ダヌアの空に43
...ゴゴゴゴゴゴゴゴ...
爆炎の中から閃光が走る。
緑色の閃光が。
幾重にも。
縦横無尽に。
光線が交差し、空中に黒煙がいくつも立ち上がる。
【...ミラージュ第3隊被弾!。1号機、7号機、18号機、沈黙!ミラージュ第3隊被弾!。1号機、7号機、18号機、沈黙!...】
「な...何だって...?聞こえたか?」
「こんなに...」
「これじゃ...作戦が...。」
.....ドン...ッ...
......ド...ンッ...
...ズ...ドーーーーーン...
...ドン...
...ズドーーーーーン...
...チカッチカッ...
遅れて振動が伝わる。
「おぉい...あの音...」
「あぁ...」
「こいつらが...シンニアジャ。悪夢みたいだぜ。...」
「ホントの化け物じゃないか...。こんな物が実在するなんて...。」
眩い緑色の光が空を切り裂く。
モニターが、再び遠い空に浮かんだいくつもの黒煙を映し出す。
【...被弾!被弾!メッサーラ第2隊、ミラージュ第8隊...】
爆炎の中から、何体もの化け物が姿を現わす。
大きなもの、小さなもの。
8体で合体しているものも、3体で合体しているもの。
うごめいていた、無数の後頭部の触手が、何体ものゴーグを結びつけた。
後ろ向きに融着したその頭部は溶けて一体化していく。
.....ドン...ッ...
......ド...ンッ...
...ズ...ドーーーーーン...
.....ドン...ッ...
......ド...ンッ...
...ズ...ドーーーーーン...
...ドン...
...ズドーーーーーン...
...ドン...
...ズドーーーーーン...
致命的な数だ。
破壊された戦闘機の爆風が、怪物の姿を顕にする。
ナメクジのようだったゴーグ脚は、巨大な幼虫に変わっている。
巨大な蛇腹は、蠢きながら、融着した高僧達の頭を運んで行く。
動きは緩慢だ。
あらゆる方向に這っていく。
そして、回転させながらエネリウム線を吐きまくってる。
融着したいくつもの坊主頭を高く持ち上げながら。
巨大な光の風車。
威力が凄まじい。
【...メッサーラ3号、7号、11号、13号、18号、19号、ミラージュ4号、11号、15号、レーダーから消えました。...】
【...シンニアジャだ。こちらラムダワン。各隊シールドを解除!各隊のシールド解除だ!全機離脱!直ちに全機離脱せよ!...】
こんなに墜とされるとは...。
...ココ...コココーーーーー...ココーーーーーーーーーーー...
メッサーラが大きく弧を描いて旋回して行く。
高速で機動力のある戦闘機メッサーラ16F。
シンニアジャのエネリウム線をかわそうとしている。
ここまで離脱して来てる。
この距離なら...エネリウム線もほぼ威力は無い。
緑の光線が空を横切る。
まるで生き物のように。
黒い煙...。
空に。
え?!
...ズゴーーーーーン...
【...メッサーラ2号、メッサーラ2号撃墜されました!...】
なんていう威力...。
このままでは航空隊は全滅。
背後が危うい。
【...こちら第5編隊!だ、第...】
【...カチッカチカチ...】
操作ミスだ。
パイロット達が動揺してる...。
【...こちらペネループ。指揮系統を変える。航空隊指揮を一時的にラムダワンからラムダセブンに変更する。...】
【...了解。こちらラムダセブン。】
!?
リリアーノ伍長だ...。
わざわざ攻撃翼(右翼)からだ。
【...ミラージュツー、メッサーラスリー、各編隊をエリア7まで後退。高度は550から300の間を維持。適度に分散。ジグルス全機に告ぐ。シンニアジャ各個体データ、発射間隔、頻度、高さ、射角他全データをペルセアに伝送。中核になる個体を破壊する。z3 リュウアーデン。z3リュウアーデン。出られるか?...】
「お...!...え!あぁ!り、リュウ!。リュウアーデン?。奴のことじゃねえか!?。」
「エイト少尉!ルーク!エイト少尉は!?」
「コックピットにいる。チェック中だ。」
...ダン!ダン!ダン!...
