アユム10
「...も、も、もう、やめろ!!やめてやってくれ!!...」
!!?
ば、バカ!!
オーエン!!
は、走り出してしまった。
兄さん!!殺されてしまう!!
〔...フリーズ!...〕
治安警察の拡声器が。
あ、あ、あ...。
...ブウゥン!...
...ビュオウゥッ!...
で、電撃鞭だ...。
スピーダーは、3階の高さ。
...バッチィーーーーン!...
「...ギャアアァァァァァァァァ!!...」
「兄さんっ!!兄さ...」
〔...黙れ...〕
...ビュオウゥッ!...
...ボーーーーーン!!ズバババババゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...
目の前が真っ暗になる。
衝撃とともにグラウンドの芝の感触が頬に。
私は倒れた。
...。
...。
...。
足音が。
地面が揺れる。
...ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!...
辛うじて見える。
芝の少し上だけ。
あの黒いズボン。
赤ん坊の風呂くらいある黒い靴。
あの大男が走って行っている。
...ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!...
あの子達の方へ。
何をする気だ...。
あの子達に何をする気だ...。
あの得体の知れないオカマ野郎。
痺れて動けない...。
〔...フリーズ...〕
?。
...ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!...
〔...なら死ね。笑。...〕
!!?。
あいつ...。
どういうつもり...。
あの子達を?...。
やめておけ、お、おまえも殺される。
...バスッ!!バッスゥゥ!!...
発射音が響く。
無情にも...。
8526人の人が見ている。
固唾を飲んで。
あの大男も肉片になり飛び散るだろう...。
...ゴガッ!!ガズッ!!...
!!?。
あの大男の足が見える。
まだ立ってる。
目が霞んで見えない...。
〔...な、何だ...こ、こいつは...〕
治安警察が...。
観客席の人々がどよめき始めた。
一体。
少しづつ、視界が開ける。
!!?
まさか...。
バカな...。
そんなバカな...。
あのオカマ巨人が、片腕のあの大男が、兄弟を庇って立っている。
あの太い右手で片方のショットアンカーを掴んでいる。
全身血だらけになりながら。
アンカーは、奴の左にも刺さっている。
血が噴き出している。
...ブシャーーーーーーーーーーーーーーーー...
信じられない。
車を破砕するショットアンカー。
あのオカマが掴んでいる。
....ドルルルルギュワァワワワワワワワ...
...ギッキィィィィィィィィィィィ...
ワイヤーが軋んでいる。
トレーラーでさえ吊り上げる、あの怪物マシーンが悲鳴を上げてる。
あのオカマ男を吊り上げられない?。
なぜ?
なぜだ!?
「ゆ、許さん...」
オカマが唸るように呟く。
バカな...。
さっきまでのトボけた表情ではない...。
眼は座り、鬼の形相。
こいつは怒り狂っている。
警官を刺激するな!。
殺される!。
おまえだけでは済まなくなる!!。
〔... 撃て! ...〕
...バスッ!!バッスゥゥ!!...
...バスッ!!バッスゥゥ!!...
爆発音が。
アンカーの発射音だ。
...ゴガッ!!ガズ!!ガズ!!ガズッ!!...
「グフォッ...!!」
大男は多量の血を吐いた。
アンカーが右の肩、腹、左胸に突き刺さっている。
飛び散らない...。
何だ、この男は...。
何なんだこの男は。
「許さん...。断じて...」
オカマ男が声を絞り出す。
歯をくいしばり。
低い唸り声が、静まり返ったスタジアムに響き渡る。
獰猛な獣のように。
明らかに、治安警察は動揺している。
〔...こ、こいつは何だ...?...〕
...ジャッ!ジャッ!ジャキーン!ジャキーン!...
残りのスピーダーもショットアンカーを...。
!!?
