ダヌアの空に99
破壊のウインドミルが粉々に粉砕して行く。
...ドドドドドドドド...ボゴォ...ゴゴゴゴゴゴゴゴ...ドゴッ...ゴゴゴゴ...バリバリバリバリバリバリ..バシュウゥゥンン...ドドドドドドドドドドドドドドドド...バシィッ...ゴゴゴゴ...バリバリバリバリバリバリ...ボォンン...ドドドドドドドド...ゴゴン...ドドドドドドドド...ボゴォォ...ゴゴゴゴゴゴゴゴ...ドゴォゥ...ゴゴゴゴ...バゴッ...
バルバロイを。
... ソヌイルクリーーバルナ。イーブァ、エメヌノータ、ム、レ、アンティゥカーハ。 ...
《...我、ここにあり。我は、勇気のアンティカなり。...》
嵐が吹き荒れる。
「サビアノーアにアラート!。」
リタが叫ぶ。
〔※サビアノーア : 14歳。体長17m。シカム鳳凰系。ジュール族。キドー一門の若き師範代。
ハイドラ孤児。スサの養子。マジトゥの義弟
トルカカに兄と呼ばれ一番慕われている〕
「も、も、モニター、い、い、1だ。」
モニターが切り替わる。
サビアノーアが腕を組んで立っている。
第一層のイブラデの中では、最も華奢。
「立ち姿がアンティカだぜ。似てないか?。」
「誰にだ?。」
「あのアンティカだ。新しい...。」
「あぁ。確かに。新四方の...。」
四方とは文字通り、東西南北。
新四方マジトゥは歴史上、初めて5人目の四方アンティカとなった。
八方アンティカを飛び越して、初戦で四方に抜擢された者は歴史上いない。
大闘技も地に落ちた。
ハイドゥクの実子だからだと。
ハイドゥクは高齢になり判断が鈍った。
大変な批判があった。
高齢の闘技関係者や、族長達の反発は強く、国を2分する対立が生まれた。
マジゥの時以来。
兄弟は似るものだ。
5人目の四方は、正にマジトゥの為に作られた。
しかし、その溝は2回目の大闘技で完全に消え失せた。
マジゥ不在の大闘技において、マジトゥ率いる中央軍が、マジア、ノリエガ、カルタゴの南軍、西軍、東軍を抑え優勝をしたからだ。
しかも圧倒的な大差で。
千秋楽の大将戦こそ、マジトゥはマジアに大敗を喫した。
しかし、中央軍はその他の戦いで圧倒的な勝利を収め優勝をした。
だが、人々が見ていたのはそこではない。
マジトゥの温かく、動じない人柄。
最後まで諦めず、仲間を何よりも大切に思う姿勢。
そして、少しおっちょこちょいな人の良さ。
マジトゥの中央軍の結束。
北軍の様な厳しさは無いが、それでも北軍に勝るとも劣らない強い結束。
「そうだ。きっと新四方があいつの目標だ。」
あの腕を組み、静かに相手を待つ姿。
目を開き微動だにしない姿。
どんなに逆境になろうとも、どんなに形勢が悪かろうと。
全く動じない。
マジアが冷徹と制覇のアンティカ。
マジゥは激情と奇跡のアンティカ。
そして、マジトゥは未来と安寧のアンティカ。
天下の裏切り者シーア•ハーンはそう言った。
マジトゥこそ、永い永い間、ヒドウィーンが待望して来た守護者だと。
マジトゥは現れた。
僅か2年前。
彗星のように。
無数のバルバロイが集まって来ている。
サビアノーアの周りを。
渦のように。
華奢なサビアノーアは格好の餌だ。
しかし、バルバロイもバカではない。
ただならぬ気を感じている。
「一挙手、一頭足、マジトゥそのものだ。」
「しかし、流石にやばいぞ...。」
無数の黒い生き物がサビアノーアの周りを回っている。
数十メートルの化け物達。
水族館の回遊魚のように。
機会を伺っている。
血に飢えたハイエナのように。
荒い息遣い。
したたる唾液。
血走った赤い目。
今にも飛びかかり貪ろう食らおうとしている。
「ドゥボンもいるわ。」
エマがモニター17を指差す。
!
