アユム9
...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...そこだ行けーーー!...
全ての観衆があの少年のいる区画に注目してる。
鮮やかな緑の芝生に、白い樹脂テープのライン。
18番。トライアウトのゼッケンをつけている。
オレンジに白い数字。
風で金色の髪が真っ白い頬になびいている。
少年の技術は圧倒的だ。
ボールを支配している。
まるで皇帝のように。
幼さの残るひたむきな帝王の息は弾み、頬の汗が宝石のように輝いている。
2つの太陽の穏やかな光を受けて。
...ダダダダダ!...
10体のアンドロイドが、一斉に少年に飛びかかる。
ルコントのために作られた、上級アンドロイド。
目や耳に当たるセンサー以外、顔や頭に人間らしいパーツはついていない。
センサーが赤や緑の光を放っている。
また、観客席からコールが始まる。
大合唱だ。
...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム...
「みんなー...ってやってくれー...は...が...何だ!!みんなーー...!!アユ...」
ブルースが何か叫んでる。
スタジアムが一気に静まり返って行く。
アユムがドリブルしながら、サイドライン目掛けて一気に走る。
速い...。
私はここで、何度もプロの試合を見ている。
ボールをキープした時、アユムはその誰よりも足が早い。
最高殊勲選手を取った、とある化け物を除いて...。
ボールを完全に支配している。
しかし、どうやってこの大勢のアンドロイドを抜き去る?
どれも、aクラスのルコントプレイヤーの完全なるコピーだ。
公式戦なら、ほぼ絶望的な状況。
観客席は静まり返っている。
...ターン、ターン、ターン...
彼がボールを蹴って走る音が聞こえるほどの静寂...。
マナーの悪いやつも、さほどルコントに興味の無い人もいる。
男も女も大人も赤ちゃんだって。
でも、今は皆の気持ちが1つになってる。
皆、私と同じように思っている。
そう、思いたい。
奇跡だ。
それほど、あの少年のプレーは人を惹きつける。
囲まれた...。
前からアンドロイド達が、一気に迫って来る。
サイドラインから扇状にアユムを包囲した。
なぜ、敢えてサイドラインに沿って走る?。
わざわざなぜ自ら捕まりに...。
ああぁっ!!。
アユムがボールを外に蹴り出した!。
しかも、右足のアウトサイドで!!。
お、終わった...。
つ、痛恨のミスキック...。
...バスッ...
!!?。
えぇ!!。
ディフェンスが倒れた!。
3番目のアンドロイドをアユムが突き倒した。
どこにこんな力が...。
ルコントは、ボールを持った格闘技。
これは反則ではない。
しかし...。
アユムがコートの中に走って行...。
!!?
ボールが!ぼ、ボールがっ!!。
ポップして大きく右カーブして行く!!。
アンドロイド達を飛び越え、コートの中に戻っ行く。
何てことだ!!。
まるで、飼いならされた生き物のように。
アユムの元へ飛んで行く!!。
ぐんぐん加速しながら。
急カーブしながら弧を描いて行く。
慌てて、ルコント用アンドロイド達がディフェンスに向かう。
...な、何と言う技術...。
奴等は慌てて全力で戻ってる。
データに無いプレーに違いない。
アユムは完全にフリーだ。
あの距離そして彼の技術なら完全にロングシュートを決められ...。
一体のアンドロイドが抜きん出た。
あの走り方...。
は、早い!。
あれはベイル!!。
ベイルだ!!。
1番恐れていたことが起きた。
ベイル型のアンドロイド!!。
早い!!。
短距離の世界一、ヨハネ•ルイードよりも、50mなら.45早い。
みるみる追いつかれて行く!!。
だ、ダメだ!!。
いくらアユムが早くても、所詮子供。
それにベイルはタックルの名手。
そしてカウンターでゴール。
ベイルは、今年、去年、そして一昨年、最高殊勲選手を獲得したプレイヤーだ。
タックル成功率は、比類なく高い。
あぁぁぁぁ...。
ダメだ。
ベイルの前では、流石のアユムも、やはり、ただの子供だ。
...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ..おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ
観客席にどよめきが渦巻く...。
まるで大嵐の空のように。
追いつかれた。
と、取られる!!。
あぁぁ!!。
「...危ない!!...」
「...アユムっ!!...」
思わず、誰かが叫ぶ。
タックルが!!。
おおぉ...。
シザース!!