「ウオォオオオオオオオアアアアア!!!。」
大男が雄叫びを上げた。
スタジアム一杯に轟く。
男が力一杯にワイヤーを引く。
たった一本しかないその腕で。
...ゴブウゥン!!...
...ゴブウゥンッッ!!!...
太いワイヤーがまるで輪ゴムのように引き伸ばされる。
スピーダーが、大嵐の沖に浮くブイのように、激しく上下に移動する。
治安警察が振り落とされかけている。
まるで暴れ馬のようだ。
大型のトレーラーすら吊り上げる、この怪物マシーンを、まるでエサを飲み込んだ巨大魚のように底まで引きずり降ろそうとしている。
片腕で。
普通ではない。
大男は、鉄パイプのように太いワイヤーを、更に右腕に巻きつける。
汗、真っ赤な顔、そして、血。
腕は血の気を失い紫色になっている。
大男はやめない。
決死の形相だ。
全てのスピーダーがショットアンカーを放つ。
容赦無く、片腕の大男を撃ち貫く。
...バスッ!!バッスゥゥ!!...バスッ!!バッスゥゥ!!...バスッ!!バッスゥゥ!!...バスッ!!バッスゥゥ!!...バスッ!!バッスゥゥ!!...
...ゴガッ!!ガズ!!ガズ!!ガズッ!!ゴガッ!!ガズ!!ガズ!!ガズッ!!...ゴガッ!!ガズ!!ガズ!!ガズッ!!...ゴガッ!!ガズ!!ガズ!!ガズッ!!...
討ち死にをする剣士のように、全身滅多刺しだ。
...シャアァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!...
血が噴き出している。
まるで操り人形のように、無数のワイヤーが突き刺さったまま。
「ゴブオゥア!!ゲボウゥオッ...!!」
あの大男は、口や鼻、耳、そして目からも血を流し、天を仰いでいる。
いくら何でも...。
いくらあの大男でも、もはや生きてはいられまい。
あの男...。
私と同じだ。
あいつも、あの子を、アユムを救ってやりたかったのだ...。
救世主のように。
アユムを助けてやりたいと思ったのだ...。
それが、そ、それが私としたことが...。
見た目で判断してしまうとは...。
お前は勇敢だ。
名も知らない大男よ。
無階層の勇者よ。
オカマなどと馬鹿にしてすまなかった...。
お前は勇者だよ。
...ドルゥンドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル......ドルゥンドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル......ドルゥンドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル...
空のドーベルマン達が、別方向に向かう。
男をアンカーで引き裂くつもりだ。
こんな残忍な光景も初めてでは無い。
主人を守ろうとした、大型アンドロイドを、治安警察のスピーダーが引き裂いたのを見たことがある。
上級アンドロイドは人では無い。
しかし、思いやりも、優しさも知っている。
感謝や愛も。
そして、犠牲の精神も。
無残だった。
...ミシッミシッミシッ...
奴の身体が軋み始める。
...ジャキッ!ガギン!ジャキ!ガギン!...
...ブルルルルルルルルルルルゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
フィールドに突き刺さっていた、アンカーが巻き取られていく。
中央のスピーダーに。
...バスッ!!バッスゥゥ!!...
...ゴガッ!!ガズ!!...
再びショットアンカーが。
男に追い討ちをかける。
...ブゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...バシッ!バシッ!...
肉の焦げる匂いとともに、男の身体から煙が立ち昇る。
治安警察は高圧電流を流し始めた。
男の身体は痙攣し始める。
この男は生きたまま引き裂かれてしまうのだ...。
見ていられない...。
!!?
男の目は光を失っていない。
激しく空をにらみつけている。
「ウヲオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!。」
大男が吼えた。
...グワァアンッ!!グワワワァンンッ!!!...
片腕の無い大男が、ワイヤーを狂ったように引く。
凄まじい怪力...。
大男の後ろに束ねていた髪は解け、その血や汗にまみれた姿は、地獄の鬼のようだ。
...ブシバシュウッッ!!...