「...少尉ーー!少尉ーーー!...」
走って行く。
【...ミラージュツー了解。ミラージュ隊に告ぐ。作戦に参加している全機はエリア7まで後退。...】
【...メッサーラスリーよりメッサーラ隊。エリア7まで後退後、高度を分散する。高度を下げてエネリウム線の射角を離脱する。...】
...プルゥゥゥゥ...
カナイヒャクが胸まで登って来た。
目が覚めたんだね。
「パイロットスーツを着るよ。出番だ。」
...ウゥゥ...
あれ...。
こいつTシャツを掴んで離してくれない。
おい。離してくれ。
...ウゥ...
...パシッ...
やっと離れた。
...トン...
...ポテ...
転がってしまった。
ごめん。
パイロットスーツに袖を通す。
...プルゥゥゥゥ...
ずっとこっちを見てる。
「来たいのか?」
...ウウゥ...ウウゥゥ...
言葉は分からないはずだけど。
「いいよ。おいで。」
カナイヒャクが登って来る。
くすぐったい。
分かるのか。
「ダンバーが来るから、胸の辺りに来て。分かる?ダンバーだ。」
...プルウゥゥゥ...
分かってるのか?。
首の下あたりに来た。
...プルルル...
...カチッ...
「あ?」
こいつ、フックでパイロットスーツの胸のホックに自分を固定した。
あぁ...。ま、いいか...。
圧着、全部しなければいいし。
腰のスイッチを入れる。
...ドウゥゥゥゥウウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
パイロットスーツが、ゲルを挟んで、緩やかに、でも、しっかりと圧着されていく。
カナイヒャクがいるから、襟元は閉められない。
この子、Gに耐えられるかな。
こんなに柔らかくて。
...ドン...ダンッ...
立ち上がるのがやっとだ。
【...ジグルス8送信完了。...】
【...ジグルス11送信完了。...】
【...中核を破壊した後、第2波攻撃を開始する。Z3もしくはZ3を格納しているバラッカス。応答を求む。...】
「リュウ!行けるか?」
「あぁ。ジャミーは。」
「終わってる。俺がやったから完璧だ。少尉からOKが出た。それより、おまえ、大丈夫か?ふらついてる...。やっぱり」
「いや、俺が行く。」
「行けるのか?」
「あぁ。左翼でそれが出来るジャミーはこれだけだ。」
「連絡するぞ!?。ラムダセブンに!。ホントに行けるな?!」
「ああ!。」
ルークが二階の制御室に合図を送る。
エイト少尉はもう制御室にいる。
【...こちら、こちらバラッカスナインのエイトだ。Z3は30分以内に出撃可能。どうぞ。...】
【...5分だ。次のエネリウム放射が始まると、約70分攻撃のチャンスが無い。その間にキリークが来れば、確実に膠着する。...】
「ば、バカ言え!...おいルーク!5分で出せるか!?。5分と言ってる!。」
「え!。無理だ!絶対に無理だ!。分かってるだろう。」
「何分なら行けるんだ!?それを答えろ!。」
「20...2...無理だろ...。」
【...エイトだ。リリアーノ。25分だ。これ以上は無理だ。...】
【...ふざけるな!25分も待てない!15分だ!...】
【...ふざけるな!何人死んでも無理なものは無理だ!25分だ!...】
【...全滅してもいいのか!くそったれ!クソ野郎!じゃ20分だ!...】
【...くたばっちまえ!貴様!じゃあ20分だ!クソ喰らえ!...】
【...ブツッ...】
「良し20分だ!。0.1秒も遅れるな!こん畜生!」
ライト少尉が叫んでる。
完全にぶちギレてる。
「了解だっ!くそっ!だ、で、ど、どうしたら...こ、こうなったら...神さま...。ヘレン!エミリー!パパを見ててくれ!」
...ドタドダドダドダ...
ルークが転げるように走って行く。
な!?。
ルークがギャリー側の後ろドアを開こうとしてる。
...ダン!ダン!ガチャ!ガチャ!ガチャガチャ!...
ロックを外した。
...ドタドタドタ...
