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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
213/364

ダヌアの空に49

...ゴーー...ゴゴ...ゴーーーーーーーーゴゴーー...


ラムダ13(サーティーン)は攻撃翼を先導して進む。


地上1mを浮遊しながら。


時速は121km。


低速走行だ。


ペネループを小型化した、この多角形の船体は、まるでジニリウムのカメムシだ。


船外の何本ものアンテナやセンサーが風圧でしなっている。


透明な飛行艇に思えるが、これはモニターの映像。


外の景色を透明な窓のように映している。


同時に外観も景色と同化し、透明に見えているはずだ。


10名のクルー達は、私か、副長ジェンキスンスの指示で忙しなく動いている。


ジェンキンスはイリーナ族。


色黒の大男だ。


攻撃翼は、ダンヌやタント、そしてイリーナ。大型民族が多い。ラムダ13(サーティーン)のクルー達も例外ではない。


船内が狭く感じる。


「副長。間もなくです。」


第2操舵手のイーシャスだ。イーシャスはダンヌ族の女。


「分かった。艦長。モニター、切り替えます。」


私はゆっくりと頷いた。


間も無く、このモニター群は、危機と恐怖で埋め尽くされる。


クルー達にとって今、外の景色がささやかな気晴らしだ。


「111度線を通過。」


ロスター 戦略解析•作戦補佐。


ラムダ13は、攻撃翼から北東10km地点を浮遊走行している。


「良し。始めろ。」


「アルマダイ、アフロダイ、全レーダー、全解析装置作動します。」


機内コントロール エマだ。


この女は、艦内の装備について、私やジェンキンスに次ぐ権限を持っている。


...ゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウ...


...ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...


完全に敵に所在を知らしめることになる。


これだけ強力なソナーを、もはやステルスやシールドで隠すことが出来ない。


もっとも、敵のエネリウムレーダーには、既に捉えられているかもしれない。


「艦長!。副長!。東北東から北西までの広範囲にキリーク。こ..これは...。汗。数...247。数247です。距離89000。」


第2レーダー リタ。


予想を上回る早さ、数...。


決戦は迫っている。


「更に後方!。距離478000。デューン軍...。ふ、増えてる...。か、数、凄い数だ...。か、数、に、に、221万......。...。221万です。」


第1レーダー ナイゼル。


百戦錬磨の男の声が上ずっている。


相手はこちらの400倍以上....。


......。


いや、しかし、両ダルカンがゾアークを序盤で倒せば、十分に勝算がある。


ゾアークに、左右ダルカンをぶつける。


ゾアークさえいなければ、敵の生物兵器は、ただの虫や獣。


恐るに足りない。


ジーン、そしてササーンが頼りだ。


我等の明王達が、どこまでゾアークに対抗し得るのか...。


あの化け物に...。


かつて、デューンの悪神ゾアークは、南アマルの兵曹数百を僅か1日で殲滅した。


確かに南アマルには、本国のような強力な軍事兵曹はいない。


だとしても、想像を絶する戦闘力。


このゾーグ•ダヌア戦線を世界中が注目している。


誰もがハイドラに勝ち目はないと考えている。


私たち人間は、命に代えて、キリーク、シンニアジャ、敵兵221万を止めて見せる。


そして、ジャミー隊、タイクーダイ隊に、望みを繋げる。



ロスターの様子がおかしい。


戦略解析のロスターの様子が。


「どうした。ロスター。」


ジェンキンスが声をかける。


「こ...こ...これを見てください...。」



「第7モニターです。」


......。


な...。


.......。


何だ...この数は...。


..............。


「ば.....ば、バルバロイです...。」


ロスターだけではない。私も口の中がカラカラだ。


バルバロイ...。


ワイナ語で、残虐で非道な獣、下劣な生き物を指す言葉。


そもそもは、ケラム地帯の怪物を表す言葉。


溶けた溶岩のような皮膚。


ジニリウムの身体。


体長は30mを超える。


目はバルキと言われる様々な形の頭甲に隠れている。


1つ目のもの、8つ目のものも...。


ゴリラや直立した水牛にも見える。


下顎の鋭い2本の牙が頬の辺りまで迫り上がる。


知能は人間に近い。


しかし、敢えて言葉を持たず、殺戮、残虐、血、暴力を好む。


デューン 兵曹バルバロイ。


「か...か、数。68000。ろ、68257...。」


冷や汗が止まらない...。


視界が暗転する。


「か、艦長!ジャイロ艦長!。」


戦略補佐のシエルが支えてくれる。


「大丈夫だ。」


私としたことが...。


「北東からウィンテルン、西からゴーグ、シンニアジャ。群れが...。」


第2レーダー リタが叫ぶ。


凶報は絶え間なく、そして、容赦なく飛んで来る。


最悪のお膳立てが固まって行く。


だが...。


負けてたまるか。


諦めてたまるか。


息子や妻の命がかかっている。


日常がかかっている。


「ジェンキンス。ラムダ7(セブン)を通じて攻撃翼全軍に命令。全ての兵曹を第1級戦闘体勢。」


「ハッ!。」


ジェンキンスが、攻撃担当 ガレス、そして、通信•解析担当 ヘザーに指示をしている。


『...ラムダ13(サーティーン)より、ラムダ7(セブン)。これより戦闘を開始する。全ての兵曹の形態を最大まで引き上げる。敵軍はバルバロイ6万を含む大軍。数十分で交戦状態に突入する。ラムダ13より、ラムダ7(セブン)。これより戦闘を開始する。全ての兵曹の形態を最大まで引き上げる。敵軍はバルバロイ6万を含む大軍。あと、数十分で交戦状態に突入する。...』


