ダヌアの空に51
気になることが1つ。
上空に。
いくつもの巨大な渦が。
雲を巻き込んでいる。
途方も無い現象なことは確かだ。
一体...。
でも、構っていられない。
シンニアジャの群れが作り上げた特殊な空間にいる。
俺たちは。
直径数キロに渡るハリケーンの中に。
緑色の稲光が激しく曇り空を焼き尽くす。
でも、ハリケーンや雷雲じゃ無い。
土煙そして残骸がこのハリケーンの外側に集まってる。
砂とデブリの壁だ。
噴きあげる土煙に突入した。
このエネリウム線のスコールの中に。
全機。
...ゴゴゴゴゴゴ...
大小のシンニアジャが入り乱れている。
頭部を激しく回転させている。
爆炎の中からシンニアジャが姿を現わす。
...グググワワワゴグググワワワゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーー!ゴゴゴゴグググワワワゴグググワワワゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーー!!ゴゴゴゴゴーーーーーーグググワワワゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーー!ーーーーーー!ゴーーーーーーーーーーーー!...
巨大な怪物の雄叫びが轟き渡る。
全長18mの乙型から見上げる大きさ。
...ズズドーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
黒い金属の蛇腹が踏み出してくる。
ビルよりも太く巨大だ。
シンニアジャは知能が低い。
高僧に似た頭をしていながら。
緑色の複眼、顎が無いことを除けば、本当に年老いた僧の頭だ。
巨大な。
クロドはいきなり噴き飛ばされてしまった。
粉々の残骸となってまだ宙を彷徨っている。
シンニアジャのエネリウム線に。
バカだよ。
いきなり飛び込むなんて。
粋がる必要なんてないのに。
可哀想に...。
閃光が...。
...パッシィィィ...
ザラ達。
サンダーバークの光だ。
もう数十体のシンニアジャを倒している。
流石。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
遅れて衝撃が。
...ピポプルルルプルルル...
...ピポプルルルプルルル...
胸のチビがまた何かせがんで来る。
コックピットの下の床を指差している。
黒い樹脂の貼られたジニリウムの床。
滑り止めの為の星みたいな模様。
衝撃吸収のために敷かれている。
カナイヒャクの小さな腕が落ちている。
シリコンの。
ダンバーで身体が浮いているから、かなり下だ。
こんな緊迫した時に...。
「取れないよ。そんな余裕ない。」
...チカッ...
光が。
...反射でダンパーを切る...
...シャアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
エネリウム線が掠める。
『...リュウ!。どうした!。遅れてるよ!。...』
サムサだ。
...ピポプルルルプルルル...
こいつ...。
聞き分けが悪い...。
言い出したら効かない。
誰かに似てる。
でも小さくて可愛い。
目が大きくて赤ちゃんみたいだ。
情報収集アンドロイドなのに。
ヤドカリの甲羅みたいなアンテナを背負っている。
...ピポプルルルプルルル...
ダメだ!。
そんなことしてたらやられる。
...ピポプルルルプルルル...
「チッ...。」
このチビ。
言い出したら効かない。
「一度だけだぞ!。全く...。」
...プルルプル...
一瞬でカタをつける。
ダメなら諦めろ。
自動運転...。
コンパネのレバーを左...。
届け...。
...ガシャン...
...ドン...
...グーーーーーーーーーン...
ダンバーを無効に。
左右の操舵桿の下。
黒くて大きな操舵桿。
樹脂のハンドル...。
下、両方のボタンで無効に。
...カチッ...
押しにくい。
硬いし。
...カチッ...
..ドゥウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
うわ、お、重い。
Gも衝撃もモロに受ける。
...ガチャンドドーーーン...
...ガチャンドドーーーン...
...ガチャンドドーーーン...
何だこれ。
首痛めるよ。
『...リュウさーーーん!。大丈夫すか!。自走アラート出てますよーっ!。汗...』
『...そんな余裕無い!。早く撃て!。イルゴル!。...』
ナムジーだ。
腰のデカいレバー。
黄色いレバー。
これ硬い。
でも火事場の何とか!。
...ガッスン...
手が痺れる...。汗。
ダンバー反転。
頭が下に向いて行く。
回転しながら。
...スゥーーーーーーー...
