ダヌアの空に79
...ゴゴゴゴ..ゴ..ゴゴ....ゴゴゴゴ..ゴゴ...ゴゴゴゴ...ゴゴゴゴ...ゴ..ゴゴゴゴ...
キノコ雲を吹き飛ばして行く。
「ダメだわ。レーダーが全く反応しない。再起動します!。」
緑色灯だけの艦内。
ラムダ13の艦内はブレイカーが落ちた。
原子力砲の凄まじい威力。
...トゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
低く静かなパネル停止音が微かに聞こえる。
「艦長。一時的にヘルプを発信しますか?。」
「うむ。そうだな。」
「早くしてくれ!。一刻を争う。こちとらイブラデの命がかかってんだ!。」
大気が火の海へと変わって行く。
「ねぇ。ヘザー。ジグルス8が近いわ。」
「それでどうすればそのアルマダイの位相が一致するんだ?。おい!。大尉!。リリアーノ!。...おい!。.......ダメだ。こっちも落ちた!。」
「おい!。早くしてくれ!。」
ガレスとロスター。
白と黒の大男が叫んでいる。
汗だくで。
本当に困ってる様子だ。
「ちょっと待ってよ!。今再起動かけるから。」
「ねぇ。リタ。ジグルスに再起動コマンドも一緒に叩いて貰うわ?!。」
「なるほど!。そうね!。お願い!。って。ちょっと!。もう。ナイジェル!。」
「あわゎ...あわわわ...。」
目を見開いてキョロつく大きな白人。
金髪で短髪。
ブルーの瞳。
カーキのジャケット。
がっちりぽっちゃりな大男。
赤ら顔が汗だくだ。
このオタク軍人は何もしていない。
猛り狂う爆風にただただ怯えている。
「ジグルス8!。ジグルス8!。どうぞ。」
爆風が地面すら引き剥がして行く。
大きな爪を立て。
何もかも根こそぎ。
『...こち..ジグ.....ス8。無事..?ラムダ13...』
コントロールパネル。
赤いダイオードが点滅している。
ラジュカムの音声通信。
原子力砲の影響でこのチャネルしか反応しない。
「ええ何とか。少尉。メインがダウンしたの。助けて?。アド3までの情報をパスタップで送って貰える?。あ、あと再起動コマンドもそっちから叩いて!。お願い!。こっち全く同期も取れないの。」
「...エマ。カンセコ...。ラジャ。情...を...送する。ワ...ドス...ープのアッ....デー......ーも入れ....お...。新しい...使い...すい..。それで見...。...バル...バ...イ....結構...か...残っ...いる....。...」
「ありがとう!。助かるわ。...来た!。今来てる。」
「見てよ!。あれ!。レオパード6(シックス)が地面に埋まってる。どうやって復帰させる?。」
嵐の後の昆虫のように。
40mの鋼鉄のクワガタが地面に埋まっている。
「ラウル!。イブラデの指揮が先だ。ラムダ18に任せておけ!。」
...ゴゴゴゴ...ゴ...ゴゴ...ゴ...ゴゴゴゴ...
早朝の上空。
地上の大惨事を冷たく見下ろしている。
3000mの高みに浮かぶ10機の巨大要塞。
マルデック。
マルデックにとっては地面スレスレだ。
太古の要塞達を雲は隠すことすら出来ない。
切れ間から彼方に見える艦影。
途方もなく大きい。
幾つもの煙突が見える。
高層ビルのように聳え立っている。
鋼鉄の排気口。
まるで空に浮かぶ工業地帯。
なぜこの機械の大陸が浮遊出来るのか。
畏怖すら感じる。
私でさえ。
マルデックのせいで広範囲に渡って空が見えない。
真っ暗だ。
豪雨の前のように。
ゾーグの白みがかった薄い水色の空は、たちまち黒煙で満たされて行く。
..ゥゥゥゥウウウウウウウウ...
...ボボボボボボボボボボボボ...
...ゴゴゴゴゴゴゴゴ...