アユムが、シザースをしてジャンプ。
か、か、か、か、交わした...。
アユムがボールを甲とヒールに挟みジャンプした!!。
シザースだ!!!。
シザース!!。
もう二体来た!!。
うわ!!。
あのフェイント...。
ファルカーだ!!。
アユムが...。
ネイマーとの合わせ技。
ぬ、ぬ、ぬ、ぬ、抜いた...。
また、フェイントで抜いた。
だが、もう、ディフェンス陣が追いついている。
後ろ、横から、まるで、イルカを狙うシャチの群れのように、次々とボールを奪いに来る。
時間の問題だ...。
あっ!あっ!あっ!
スピナーだ!!。
す、す、すっ、スピナーだ!!。
「...み、見ろ!!パ、パ、パッキオ!!パッキオ!!パッキオ!!...」
「...スピナーだ!!パッキオのゾーンスピナー!!...」
アユムは、回転しながら、ディフェンダーを交わし始めた。
まるでパッキオだ...。
誰も真似られないと言われていた、パッキオのゾーンスピナー...。
や、や、やってしまった...。
あの子が...。
あんな子供が...。
す、す、すげぇぞこりゃ...。
気絶しそうだ。
息が苦しい...。
まるで、太陽の中にいるみたいに、目が眩む。
何だ、あの子は...。
神かあの子は。
「...神だ...」
「...み、見てしまった。奇跡を...。」
あぁぁ...。
とうとう抜いたぞ...。
心臓が破れそうだ...。
抜いちまった!。
10人もの選手を、ぬ、ぬ、抜いちまったぁ!!。
はっ!!。
「危ない!!。ベイルだ!!。」
誰かの叫び声がする。
ベイルのダブルクランパー!!
左右の脚で二方向にタックルが炸裂する。
ルコントのトッププレイヤーでも、殆ど逃れられない...。
!!?
アユムが!!。
今度は、違う技...ら、ラボアだ!...。
!!?
また、シザース。
ボールを宙に浮かせた...。
時間がコマ送りになる。
人生の終わりみたいに...。
!!?
アユムが回転し始める。
オーバーヘッドキックだ...。
ここから?。
ここからか??。
はっ!!?
あのオカマ巨人がコートに入っている。
立ち上がってコートを歩いてる。
お、おまえ一体何をするつもりだ!!。
丸太のような腕を広げている。
まさか邪魔する気じゃ...。
変なことをしやがったら許さんぞ!!。
貴様!!。
私は咄嗟に走り出した。
邪魔はさせない!!。
アユムが宙に浮いている。
撃て!
シュートだ!
撃て!
行け!。
回転し終わり、アユムの右足がボールを捉える。
「アユム!!撃てーーー!!」
栄光に向かって。
撃て!!。
私は叫んでいた。
無我夢中で。
!!
!!?
...ビュオウウウーーーーーーーー!!...
!!?
ひっ!汗
何かがアユムに向かって飛んで行く。
...シュウウゥーーーー...
猛烈なスピードで。
...ズバーーーン...
アユムがボールを蹴った!!。
何かが、アユムを擦る...。
...ドルルルルゥン!!...
空中に...。
!!。汗。
視界に黒い大型のスピーダー...。
黒い制服、シャコー帽、サングラス...。
冷徹で、恐ろしい...。
誰もが震え上がり、萎縮する。
抑圧と、残虐の象徴...。
ち、ち...治安警察だ。
スピーダーのフロントノーズから太いワイヤーが二本。
ひっ!!...。汗。
ショットアンカーが。
違法トレーラーや危険車を釣り上げるショットアンカーが...。
象でも、粉々に吹き飛んでしまう。
何てことだ...。
あんな少年に...。
あんな子供目掛けて...。
何てことだ...。
ひとたまりも無い...。
誰も声が出ない。
...。
...。
...。
完全に空気が止まった。
8526人の人が固まる。
私は失禁してしまった。
何てことだ。
酷過ぎる。
...シューーーーーーーーーーーーーー...