早く反転しろ!。
油圧で遅い。
腰のレバーを開く。
少しだけリリース。
もう少し...。
良し!。
取れた!。
...プルルプル...
は?。
良くやったじゃねえよ!。
ほら。
カナイヒャクに渡す。
着けてやってる時間無い。
...ガッスン...
...ガチャガチャ...
...スゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
ダンバーが戻って行く。
早く!。早く!。早く!。
目の前のシンニアジャ光ってる。
放電してる。
来る!。
...カッチン...
...パチ...パチッ...
...ガ...
レバーが硬ぇ!。
眩しい!。
こっち狙ってる。
くそ!。
来る!。
『...リューーウーー!...』
『...リューーーーーーウ!...』
...ガチャーーーーーーン...
良し!。
『...飛ぶぞ!...』
エネリウム線!。
...ババババババババババババババババババババババババババババババババババ...
眩しい!。
アクセル!。
スラスター全開!。
...ゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
視界が震える。
強いGが。
失神しそう。
エネリウム線をかわした。
空中で旋回してる。
奴のシンニアジャの頭。
直下に。
パルチザン!。
うっ手が滑った。
デカいレバーの衝撃で手が痺れてる。
ヤバい。
ヤ、ヤバい。
うわ掴めねぇ。
あぁ、うわ。
...ゴワァ...
え?。
出た?。
パルチザンが!。
勝手に飛び出た。
何で?。
何でだ!?。
カナイヒャクがコンパネに取り付いてる。
柔らかい樹脂の身体で。
淡く青く点滅してる。
カバーを開けてジャックを、いやさっき拾った手を差し込んでる。
そんな所にジャックが。
まさか?。
おまえが...。
着地する。
うわぁぁぁ!。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
着地。
シンニアジャの頭の上。
まるで巨大なカボチャ。
反射で手が出てる。
...ブシャァアアアアアアーーーーーーーーーーーー...
パルチザンがこのデカいシンニアジャの頭を切り裂いて行く。
凄い斬れ味。
この大剣はハクア刀をモデルにしている。
シンニアジャ頭甲、そして、白い脳を切り裂いている。
巨大な白子かババロアが水しぶきを上げて真っ二つに切れて行く。
...ブシャァアアアアアアーーーーーーーーーーーー...
頭悪いのに何でこんなに脳がデカいんだろう。
体液が噴き出している。
エネリウム炉が露出して来る。
人間大の金属のコップを幾つも繋げたような形。
その真ん中にピンクでのっぺら坊の子供。
これが脳幹だ。
蠢いている。
電線のように赤や青の血管が繋がっている。
太く蠢く血管。
これで留めだ。
...ガスゥゥゥゥゥッ...
全て横から切り裂く。
綺麗な切り口で。
爆発すらしない。
...ブシャァアアアアアアーーーーーーーーーーーー...
体液が噴き出す。
...ブシャァアアアアアアーーーーーーーーーーーー...
...ブシャァアアアアアアーーーーーーーーーーーー...
離脱!。
...ズドーーーーーーーーーーーーーン...
スラスター全開!。
反応が、乙型の反応が格段に早くなってる。
もう空中にいる。
やっぱカナイヒャクだ。
!!
...ベッチャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
シンニアジャの脚が。
自分の脳を叩き潰している。
俺ならもうここにいる。
幼虫のような脚で、鋼鉄の蛇腹で、自らの脳をぐちゃぐちゃに潰している。
『...お見事。...』
『...パ..チ...パ.チ..パ...チ...』
『...やるな。リュウ。...』
『...もう5体目?。...』
『...ヤマト。俺たちも負けてられないな?。笑...』
『...あぁ。凄い奴がいたね。笑。行くよ!。ザラ!。...』
『...ラジャ!。...』
...シンニアジャが倒れて行く...
『...撃てぇ!...』
ナムジーの声だ。
イルゴルがアルティメッドバズーカを放つ。
...バスッ...
デージースラッシャー。
爆弾の母、爆弾の中の爆弾。
...
...