彼方にジルカンダーが墜落して行く。
次々と。
マルデックの原子力砲の直撃を受けた。
まるで終末の光景。
空の高層ビルが次々と墜落して行く。
数えきれない命と絶望を積んだまま。
爆炎を吹き上げながら。
巨人の松明のように。
黒煙を吹き上げながら。
エネリウムフェーズ鋼の巨体。
似つかわない野蛮な炎を纏いながら。
全長1000mを超えるデューンの主力戦闘艦が、
奈落の底に墜ちて行く。
爆速でそして緩やかに。
数千のヒドゥイーン兵は呆然とモニターを見上げている。
それぞれの機材の中で。
マルデックはこの未曾有の悲劇を暗黒で覆い隠す。
大地に落とした巨大なマントで。
「艦長!。メインレーダー復帰します。3...2...1。再起動!。」
...ドゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
大きな振動と共に艦内等が灯る。
...ウゥゥゥゥゥゥゥゥーーーー...
...キィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ガガガーーーーガガーーーー...
コントロールパネルが一気に彩りを取り戻す。
「よ、良かった...。」
メインモニターに大きくゾーグの青空か広がり始める。
一気に世界が広がる。
「あ!。」
ラムダ13は今地上200mを飛行している。
「み、見て!。」
晴天は1ヶ月ぶりだ。
「おぉ...。」
「うわぁ!。」
「何だあれ...。」
「えぇっ!。」
艦内がどよめいている。
「あ...あ...ゃ...あり...な、何..!?汗。」
大男達がバックルを外して立ち上がる。
思わず。
「危ない!。座れ!。状況を考えろ!。」
クレランスが怒鳴る。
彼の操舵にクルーは慣れ過ぎている。
いつ地面に叩きつけられてもおかしくない。
クレランスは何の計器のアシストも無く飛行して来た。
「落ち着け。座れ!。」
「....やはりロベルトの解析が正しかった。」
ロスターが片手でヘッドセットを耳に当てパネルを調整し始める。
指の動きに合わせ黒いディスプレイに様々な色の数字が流れる。
「再開するぞ。」
「あぁ。」
ガレスは準備が終わっている。
「じゃ...あ、あれ...は!。」
「マルデックだ。ハクアの原子力要塞だ。」
「ば、バカな!。太古の要塞だ......で、ですぞ。今の時代に...?!。ウソだろ?。」
「嘘じゃない。いいから座れ。落ち着け。ラウル。原子力砲の威力を見ただろう。」
「形状、素材、原子力エネルギー...。全てが一致しています。」
「い、一体....何万年前の船だと思ってるんだ...。」
「装甲の年代同位測定結果でました。」
「艦長!。ナイジェルが。」
「頼むロベルト...。あ...。おい!。ちゃんと仕事をしろ!。第1レーダー!。」
「さ..さぁーせん。ひっ....。ひ、光っ...。ひぃぃ...。」
「....おまえそれでもプロか!。すまんが読み上げてくれ。」
「はい。か、代わりに...。汗。113078年前。やはり第43次アマル紛争の時のものです。ハクア空軍の要塞の最新型。最終戦争の最期の3日でアマルの南領空域を全制覇した...。」
「やはり...。どうりで出力がデカい...。」
「艦長。モニター4を見てください。下弦を見て。アルデミゲールです。フェイクじゃありません!。」
「確かに。我々の知っているものと型は違うがアルデミゲールだ。あれは...。」
「あ、アルデミゲール?。本物のマルデックじゃないか!?。」
「やはりマルデック改。原子力砲の威力がマルデック3との比較で96倍に増強されています。」
「エマ。すまんが第1レーダーをフォローしてやってくれ。」
「は、はい...。も、もう!。」
「あと1年、いや半年早く完成していれば。」
「形勢は逆転していたと言われていますね。」
「そうだ。しかも10隻も隠していたとは...。」
「北アトラのものと見ても良いかもしれません。最終戦当時のハクア領全て、現在の北アトラに含まれます。」
「いや。ハクアの遺跡はアウトバンドまで沈んでいる。あそこにはアトラのどこからでもアクセスできる。寧ろ直上のグレートマリアからが最も困難だ。」
「エスカトラのアウトバンド...。確かに。」