ボール。
アユムの蹴ったボール。
低い弾道で明らかにゴールとは違う方向に飛ぶ。
が、ゴールエリアから急ブレーキをかけて、ゴールに向かい始める。
生きている。
アユムの扱うボールは...。
ゴール右下を外れて飛んでいたボールは、急ブレーキをかけ、カーブしながらポップする。
凄いカーブボールだ。
入る...?。
... ズガーーーーーーーーーーン...
虚しい音を響かせ、ゴールポストの左上に当たった。
そして、無情にも、あのオカマ巨人の頭上に高く高く跳ね上がった。
激しく回転しながら...。
ボールはゴールを外れた。
外れてしまった...。
僅かに...。
スタジアムは静まり返っている。
時間が止まっている。
「アアアアアガガガガマママ!!!ガァァァァァ!!!」
静寂を引き裂く...。
どこに獣が...?。
あぁ...。
あの子の兄さんだ...。
泣き叫んであの子の元へ走って行く。
汚い作業着の...。
あの子の近くにいた、ルコント用アンドロイドは無残な姿に。
ショットアンカーが貫通し、上半身が粉々になり、下半身だけで立っている。
体液と臓器で辺りがグジャグジャだ...。
...スルスルスルスルスルスルス...
ルコントのボールが落ちて来る。
あのオカマ男の頭上に。
...バンッ...
大男は、そのユルダームジュニアのボールを受け止めた。
丸太のようなその右腕で。
...ドスン、ドスン...
歩く。
ゴールに歩いて行く。
...シュッ...
そして、投げ入れた。
ゴールにボールを。
...ザンッ!サン...
ネットが揺れる。
二本の大きな銛が、ショットアンカーが、ルコントのフィールドをえぐり、地面に突き刺さっている。
車さえ粉々に破砕するショットアンカー...。
あんな子供に...。
酷過ぎる...。
...ブゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...バシッ!バシッ!...
ワイヤーには高圧電流が流れている。
あの子は、アユムは、地面で痙攣している。
あの子の兄さんが、覆い被さっている。
震えている。
泣き叫んでいる。
可哀想に...。
胸が張り裂けそうだ...。
あの子は生きているのか?。
それとも粉々なのか...。
電流で痙攣しているのか。
せめて...。
...ドゥルルルルルルルルルルルル...
...ドゥルルドゥルルドゥルル...
...ドゥルルドゥルルンドッドッドッドッ...
...ドゥルルルルンドゥルルルルルルン...
...ドゥルルルルルルルルルルルル...
...ドゥルルドゥルルドゥルル...
大型スピーダーが。
爆音を響かせながら空中で制止してる。
巨大な黒いスズメバチか、ドーベルマンのようだ。
誰もが息を潜めている。
1、2等市民以外は...。
治安警察が出動すれば、下層市民の残虐な死の場面がある。
必ず。
...ドゥルルドゥルルドゥルル...ドゥルルドゥルルドゥルル...
はっ!!
...ジャキッ!ジャキーン!...
静まり返ったスタジアムに、音が反響する。
また、ま、また、ショットアンカーを...。
もう終わりだ。
もう、もうお終いだ...。
僅かばかり、夢を見せてくれた。
一瞬眩い輝いた小さな星。
アンカーの狙いは正確無比だ。
ハエすら逃さない。
あの子達は、粉々になる。
確実に...。
可哀想に。
可哀想に。
可哀想に...。
神よ...。
何という無慈悲な...。
なぜこのような仕打ちを...。
この才能のある少年に、なぜこのような理不尽を...。
お答え下さい。
答えて下さい!!。
神よ!!
答えろ!!




