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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
242/364

ダヌアの空に79


...ゴゴゴゴ..ゴ..ゴゴ....ゴゴゴゴ..ゴゴ...ゴゴゴゴ...ゴゴゴゴ...ゴ..ゴゴゴゴ...


キノコ雲を吹き飛ばして行く。


「ダメだわ。レーダーが全く反応しない。再起動します!。」


緑色灯だけの艦内。


ラムダ13の艦内はブレイカーが落ちた。


原子力砲の凄まじい威力。


...トゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


低く静かなパネル停止音が微かに聞こえる。


「艦長。一時的にヘルプを発信しますか?。」


「うむ。そうだな。」


「早くしてくれ!。一刻を争う。こちとらイブラデの命がかかってんだ!。」


大気が火の海へと変わって行く。


「ねぇ。ヘザー。ジグルス8が近いわ。」


「それでどうすればそのアルマダイの位相が一致するんだ?。おい!。大尉!。リリアーノ!。...おい!。.......ダメだ。こっちも落ちた!。」


「おい!。早くしてくれ!。」


ガレスとロスター。


白と黒の大男が叫んでいる。


汗だくで。


本当に困ってる様子だ。


「ちょっと待ってよ!。今再起動かけるから。」


「ねぇ。リタ。ジグルスに再起動コマンドも一緒に叩いて貰うわ?!。」


「なるほど!。そうね!。お願い!。って。ちょっと!。もう。ナイジェル!。」


「あわゎ...あわわわ...。」


目を見開いてキョロつく大きな白人。


金髪で短髪。


ブルーの瞳。


カーキのジャケット。


がっちりぽっちゃりな大男。


赤ら顔が汗だくだ。


このオタク軍人は何もしていない。


猛り狂う爆風にただただ怯えている。


「ジグルス8!。ジグルス8!。どうぞ。」


爆風が地面すら引き剥がして行く。


大きな爪を立て。


何もかも根こそぎ。


『...こち..ジグ.....ス8。無事..?ラムダ13...』


コントロールパネル。


赤いダイオードが点滅している。


ラジュカムの音声通信。


原子力砲の影響でこのチャネルしか反応しない。


「ええ何とか。少尉。メインがダウンしたの。助けて?。アド3までの情報をパスタップで送って貰える?。あ、あと再起動コマンドもそっちから叩いて!。お願い!。こっち全く同期も取れないの。」


「...エマ。カンセコ...。ラジャ。情...を...送する。ワ...ドス...ープのアッ....デー......ーも入れ....お...。新しい...使い...すい..。それで見...。...バル...バ...イ....結構...か...残っ...いる....。...」


「ありがとう!。助かるわ。...来た!。今来てる。」


「見てよ!。あれ!。レオパード6(シックス)が地面に埋まってる。どうやって復帰させる?。」


嵐の後の昆虫のように。


40mの鋼鉄のクワガタが地面に埋まっている。


「ラウル!。イブラデの指揮が先だ。ラムダ18に任せておけ!。」


...ゴゴゴゴ...ゴ...ゴゴ...ゴ...ゴゴゴゴ...


早朝の上空。


地上の大惨事を冷たく見下ろしている。


3000mの高みに浮かぶ10機の巨大要塞。


マルデック。


マルデックにとっては地面スレスレだ。


太古の要塞達を雲は隠すことすら出来ない。


切れ間から彼方に見える艦影。


途方もなく大きい。


幾つもの煙突が見える。


高層ビルのように聳え立っている。


鋼鉄の排気口。


まるで空に浮かぶ工業地帯。


なぜこの機械の大陸が浮遊出来るのか。


畏怖すら感じる。


私でさえ。


マルデックのせいで広範囲に渡って空が見えない。


真っ暗だ。


豪雨の前のように。


ゾーグの白みがかった薄い水色の空は、たちまち黒煙で満たされて行く。


..ゥゥゥゥウウウウウウウウ...


...ボボボボボボボボボボボボ...


...ゴゴゴゴゴゴゴゴ...