その度に、高圧電流で肉が焦げ、煙が立ち上がる。
怪物マシーンは、一気に地面に引き寄せられる。
獰猛に暴れる巨大魚にボートが海底に引き込まれるように。
...グワァアンッ!!グワワワァンンッ!!!グワァアンッ!!グワワワァンンッ!!!グワァアンッ!!グワワワァンンッ!!!...
怪物マシーンがまるで小魚のようだ。
帽子が飛び、電撃鞭も振り飛ばされ、まるで布の人形のように治安警察は振り回されている。
目の前で何が起きているのか分からない...。
!!?
おぉぉ...。
...グワァアンッ!!グワワワァァァァァ!!...
す、スピーダーが地面に叩きつけられた。
...ガッシャアアアアァァァァーーーーーーン!!...
フィールドを転がって行く。
...ドン!!ドン!!ドロン!!ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...
観客席の下の壁に激突する。
...ガッシャアァァァァーーーーーーンン!!...
...キャアーーーーーーーーーーーーーーーー!!おぉぉーーーーーーーー!!うわあーーーーーーーー!!ひいいっ!!キャアーーーーーーーーーーーーーーーー!!おぉぉーーーーーーーー!!うわあーーーーーーーー!!ひいいっ!!
中央にいたスピーダー...。
フィールドの綺麗な芝を削り、ゴールポストを引きずり激突した。
....ズゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!...
...バシッ!バシッ!バシッ!バシッ...
スピーダーから黒煙と火花が飛び散る。
治安警察の男の身体が、針金のように捻じ曲がり痙攣している。
!!?
...ジャキッ!ガギン!ブルルルルルルルルルルルゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーージャキッ!ガギン!ブルルルルルルルルルルルゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーージャキッ!ガギン!ブルルルルルルルルルルルゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーージャキッ!ガギン!ブルルルルルルルルルルルゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
治安警察が、ショットアンカーの爪を閉じ、一気に巻き上げる。
大男はフィールドに倒れこんだ。
兄弟を庇いながら...。
...ウィーーーーーーーーーン!シャギッ!!ウィン!ウィン!ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーン!ジャキって!!ウィーーーーーーーーーン!シャギッ!!ウィン!ウィン!ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーン!ジャキ!!ウィーーーーーーーーーン!...シャギッ!!ウィン!ウィン!ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーン!ジャキ!...
7機のスピーダーから、鈍く銀色に光る砲身が飛び出す。
18ミリバルカン。
スピーダーのボディの大半は、バルカンの弾が込められている。
あの男、蜂の巣にされる...。
坊やたちも一緒に...。
今度こそ肉片も残らない。
!!?
!!?
...ゴーーーーーゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
ゲートが開く。
...ガガガゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーー...
式典以外では開かれないスタジアムの重厚な正面ゲートが。
誰かが、歩いて来る。
3人の男達...。
巨大な黒い兵曹に背後を護られて。
中心は濃紺のスーツを着た初老の男。
白髪、豊かな髭。
「...シムラ...」「...マダク様だ...」「...マダクシムラだ...」「...シムラ様...」「...マダクだ...」「...シムラ...」「...マダク様だ...」「...マダクシムラだ...」「...シムラ様...」「...マダクだ...」「...シムラ...」「...マダク様だ...」「...マダクシムラだ...」「...シムラ様...」「...マダクだ...」
ま、マダクシムラだ...。
誰もが口々にその名前を呼ぶ。
プラトーもいる。
プラトー ジェネラルマネージャー。
皇帝プラトー。
そしてマダクシムラに付き添っている女。
歩いて来る。
治安警察は微動だにしない。
いや、出来ないのだ...。
動揺が隠せない。
下手に動くと黒い兵曹が黙ってはいない。
黒い兵曹は、X-4と肩に書かれている。体長10メートルを超える怪物。
直属軍だ。
「治安警察っ!退きなさいっ!。追って処分を言い渡す!」
女性が叫ぶ。
しゃがれて低いが、良く通る大きな声だ。
治安警察は、スピーダー上からマダク•シムラに会釈をして、方向を変えた。
...ドルゥンドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル......ドルゥンドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル......ドルゥンドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル...
