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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
196/364

アユム8

あぁまずい...。


パスタは美味かったが...。


少し遅れてしまった。


ソーコー地区のパスタ屋は、どこも混んでいた。


やはり、ビスタも、ソロールも満席だった。


が、ソロールのウエイターがこの警備服に免じて特別に席を用意してくれた。


相変わらずスタジアムの周りは黒山の人だかり。


大盛況だ。


バイアール自然公園の野外ステージにアイドルが来てる。


5人組だ。


赤、青、黄色、緑、紫...。


カラフルなコスチュームを身につけてる。


気取りの無い元気一杯な娘たち。


十代の娘達。


踊りも決して下手ではない。


かなり練習を積んでいる。


そうは見えないかもしれないが。


スポーツをやっている私には良くわかる。


ああ見えてプロの中のプロだ。


あの娘たちも命をかけている。


気付いたこの感情に〜♪


もう後悔なんてしたくない〜♪


...オイ!オイ!オイ!オイ!...

...オイ!オイ!オイ!オイ!...


僕は僕にウソをついて〜♪


逃げたくもない〜♪


...オイ!オイ!オイ!オイ!...

...オイ!オイ!オイ!オイ!...


若い男達が掛け声をかけている。


ノリノリだ。笑。


「オイ!オイ!オイ!」


いい歌だ。


娘の旦那もファンだ。


私も嫌いじゃない。


ん!?


あの警備員!。


ガ、ガルシアじゃないか!!。


あいつ...全く。


ま、まぁいいか...。


さっき替わって貰ったんだ。


見逃してやるか...。


...ジャラジャラジャラン!...


腰にぶら下げているキーで、通用門からスタジアムに入る。


...ガチャガチャ...


水色の鉄の扉。


...ウィーーーーーーーーーーーン...


静かに重く大きな扉がスライドして行く。


...スーーーーーーーーーーーーーッ...


...一度きりの人生...だから〜♪


...オイ...オイ...オイ...


重い大きな扉は自動で静かに閉まって行く。


あの娘たちの歌声、歓声が消える。


しばしの静寂。


...タンッタンッタンッ...


冷たく薄暗いコンクリートの関係者用通路。


足音がこだまする。


さぁ、午後の仕事だ。


午後は、結果の発表や、主催者や、ユルダームの挨拶。


プラトーさんも来る。


最後にスピーチをしてくれる。


大事なのはプラトージェネラルマネージャーの警備。


結果発表で暴れる者がたまにいる。


スタジアムの入り口だ。


眩い光の入り口が近づいて来る。


勝利への通路。


ビクトリーロード。


そう呼ばれてる。


選手はここを通り抜けてスタジアムへ行く。


パッキオも、シャルルナールも、アルベルトも...。


栄光のグランドへ。


...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...

...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...

...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...


区画に出ている選手はもういない。


やれやれ。


無事に終わったようだ。


主催者達がグランドの真ん中に歩いて来る。


アトラルコント協会のブレザーを着ている。


歓声が一気に静まって行く。


〔...皆様、本日は大変ありがとうございます。第181回ルコントS1リーグ ユルダーム ジュニア。公開入団トライアウトテストはこれで終了となります。なお、午後は、結果の発表。今後の日程の発表。主催者挨拶、そしてお待ちかねの...〕


...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...


何だ?


東側のダグアウトが騒がしい。


!?


観客席から男がが走って来る!。


い、イカン!。


止めなくては。


!!?


ハッ!!?


あ、あの男!。


作業着の男。


やはり絵に描いたような危険人物だ!。


な、何か叫んでる。


ハッ、ハッ、フッ、はぅ、ふぅ、ハッ


歳を取った。


ダッシュのつもりが、全然遅い。


太りすぎた。


ロメールも走っている。反対側から。


800メートル以上ある。


オーエンも。


オーエンは私より遅い。


ロメールの真逆からだ。


全然間に合わない!。


全然だ。


私が頑張るしか。


ハッ、ハッ、フッ、はぅ、ふぅ、ハッ


あの男、意外に足が速い。


コラ!あ、あのオカマ巨人。


何ボウっとしてる!!。


全く動いていない。


のんびり観客席を見回している。


後で怒鳴りつけてやらなければ。


「...うちの子は!!まだ試験を受けてないぞ!!うちの弟がまだだ!!。弟が!弟が!まだ試験を受けてない!!。」


ざわめきは一気に広がる。


「まだ、まだ時間はあるじゃないか!!14:00までならまだ20分ある!!」


男は時計を指差している。


このスタジアムの電光掲示板。


確かにまだ13:34分だ。


指を差しながら走って行く。


子供を呼んだ。


ダグアウトの子供を。


必死で手招きをしてる。


「アユムー!来い!アユム!!こっちに来い!!。」


!!?