バラッカスの甲板コントロールボックスに来てレバーを下げた。
「る、ルークっ!なぁにやってる!危ねぇだろが!」
ベルガが叫ぶ。
「俺がギャリーから、持ってくる!ジャミーを!直接!」
「ば、ば、バカ!無茶だ!」
「20分しか無いんだ!どうしろって言うんだ!」
「ギャリーのコンベアでバラッカスの...」
「何十分かかると思ってる!そんなことよりテメエらどっか隠れてろ!」
「し、少尉、あ、あ、あんたも何やってんだよ!」
ベルガは手を口元でわななかせている。
まるで女の子みたいに。
ベルガはヒゲ面の大男だ。
少尉がワイヤーの0番フックをベルトにロープで固定してる。
あんなんじゃ落ちてしまう。
「バカ!ショーン!ボサッとしてんじゃねぇ!さっさと吊り上げろボケ!」
ショーンが二階手摺から顔を出す。
「...え...?汗」
「え!じゃねぇ!このオタンコナスが!。とっととクレーン動かしやがれ!この唐変木!」
オタンコナス?。
とうへんぼく?。
何?。
少尉はジャミーが立ったまま頭を取り付ける気だ。
...ググググググ...
バックドアがゆっくりと開いて行く。
観音開きだ。
金属の網目状のドア。
高さは3メートル。
幅8m。
重厚だ。
風向きが大きく変わる。
...ブゥワアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーー!...
砂嵐が吹き込んで来る。
気をつけないと、飛ばされる。
激しくバラッカスもギャリーも揺れ始める。
無茶だ。
ルークは必死でバランスを取ってる。
爆風の中、砂嵐の中歩いてる。
バラッカスとギャリーの連結部を。
まるでサーカスだ。
ルークは決して身軽な男では無い。
でも、今、無人のコンベアを遠隔で動かすなら通信だけでも数分、ロックを外すなら、タイミングが合わなければそれだけで10分はかかる。
そして、上手く荷台同士を噛み合わせ、位置を合わせドッキング。最終調整。
たっぷり1時間はかかる。30分だって神業だ。
ルークがよろめきながら太い青いケーブルを抱えて歩いている。
暴れるギャリーの甲板を。
ルークは、動力ケーブルを繋いだままのジャミーを、ギャリーの甲板にあるコントロールケースから、直接ここまで操縦して動かす気だ。
とても危険。
時速100キロで走りながらの乗り換え。
甲板は風圧も振動も凄まじい。
しかも、ジャミーが動くことで傾斜し、ジャミーからの爆風も振動も加わる。
ルークは、ギャリーの甲板に降りて、いや、落ちて行った。
バラッカスの金属の床には、ルークの帽子が落ちたままだ。
ルークはいつも帽子を斜めに被っている。
...プルルプルルプゥプゥ...
カナイヒャクが壁と帽子を見比べている。
「うわああああ!さっさと来やがれルーク!ゆ、揺らすな!殺す気か!」
少尉が空中に吊り下げられている。
顔を真っ赤にして怒鳴っている。
バラッカスは通常10人乗務員がいる。
うち2人は操舵手、制御室が2人。
バラッカスナインだけ、8人だ。
ショーンが二階から何か叫んでる。
!?。
俺にだ。
コックピットに乗れってことみたいだ。
良し。
...ダン!ダン!...
ふらつく。
...ブゥワアーーーーーーーーーーーーーーー...
砂嵐??
「げ!こんな時に限って、虫が来やがった!」
ライト少尉が叫ぶ。
イナゴだ。イナゴの大軍がバラッカスの甲板に落ちる。
うわっ!。
踏むと潰れて滑ってしまう。
...グワアアアァァァ...
....ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...
ジャミーが動き出した。
【...こちらジグルスファイブ。ジグルスワンが目標空域に到達。高度12000。反重力飛行に移行する。映像を中継する。...】
バラッカスのモニターに、映像が映る。
砂煙の向こうに巨大な何かが。
いくつも...。
ジグルスワンは、左翼 ペネループの遥か先を映している。
砂嵐のせいで先が見えない。
【...ジグルス シクスティーン。所定位置に到達。反重力飛行に移行中。...】
モニターにジグルスシクスティーンの映像が流れる。
ジグルスシクスティーンは、攻撃翼の上空にいる。
右翼(攻撃翼)にいるダルカン二体が、青い光を纏い始めた。
遂に、アルマダイの戦隊シールドを展開するつもりだ。
完全な戦闘態勢だ。
!?
