BARローズの常連客
ドアを開けると、土埃が舞っている。
鉄骨だらけの塔。
アスファルト。
荷物を運ぶ運搬車。
小型の作業車。サイレンの音。
とても騒がしい。
...キ....
...ドダンッ...
作業着を脱ぎながら、少し錆びた赤茶色のドアを閉める。
『第3 造工場 事務 _|』
鉄製のドアに取り付けられた名札。
プラスチックの文字が欠落している。
事務所の正面は大きな川が流れている。
この地下都市エスカトラの大きな川。
策も無い。
黄色い鉄骨はあるが。
何のためものか分からないが。
道幅はあるが、簡単に落ちてしまう。
川に沿って延々とこの景色が続く。
工場からの廃液で川の水は黒く汚れている。
落ちたら死ぬだろう。
多分。
ここでの、収入は地上にいた時の100分の1だ。
たが、それで十分。
工場街から一本道を中に入ると、商店街がある。
生暖かい空気が顔を撫でる。
焼いた肉の香ばしい匂いや、車の燃料オイルの匂いが漂う。
ヘルメットを脱いだ。
もう何も落ちては来ない。
しばらく歩くと倉庫街だ。
倉庫しかなくなる。
私はこの空気が嫌いじゃ無い。
今考えると上の大気は、むしろ綺麗過ぎて落ち着かない。
昼は天境(地下都市の天井のこと)からも明かりが入る。
天境は500メートルの高さにあるらしい。
高過ぎて、目では良く見えない。
この辺りの地層は、ペギリウムが含まれている。
天境は、それ自体が強く発光する。
地上で受けた、光や振動を受けて。
夜は薄暗く、もちろん星は見えない。
ペギリウムが微かに発光しする。
星のように。
そして、煙や漂う粒子で、雲のようにモヤがかかっている。
アツコは、昨日ここを出ていった。謎のメモを残して。
最後だけは解読できる。
「...元気で。Foxy。」
簡単な暗号だ。
Foxyはアツコのことだ。
今すぐには分からなくても良い。
心配はしていない。
寧ろ嬉しい。
アツコはついに見つけた。
長い間探していた居場所を。
私は、アツコの長年の相棒。
暗号はいつかは分かる。
私もアツコもずっと追われていた。
常に命をすり減らし生きてきた。
何のため?。
アツコも自分も、肉親や家族はいない。
世の人のため?。
まさか。笑。
アツコも同じ。
アツコとはまた、どこかで巡り会う。
長い付き合いだ。
そんな気がする。
来世かも...。笑。
ここは自由だ。
自由な場所だ。
少しだけ、人を見る目があれば、生きていける。
アツコは、誰も知らない技術や知識を多く持っていた。
そして、魅力の無い女では無かった。
とにかく、用心棒の役割からは解放された。
心配ではないと言えば嘘になるが、自分に出来ることはもう何も無い。
倉庫街を抜けると、ただただ広い場所に出る
人工の平原。
陸車用の公道がマス目状に碁盤の目のように交差している。
しかし、道以外は何も無い。ただ、薄緑のくさが生えているだけだ。
私と同じように歩いている人達が結構いる。
遠くまで何にもない。
全く何にもだ。
遥か彼方に北8エリアのビル街が見える。
ダウンタウンだ。
こんなに何も無いなら、いっそのこと、道もやめてしまえば良い。
大きなトレーラーが信号で止まる。
...ガラガラガラガラガラガラ...
オイルで走るクルマだ。
揮発性オイルの匂い。
嫌いではない。
地下都市には、エルカーや、スピーダーのような飛行車は無い。
全て、ガソリンと言われる、揮発性オイルで走るクルマばかりだ。
ガソリンで走るクルマは、エンジンの音や振動、加速、減速、丸い操舵桿へ伝わる震度。
そして匂い。
なぜかクセになる。
私も持っている。
最近買った。
5417年もののトランザム...。
片側四車線の道路ケープコッド416にまで歩いて来た。
この公道はかなり車が走っている。
が、地上に比べるとやはり数は少ない。
暗くはないが、地下の景色は特別だ。
少し黄色がかっている。
そう。レトロな感じ。
なぜか懐かしい。
416号の脇に、路面電車が走っている。
地上とは違いパスカードをかざさないとホームには入れない。
スロープを上がると、ホームだ。
....ガララララーーーーーー...