あの坊や。


まだ、トライアウト受けて無かったのか!?。


可哀想に。


あぁぁ...。


来てはいけない!。


あの汚れた練習着の少年。


呼ばれるままに父親の元に。


これでは晒し者だ。


少年にさっきのような目の輝きは無い。


ショックを受けている。


だからただ言われるままに。


ざわめきが。


スタジアムにどよめきが広がって行く。


...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ......ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...


毎年、暴れる奴はいる。


でも、主催者に直談判する奴は初めてだ。


彼らは一等市民。


自動的に治安警察が出動する。


バカな奴だ。


何ていう無防な父親なんだ!。


我が子の命が心配にならないのか!?。


...ザワ...ザワ...何やってんだバカ野郎!...ザワ...ザワ...何?あの汚らしい子供...ザワ...ザワ...ザワ...ああいうバカがいるんだな?...ザワ...ザワ...何だあいつ...ザワ...ザワ...ザワ...あれだけのことするからには、覚悟あるんだよ...ザワ...ザワ...テメェのせいで何千人の人が迷惑すると思ってんだ!クソ野郎!!ザワ...ザワ...引っ込め!ゴキブリ市民!!ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...引っ込めクソ野郎!...ザワ...ザワ...ザワ...きっとあれ下層市民よ...ザワ...三等市民かな?じゃないと銃殺されるかも...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...消えろゴミ野郎ども!!...ザワ...ザワ...汚ったならしい親子!嫌ね...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...消えろよ!貴様の汚ねえガキがどうした!...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...失せろ乞食ども!...ザワ...ザワ...見ろよ!あの汚い身なり。痛いぜ。...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...恥ずかしくないのかなぁ、笑...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...


〔... キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン ...〕


あ!。


主催者がマイクを取った。


〔... 警備の人。この人達を摘み出してくれ!。 ...〕


「ジェシーっ!何やってる!そんな所に突っ立ってて!!早く何とかしろ!!」


うわっ!!。


あ、アイルさん!!。


真っ赤になってカンカンに怒ってる。


私はまた走り出した。


ロメールもオーエンも、他の者達も、みな呆然と見てる。


私が立ち止まったからだ。


「ジェシー。今日終わったら私の事務所に来てくれ。契約のことで話をしよう。ただのど素人に払う金は無い!。」


!!?。


しまった!!。


どうする!?。


みんなの生活が...。


ここは何とか上手く収めよう。


私は全力で走り始めた。


クソ!あのデカいの。

D区画のゴールポストの隣でしゃがんでやがる。かたわのオカマ巨人が!。


「デカいの!!おい!デカいの!!」


チッ!。名前を聞くのを忘れた。


ざわめきで声が届かない。


近くにいるのになぜ止めない!?。


そもそも、あいつの雇い主誰だ!?。


?!?。


私じゃない。そうだ。あんな者はうちにはいない。


主催者側の用心棒じゃないのか?!。


ああ!!。


作業着の男が主催者からマイクを取り上げた。


もうメチャクチャだ!!。


何てことをするんだ!!。


〔... 頼む聞いてくれ。アユムは。ゼッケンナンバー18番の俺の弟は朝5:00に起きて準備したんだ。この日をこの日のためにずっとずっと準備して来たんだ! ...〕


...そんなこと知らねぇよ!...

...そんなのみんな、どこの子も同じよ!...

...だから何だ!バカ野郎!...


ドリンクの瓶や、メガホン、ゴミ。


次々とグランドに投げ込まれて来る


!!?


女性が主催者にマイクを持って来た。


〔... ピィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーガァーーーーーーーーーーーキィーーーーーーン ...〕


〔... アユムの!家の弟の順番は113番だった!。ちょうど真ん中だ!。何故 ...〕


〔... AIRAのジュリアスです。バイアール支部長をさせて頂いています。ちゃんと登録はされましたか?おい。君、受付のリストを持って来なさい。 ...〕


支部長が女性に指示をした。


オーロラビジョンは、主催者側を映し出し始めた。


やっと着いた。


有無を言わさず摘み出すのが私の仕事だ。


が、支部長さんが私たちを制した。


ちゃんと話を聞いてやるつもりだ。


流石だ。


一安心だ。


だが、危機に対処出来るようにいつでも取り押さえられる位置に、オーエンも私もロメールもいる。他の者達も。


チッ!あの片腕の大男だけはあぐらをかいて動こうとしない。


何なんだあいつは!!。


女性が走って戻って来た。


〔... このように、受付された選手はみんなトライアウトを終えています。 ...〕


ジュリアス支部長は、バンドルタブレットの画面をオーロラビジョンに向けた。


画面の内容が映し出される。


これで決まりだ。


父親が...。


弟と言っていたな?