ここにもいる...。
何体も。
あれは一体何だ?。
大きさは、恐らくシンニアジャよりも遥かに大きい。
巨大な蜘蛛だ。
金属の。
時々銀色に光る。
何だあれは...。
如来の顔。
頭部が阿修羅のように、外を向いて結合している。
シンニアジャのように。
あの尻尾。
みたことがある...。
頭の数だけあのフックのような尻尾がある。
ティゲルワンが運んでいたあの...。
【...キリークだ。ウィンテルンの女王同士が結合している。1番大きくて強い女王が他を支配している。...】
キリークが巨大な銀色の脚を動かしている。
土煙を噴き上げながら、進んで来る。
モニターに、まるでホバークラフトのように、不自然な動きが映っている。
はっ!?
後ろで音がする。
...ブゥウヲオオオオオォォォォォォォォォォ...
...ズドーーーーーン!...
...ズズドーーーーーーーーーーン!...
「来たぞーーーー!来たぞーーーーー!ジャミーの身体が!リュウ!早くしろ!ジャミーのヘッドを吊り上げる!リュウ•アーデン!」
...ダン!ダン!ダン!...
ラダーを駆け上がる。
...プップップッ...
カナイヒャクが首を傾げながら足音を真似る。
!?
コンパネが。
ジャミー84の、あの、僕の乗っていた84のコンパネがついている。
<<well come back!Ryu Ardegenh!>>
コンパネに懐かしいハクアの文字が...。
パスタップもだ...。
ウルヘリエス、ナムジー、サムサ、そして僕の写った写真立ても。
...ウィーーーーーーーーーーーーーーーーードドーーーーーーーーーードコーーーーーーーーーーン...
ジャミーの頭部がクレーン1番、3番、5番に吊り上げられて行く。
クレーン0番には、エイト少尉がぶら下がっている。
「うぇぇっ!気持ち悪い。」
揺れに揺れてすっかり大人しくなってる。
『...いくぞーーー!おりゃああああ!...』
パスタップから叫び声が。
p : 2 : Luke(garry-β) , you
ルークだ。
...ゴッゴッゴゴーーーーーーーーーーーー...
...ズズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!...
ジャミーだ。ジャミーが来た。
首なしのジャミー。
青、赤、黄色、緑の太いケーブルが、頭の無い首の付け根、のど仏の辺りから伸びている。隣のギャリーまで。
ウイングがついている!。
ダヌア第6の整備部長が着けてくれたウイング。
一体誰が?
これが気がかりだった。
アンヌ提督や、ショーン少尉、そして整備部長。
このド派手なウイングは、自分に取って忘れることの出来ない勲章だ。
愛情がたっぷり詰まってる。
あ...気持ち悪いか...。
誰がいったい。
何で。
コンパネに映像が映る。
ジャミーの胴体についているカメラから。
倉庫格納時の整列用のカメラだ。
ルークだ!。
ルークはギャリーの甲板にあるコントロールボックスにいる。
ジャミーからの爆風と振動で吹き飛ばされそうだ。
危ない!ぶつかる!
...ズズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!...
ジャミーがバラッカスの鉄骨に激突した。
...バラバラバラ...
...ドン!ドン、ドン!...
はっ!?。
ルーク!。
ギャリーβのコントロールボックスに宙吊りになっている。
反動でギャリーも思いっきり傾いている。
接触しそうだ。
時速100キロで流れる地面に。
もし、そうなったら終わりだ。
ギャリーもバラッカスも乗組員もそして僕も。
ルークは必死に左手でコントロールボックスにしがみついてる。
ギアに触れないように片手でだ。
片手でその100kg近い身体を。
離したらルークは地面に叩きつけられる。
生きていられない。
ルークは必死だ。
「ルーク!もっと右だ!もっと!」
〔〔...ルークは今の衝撃でコントロールボックスに片手でぶら下がってる!...〕〕
乙型のスピーカーで自分が伝える。
ACCモードだ。
「...え?。どういうこと?」
ショーンの声だ。
「どうでもいいからクレーンで調整しやがれ!ショーン!このクソ野郎!」
ライト少尉だ。
「...わ、分かった!えぇと!。でもどうしようもねぇ。」
ルークが歯を食いしばっている。顔は真っ赤だ。
ルーク頑張れ!。
揺れる。
...ダン!ジジジーーーーーーーーーーーー...
