルウガはそう言ってあらゆる施設を破壊した。
サビアノーアを探して。
...タイークゥー...ミ..ーー...イー...コイ...ナー...ホ..モーーガ....ネーーー...
俺にとっても息子同然だふざけるな。
私の家の子もここに住んでいる。
みんなと同じご飯を食べてる。
リタと私、そしてボランティアの人達と作ったご飯をね。
洗濯や掃除。
みんなの身の回りの世話。
私もリタも寝ないで戦ってる。
私達はこの子達と共に戦う。
私達がこの子達を護る。
絶対に!。
あなたに出来るの?。
出来るものですか!。
ふざけないで!。
ふざけないでよ!。
私が抜けても、サビオが抜けても全員では帰って来れない。
全員で生きて帰って来るの!。
447人全員無事で帰って来るのよ!。
ミュウミュウも、私も、リタも、サビオも、カルバも、みんな。
タンパーも、トルカカも、みんな!。
みんな、みんな、みんな!。
見て!。
あの小さい子達を!。
ウチの師団にはあの子達がいるのよ!。
あんな小さな子達が...。泣
どうしても連れて帰ると言うなら、私を殺してからにしなさいよ。
...タイク...マー...リーー..ハニ...ホーー....レーー...
俺たちはこの子達をただの一兵卒と言われどうしても引けなかった。
結局、サビオが、メルゥガやコンフを宥めて帰してくれた。
だが、あの大人しいサビオは激怒した。
最初で最後だ。
...ヨ..イヨエー...ゾナ..ニイー..ハ...マダイクー...
ありがとうサビオ。
これから俺は、お前をお前の兄さん以上に大切にする。
俺がお前の兄様よりお前のことを分かるようになる。
これからはもっともっと...。
だから...。
ところが、あいつはブチ切れて言った。
泣きながら。
...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...
大嫌いだ!。
トラ兄様の変わりになんて誰もなれない。
一生なれない。
誰がどんなに頑張っても!。
2度と僕の前でそんなこと言わないで!。
...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...サッサ...
と...。
1か月は口を聞いてくれなかった。
俺にもエマにも。
やはり余程我慢していたのだろう。
あの時は私は酷く落ち込んだ。
親は自分の子のことは全て分かっているつもりだ。
ただ現実には、殆ど理解など出来ていない。
サビアノーアの言うトラ兄様とは一体...。
...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...
!!
...ゴ...ゴゴゴ...
犬神が脚を踏み下ろす。
...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...サッサ...
「おおぉぉ...。」
サビアノーア、そして火口包囲陣目掛けて。
これが俺の『護る』か...。
こんなに安い誓いだったのか?。
神よ...。
ナジマよ。
...BOBAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA...
猛り狂っている。
犬神が。
ラキティカ達が雪崩れ込んで来た。
イッカサルも。
だが...。
間に合わない...。汗
「おぉ...。」
あぁぁ...。
踏み潰される!。
子供達が!。
あぁぁぁ...。
「キャァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーー!。」
「キャァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!。」
...チャン...チャララ...
...ッ...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...
!!
大地から水柱が...。
「キャァァァァ。」
「うをおおおぉ...。」
...チャン...チャララ...
...ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
洪水が...。
地面から。
「鉄砲水だ。」
て、鉄砲水?。
...チャンチャ...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
「これはトヨコ様の水芸...。」
...チャンチャ...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
鉄砲水が青い犬神の顔面を捉える。
...チャチャチャチャ...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
水流が、まるで巨人の右フックのように、カーブする。
犬神はのけぞる。
...チャン...チャララ...
...ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ズドーーーーーーーン...
...ズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
犬神が後退する。
「助かった!。泣」
水は重い。
...チャン...チャララ...
...ズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
「サビアノーア、バイタル5、3...。」
...チャンチャ...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
水柱が犬神の顔面に激突する。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ズゴーーーーーーーーーン...
激流が犬神の巨大なピアスを吹き飛ばす。
顎が砕けた。
真っ青な体毛が空から落下して行く。
避雷針のように大きな。
...チャチャチャチャ...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...バタ...バタ...バタ...バタ....
「艦長!。あれ!。見てください!。ジンガーです。ジンガーが来ます!。」
じ、ジンガーが..?。
「ジンガー来ます。アッパー84サス136エン54。高度1200。」
彼方から飛来する。
ジンガーは80年前の戦略装甲車シンクビートをベースに作られている。
ラムダと比較すると小型。
...ブロオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーー...