兄かこの男。あの少年の...。


ていうことは、若いのか?。


ウッカリ受付を忘れたんだろう。


さぁ、分かったらお引き取り頂...。


〔... そんなはずは無い!間違いが無いように、ちゃんとバンドルのカメラで撮ってある。 ...〕


男は必死にバンドルの画面を見せている。


オーロラビジョンには映し出されない。


いずれにしても...。


...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ


会場のどよめきがまるで嵐のように広がって行く。


映し出された!。


〔... 馬鹿者!映さなくて良いんだ!...〕


支部長の声をマイクが拾った。

AIRAのもう1人の男が耳打ちをした。


〔... すみません。機械のトラブルです。申し訳ありませんが、次回のトライアウト。三年後にまた ...〕


〔... アユムはもう14歳です!。今年が最後のチャンス何です! ...〕


...14じゃ無理だろ!どうせ!!引っ込め!でしゃばり!...


観客席からの非難は止まない。


〔... 時間が ...〕


〔... まだ10分あるじゃないですか!機械のトラブルならそちらの問題じゃないですか! ...〕


...諦めろよ!自分を特別だと思ってるのか!...さっさと帰りなさいよ!人の迷惑考えなよ!...


しかし、この男。この汚い作業着の男、度胸がある。


少年は下を見てる。


でも、帰る気配は無い。


〔... そうとも言い切れない。あなた失礼ですが何等級の市民ですか? ...〕


〔... 6等級です。ですが、募集要項には、等級制限無しと!。年齢も8歳からと。ジュニア規定の年齢なら制限無しと! ...〕


〔... 6等?え?6等級ですか? それでしたら、あなた...。だからじゃないんですか?笑...〕


会場からも笑い声が聞こえる。


失笑、苦笑。


スコールのように...。


6等級...。


彼らはこういうことがあった時、誰も庇ってくれない階層だ。


可哀想だが。


〔... それにオタクのお子さん、いや、弟さん、ボール持って無いでしょう? ...〕


...そうだ!マイボール無しに何のトライアウトする気だ!...下がれバカ野郎!...


〔... 募集要項には、ボールのない者には貸与と書いて、書いてあるじゃないですか!それに、アユムは、アユムはちゃんとボールを持って来ました!友達から借りたボールを。ここの会場で無くし、いや盗まれたんです! ...〕


...甘えてんじゃねぇよ......むしろ盗むのはお前達だろ!...嘘つき野郎!死ね!!...


〔... 嘘を言いなさい!。あなた方の収入で買えないルコントのボールを誰ががおいそれと貸してくれるのです? ...〕


いや、ルコントのボールが買えないほど彼らの収入は引くない。


「何をやってるジェシー!!早くマイクを!」


アイルさんだ。


しかし、主催者が...。


「いいから行け!!。」


「...から...ル...て...やって...れー!」


...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ......ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...


今度はこちら側のスタンドがざわめき始めた。


「...から...ル...て...やって...れー!」


誰かが叫んでる。


注目を浴びて...。


あ!!。


あぁぁ...。


ブルースだ。


ユルダームジュニアのブルース!。


ドブッ!!