旋回して飛び去って行く。
「片付けてくれ。」
マダクが黒い兵曹に命令する。
...ズドーン!ズズドーーン!ズドーーーーーーーーーン!ズズドーーーーーーン!...
黒い大きな兵曹は、フィールドの中を横切って行く。
大きなクルマのヘッドライトのような目が、白い光を放っている。
黒く重厚な甲殻。
まるで戦車のようだ。
「区画をなるべく壊さないように。」
また、マダクが叫ぶ。
兵曹は止まりマダクの指示を聞き、また歩き出す。
...ズドーーーン!ズズーーン!ズズドーーーーーーン!...
フィールドを出てトラック上を歩いて行く。
煙を上げ壊れたスピーダーを持ち上げる。
ゴールポストがついて来る。
...ゴガッ!ゴガ!ゴガ!ゴガッ...
兵曹はスピーダーを片手で振り、絡みついたゴールポストを振り落とした。
...ゴン!ボン!ガン!ゴローン!...
ゴールポストがフィールドに転がって行く。
「丁寧にやりなさい。」
マダクが叫ぶ。
兵曹は止まりまたマダクの指示を聞く。
...ズドーーーン!ズズーーン!ズズドーーーーーーン!...
兵曹はフィールドに入り、折れ曲がった治安警察の亡骸も拾い上げた。
遅れて入って来た白い二体の小型兵曹に、スピーダーと亡骸を渡す。
小型の兵曹は3m位の大きさだ。
...ゴンガン...
大型スピーダーを両腕で受けヨロけた。
スピーダーは重い。
一杯にバルカンの弾を込めている。
...ズドーーーン!ズズーーン!ズズドーーーーーーン!...
黒い兵曹は、再びマダクシムラの背後に戻った。
!!?
あの大男が姿を消している。
忽然と。
血の痕跡だけを残して。
一体どこに...。
あっ!!。
坊やが立ち上がった。
あゆ、あ、あゆ、あゆ、アユムが!!。
元気に立ち上がった...。
おぉぉ...神よ...
ハクアの神よ...
汚く罵ってしまった私を。
一度でもあなたを疑ってしまった私を。
どうかどうかお許しください...。
神よ。
感謝します。
感謝します。
神よ。
...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ..おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...
人々の深い深いため息が...。
惨事は終わった。
...ワー...アユムー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...坊やー...ワー...アユムー...ワー...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...アユムー...ワー...坊やー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...アユムー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...ワー
スタジアムが歓喜の嵐に包まれる。
小雨が豪雨になるように、拍手と歓声が広がっていく。
あの汚い作業着。
いや、弟想いの兄さんが、泣きながらアユムに頬ずりをしている。
抱きついて。笑。
涙と鼻水でグチャグチャだ。
アユムは少し引いている。
観客の笑い声が広がって行く。
良かった。
ワー...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...わはははは!...ワー...見ろよあれ!笑...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...ワー...おい、もう放してやれよ。...ワー...ワー...パチパチ...何だありゃ...わはははは!...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...アユムー...ワー...ワー...ワー...ワー...おーい。お兄ちゃん。放してやれ!嫌がってるぞー!...ワー...あっはっはっは!...