...ドーーーーーーン...
...ドドーーーーーーーーーーン...
雑魚を踏み潰しながら大型のバルバロイが来る。
「パルトだ。汗」
蜘蛛を母体にしている。
ピーカーやアルガードのような球状の目が幾つもついてる。
「デカい!。40mを超えてる!。」
ロスターが叫ぶ。
「桁外れに大きいわ。汗」
身体は毛だらけのゴリラに似ている。
隆起した筋肉もある。
脚は装甲から2本ずつ出ている。
人の手足を模して。
2本ずつの脚で槍を持っている。
「ファントムもいる。司令塔がいるはずだ。」
ロベルト。
2つの首を持ったバルバロイ。
鎧を身につけている。
人間をベースに作られている。
まるで落武者。
死人のように生気のない顔をしている。
体長60m。
「いた。MD16よ。多分あれが司令塔。」
リタがモニターに映る大ダコを指差す。
「MD16。奴はバルバロイじゃない。何でタコが陸に...。」
ガレスは呆然としている。
MD16は知能の高い殺人ダコ。
通常は寒い海にしかいない。
ダルカンラキティカ メーンヌサは複数のMD16に粉々にされた。
「直立してる。遺伝子操作だ。」
「戦闘力のデータがnullになってるわ。ねぇ!。ナイジェル!。チーフ!。」
脚の先端が先鋭で鋭利な刃になっている。
「やはりMD16が指令を送ってる。エネリウムパルスが出てる。」
ロベルトがナイジェルの方を見る。
「こ...こ、こ、この、お、大きさ...。見ろ!。せ、せ、戦闘力が!。れ、れ、レインシェードを上回ってる!。」
ナイジェルは汗だくだ。
「キャァァーーーーーーーーーー!。」
MD16が飛びかかる。
目にも止まらぬ速さ。
鋭い4本の触手が。
サビアノーアがやっと動く。
「お、遅い...。」
「ダメだぁ...。汗」
我々はMD16の恐ろしさを知っている。
「サビオっ!。」
「逃げろ!。」
「サビオーーーーっ!。」
触手がサビアノーアを貫...。
...ドウン...
サビアノーアは動じない。
左手を広げMD16にかざす。
触手が止まる。
物理の方則を無視して。
時間が止まったように。
「両掌波?。」
「いや、違う。」
サビアノーアの額、両肩、胸、臍、両膝、両肘。
光の渦が回っている。
赤、青、黄色、白、黒、緑、桃、橙...。
...ゴゴゴゴオオオォォォーーーーーー...
...バチィィッ...
プラズマが飛び散る。
...バチイイイイィィッ...
....ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
衝撃の渦がサビアノーアの左手から広がり一瞬でMD16を捉える。
4本の触手が引きちぎれる。
「MD16が...。」
MD16が吹き飛ぶ。
たかだか16mの兵曹の攻撃に。
「チャクラの兵曹だ...。」
ロベルトの眼鏡がずれている。
「え?。汗。バカな...」
「いや、間違い無い。モニターのゲージを見ろ。」
「げっ。1263億カルーデラ!?。何だこの数字。ダルカン級...。いや、超えてる。汗」
「サビオがあの神話の...。」
チャクラの兵曹は、ハイドゥク戦記の最初に出てくる。
MD16を片手で一蹴....。
ダルカンどころではない。
「危ない!。」
「サビオ!。」
...グゥウオオオォォォーーーーーー...
落武者がサビアノーアに襲いかかる。
落武者は知能は低い。
ただ、途方も無く怪力だ。
落武者が覆いかぶさる。
真上からサビアノーアを両腕で鷲掴みにした。
...グガガガガゴゴゴゴ...