彼方にジルカンダーが墜落して行く。


次々と。


マルデックの原子力砲の直撃を受けた。


まるで終末の光景。


空の高層ビルが次々と墜落して行く。


数えきれない命と絶望を積んだまま。


爆炎を吹き上げながら。


巨人の松明のように。


黒煙を吹き上げながら。


エネリウムフェーズ鋼の巨体。


似つかわない野蛮な炎を纏いながら。


全長1000mを超えるデューンの主力戦闘艦が、


奈落の底に墜ちて行く。


爆速でそして緩やかに。


数千のヒドゥイーン兵は呆然とモニターを見上げている。


それぞれの機材の中で。


マルデックはこの未曾有の悲劇を暗黒で覆い隠す。


大地に落とした巨大なマントで。


「艦長!。メインレーダー復帰します。3...2...1。再起動!。」


...ドゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


大きな振動と共に艦内等が灯る。


...ウゥゥゥゥゥゥゥゥーーーー...


...キィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ガガガーーーーガガーーーー...


コントロールパネルが一気に彩りを取り戻す。


「よ、良かった...。」


メインモニターに大きくゾーグの青空か広がり始める。


一気に世界が広がる。


「あ!。」


ラムダ13は今地上200mを飛行している。


「み、見て!。」


晴天は1ヶ月ぶりだ。


「おぉ...。」


「うわぁ!。」


「何だあれ...。」


「えぇっ!。」


艦内がどよめいている。


「あ...あ...ゃ...あり...な、何..!?汗。」


大男達がバックルを外して立ち上がる。


思わず。


「危ない!。座れ!。状況を考えろ!。」


クレランスが怒鳴る。


彼の操舵にクルーは慣れ過ぎている。


いつ地面に叩きつけられてもおかしくない。


クレランスは何の計器のアシストも無く飛行して来た。


「落ち着け。座れ!。」


「....やはりロベルトの解析が正しかった。」


ロスターが片手でヘッドセットを耳に当てパネルを調整し始める。


指の動きに合わせ黒いディスプレイに様々な色の数字が流れる。


「再開するぞ。」


「あぁ。」


ガレスは準備が終わっている。


「じゃ...あ、あれ...は!。」


「マルデックだ。ハクアの原子力要塞だ。」


「ば、バカな!。太古の要塞だ......で、ですぞ。今の時代に...?!。ウソだろ?。」


「嘘じゃない。いいから座れ。落ち着け。ラウル。原子力砲の威力を見ただろう。」


「形状、素材、原子力エネルギー...。全てが一致しています。」


「い、一体....何万年前の船だと思ってるんだ...。」


「装甲の年代同位測定結果でました。」


「艦長!。ナイジェルが。」


「頼むロベルト...。あ...。おい!。ちゃんと仕事をしろ!。第1レーダー!。」


「さ..さぁーせん。ひっ....。ひ、光っ...。ひぃぃ...。」


「....おまえそれでもプロか!。すまんが読み上げてくれ。」


「はい。か、代わりに...。汗。113078年前。やはり第43次アマル紛争の時のものです。ハクア空軍の要塞の最新型。最終戦争の最期の3日でアマルの南領空域を全制覇した...。」


「やはり...。どうりで出力がデカい...。」


「艦長。モニター4を見てください。下弦を見て。アルデミゲールです。フェイクじゃありません!。」


「確かに。我々の知っているものと型は違うがアルデミゲールだ。あれは...。」


「あ、アルデミゲール?。本物のマルデックじゃないか!?。」


「やはりマルデック改。原子力砲の威力がマルデック3との比較で96倍に増強されています。」


「エマ。すまんが第1レーダーをフォローしてやってくれ。」


「は、はい...。も、もう!。」


「あと1年、いや半年早く完成していれば。」


「形勢は逆転していたと言われていますね。」


「そうだ。しかも10隻も隠していたとは...。」


「北アトラのものと見ても良いかもしれません。最終戦当時のハクア領全て、現在の北アトラに含まれます。」


「いや。ハクアの遺跡はアウトバンドまで沈んでいる。あそこにはアトラのどこからでもアクセスできる。寧ろ直上のグレートマリアからが最も困難だ。」


「エスカトラのアウトバンド...。確かに。」


「ど、どこからでも.....。」


「寧ろ西が海溝に最も近い。」


「に、に、西!。ザ、ザネーサーにょにゃにゃ...」


「だから。落ち着け!。座れ!。立ち上がるな!。」


「は、あ、す、すません。」


「ダルバザのエネルギー規模はマバナカタールの比じゃない。エネリウム鉱脈の規模はマバナカタールのアルマダイのほぼ10億倍。ザネーサーが放って置くはずがない。...」