電車の扉が開く。
『北8エリア ケープコッド ダウンダウン行き』
オレンジ色の表示灯が点灯した。
...ゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
路面列車はゆっくりと進む。何にもない場所を。
道路と草しかない。
30分ほど乗っていると、ダウンタウンの駅に着く。
わたしはこの辺りに住んでいる。
人通りが多く、結構賑やかだ。
...プップーーーーー!...
「...おおい!どけろ!通れねぇだろうが!...」
...カツカツカツ...
「...あはは。当ててみて?...」
...ピッポゥピッポゥピッポゥ信号が赤に変わります...
「...今だけポイント2倍キャンペーン実施中でーす!...」
「...何それ何それ。マジそれウケんだけど笑...」
...ゴゴゴーー...
「...じゃさ、行ってみねぇ?笑...」
「...わーん。..」
...ブゥーーーーン....
....ブロロロロ....
「...あなたがいらないって言ったから、ママ買わなかったんじゃない!...」
「...あぁご親切にどうも...」
....風のぉー♪音を聞いてみてぇー♪...
「...パフォーマンス多いねー。...」
「...の件なんですが、予定が変更になりまして...」
やはり、懐かしい匂いがする。
モアっとした空気だ。
油や食べ物の臭い、電気だけではなく、化石燃料や、油を使用している街の臭いだ。
路面電車は、ここで行き止まりだ。
今日は金曜日だ。
馴染みのバーで、友人と約束をしている。
私は家とは逆の方向、公道ケープコッド6号に向かって歩いた。
片側10車線のケープコッド6号の地下には、同じ幅のコンクリートの地下空洞がある。
深さは10m。
地下都市の広さが、マイフィア達の抗争も奴隷達の存在も忘れさせる。
数百メートルごとに、強度を保つための壁が作られている。
かつては、2階層の公道を作るつもりだったらしい。
だが、地下都市は土地が余っている。
だからやめたらしい。
コンクリートの階段を降りていく。金属手すりを持ちながら。
地上の歩道の丁度下辺りに地下鉄のホームがある。
5ピークのコインをゲートに入れた。
ゲートが開く。
...ガチャン...
...ウウウウーー...
アフロダイエンジンが起動し、電車内の明かりが灯る。
この路線も、アフロダイを動力に使っている。
金が殆どかからないから、無くなることも無い。
利用者がいなくても。
この電車に人が乗っているのをあまり見たことが無い。
無用心だからだろう。
『ケープコッド 北2エリア ローズマリー行き』
オレンジ色の表示灯が点灯する。
ここからは、ひたすら地下だ。
蛍光灯で照らされた車内。
誰も乗っていない。
不思議な感じだ。
古いポスターが貼られている。
これ、10年以上前のやつじゃない?。
列車は、30分ほど移動しローズマリー駅についた。
ここの地名がローズマリーなだけだ。
ここはややスラム化した地区だ。
身体が大きく、垢抜けた出で立ちの私は、少し目立つ。
この場所は、かなり慣れた者でも避けて通る地域らしい。
どこかの組織に属していなければ身ぐるみ剥がされ命を奪われても仕方の無い場所だ。
でも、私は大丈夫。
なぜかって?
マッツだから。
しかし、スラムのハイエナ達にも全く構われなかったし、私も警戒すらしたことが無い。笑。
電車の高架下のネオンの方に向かった。
この電車はこの地下国家エスカトラを縦断する路線の枝線だ。
まだ時刻は18:50。
しかし、この辺りは深夜のように暗く人がいない。
劣化した舗装道路の白線を、黒い犬が横切り、反対の歩道に駆け上がっていった。
ネオンの下を通り抜け、下り坂を30mほど行った場所に、それはある。
...ギィーーーーーー...
...カランカラーーーン...