コックピットが傾いて動き出した!。
...プルルルルル...
カナイヒャクがホックでぶら下がっている。
手で戻してやった。
前のめりのこの姿勢、自分も辛い。
起動する前だから、ダンバーはまだ。
シートの縁を掴んでる。
落ちたら、コンパネに激突する。
す、滑る。
...ジジジーーーーーーーーーーーーガン!ガン!...
ジャミーの本体が僅かに天井に入ってない。
!?
ジャミーの胴体に着いている、倉庫格納時の整列用のカメラにベルガが映っている。
連結部で落ちかけて、手を振って必死でバランスを取ってる。
ルークの所へ、ルークを助けに行くんだ。
頼むぞ!ベルガ!。
「ダメだ!もう少し下げてくんねぇと」
「だから!ルークは無理だって言ってんだろが!このクソ野郎!」
エイト少尉は、下向きと怒りで真っ赤だ。ゆでダコ以上に。
「天井のフレームに当たってんだよ!どうしようもないだろが!ジャミーの頭削れってのか!この薄毛野郎!」
ショーンもついに切れた。
薄毛野郎って、それを言っちゃダメだろ。
!?
〔〔...ベルガが行った!。動かせるかもしれない。...〕〕
ベルガがルークを引っ張り上げてる。
コントロールボックスの角に、両方の踵をつけ、ルークのオレンジ色の作業着を必死で引っ張ってる。
真っ赤だ。
コントロールギアを触らないように。
ルークが重くて中々上がらない。
ルークは、歯を食いしばって、耐えてる。
ルークはコントロールボックスを掴んでる反対の手で、必死でギアを、黄色いコントロールギアを触ろうとしてる。
ガンバレ!ベルガ!
ガンバレ!ルーク!
ルークの指が黄色いレバーに触れた!。
...ガガガ...ググググググゥゥーーーーーー...
ジャミーの本体が軋む音!。
やった!。
「い、い、今だぁっ!ショーン!ぶち込め!」
...ガクン!ジィィィィィィィィィィィ...
振り落とされそうだ!。
コックピットが動く。
...ガッツン!...
激しい衝撃。
うっ!くっ...。
手が手が滑るっ...。
...プ...プ...
カナイヒャクが僕の真似をする。
つ、爪がもげそうだ。
「ショーン!ズレてる!やり直し!」
...ググガガァァァァァァァァ...ジィィィィィィィィィィィ...ガッツン!...
だ、ダメだ...。
滑る。手が...
落ち...
「ショーン!まだだ!もう一丁!」
...ググガガァァァァァァァァ...ジィィィィィィィィィィィ...ガッツン!...
ダメだ...落ち...
...ギュギュウッ!...
と、と、止まった。
か、カナイヒャクが自分のシリコンの顔をシートと僕の足の間に挟んでる。
...プルルルルルルルルル...
こいつ、捨て身で僕を...。
顔がゴムみたいに伸びてひしゃげてる。
でも、その摩擦で何とか持ち堪えてる。
...ギィィィィィィィギィィィィィ...
潰れて変な声になっている。
「も一丁!せーの!」
...ググガガァァァァァァァァ...ジィィィィィィィィィィィ...ドン!スーーーーーーッ...
...カチン...
「...よ、良し!は、入ったぞっ!...」
墜ちる...。
...グンッ!...
ダンバーだ!
ダンバーが来た。
身体がシートに戻る。
カナイヒャクは?
大丈夫だ。
ほっぺたをさすってる。
あ、でも手が取れてる。
...ダンッ!...
エイト少尉だ。
コックピットに取り付いた。
ホイールガン(電動インパクトレンチ)を持ってる。
「リュウ•アーデン!俺が合図したらシールドを閉じてバックホーン起動だ!分かったな!?」
「了解」
ライト少尉は、コックピットに顔を突っ込んで来る。
「大丈夫だ。何とかなる。俺たちを信じろ。そのウイングはルークが付けた。師匠のリサが作ったウイングだってな!笑」
リサ?
少尉がワイヤーを使って飛び上がる。
...ドーン!カチッ...
...キュルキュルキュルキュルキュルキュル...