ジンガーが影響範囲に入った。
カエルの目のような2つのアルマダイレーダー。
黄色い丸みを帯びた機体。
...バタ...バタ...バタ...バタ....
「艦長!。」
「分かっている。」
犬神は直径1000m以内の全てを認識する。
アルマダイの反重力波は反転し、中に入ったものは全て激しい怒りの対象となる。
我々ラムダ13は影響範囲を避けて飛行している。
ゾアーグの周囲を旋回している。
操舵手2人は、ランダムで予測不能な反重力波や影響範囲に素早く対応する。
「18型戦略装甲車 シンクビート。識別子pap133間違いありません。ジンガーです。」
...バタ...バタ...バタ...バタ....
...ブロオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーー...
ジンガーは進んで行く。
反重力プロペラで浮遊し、スラスタで移動する。
見かけによらず性能は良い。
...バタ...バタ...バタ...バタ....
...ブロオオォォォォォォォォォーーゥゥゥ...
ずんずんとゾアーグの影響円の中に入って行く。
「ジンガー、犬神との距離200!。危険です。」
ジンガーは、年季物でボロボロでガタガタ。
塗装に錆も入っている。
時折、反重力プロペラが止まる。
ロープで縛られたコックピットのハッチがガタガタ揺れている。
「あ、あれは何だ!?。」
「踊ってる...。」
ゴンドラから立ち上がる櫓の上。
激しく動く人影。
「と、と、トヨコ様だ!。汗」
ピンクの夜行紡ぎの裃。
光るラメ。
櫓の上にトヨコがいる。
いつの間に...。
「バカな...。」
左手に扇子、右手にマイクを持ってる。
いつもの出立。
まるで年末の民謡歌手。
「ホントだ...。トヨコ様が...。」
「トヨコ様は亡くなったはず...。」
黒く丸いサングラスをつけている。
「ジンガー。バイタル0...。サスホールド1000mv以下で7800...」
櫓にはペギリュウムのド派手な電飾。
白、ピンク、黄色、緑、青、赤。
アスカ(ワイナ語:愛)と書いてある。
「じゃああれは....。」
「間違いない。これ...この歌...トヨコ様のタンジア音頭だわ。...」
「せ、せ、生誕、に、200年祭の時より、ど、ど、ド派手だね。汗」
大神官だが、いつ見ても胡散臭い。
「犬神の動きが止まった。」
「ゾアーグが固まってる....。汗」
...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...サッサ...
...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...サッサ...
...チャン...チャララ...
大地から鉄砲水が飛び出す。
...ズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
水柱が白い犬神を叩きのめす。
...チャンチャ...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
アッパーを食らわす。
青い犬神の砕けた顎に。
痛烈に。
...ドッドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
遂に青い犬神が大地に膝を落とす。
...ゴゴゴゴ...ゴゴ...
「サビアノーア、バイタル上がります。20、30、40...。まだまだ上がります。何だこれ...。」
バイタルインジケーターが風車のように回っている。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ズゴーーーーーーーーーン...
鉄砲水が白犬神をもう一度横から殴りつける。
...烏さんや、鼠さんや、虫さん達や...
「待って?。何か聞こえる...。」
...すまんのぅ...
...おまさん達の命....
「と、と、トヨコ様の声だ!。」
...この婆が大切に使わせて頂くでよ...
...何せこんだけのもん作って動かすとなると...2000兆カルーデラでも足らんでな...
これだけのもん?。
....婆の最後の姿を...
ジンガーから雄叫びが。
...見たって頂戴...
...うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ...
トヨコの雄叫び。
...ゴゴゴゴ...ゴゴゴゴ...ゴゴゴゴゴゴゴゴ...
地鳴りが轟き渡る。
犬神に負けてない。
鼓膜が破れそうだ。
「おぉぉ...。」
櫓の上のトヨコが巨大化して行く。
「うわあぁぁ!。」
...ボタヌー..カラァ.ジシ...
ジンガーが重みで墜落して行く。
...ナミ..ウツフ...サニー...
更に巨大化して行く...。
風船が膨らむように。
一気に広がって行く。
...イキ...ガ...ブ...ツゥ....カ..ルー...