ドアを開けると...大勢の男の割れるような笑い声。
女の喧嘩する声。
歌声。
グラスのなる音。
ゲームの木製の球が壁に当たる音。
ざわめき。
酒のブランドロゴのネオンサインや水槽の光。
アルコールの匂い、肉やソースの匂い。
情報の洪水だ。
外の静寂さが嘘のようだ。
酒場の名前はローズマリー。
ローズと言われている。
階段から広いホールに降りて行った。
この酒場は、裏はカジノに繋がっている。
私は、辺りを見回した。
「ガッハッハッ!。バカ。馬っ鹿だねぇ。あんたは!。」
一際大きな声で笑う大男。
簡単に見つけられた。
「あぁ?。バカだ?。」
「ガハハハ!。」
声の大きな男は、となりの男の背中をバンバン叩いている。
隣の男は、顔や頭に鋲や刺青をしている。
鋲のようなピアスをしている。
極悪非道な顔だ。
流石の私も、ちょっと...。
一見ガタイの大きな普通の人間に見えるが、兵曹崩れの荒くれ者なことはすぐに分かる。
機嫌を損ねて暴れられでもしたら、死人どころの話ではない。
あの男は、それが分かっているのだろうか。
心臓に良くない。
ヒヤヒヤする。
「勘弁して欲しいぜ、全く。あいつバグーの最前線にいた兵曹だろ?...怒らせでもしたら。...」
デカい兵曹が、話しかけて来た。
こいつも荒くれ者だ。
ガラが悪い。
多分傭兵だ。
バグーの最前線にいた荒くれ者がまるで、声のデカい男の、子分のようにかしこまっている。
恐ろしいが、滑稽だ。
「いいか?。もう一回言うぞ?。1万個の時計をバラバラにして、箱に入れて1000年振り続ける。完成品はいくつできる?。え?。」
「10個くらいか?。」
「アホか。0じゃ。」
「だから、何が言いてえんだ。おっさんは」
「あ?。だから神は存在すると言うとるんじゃ。アホだなあんたは。」
「アホもやめろ!。おっさん。何なら身ぐるみはいで臓器売るぜ!。」
「アホか。おまえ。やってみろ。」
「なんだと!?。」
まずいな。これは。
私は、慌てて間に入ろうとした。
男は、私に気づいた。
「おお!。マッツ、遅いぞ!。がはははは!。」
男は手を上げ挨拶してくる。
私は、間を入れず、バグーの兵曹崩れとの間に入ろうとした。
が、男は私を押し返してきた。
結構な力だ...。
「まあまあ...。」
男が言う。
どっちがまあまあなんだ。
やれやれ...。
「じゃ60兆個の細胞がある人間が何でできたか分かるか?。」
「知るか!。そんなこと。ケッ。」
兵曹は、バケツで黒麦酒を飲んでいる。
「物理や化学の法則と同じに、生命の法則ってのがあるんじゃ。人はそれを神と呼ぶ。分子は法則に従って結合し、有機物は創造され、統制され、生かされ、進化し、死んでいく...ワシらの思考や意志も生命の法則の一部や。」
「有機物?。何だそれ?。美味いのか?。」
「がはは!。小学校からやり直せ。いや、幼稚園からだな!。」
「くそ、このオヤジ黙って言わせておけば...。」
「アホか!。真面目にやりなさい!。」
...ゴンッ...
あ...。汗。
男は歯を食いしばって、兵曹崩れの頭を殴ってしまった。
店は波を打ったように静かになった。
荒くれ者だらけのこの店。
私は冷や汗をかいた。
「いてぇ!。この野郎!。殴ることねえだろが!。この馬鹿力が!。」
「ガハハ。真面目にやらんからじゃ!。笑。でなあ。」
「このタコハゲ!。何で俺があんたの話に付き合わなきゃなんねぇんだ!。」
「まぁ、聞きなさい。あんたのためになるから。全ての素粒子は、濃縮された意思で、思考で出来てる。そうだ。あんた、プログラムって分かるか?。」
「アホこけ。こう見えても、俺はプログラマーだぜ。」
兵曹は、またバケツで黒麦酒を飲む。
「あぁ、そうじゃったのう。笑。その見た目でついつい忘れる。ガハハハ!。...んでな。素粒子は、多くの機能や情報の書かれたプログラムのようなものじゃ。いくつかの引数で、いくつかの素粒子に分かる。その引数が振動数ってことじゃ。」
「で、誰がそのプログラム書いた?。」
兵曹は、別の方を見ている。
話を仕方なく聞いてやっている感じだ。
「ワシらより、高度な生物。神の意思、思考をワシらよりも多く理解できる者達だ。その素粒子の組み合わせと振動によっていくつかの原子ができる。原子の組み合わせで分子が。この法則も神の思考。神の法則。物理の法則じゃ。一つの生命から見れば、この全宇宙のどこか、いつかの一点から見れば、時には神のように、時には悪魔のように振舞うわけやな...。」
「じゃ、全宇宙は、神の形をしてんのか?笑」
「正解や。その通りや。ワシらは思考も身体大きさの分縮小されとる。」
「正気か?。おい。おっさんの話し相手いるじゃねぇか?。おおい!。やっと、来たぜ。」
バグーの兵曹が私を...?。
手招きしてる。
「マッツ!。おい、あんた、何をボーっと立っとる。早よ来い。おーいオヤジ!。黒穀酒3つ!ドラム缶でな!。ガハハ。」
「俺は行くぜ。可愛い子見つけた。笑」
兵曹は、さっきから遠くの席にいる女と身振りでやり取りをしている。
この兵曹、意外に良い奴かもしれない。
「なんじゃ、興味を持たんか興味を!。つまらん奴じゃの。」
「バカか?何でせっかく飲みに来てんのに、おっさんの話し相手しきゃなんねぇの?。じゃあな。」
...ドスン...