「持ち上がらない?。」
「見ろ!。サビオの質量が上がって行く!。汗」
ロベルトがゲージを指差す。
グラビメーターの数字が爆速で回転している。
サビアノーアのいる地点だけ。
落武者が焦っている。
...ガツッ..
...ガッッ...
サビアノーアが落武者人差し指を掴んだ。
「見ろ!。指が折れそうだ。」
...ギィィィィ...タン...タン..タン...タン..タン...
「サビオが落武者を手繰り寄せてる。」
...グウウウオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーー...
落武者が悲鳴を上げる。
...ガツッ...
...ドガッ...
フィギュアが鬼を地面に手繰り寄せている。
サビアノーアが手を持ち変えるたび、落武者の甲殻が砕け散る。
...バシュウ...
...シャアァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
体液が噴き上がる。
...バシュウゥゥ...
...グウェェェェェーーーーーッッ...
落武者が悲鳴を上げている。
周囲を回っていた、骸骨頭のザコ達が一斉に逃げ出した。
ドゥボンは既にいない。
...バギィィィッ...
サビアノーアが落武者の両肘をへし折った。
手首を掴んだまま。
「うわぁぁぁ。」
「あんなデカいのを持ち上げた...。」
「ほ...本物だ、さ、サビオ、サビアノーアは本物だ。」
落武者の巨体が宙に浮く。
60mの巨体が。
...グウェェェーーーーーッッ...グウェェェ...グウェェェーーーーーッッ...
影武者は得たいの知れない小人に怯えている。
自分より重い小人に腕を折られ、空箱のように持ち上げられている。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
サビアノーアの足元にクレーターが出来る。
重力が捻れている。
サビアノーアの周りには何も居なくなった。
バルバロイは力の差に敏感。
野生の獣以上に。
...ズダドーーーーン...
パルトが向きを変えた。
...ズズドーーーーン...
...ズダドーーーーーーーーーーーーーン...
パルト(蜘蛛人間)が逃げて行く。
一目散に。
...スゥゥ..
...ゥゥゥゥ...
...
....ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
サビアノーアが落武者を地面に叩きつけた。
頭から。
「あぁ...。」
皆、声が出ない。
サビアノーアが飛ぶ。
「飛んだ。」
...ドーーーーーーン...
...ドーーーーーーーーーーーーン...
「両掌波だ。」
衝撃波がパルトを直撃する。
パルトが転がる。
風に吹かれたドラム缶のように。
高速で横転するトラックのように。
...ドドドドドドドドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...
蜘蛛巨人が大地を削って転がって行く。
既に腕が何本ももげている。
慌てて逃げる姿は正に人間。
パルトが必死で立ち上がろうとする。
バルバロイに恐怖の感情は無いと言われている。
しかし、この挙動は恐怖に突き動かされているとしか思えない。
...ブシャァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...グシャアァァァ...
小さなフィギュアは蜘蛛巨人の頭を踏み潰した。
腕を組んだまま。
微動だにしない。
... ソヌイルクリーーバルナ。イーブァ、アルマーナ、ム、レ、アンティゥカーハ。 ...
《...我、ここにあり。我は、愛のアンティカなり。...》
トルカカの歌はサビアノーアを讃える。
...スドーーーーーーーーーーーーーン...
タンパーが蹴りを打ち込む。
〔※タンパー : 15歳。体長22m。ヒモン系(赤)。家庭が貧しく、生活費のためにダヌア戦に参加。戦わず帰ろうとしている。病弱な母と3人の弟。〕
...バッスゥゥゥーーーーーーーーーーーン...
クジラの腹のようなドゥボン(ガマ口)の胴体に。
ドゥボンはガマ口にトカゲの手足がついた化け物。
口の部分に無数の目がある。
「おい。ドゥボンは危険だぜ...汗」
ガレスがロスターを覗き込む。
ドゥボンは戦いのネックになる。
...スドーーーーーーーーーーーーーン...
...グボォォッ...