ゾルクヌートの莫大なクヌン、水、土、砂...。
トヨコ目掛けて飛び込んで来る。
...タイクーダイ...
クヌンでコーティングされた巨大な水と土砂の塊。
黄色い光。
巨大化したトヨコの映像が被さる。
...ヨイヨエー...ゾナ..ニイー..ハ...マダイクー...
「うわぁぁぁ。」
な...なんだあれは...!。汗
...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...
...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...サッサ...
「き、き、き、キングトヨコだ!。キングトヨコだぁーーーーー!。汗」
キングトヨコ!?。
...おぉぉ...
...な、なんだあれは..
...と、トヨコ様...
...ぁぁぁ...
...おぉぉ...
...キャァァ...
....何あれ...
艦内...いや、全師団にどよめきが走る。
...見ろ...
...何だあれ...
...で、デカっ...
...おぉ...
...うわぁぁ...
...何だあれ...
....モニター見てみろ...
....げっ...
...何これ...
...デカっデーカっ...
...きゃあ...
...化け物...
...トヨコ様だ...
...ゾアーグよりデカいぞ...
...うわうーわっ...
...でっけぇ...
...キングトヨコだ...
...ぉおぉ...
...ぁぁぁ...
....きゃあぁぁ...
...見てあれ...
黄色い胴着。
いつの間にか着替えている。
腕には拳闘用グローブ。
茶巾寿司のように束ねた髪。
...チャン...チャララ...
...ズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
黒く丸いサングラス。
巨大なサングラス。
ラムダより遥かに大きい。
...チャン...チャララ...
...ズバドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
キングトヨコがゾアーグを殴りつける。
速いパンチだ。
...チャチャチャチャ...
...ズバドゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
2体の犬神は防戦一方。
たじろいでいる。
自分よりデカいキングトヨコに。
...ソーーセーリャァ...
...チョーーサージャア...
地面に墜落したジンガーから鳴り響く。
いないはずの装甲兵の歌声。
...ソーーセーリャァ...
...チョーーサージャア...
ゾアーグはガードを上げたまま後退して行く。
...みなの命、細胞、有機体、アルマダイ(生命エネルギー)...
...タイークゥー...ミ..ーー...イー...コ...
..粒子分裂のエネルギーに変えてありがたく使わせて頂くわいな...
...バッスゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
キングトヨコが青の犬神にボディブローを浴びせる。
衝撃波が広がる。
犬神の口からは多量の体液。
...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...
200m下の地面は洪水だ。
神にも胃液がある...。
...イ...ナー...ホ..モーーガ....ネーーー...
...ズッッバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
キングトヨコのアッパー。
...なぁに...
...おまさんらワシのこと食べたんじゃ...
...ケチなこと言いっこなしぞい...
...タイク...マー...リーー..ハ...
...ズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
キングトヨコのフック。
青犬神がガードで受け止めた。
...ガキィィィィィィィン...
青犬神の腕輪が吹っ飛ぶ。
凄まじい破壊力。
....ドーーーーーーン...
...ダーン...
...ドンドーーーン...
青犬神がよろめいている。
...ん?...
..なんじゃ?...
...ウジ虫さんや...
...今更返品は効かんぞえ...
...ちょっと齧っただけじゃと?...
...ニ...ホーー....レーー...
...ズバドゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
キングトヨコの黄金の左。
犬神のジョー(顎)にクリーンヒット。
...ヨ..イヨエー...ゾナ.ニイー..ハ...マダイクー...
...ふむふむ...
...でも返品はきかない...
...なぜか?...
...それはワシがただの人間じゃから...
...ゴゴ...ゴゴゴゴ...ゴゴゴ...
...ゴゴ...ゴゴゴ...ゴゴ...
...ゴゴ...ゴゴゴゴ...ゴゴゴゴゴ...
青い犬神の巨体が倒れて行く。
スローモーションのように。
ノックアウトだ。
...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...
...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...サッサ...
...ッ...
...
...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ゴゴ...ゴゴゴゴ...ゴゴ....ゴゴゴゴ..ゴゴゴゴ...
青い犬神が倒れた。
地面に激突。
自重で潰れて行く。
衝撃波が広がって行く。
...ソーーセーリャァ...チョーーサージャア...
「耐衝撃用意!。」
...ブゥワウァァァァァァ...
爆風が土煙を噴き上げる。
...チョーーサージャア...ソーーセーリャァ...