...ドスン...
兵曹は、黒麦酒のバケツを二つ持ち歩いて行った。
「はっはっは。私がお聞きしますよ。」
「逃げられたか。笑。マッツ。あんた黒麦酒でええか?。」
男は黒麦酒をくれた。
良く冷えている。
「はい。乾杯!。」
「乾杯!。」
...ガチッ...
「お疲れさん。元気そうやのう?。」
「あなたもな。笑。で?。」
「人が1日かかる複雑な迷路を、頭脳を持たない単細胞生物が、わずか15分で出口の食糧にたどり着くのは何でだと思う。マッツ?。」
「単細胞生物の変わりに生命の法則や物理の法則が考えるからですね。ていうか、単細胞生物には、ほんの少しシンプルな思考しか受信できないからね。生物の保護色や、進化も同じね。」
「あいつはレビンだ。元助手のな。まぁ、ワシの子供のようなもんじゃが。ガハハ。」
男はさっきの兵曹の方を指差した。
遠くで女とバカ騒ぎをしている。
「脅かさないでよ。何だ、知り合いか。びっくりしたよ。大騒ぎになるんじゃないかと。」
「大騒ぎになどなりゃせんよ。あいつは立場をようわきまえとる。あいつが兵曹にでもなったら皆一瞬で灰になってしまうわ。ガハハ、ガハハハ!!。」
私は、男の大きな笑い声に跳び上がり、思わず身構えた。
長年の逃亡生活で反射的に危機に反応するようなった。
「あぁ。すまんすまん。笑。あいつはな。ああ見えてアトラ軍の兵曹の1人や。ええ奴じゃ。見た目に似合わず、皆のためにいつも命を張っとる。」
「アトラの兵曹!?。」
「そう。あんた、アトラのデュランダル•レビン知っとるか?。それがあいつや。聞いたことあるな。あんたなら。」
「あの男が...。あの...。え?。あなたは何の仕事してるんです?。」
「まあ、まあ、ガハハ。」
私は、ため息をつきつつも男の話に耳を傾けた。
「物理の法則や、自然界の法則を、生命の法則の振る舞いを、人は、神と呼ぶ。生物の臓器が、複雑かつ緻密で意図的であったとしても、あたかもIQ一兆の人間の仕業だとしても、ワシらには、それは法則として存在するだけ。あんた、宇宙はどんな形してるかしっとるか?。」
「どんな形なんです?笑。」
「人間の形をしとるんじゃ。」
「そんなバカな。笑。」
「あれ?。さっきも話したような...。まぁええか...。マッツは同業者け?。やはりな。」
「私はあなたが誰か分かるかもしれ...。」
男は制止し、語り続けた。
「昔...メディア人は、タブーを破って研究を始めてな。墜落した衛星コロナのアマトの研究をな。」
「その衛星は、第二衛星の方ですよ。ピット。」
「ん?あぁ。そうじゃった。それで、パンドラの箱といわれた教典の解析を始めたんじゃ。あんたも知っとるように。コロナにいたという、あ、ピットか。超生命体兵器 聖兵の研究をな。アルマタイトを利用し、動物や人間を使い再現し始めた。失敗作の生命は、無法の原始であるケラムに捨てられ続けた。その技術は、メディアからハクアに伝わった。そして、アマルやバグー。失敗作や不都合な生物はやはりケラムに捨てられた。奴らが大人しくケラムの大自然や生物達の餌食となるわけがない。人造物たちは、ケラムの激しい食物連鎖を生き抜き、捕食し、交尾し、適合し、突然変異をおこし、猛烈なスピードで進化した。この僅か5000年の間に、三音節以上の複雑な言語を使うカナブン。人間に似た形に進化し、既に猿人並みの生活を営むトカゲ。突然変異で一世代で終わるまさに怪獣。一世代で終わる生物は特に強力で巨大でな。今ではギガサニーや、トリオールなど、一世代で終わらない怪獣も現れた。知っての通りな。...。」