誰かがが背中を殴った。


アイルさんだ。


「早くしろ!!このノロマめ!!」


作業着の男を捕まえた。


思ったより若い男だ。

歳の頃は30前後だ。


遠目に見ると4,50代なのだが...。


黄色人種のこの男は我々より小柄だが、ガッチリしている。


汚い作業着からは、洗剤の香り。


だらしないのでは無い。


きちんと着ても脚が短いからだらしなく見えるだけだ。


岩石みたいな髭の濃いブ男だが、誠実そうな目をしてる。


あの少年の兄??。


似ても似つかない。


だが、この若い男。


一生懸命だ。


不器用だが。


私は男からマイクをひったくろうとした。


しかし、握力が強く、取り上げられない。


オーエンが助っ人に来た。


凄い力だ。


いや、弟のために必死なのだ。


オーエンと私。


大男が、二人掛かりでこの男を引きずる。


凄い力だ...。


すまない。


仕事だ。


ロメールは、少年の方に。


「お願いだ!頼む!アユムに手荒なことはしないでくれ!お願いだ!頼む!後生だ!」


少年も素直にロメールの言うことを聞かない。ロメールが襟首をつかんだ!。


「ロメ...」


「ロメール!!手荒なことはするな!!まだ子供だ!!ただのルコント好きな少年だ!!俺たちの子供と同じ良い子だ!!」


オーエンが叫んだ。


良い子って...笑。


義兄にいさん。同じだ。オーエンも同じ気持ちだ。


「すまないな...。仕事なんだよ...。泣」


オーエンが泣いている。まるで悲鳴だ...。


オーエン。


良い兄貴を持った。


作業着の男は引きずられてる。


あぁあぁ。


坊やが抵抗してる。


そうだよな。諦め切れないよな。


ロメールから逃げている。


坊や。抵抗しちゃいけない。


...トーーーーーーーーン!...


!!?


ハイパントだ。


高い高いハイパント!。


ルコントのボールが少年のいるD区画へ。


綺麗なボール。


青に赤いライン。

ユルダームジュニアのボール。


!!?


上級アンドロイドが動き出した!!。


そうだ。ハイパントで奴らは起動する。


あっ!!?


少年が動き出した。


ロメールを交わし、上級アンドロイドを次々に交わす。


...おい。見ろよ。あれ。...

...お?何だあれ...


な、な、な、な、何だあのステップ。


速い。


脚が...。


落下地点にはアンドロイドが五体。


背丈も違う。30センチは。


いくらジャンプしても無理...。


...あれは流石に無理よね。笑...

...何だ。あれ結構やるじゃん。...


あっ!!!。


飛び上がる瞬間に、前の何だ二体の足を踏み、後ろの二体に寄りかかるように飛んだ。


ワンオンワンにしてしまった!!。


...意外〜。あの子凄いね?...


観客の声がちらほらと聞こえて来る。


アンドロイドの肩を掴んだ。


私服の少年が私の前を走り抜ける!。


だ、誰!?。


...おい見ろ!!ブルースだぜ!?...


...ホントだ!!あいつ今年ナショナルチームに入るかも...


「ぶ、ぶ、ぶ、ぶ、ブルース!!。ブルーーーーーーーーーーー...」


...ドサッ!...


オーエンが気絶した。


何てことだ!?!。


ブルースが来た。


「アユムっ!カモン!!。」


...バスッ...


少年がヘディングをした。


ボールは矢のようにブルースの方へ。


何だ、何だ、何てことだ。


この少年。


...おい!!見たか!!今の...


...あぁ見た。何だあれ?...


す、す、す、凄い...。


...バッ...


...トーーーーーーーーン...


ブルースが胸でトラップをして、ボレーでボールを蹴った。


曲がった。


ブルースの真骨頂。


だけど...。


...おおい!今度は弟も来たぜ!...


青いユニフォームの少年が走って来た。


み、み、ミックだ。


ブルースの弟...。


...ドーーーーーーン!...


ミックがボレーを。


「アユムーー!。」


カーブパス。しかもキラーパスだ。


観客は全員息を飲んで見ている。

スタジアムは静寂で包まれている。


少年が走って行く。


そっちじゃ...。


止まった。


ボールが吸い込まれるように入って行く。


...ダン...


少年が、あの少年が、胸で止めて、ボールをリフティングしてる。


...おい。あれ。...


...やだ。曲がった。凄く曲がったわ。あの子のところへ...


...夢か?これ。信じられねぇ。あのボールを簡単にキープしたぜ。あれ、決め球じゃねぇのか?取れる奴がいるのか?パスに仕えるのか?信じられねぇ...


す、す、す、凄い...。


何だあのアユムという少年は...。


神か?。


...神だぜ...


...奇跡だ...


猛烈な勢いでアンドロイド達がアユム君の方へ向かう。


「ブルーーース!」


アユム君がブルースを呼ぶ。


と、友達か?。


...ダーン...


左足のアウトサイド。


あぁぁ...。


アンドロイドの真正面に...。


!!?


「うわっ!うわっ!うわっ!うわっ!」


急ブレーキだ。


凄い急ブレーキ。


凄いカーブボール。


凄いカーブボール。


しかも、この細い身体のどこから...。


ブルースが走る!走る!。


キャッチアッパーも超一流。


ブルースにしか追いつけない。


...ダーン!...