キングトヨコが白い犬神の方を向いた。
...力がありながら、ハイドラだけに肩入れをした...
白い犬神がたじろいでいる。
...叡智をかじりながらの中立を保てんかった...
...この力を行使して歴史に干渉してしもた...
イッカサル、シメオン、ポルシトが後退して行く。
キングトヨコに場所を譲った。
...ナジマはんの上のリクオウ神がえっらいお怒りでな...
...チャン...チャララ..チャン...チャララ...
...あの人間味溢れるナジマはんは...
...あの暖かく優しいナジマはんは...
...霊格が高く徳も高い...
...チャンチャ...チャンチャ..チャチャチャチャ...
シエルとマセナがラキティカ達の背後で休んでいる。
...そしてホンマの叡智や真理をご存知じゃ...
...じゃが...
...あのお方は生き物ではない...
...チャン...チャララ..チャン...チャララ...
ラキティカは24体全てが集結している。
バルバロイ達はラキティカに手も足も出ない。
次々と駆逐されて行く。
...チャンチャ...チャンチャ..チャチャチャチャ...
...神の分身...
...神のデコイ...
...神によって作られたサイボーグじゃ...
...神の実行器...
...ボタヌー..カラァ.ジシ...
...ズズーーーーーーーーーーーーーン...
...ドドーーーーーーーーーーーーーン...
大地が爆発する。
キングトヨコの歩みによって。
...ナジマはんは見逃したが、リクオウ神はワシの犯した罪を見逃さなんだ...
...ワシの魂は消滅することからは免れた...
...ナミ..ウツフ...サニー...
白い犬神がトヨコに背を向ける。
逃げ始めた。
...イキガブ..ツ...カール...タイクーダイ...
...しかし、ワシは同じこのアマテラス大宇宙には存在が許されなくなった...
...エルナトと言う場所へ行くらしい...
...なのでもう永遠に皆と会うことは出来ない...
...降霊することもない...
...本当の永久にさよならじゃ...
...ヨイヨエー...ゾナ..ニイー..ハ...マダイクー...
白い犬神が逃げる。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ズドーーーーーーーーーーーーーン...
キングトヨコが追う。
...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...
...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...サッサ...
...ズダドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ズドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
キングトヨコの歩みが遥かに早い。
白い犬神に追いついた。
...タンパーは天国へ行って転生をする...
...じゃからフォーカス54までワシはタンパーを連れて行く...
...タンパーが自分が誰か思い出すまで...
...そして、そこからは別々...
...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...
...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...サッサ...
...ドド...
「飛んだ...。」
「とっとっ飛んだぁぁ!。」
「き、キングトヨコが飛んだ...。」
キングトヨコがジャンプした。
キングトヨコの重く巨大な実体が、空高く。
あまりの出来事にクルーは呆然としている。
クルーだけではない。
ラキティカも、イブラデ達も、師団の全員...そして、バルバロイでさえも。
...チャン...チャララ..チャン...チャララ...
...ッ...
...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...チャンチャ...チャンチャ..チャチャチャチャ...
「ど、ど、ど、ドロップキックだ...汗。」
白い犬神の背中に炸裂する。
キングトヨコのジャンピングキックが。
体長200mのキングトヨコのジャンピングキック。
...チャン...チャララ..チャン...チャララ...
白い犬神が吹き飛ぶ。
200mの巨体が大地に激突して転がる。
自重で首も足も腰も腕も粉々に折れて行く。
...チャンチャ..チャチャチャチャ...
...ワシという光は長い長い旅に出る...
...一瞬じゃが同時に何兆光年もの長い旅路...
...なぜならもうワシは別宇宙の存在として真実が書き換えられてしもたから....
...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...
青い犬神の全身から、多量の体液が噴き出している。
青い犬神は立ち上がることすら出来ない。
...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...
...しんたろうや...
...婆はあんたとの約束叶えられなんだ...
...ごめんの...
...ソーヤ....エンヤ..エンヤ..ヨヨサノ...サッサ...
「ゾアーグから高エネルギー反応!。」
青い犬神の首が180度回転する。
青い犬神は身体を起こしている。
極限まで口が広がって行く。
「射線上にジンガーがあります!。」
顔面から裂けていく。
...ソーヤ..エンヤ..エンヤ...ヨヨサノ...サッサ...
...ほぉ...
...気づきおったか...
...端くれが...