私は、頷きながら男の話を聞いた。この男はあの男かもしれない...。
私は、酔い潰れた男に肩を貸しながら店をでた。
殆どが冗談のようなこの男の話は、意味があるように聞こえることもある。
この男の身体は殆どが生体パーツだ。
生物の身体は、DNAの情報をもとに、細胞外マトリクスが実際に幹細胞を部位に適した細胞に変え、肉体が形造られていく。
ある惑星では、金属や無機物といったものも身体の生成に用いられる。
個体がなく、全て繋がっている生物も、人の認識にある物質以外によって造られた生命も、エネルギーにより形成される生命もある。
最近、アルマダイ超長波観測機により、惑星にも思考があることが解明された。
星たちは歓喜の声を上げながら、自転しながら、公転軌道を回っている。
まるで、若者がダンスで生きる喜びを表現するように。
度重なる失敗の後、各国は、アルマタイトを使用し、たんぱく質以外の物質を素材とする、単細胞生物を開発した。
金属、カーボンファイバー、プラスチックを独自に成長する細胞たち。
長い動物実験や、素材開発の後、ついに金属やプラスチックの生きた動物を造った。
強化チンパンジーの実験が成功した時、アマルは地下都市の貧しい住民を実験体に使用した。
ハクアのある大学院生は、アルマタイトから発せられる、生命場を強化するエネルギーを、特定の環境において、強化濃縮することを可能にした。
更に、濃縮されたエネルギーは、その個体の時間軸にも影響を与えることも発見した。
これにより、一時的に、強化細胞は別の物質に結合し直したり、肥大化する。
その技術をいち早く認識した。
アマルは、学生を拉致し、ハクアを滅ぼし併合した上で、その技術を引き継いだ。
勿論、ハクアの内紛を抑え、平和を維持する名目で。
ハクアは、アフロタイトを高圧で高速回転させるコンパクトなタービンを開発した。
いわゆる高圧粒子炉だ。
このコンパクトな炉は、アフロタイトに高い圧力と様々な波形や波長の振動を与え、エネルギーを抽出する。
アフロダイや、アルマダイは、進化退化を促し、あたかも思考しているかのように振る舞うため、神の分身などと言われる。
高圧炉は、トカゲのような形状のリザート形、ヤドカリのようなトロンノース形、甲虫のようなスカルノ形、自分では宿主を捜さず思考も運動もしないモーター形などがある。
「マッツ、すまんな。いつも。」
男は、ネルカゴルという、巨大な古い巻貝のような集合住宅に住んでいる。
タコの足のようなアパートのテンタクルに住んでいる。
私は男の住んでいる第23テンタクルに向かい歩いた
アトラのアスカプロジェクトは、no.1から始まり実に数万の実験体が造られた。
最初の成功作といわれた、アスカ1型は、当初はトルキメニス製のパワードロイドに占領されていたアマル領の要所 プカールを僅か67時間で制圧した。
ハクアの市民が跡形もなく消されてから、数千年。
アスカ計画は、2人の天才によって、華々しく進化を始めた。
2人はブラバーチとニシノ。若く希望に燃える研究者達だったという。
そしてアダム計画100年目にあたるある日、それは生まれた。
一晩で湾岸の工業地帯を一晩で焼け野原にし、人々を恐怖のどん底に落とし入れた。
最初の神の子アダム0は、暴走し絶望的な数の罪もない人々の命を奪った。
「すまんな、マッツ。上がってコーヒーでも飲んで行くか?。ガハハ。ワシの入れるコーヒーは美味いぞー。ガハハ。」
私は、手を振って断った。時間は既に午前1:30を回っていた。
この男は、ひょっとしたら...