「ど、どこからでも.....。」
「寧ろ西が海溝に最も近い。」
「に、に、西!。ザ、ザネーサーにょにゃにゃ...」
「だから。落ち着け!。座れ!。立ち上がるな!。」
「は、あ、す、すません。」
「ダルバザのエネルギー規模はマバナカタールの比じゃない。エネリウム鉱脈の規模はマバナカタールのアルマダイのほぼ10億倍。ザネーサーが放って置くはずがない。...」
「艦長。定速飛行に移ります。」
「あぁ。」
「...え?!。右に...?。逆方向に。しょ、正面を向いたまま!?。」
ガレスがヘッドセットの汗を拭う。
「まずいじゃないですか...。西なら..。」
クレランスが始めて会話に参加する。
「デューンを牽制できるわ。暫くの間...。」
「操舵桿を渡す。後は任せた。」
イーシャスがヘッドセットをつけ操舵桿を両手で握りしめる。
ヒーローの銀縁眼鏡のような操舵桿。
「でもこんなに距離があるわ。いろいろな問題が...。いや問題しかない。管を繋げばいくらでもエネルギーが湧き上がるマバナカタールとは訳が違う。マバナカタールがある限り北の優位性は覆らない。いくらザネーサーでもね。だからジェニファーは来ない。いや来れないのよ。絶対に。」
「おい!。イーシャス!。任せたぞ。」
「あ。はい。」
...グググゥゥゥ...グググ...グググ....グンッ...
ラムダ13が減速する。
!!
...フォーーーーーーーーーーー...ゴゴーーーーーーーーーーッ...フォーーゴゴゴゴ...ボボボボボボボボーーーーーーーーーーゴゴゴゴーーーーーーーーーー...
「キャァッ!。」
「うわっ!。」
「ヒッ!。」
「な、何だ!?。これ。」
古い列車の警笛のような音。
集音器が激しく振動している。
それほど大きな音量。
「イブラデ達だわ!。」
「と、トルカカだ!。」
「始まった!。て、ちょっと!。ナイジェル!。いい加減に!。起き!。なさいっ!。」
...ドスッ...
「うげ。」
「あらやだ...。」
「急げ!。ガレス!。ロスター!。トルカカが歌い始めた!。」
ガレスは手で合図を送る。
もう少しだと。
滝のように汗をかいている。
白毛の混じった縮れたヒゲも、カーキのジャケットもびしょ濡れだ。
ロスターはヘッドセットを耳に押し付けた。
うるさいと言わんばかりに。
《...音声変換中...》
《...音声変換...》
《...嵐ハーーーーーーーーーー通リ過ギターーーーーーーーーーイブラデノ長二問フーーーーーーーーーーー如何ナル陣ーーーーーーーヲヤーーーーーーー...》
ラジュカムが変換する。
戦闘歌だ。
始まった。
トルカカは契機を知らせる役割。
戦闘歌をトルカカが歌っている。
早い...。
第1モニターがトルカカを捉える。
トルカカはゆっくりと身体を起こす。
砂や土デブリがなだれ落ちる。
一際小さな兵曹の身体から。
過酷な衝撃波と爆炎の中、何とか生き残った。
兵曹や陸上機材は、ラムダや他の飛行機材のように空に逃げられない。
鋼鉄のマネキンは土とスス、そして戦闘の傷だらけだ。
...ゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーゴゴーーーーーーーーーーーーーーー...
他の兵曹が呼応する。
シエル。
シエルだ。
...ドドドドドドドドドドドド...
兵曹から凄まじい勢いで土砂が雪崩落ちる。
砂煙が高く舞い上がる。
メインモニターに大きくクローズアップされる。
イブラデ筆頭のシエル。
体長50m。
トルカカの10倍の大きさ。
黄色いメロウの兵曹。
平均的バルバロイと比しても大きい。
力の上では押しも押されぬラキティカ。
長い戦闘にあって大闘技の認定を受けられない。
...ギュワアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーガガガガガ...ゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーー...
...ゴゴゴゴーーーーーーーーーー...
《...陣ーーーー整エーーーーーー備ヘヨーーーーー同志ヨーーーーーーーーーー...》
「始まる。」
「イブラデが陣を組むわ。」