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...アユムー...ワー...ワー...ワー...ワー...あぁあぁ、弟が鼻水でぐっちゃグチャだ。...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ギャハハハハハハハ。...アユムー...ワー...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...ワー...ワー...良かったね坊やたち...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...ワー
主催者席から女がマイクを持って来る。
マダクが持って来させた。
イプシオ派の党首。
次期大統領といわれている。
マダク•シムラが。
〔...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!ガーーーー!ピーーーーーーーーー!キーーーーー...〕
マダクがマイクを見ている。
女がマイクのスイッチの使い方を教えている。
〔...こんにちは。皆さん。マダクです。イプシオ派のマダク•シムラです。ここカルマンやイシュタール他、西部の統括議長をさせていただいています。私は、このプラトーさんと長年の友人です。今日は、プラトーさんから連絡を受けこの場に来ました。〕
AIRAの役員達が慌てて走って来る。両腕を大きく顔の前で交差させ振りながら。
このトライアウトの主催者だ。
〔...マイクで喋りましょう。みなさんにも聞こえるように。...〕
役員達は立ち止まる。
〔...なぜ、治安警察は出動したのですか?...〕
役員達が腕をバツにしている。
マイクでのやり取りを拒否をしている。
マダクにとっては選挙演説のようなものだ。
マダクはジュリアスの握手を拒否した。
〔...わざわざ?。大変な惨事です。なぜこのような事に?...〕
〔...当日の受付が無かった。それだけのことでこのような大惨事を招いたのですか?そのような事なら治安警察を呼ばずに再テストをしてやれば良いのではないですか?...〕
...そうだーー!...
...治安警察なんか呼ぶなー!...
観客も叫ぶ。
マダクは、このようなパフォーマンスで急激に三等以下の市民の求心力を得てきている。
危機感を感じる権力者も少なくない。
〔...そもそも、ユルダームのトライアウトに、あなた方がなぜしゃしゃり出て来るのです?ユルダームの責任者は、プラトーです。あなた方は少し遠慮をすべきではないのですか?。...〕
...そうだーー!...
...ユルダームはプラトーのチームだーーー!...
〔...黒い献金問題。まだ解決をしていない。AIRA会長エメルザの議会での宣言通り、黒い献金問題が解明されるまで、あなた方は各球団との直接の関与を自粛すべきだ。ここでもう少し話しても良いが?どうするかね?...〕
マダクシムラの口調が段々と厳しくなる。
...な、なんだと...
...黒い献金とAIRAに何の関係が...
...ガスターとデスマ...
...武器商人だろ?...
人々が騒めいている。
AIRAの者達は微動だにしなくなった。
〔...まぁ、そんなに堅くならなくても良い。今日はそのことでここに来たわけではない。AIRAのあなた方に問う。プラトーが見ていたあの少年のプレーを試験として認めるか?...〕
主催者は動かない。
〔...それでは、再試験を承認するのか?...〕
初めて、向かい合い、話し合い始めた。
今度は主催者側の男がマイクを走って持って来る。
〔...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...〕
〔...AIRAのジュリアスです。我々は再試験を承認します。...〕
苦々しく答える。
〔...そうかね。賢明だ。今、この時もアトラ最強の戦力が地下に潜んでいる。私を注意深く護衛している。変な気を起こさないことだ。...〕
マダクは一体何を言っているんだ?。汗。
スタジアムにざわめきが広がる。
!!?