エイト少尉は、天井のパイプや、ワイヤーを使って、縦横無尽に駆け巡る。
...ドーン!カチッ...
...キュルキュルキュルキュルキュルキュル...
ストッパーを止めて、ホイールガンでボルトを止めている。
...ドーン!カチッ...
...キュルキュルキュルキュルキュルキュル...
まるで猿のように身軽だ。
...ドーン!カチッ...
...キュルキュルキュルキュルキュルキュル...
「おい!ショーン!後、何分だ!」
...ドーン!カチッ...
...キュルキュルキュルキュルキュルキュル...
「3分!3、3分です!」
「クッソ!ギリだぜ!」
...ドーン!カチッ...
...キュルキュルキュルキュルキュルキュル...
「後は、電装だけ!間に合ってくれ!間に合ってくれ!間に合ってく...」
...ココココ...カチャカチャカチャカチャ...
躯体を通して音がする。
...ププププ...ルルルルルル...
おチビが真似をする。
「外すぞ!ショーン!」
「おおお...。」
〔〔おーーい!ルーク!ベルガ!アフロダイケーブル!外すぞ!〕〕
ショーンが艦内マイクで叫んでいる。
ギャリーがかなり傾いている。
ルークとベルガは、イナゴや砂、暴風を交わしながら必死でコントロールボックスにしがみついている。
「よし!これで良い!後何分だ!」
「1分!1分切りました!」
少尉がまた顔をコックピットの中に。
「おい!リュウアーデン!バックホーン起動だっ!」
認証キー。
起動スイッチを押す。
...カチッ....
...ゥゥゥゥ...カチ...
動かない。
少尉の顔が青ざめて行く。
汗が滝のように流れて行く。
言葉にならない。
目を白く黒させて口をパクパク開いている。
いや、違う!。
「ジャミーGO!」
パイロットランプが次々と光りだす。
〈〈GO!BADY!GO!BADY!JUMMY〉〉
メッセージが点滅。
...。
...。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!...
...ウィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...
「3、2、1、20分ジャストだ!」
「よしキタ!やったぞ!行けーーー!Z3!行っけーーーーー!リュウ•アーデン!行けーーー!」
制御室からショーンが飛び跳ねてる。
ワイヤーにぶら下がったままのエイト少尉が回転しながら吼えている。
...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
...ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...
〔〔...ありがとう!みんな!...〕〕
バックホーンの轟音に、ジャミーの拡声器の声も掻き消される。
...リュウ後ろ...
え?
ウルヘリエスの声。
〔〔る、ルークが!ルークがぁ!少尉!ショーン!ルークが!〕〕
ベルガは両手が塞がった状態で、コントロールボックスのマイクに叫んでる。
ベルガが必死に両手でルークを掴んでいる。
ギャリーは傾いたまま。
ルークは気絶してる。
ここままだと、2人とも死ぬ。
ショーンは、両手を頭の上で合わせかたまってる。
ライト少尉は、真っ青な顔のままくるくる回ってる。
大丈夫。
ジャミーさえ動けばこっちのものだ。
任せとけみんな。
「GO!ジャミー!ジャンプ!」
〔〔...ゴワッ!...〕〕
音声コントロールに、ジャミーが応える。
...ゴゴーーーーーーーーーーーーーーー...
スラスターが全力噴射。
バラッカスも傾く。
18mのジャミーが一気に空の上だ。
ダンバーを引く。
ジャミーが後ろに流れる。
僕にとっては84より扱いやすい。
いや、成長したのかな...?
ダンバーをもう一度強く引いて、脚を曲げる。
激しいG。
..プルルッ...
我慢だよ。おチビさん。
...ププゥゥ...
ジャミーがバク転を始める。
〔〔...あぁあ、ルーク!ルーク起きてくれ!ルーク!だ、だ、誰かぁ!助けてくれ!ルークが!ルークが!た、た、助けてくれ!...〕〕
〔〔...大丈夫。今行く。...〕〕
『...え?どこ...か...』
今頭は真下。地面に向いてる。
ゆっくりと、滝のように流れる大地。
そして...。
見えた!。
ギャリーβ。
さっきより、かなり傾いてる。
そしてバラッカスナイン。
左翼の浮遊機体は、全て8m浮いている。
コントロールボックスが見えた。
赤青黄緑の4本のコントロールギアに右腕をかけ、ベルガがルークを両手で掴んでる。
ベルガは震えてる。
限界だ。
ルークが堕ちた。
ベルガも力尽きて足を滑らせて堕ちた。
「GO!」
一瞬だけスラスターを思いっきり踏む。
...ドンッ!...