ブルースが足でトラップした。


「イッテェーー!アユム!手加減しろよ!!笑。」


...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...

...ワーーーーーーーーーー...


うおあ!!。


び、びっくりした。


大歓声だ!。


ええと...こ、こ、これでトラップ3とパス2まで終わってる。


しかし、しかし、トライアウトの、既にトライアウトのレベルじゃねぇ。


あ、ねぇだなんて俺らしくない。


あ?


私か、私が...。


「ロメール!出ろ!区画から出ろよ!!」


ガルシアが叫んでる。


そうだ!邪魔だ!そこに突っ立ってると!。


「ナイスプレイ!!ナイスプレイだっ!!。ナイスプレイ!!ナイスプレイ!!。」


オーエンが飛び上がって喜んでる。


歓喜のジャンプだ。


兄さん、ジャンプ力凄いな。


なぜ、これを俺たちの試合で出さない?。


アンドロイドが多すぎて、パントの種類が、出せない。汗。


もうこうなったら、応援するぞ!。


階層が何だ!!。


AIRAが何だ!!。


アイルがなんだ!!。


エイジンネットワークが何なんだ!!。


クソ食らえ!クソ食らえ!!。


「いいぞ!!行けアユム!!。行けぇーーー!!アユム!!。」


「俺の弟凄いだろ?」


は!!。


男が。


いつの間にか手を離してしまって...。


「何やってやがる!ジェシー!!」


アイルだ。


「うるせぇ!黙ってろ!!」


「何だと?貴様...」


...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...

...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...

...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...


いつの間にか、スタンドは全員アユム君の味方になっている。笑。


仕方ない。


こんなに上手いんだ。


彼は神だ。


青いユニフォームの少年が2人コートに、区画に入って行く。


「カモン!アユム!」


「こっちもOK!アユム!」


えぇっと、確か...。


そうだ!。


トミーとキースだ。


バイアールジュニアの。


パスを回し、アンドロイドを引き離している。


1つでもしくじったらそこで終わりだ。


トラップはあと2つだ。


パスはあと7つ。


〔...おい!。君たち。やめなさい!。何やってるんだ。...〕


主催者がマイクで叫ぶ。


辞める気配が無い。


しかし、1つ1つが凄い技術だ...。


パッキオや、シャルルの比では無い。


アユムがボールをカーブボールを蹴る。


キースがボレーで別の場所にボールを出す。


アユムは丁寧にワントラップする。


トラップはこれで終わりだ。


ボレーで普段はいけるのだろう。


凄い選手だ。


アンドロイドの頭上を越えて、ミックにショートパスを渡す。


アルベルトのオーバーヘッドパスを完全にコピーしてる。


ブルース、ミック、キース、トミーが区画のコーナーに立ち、移動しながら、アユムにパスを出す。


しかも瞬時にアンドロイドを交わしながら、ある時はボレー、ある時はゴロで。


まるで蹴鞠だ。


ライナーの応酬。


1つとして、ストレートな球は無い。


主催者も、コーチ陣も、みなあんぐりと口を開けている。


!!?


...ダーーン!...


ブルースがキラーパスをアユムに流す。


4人が下がって行く。


区画からダグアウトに下がって行く。


キースが手を挙げる。


「後は任せた!アユムー!」


ミックが叫ぶ。


「お前なら出来るぜ!アユム!」


トミーが叫ぶ。


「アユム!待ってるぜ!」


アユムはボールをキープして、待っている。


散々コケにされたアンドロイド達は、殺気を漂わせて走って来る。


ダグアウトの前でブルースが振り返った。


「アユム!!GO!!!」


アンドロイドは一斉にアユムに飛び掛った。


ここからは10オン1だ。


...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、


何てことだ...。


大観衆から一斉にアユムコールが始まった。


全員が立ち上がっている。


圧倒的に不利な状況に立ち向かう、小さなヒーローにみんなが心から応援している。


スタンディングオベーションだ。


足を踏み鳴らしている。


1人残らず。


全員がだ。


信じられない。


きっと、これはアユムだけの戦いじゃない。


みんなの戦いでもあるんだ。


...キーーーーーーーーーーーー

...ブウゥウウオオン...


...ブウゥウウオオン...


...ブウゥウウオオン...


!!?


空にスピーダーが。


黒いスピーダーが8機。


遂に来てしまった。


治安警察隊が。

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