プラトーが手招きをする。
アユムが歩いて来る。
アユムは足を引きずっている。
汚れた練習着は一部焦げてしまっている。
プラトーはユルダームのブレザーを脱ぎ、スーツのまま、シューズを履き変えた。
男が持って来た新しいシューズ。
同じくユルダームのブレザーを着た男。
観客席から少し大柄の男が走って来る。
上着を脱ぎながら。
デューイックだ。
ユルダームのミドル、ジョン•デューイック。
デューイックは今年20年の選手生活に終止符を打つ。
デューイックは足を引きずるアユムの肩に手を置いた。
ハイパントから。
ハイパントから再トライアウトは始まった。
スタジアムの皆は、温かく3人を見守った。
足を怪我したアユムが、さっきほどのパフォーマンスを見せることは無かった。
しかし、プラトーと、デュイックは様々なパスや、ボールを繰り出し、アユムはそれを何とかこなした。
しかし、かつての皇帝プラトー、今年引退するかつてのユルダームのエース デューイック。そして、アユムは、純粋にルコントを楽しんでいる。
トライアウトだとは思えないほど、楽しそうだ。
まるで幼馴染のように。
祖父、父親、そしてその息子のように。
彼らは世代を超えてルコントを愛している。
兄が。
アユムの兄だけが声援を送っている。
また泣いている。笑。
そして、アユムは最後にシュートを。
アユムの蹴ったボールは、今度は、ゆっくりと転がり、ゴールの中に転がり込んだ。
今日見た、誰のシュートよりもゆっくりと遅いボール。
今の彼には精一杯のシュートだ。
アユムの挑戦は終わった...。
アユムは肩で息をして、兄の方を振り返った。
アユムの笑顔は明るい。
一点の曇りも後悔も無い。
彼は勇敢に運命に立ち向かったのだ。
マダク•シムラが泣いている。
〔...ご覧になっているアトラ国民の皆さん。この小さな勇者に温かい拍手を送って頂けませんか。プレーの良し悪しは私には分かりません。しかし...。しかし、私は今まで見た誰のプレーよりも、どんなプレーよりも、この少年のプレーに心を動かされました。心を揺さぶられました。良く頑張った!良く頑張った!君は最高のルコントプレーヤーだ。私の中のヒーローだ。...〕
突然、マダク•シムラはマイクを通して大きな声で叫んだ。
...パンパンパン...パチパチパチパチ...バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ...バババババババババババババババ...ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ...ザーーーーーーーーーーーーー...ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
拍手が広がって行く。
観客が1人1人立ち上がって行く。
やがてそれは再び大歓声に。
...ワー...アユムー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...坊やー...ワー...アユムー...ワー...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...アユムー...ワー...坊やー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...アユムー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...アユムー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...パチパチ...ワー...ワー
みんな泣いている。
泣いて笑っている。
とうとう、あの作業着の足の短い兄さんは、飛び出して来て弟を抱きしめた。
頭をワチャワチャに撫でて、揉みくちゃにしている。
弟を本当に可愛がっているのだな...。
心から愛しているのだ。
プラトーが、アユムとその兄を手招きした。
オーロラビジョンにアユムを中心に、プラトーが右側、左側にデューイックが立つ。
プラトーは持って来させた自分のブレザーを、アユムの肩にかけた。
〔...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...〕
デューイックがマイクを握った。
〔...皆さーん。ユルダームファンの皆さーん!。ミドルのデューイックです!。私達は、今日、こうしてまた、新しい仲間達を見つけることが出来ました。私達が長い長い間探して来た仲間です。この子。アユム君もその1人です。プラトーGMと私は今日ここで、運命的な出会いを成し遂げることに成功しました!。これからユルダームは!。この新しい仲間達とアトラ一、いや、世界一のルコントチームを目指して行きます!。これからも、ユルダーム!そして、新しい仲間達。このアユム君!応援よろしくお願いします!...〕
デューイック。一世一代の大演説だ。
熱弁だ。
「... アユムーーーー!アユムーーーー! ...」
「... おめでとうー!!アユムーーーー!おめでとうー! ...」
「...アユムーーーー!...」
少年達が飛び込んで来た。
さっきアユムとプレーをした...。
ブルース、ミック、キース、トミー。
どこから持って来たのか、アトラの国旗をアユムの肩に掛けた。ユルダームのブレザーの上から。
4人は、足を引きずるアユムと肩を組み、ゆっくりとフィールドを周り始めた。
スタジアムの観客に手を振っている。
眩いほどの笑顔で。
観客は総立ちだ。
また、アユムの兄さんが泣いている。
良かったね。
君たち...。泣。
...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
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歓声はいつまでも、続いた。
いつまでも、いつまでも。