「タンパーはリスクを減らそうとしてる。」
ドゥボンの口から解けた骨が。
「バルバロイの骨だ。汗。仲間を喰ってやがる。」
...バッスゥゥゥーーーーーーーーーーーン...
ドゥボンが仰向けに倒れて行く。
「タンパーには斬撃がある。一番ドゥボンに強いわ。」
「いや、シエルに任せた方が良い。」
「シエルの負担が大き過ぎる。もう1000体以上倒してる。」
何やってる!。
「ガレス!。おまえが決めろ!。」
ガレスが決めることになってる。
火口包囲陣の指揮は。
エマに優先する。
そう決めたはずだ。
「気を付けろ!。タンパー!。」
「気をつけて!。」
「危ない!。」
「キャァァァァァー。」
「うをぉぉぉぉ。」
...グバァアオオオオオウウウッッ...
ドゥボンがタンパーを丸呑みにした。
「タンパー!」
「タンパー!。」
「し、しまった。俺としてことが。」
ガレスが頭を抱える。
ピンクのハチマキがはちきれそうだ。
ドゥボンの胃の中でタンパーがもがいている。
「猶予が無い。し、シエルはどこ!?。何とかしないと!。」
ロスターが立ち上がる。
「落ち着いて!。大丈夫よ!。」
エマは冷静だ。
...ピッ...
ドゥボンの腹に一瞬焦げが。
煙を上げて回復する。
...ピッ...ピーッ...
3本の光の筋。
ドゥボンの腹が焦げてまた煙を上げる。
...ブルルルルルルル...
ドゥボンが身を捩っている。
...ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ...
...ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ...
...ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ...
オレンジ色の閃光がドゥボンの腹を切り裂く。
内側から。
...ブシャァァァァ....
「タンパー!」
タンパーがドゥボンの腹を突き破り出て来た。
...ブルルルルルルル...
...ブルルルルルルル...
...ブルルルルルルル...
ドゥボンが悶え苦しんでいる。
...ジャバアアア...
ドゥボンから体液や胃の中の残骸が流れ出す。
〈...うっ...くせぇ...〉
...ザザァァ...
ドゥボンはまるで水の抜けたビニールプール。
... イルーーバ、シスゥーア。メーフ、ニルマーバノームエアハィ。 ...
《...我、進む。例えこの身が滅ぶとしても。...》
タンパーの手から斬撃波が飛ぶ。
光の衝撃波。
..バスッ...バスッ...バス...バス..バスバスバス...バスッ...
ドゥボン目から体液が噴き上がる。
裂けたドゥボンの腹が塞がって行く。
「粒子線の威力が足りてない。炭化が不十分だ。これじゃ、キリが無い。」
ロベルトが振り返る。
直後に別の場所から目が湧き出てくる。
「気を付けて!。」
パルト(蜘蛛人間)がタンパーの背後に。
「パルトが来てるぞ!。タンパー!。」
ガレスが叫ぶ。
〈...大丈夫だ。ケアしてる。...〉
タンパーがドゥボンの口を持って引き裂いて行く。
...バリバリボリバリバリボリバリバリボリバリバリボリ...
分厚いビニールのように。
...ブシャァァァァーーーーーー...
ドゥボンが体液を噴き上げる。
血は赤い。
引き裂いた直後に破れた箇所が繋がって行く。
...ピシュゥゥゥ...
タンパーに液体が付着した。
...ピシュゥ...
パルトが吐いた唾液...?。
...シュルルルシュウウウウゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーー...
「パルトが糸吐いてるよ!。」
タンパーががんじがらめにされて行く。
...ツッドーン...
...ゴゴゴゴ...
...ドスゥン...
ドゥボンが来る。
地面を這って。
タンパーに手足を引きちぎられたドゥボンが。
「タンパー!。逃げろ!。ドゥボンが来た!。」
「タンパー逃げて!。」
....グゥボオオオォォォウウウッッ...
「タンパー!」
「タンパー!」
斬撃を封じられてる。汗。
「まずい...。」