巨大なバックファイヤーの音。
...バシッ!カチッ!...
スラスターを戻し、キルスイッチを押す。
また凄いG。
...ドウウゥーーーーーーーーーン...
一瞬で。
目の前が真っ暗。
ブラックアウトしたみたいに。
地面スレスレ。
ジャミーの身体がゆっくりと水平に落ちてくる。
「...ヮァァァァァァァアアアアアア!」
上から、オレンジ色の中年太りが2人落ちてくる。
ダンバーを足で微妙に開いて、スラスターを噴射。
位置を微調整だ。
「ワアアアアアアアアアアアアアア!」
...バタッ!...
ナイスキャッチ!
もう一人!
...ドタッ!...
ジャミーの手を引きながら...。
ナイス。
ちよっとゴッツンコしたけどさ。
ナイス。俺。笑
誰だと思ってる?リュウ•アーデン様だぞ。
「うわあああああああああああああ!。」
「うわあああ!うわあああぁぁ...あれ?。」
まだ、叫んでる。w
〔〔ベルガお待たせ。ちゃんと助けたぜ。〕〕
「おおお...。マジか!おおお。マジか!おおおおお。マジか...」
ジャミーの手のひらの中、座ったまま、落ち着きなくくるくる回って辺りを見てる。
目を見開いたまま。
「おおおぁぁぁぁ。良かった...生きてて良かった...。おおおぉぉ。おおおぉぉぉぉ。」
ダンバーを引く。
ジャミーが空中に浮きながら、ゆっくりと直立して行く。
15度直立した時点で、バラッカスとギャリーβが見える。
少尉とショーンが連結部近くまで出て来てる。
〔〔下がって!〕〕
少尉とショーンが慌てて下がる。
ここの整備隊はみんな小太り、いや大太りだ。
...ググググゴゴゴゴゴゴ...
ジャミーの右腕を伸ばす。
...ドタン!...
...ドサッ!...
二人をバラッカスの甲板に下ろした。
ライト少尉がマイクを持って叫んでる。
何も聞こえない。
スイッチが入ってないみたいだ。
〔〔大丈夫だ。俺なら移動で5分稼げる。〕〕
少尉がショーンと顔を見合わせてる。
ベルガは大丈夫そうだ。ベルガがルークの頬っぺたを叩いている。
ルークが目を覚ました。
ルークが怒った。
ベルガを叩き返そうとしてる。笑
〔〔ルーク!ベルガが助けてくれたんだ!キレちゃダメだろ?〕〕
ライト少尉が時間と言ってる。
左の手首を人差し指でトントンて。
何でこれがハイドラでは時間っていう意味になるのか子供の頃からの疑問だ。
ギャリーの連結が外れかけてる。
だから傾いてる。
〔〔ゲート締めてくれ。直してから飛ぶから。吹き飛ぶよ。乙型のスラスターは〕〕
ギャリーを指差した。
ショーンが慌てて走って行った。
少尉が頭を深々と下げる。
ベルガも。
ルークは手を振ってる。
俺もジャミーでお辞儀...いや。
やめとこう。余計なことするのは。
ジャミーでバラッカスをヘディングで飛ばしてしまったら、ギャグにもならない。
...ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
バラッカスのバックドアが閉まって行く。
...ドーーーーン!ドン!ドーーーーーーーン!...
連結部を元に戻した。
「行くよ!おチビさん?」
...プルップルッ...
頷いてる。笑。
「GO!ジャミー!GO!」
〔〔...ゴワッ!...〕〕
ジャミーが反応する。
音声認識する乙型はハイドラ中探しても、俺のだけだ。
...ズドーーーーーーーン!...
爆炎が噴き上がり、ジャミーはもう空に。
スラスターが全力で噴射している。
【...こちらラムダセブン!Z3!応答せよ!Z...】
【...パスタップbyond adfこちら、Z3リュウ•アーデン。今出た。6分の遅れを取り返す。作戦は計画通り実行頼む。指示を待つ...】