【...ラムダ7より攻撃翼 全軍に告ぐ。制御を一時的に本艦にて行う。全軍耐衝撃、耐急制動防御。ラムダ7より攻撃翼 全軍に告ぐ。制御を一時的に本艦にて行う。全軍耐衝撃、耐急制動防御。...】


【...ラムダ13より、ダルカンを除く 攻撃翼 全ての兵曹へ命令。速やかに最終形態に移行せよ。これから30分以内に、我が隊はデューン軍本隊と激突する。諸君らのターゲットはバルバロイだ。繰り返す。ラムダ13より、ダルカンを除く 攻撃翼 全ての兵曹へ命令。速やかに最終形態に移行せよ。これから30分以内に、我が隊はデューン軍本隊と激突する。諸君らのターゲットはバルバロイだ。...】


...グググググ...


...グググ...


...ググ...グン!ググググググ...


...グググググググググググググググ...


激しくGがかかる。


一気に速度が落ちる。


底の無い穴に落ち行くように。


容赦なくGが加わって来る。


モニターの幾つかが、攻撃翼後方を映し出した。


《...やさしい..君は♪...》


少年達の乗ったホバー隊を。


彼らは戦闘服ではなく、ハイドラの民族衣装を着ている。


こんな幼い子達が、あのバルバロイと...。


何て残酷な...。


《...行け。みんなの..幸せ護る..ため。♪...》


あどけなさの残る顔立ち。


激しい風に晒されながら、何十時間も耐えて来た。


それだけで充分だ。


「何の音だ?これは何の...。」


「ヘザー。どこからだ?」


どこからか音が流れている。


微弱だが...。


《...何が僕の...幸せか♪..何が...僕の目的か♪...》


この子達は、家の下の坊主よりずっと幼い。


1人がよろめきながら、ホバー117の上に立ち上がった。


「こんな時に......。不謹慎だ。ヘザー!。早く調べろ!。」


《...でも.....希望を..,捨てないで♪...》


何か歌のようだが。


危ない!。


少年は、何とかバランスを取った。


《...恐れないで...みんなの...ために♪...》


ホバーから飛び降りる。


...バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


《...愛と勇気だけ...が君の味方さ。♪...》


破裂音を轟かせながら。


始まった。


...バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


《...進め。やさし...い君は♪...》


「副長。トルカカのパスタップからです。i127トルカカです。」


12機のホバーから、358人の少年達が飛び降りて行く。


「この歌、マーツマンマーチです。ハイドラの子供達が大好きなアニメのテーマソングです。」


...バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


次々と。


「何でそんなものが!パスタップにそんなものを」


ジェンキスンス。


そんなに怒るな...。


「いや、録音していたんでしょう。」


どの少年も決死の顔。


《...行け。みんな...の夢を護る...ため♪...》


「弛んでいる。厳重に...」


「だって中には小学生もいるんですよ!。この子達の中には!」


リタが声を荒げた。


「リタ。リタ。落ち着きなさい。」


【...こちらラムダ7。i127トルカカ。i127トルカカ。君のパスタップからマーツマンマーチが流れているぞ。直ぐに消しなさい。君たちがマーツマンより勇敢なことは分かってる。でも、作戦の邪魔になる。直ぐに消しなさい。...】


【...フーフーー。あれ、ここ押すんだっけか...ごめんなさい。フーー。フーー。直ぐに消しま...】


【...バッツッ...】


可哀想に...。


俺はお前たち全員を護って見せる。


この命に代えて。


...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


少年達の体内から響く回転音は、一気に高まって行く。


...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


エンジンのような音。


この子達は、イブラデ。


体内に炉を持っている。


シーアナンジンに選ばれた者たち。


いずれ明王になる者たち。


明王への道は何と過酷なことか。


着地した者は、よろめきながら疾走を始める。


隊全体の時速は未だ70キロを越えている。


...バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


次々と破裂音が轟く。


身体が金属化し、巨大化して行く。


体長10mを越える者もいる。


しかし、彼らは、まだ光を纏っていない。


鋼鉄の巨人に過ぎない。


光とは。


生命エネルギー アルマダイの性質を現す3つの波形。


ヒモン、シカム、メロウ。


そして、その全ての陰と陽、メイファンとカルティアン。


ヒモンは赤の光。虎神のエネルギー系と言われている。


青い波長シカムは、熊神系。


龍神系のメロウは、黄色の光を纏うとされる。


そして、黒の粒子振動メイファンは、戦闘神ナジマの悪の一面を、白の波形カルティアンは、鳳凰ナジマの正義の一面を現すとされる。


イブラデは成長するに連れ、自らの個性と同じ光を引き寄せる。


宇宙の悠久の時の中で唯一の組成の光を。


そして、光はイブラデを通して、自らの姿を具現化して行く。


物質化して行く。


明王ラキティカとして。


その光を極めた者のみが、五大明王アンティカを名乗ることとなる。


かつて戦士は、五大明王の1人として並び立つことは出来なかった。


今、ハイドラの守護神は最大の隆盛を迎えている。


...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ドンドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


重く大きな破裂音が轟く。


イブラデのそれとは比較にならない。


ラキティカ達が形態を変え始めた。

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