「艦長。定速飛行に移ります。」


「あぁ。」


「...え?!。右に...?。逆方向に。しょ、正面を向いたまま!?。」


ガレスがヘッドセットの汗を拭う。


「まずいじゃないですか...。西なら..。」


クレランスが始めて会話に参加する。


「デューンを牽制できるわ。暫くの間...。」


「操舵桿を渡す。後は任せた。」


イーシャスがヘッドセットをつけ操舵桿を両手で握りしめる。


ヒーローの銀縁眼鏡のような操舵桿。


「でもこんなに距離があるわ。いろいろな問題が...。いや問題しかない。管を繋げばいくらでもエネルギーが湧き上がるマバナカタールとは訳が違う。マバナカタールがある限り北の優位性は覆らない。いくらザネーサーでもね。だからジェニファーは来ない。いや来れないのよ。絶対に。」


「おい!。イーシャス!。任せたぞ。」


「あ。はい。」


...グググゥゥゥ...グググ...グググ....グンッ...


ラムダ13が減速する。


!!


...フォーーーーーーーーーーー...ゴゴーーーーーーーーーーッ...フォーーゴゴゴゴ...ボボボボボボボボーーーーーーーーーーゴゴゴゴーーーーーーーーーー...


「キャァッ!。」


「うわっ!。」


「ヒッ!。」


「な、何だ!?。これ。」


古い列車の警笛のような音。


集音器が激しく振動している。


それほど大きな音量。


「イブラデ達だわ!。」


「と、トルカカだ!。」


「始まった!。て、ちょっと!。ナイジェル!。いい加減に!。起き!。なさいっ!。」


...ドスッ...


「うげ。」


「あらやだ...。」


「急げ!。ガレス!。ロスター!。トルカカが歌い始めた!。」


ガレスは手で合図を送る。


もう少しだと。


滝のように汗をかいている。


白毛の混じった縮れたヒゲも、カーキのジャケットもびしょ濡れだ。


ロスターはヘッドセットを耳に押し付けた。


うるさいと言わんばかりに。


《...音声変換中...》


《...音声変換...》


《...嵐ハーーーーーーーーーー通リ過ギターーーーーーーーーーイブラデノ長二問フーーーーーーーーーーー如何ナル陣ーーーーーーーヲヤーーーーーーー...》


ラジュカムが変換する。


戦闘歌だ。


始まった。


トルカカは契機を知らせる役割。


戦闘歌をトルカカが歌っている。


早い...。


第1モニターがトルカカを捉える。


トルカカはゆっくりと身体を起こす。


砂や土デブリがなだれ落ちる。


一際小さな兵曹の身体から。


過酷な衝撃波と爆炎の中、何とか生き残った。


兵曹や陸上機材は、ラムダや他の飛行機材のように空に逃げられない。


鋼鉄のマネキンは土とスス、そして戦闘の傷だらけだ。


...ゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーゴゴーーーーーーーーーーーーーーー...


他の兵曹が呼応する。


シエル。


シエルだ。


...ドドドドドドドドドドドド...


兵曹から凄まじい勢いで土砂が雪崩落ちる。


砂煙が高く舞い上がる。


メインモニターに大きくクローズアップされる。


イブラデ筆頭のシエル。


体長50m。


トルカカの10倍の大きさ。


黄色いメロウの兵曹。


平均的バルバロイと比しても大きい。


力の上では押しも押されぬラキティカ。


長い戦闘にあって大闘技の認定を受けられない。


...ギュワアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーガガガガガ...ゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーー...


...ゴゴゴゴーーーーーーーーーー...


《...陣ーーーー整エーーーーーー備ヘヨーーーーー同志ヨーーーーーーーーーー...》


「始まる。」


「イブラデが陣を組むわ。」

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