...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
生体爆弾と勘違いされるほどの威力。
地上のジャミー86達ががシールドを展開する。
青白い光のシールドを。
アフロダイシールド。
茶色い爆風の中で眩く光を放っている。
ローラコースターのように周回しながら。
エネリウム線を避けるために。
次のシンニアジャ。
こいつは8体のゴーグが合体している。
まるで歪な白カボチャ。
淡い緑色のエネルギーの膜を纏っている。
エネリウムシールドを展開している。
淡く見えてもこのシールド。
ラビィアンローズですら弾き返す。
エネリウムシールドはダイラタンシーに近い性質を持っている。
速くて強い物理刺激や、生体ミサイル、粒子砲のような大きな破壊エネルギーに対しては、常にそれを上回る防御力を発揮する。
でも、パルチザンのような近接武器には全く効力が無い。
アクセル!。
...ボバババババババババーーーーーー...
スラスターを噴かす。
巨大カボチャの真ん中へ。
パルチザン!。
...バシュウウウウゥゥゥーーーーーーーーーーーーーー...
エネリウムシールドも頭甲も貫いて行く。
ダンバーから伝わる感覚がホントババロアだ。
でも、いつまでも続く訳じゃない。
斬れなくなったら青龍刀みたいにぶっ叩けばいい。
...ゴガ...
...バッスーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
斜めに斬りつける。
巨大ババロアが切れて飛んで行く。
頭甲は決して柔らかくはない。
やはり凄い斬れ味。
...バッスーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
バナナの皮、大きな綿毛を切り飛ばしている感覚。
...バッスーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
シンニアジャが悲鳴を上げる。
...ゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーガガガガゴゴゴゴゴゴゴゴーーーー...
吼えると悪臭が漂う。
ジャミーの中ですらそうだ。
外は気絶するほどだ。
きっと。
おじさんの口の匂いを強烈にした感じ。
...ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...
...ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...
...ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...
砂煙が噴きあげる。
回転しながらゴーグが次々と地中から出てくる。
雑魚だが数が増えれば面倒だ。
...チカッ...
閃光が...。
...バッスーーーーーーーーーン...
ヤマトのサンダーバークだ。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...チカッ...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
今度はザラ。
2人はやり方が全然違う。
でも、手際よく片付けて行く。
...ゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーー...
白カボチャが回転し始めた。
地鳴りが轟く。
地上で土煙が噴き上がる。
今頃気づいたのか?。
もうお前の頭は半分以上無くなってる。
お前はもう死んでいる...w。
...バッスーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...グワァギギギギギギゴゴゴゴゴゴ...
...グワァギギギギギギゴゴゴゴゴゴ...
白カボチャがのたうちまわっている。
脳幹...。
留めだ!。
...ガスウッ...
空に巨大なコップの塊がとんで行く。
のっぺら坊の子供と一緒に。
...ブゥウワアァ...
『...り、リュウさ...あ、あ、危なぁーい!...』
イルゴルだ。
ヘッドホンの坊やがメチャ心配して来る。
大丈夫だ。
『...馬鹿野郎!。自分の心配しろ!。...』
ナムジーだ。
偉くなったもんだよ。笑
アクセル!。
...ドドドーーーーーーーーー...
...ベッチャアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
脳幹の無くなった自らの脳に、自分の足が、金属の幼虫のような脚が、留めを刺している。
でも、破壊力は凄まじい。
直径10メートルの鉄の蛇腹。
一撃でジャミーでもお陀仏だ。
...おだぶつ?。
なんだっけ?。
奴らは下等生物だ。
エネリウム線を吐くしか能が無い。
ただの害虫。
脅威でも何でも無い。
『...こちらファルコン3。こちらファルコン3。乙型とシンニアジャを確認。デージースラッシャー発射準備完了!。乙型のパイロット!。指示を待つ...』
...コココ...ココ...コ....ゴゴーーーーーーーーーーーーーーーー...
...ゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
『...ムスタファ隊が来たぞ!。...』
...ゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
...ゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
8つ頭の白カボチャが倒れて行く。
『...頼む!。こいつを!。...』
結合数の大きな個体はやはり大きい。
この白カボチャは30m近くある。
俺が倒すべき巨大な個体はあと5〜6体。
楽勝だ。
『...こっちの二体を頼む!。ウエストグリルの弾倉が尽きた。...』
ヤマトだ。
『...こちらファルコン2。ジャミー86特戦隊J1を援護する。...』
『...J2ザラ。こっちも弾切れだ。...』
『...こちらファルコン5。J2を援護する。...』
『...こちらJ14サムサ。これより、J8、J14及びJ19はゴーグの群れを叩く。...』
やっと先が見え始めた。
『...こちらファルコンスリー。ファルコンリーダーどうぞ。見て下さい。空を。大きな渦巻きが幾つも。雲が巻き込まれている。...』
『...ファルコンリーダー。心配するな。ペネループが捉えている。既に。作戦に集中しろ。...』
『...ラジャ...』
こいつは....?。
...。
4体しか結合していないのに途轍もなくデカイ。
50m超級だ。
デカい。
他のとデカさが違う。
アクセル!。
....ゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
スラスターは全開だ。
ジャミーが振動している。
焦げ茶色の脚が見える。
ビルみたいな大きさ。
鋼鉄の蛇腹
甲殻が不規則な分、妙にリアルだ。
甲殻の隙間から植物の根が出てる。
...プルルルゥゥゥゥ...
カナイヒャクがこっちを向く。
何だ?。
どうした?。
...グゥワァァッ...
!!
『...うわあぁぁ!...』
『...うわぁぁぁ!。ど、ど、どうしました?。リュウさ...』
『...イルゴル!。集中しろ!。』
こ、こいつ上を向いた。
睨んで来た...。
『...睨んで来やがった!...』
着地。
...ゴーーーン...
『...そんな。笑。昆虫だぜ?。...』
ナムジーが。
そうだよな。
偶然...。
...バリバリバリバリバリバリバリバリ...
!!
エネリウムシールドが外からスパークして来る。
中心にいる俺を追いかけて来る。
『...ああ!。離脱しろ!。危ないっ!。リュウ!。...』
『...リュウ!。そいつ気をつけろ!。...』
...え?。汗。
サ、サムサ...。
『...そうだ!。そいつだけ動きか違う。...』
『...そいつはイ、インノァだ。知能が高い。...』
冷静なザラが取り乱している。
『...え?。インノァ?。...』
『...そうだ!シンニアジャはそいつのことだ。シンニアジャはそいつのことだけなんだ!。...』
ヤマトも。
『...に、逃げろ!。そいつは手強い!。本物のシンニアジャは10000頭に一体。そいつのことだ。並みのキリークより全然強い。逃げろ!。...』
『...こんなに早く出てくるなんて...。汗。こいつの言うことを全てのシンニアジャやゴーグが聞く!。雑魚の指揮を始める前に倒さなきゃ!。...』
ヤマトがこんなに取り乱すのは始めてだ。
【...こちらジグルス8。きゃ、き、きょ、巨大な艦影を...。巨大な、巨大な艦影...。ほ、ほ、ほ、捕捉。捕捉!。ペネループ!。ペネループ!。巨大な艦影...】
【...どうした?。ジグルス8。こちらペネループ。通信ファティマだ。...】
【...あ、あ、アルバーン方面。アルバーン方面。あ、アルバーン。きょ、巨大、きょ。...】
【...落ち着いてくれ。映像、通信を転送。...】
【...プリズムホールも。異次元ホールが既に。...】
【...こ、これは...】
【...ち、ち、超大型航空要塞です。...】
【...こ...国籍が識別出来ない。汗...】
【...未確認飛行物体です。未確認...】
【...プリズムホールが早い。まだゾアーグは...。分かった。既に、提督殿、ゴーン大佐殿に共有した。指示を待て...】
【...あぁ...か、か、数。よ、よ、4。数、要塞...。よ、4...。あぁぁ...】
【...何!?...】
『...おい!。シンニアジャが、インノァが吼えてる。...』
『...な、な、何か喋ってるみたいだ!。いや!。喋ってる!。喋ってますよ!。こ、こ、これアバ、あ、アバ...』
...グゥワァァァァァァゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーガガガガガゴゴゴゴオオオオオオオオ...
え!?
ほ、ホントだ。汗。
ラジュカムの言語置換機能が反応してる。
コンパネが点滅してる。
《言語置換中》
《言語置換中》
《ヤマーン...ノノアハーーーン...イヌマ...セメイクト...メ...オレ》
《言語詳細...》
《言語詳細...Bc14560 アバウク》
...あ、アバウク語!?
《言語置換結果:冒涜者め。殺してやる。虫ケラども。生きたまま食らってやる。首と脚を逆さまにしてやる。》




