アユム8
あぁまずい...。
パスタは美味かったが...。
少し遅れてしまった。
ソーコー地区のパスタ屋は、どこも混んでいた。
やはり、ビスタも、ソロールも満席だった。
が、ソロールのウエイターがこの警備服に免じて特別に席を用意してくれた。
相変わらずスタジアムの周りは黒山の人だかり。
大盛況だ。
バイアール自然公園の野外ステージにアイドルが来てる。
5人組だ。
赤、青、黄色、緑、紫...。
カラフルなコスチュームを身につけてる。
気取りの無い元気一杯な娘たち。
十代の娘達。
踊りも決して下手ではない。
かなり練習を積んでいる。
そうは見えないかもしれないが。
スポーツをやっている私には良くわかる。
ああ見えてプロの中のプロだ。
あの娘たちも命をかけている。
気付いたこの感情に〜♪
もう後悔なんてしたくない〜♪
...オイ!オイ!オイ!オイ!...
...オイ!オイ!オイ!オイ!...
僕は僕にウソをついて〜♪
逃げたくもない〜♪
...オイ!オイ!オイ!オイ!...
...オイ!オイ!オイ!オイ!...
若い男達が掛け声をかけている。
ノリノリだ。笑。
「オイ!オイ!オイ!」
いい歌だ。
娘の旦那もファンだ。
私も嫌いじゃない。
ん!?
あの警備員!。
ガ、ガルシアじゃないか!!。
あいつ...全く。
ま、まぁいいか...。
さっき替わって貰ったんだ。
見逃してやるか...。
...ジャラジャラジャラン!...
腰にぶら下げているキーで、通用門からスタジアムに入る。
...ガチャガチャ...
水色の鉄の扉。
...ウィーーーーーーーーーーーン...
静かに重く大きな扉がスライドして行く。
...スーーーーーーーーーーーーーッ...
...一度きりの人生...だから〜♪
...オイ...オイ...オイ...
重い大きな扉は自動で静かに閉まって行く。
あの娘たちの歌声、歓声が消える。
しばしの静寂。
...タンッタンッタンッ...
冷たく薄暗いコンクリートの関係者用通路。
足音がこだまする。
さぁ、午後の仕事だ。
午後は、結果の発表や、主催者や、ユルダームの挨拶。
プラトーさんも来る。
最後にスピーチをしてくれる。
大事なのはプラトージェネラルマネージャーの警備。
結果発表で暴れる者がたまにいる。
スタジアムの入り口だ。
眩い光の入り口が近づいて来る。
勝利への通路。
ビクトリーロード。
そう呼ばれてる。
選手はここを通り抜けてスタジアムへ行く。
パッキオも、シャルルナールも、アルベルトも...。
栄光のグランドへ。
...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...
区画に出ている選手はもういない。
やれやれ。
無事に終わったようだ。
主催者達がグランドの真ん中に歩いて来る。
アトラルコント協会のブレザーを着ている。
歓声が一気に静まって行く。
〔...皆様、本日は大変ありがとうございます。第181回ルコントS1リーグ ユルダーム ジュニア。公開入団トライアウトテストはこれで終了となります。なお、午後は、結果の発表。今後の日程の発表。主催者挨拶、そしてお待ちかねの...〕
...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...
何だ?
東側のダグアウトが騒がしい。
!?
観客席から男がが走って来る!。
い、イカン!。
止めなくては。
!!?
ハッ!!?
あ、あの男!。
作業着の男。
やはり絵に描いたような危険人物だ!。
な、何か叫んでる。
ハッ、ハッ、フッ、はぅ、ふぅ、ハッ
歳を取った。
ダッシュのつもりが、全然遅い。
太りすぎた。
ロメールも走っている。反対側から。
800メートル以上ある。
オーエンも。
オーエンは私より遅い。
ロメールの真逆からだ。
全然間に合わない!。
全然だ。
私が頑張るしか。
ハッ、ハッ、フッ、はぅ、ふぅ、ハッ
あの男、意外に足が速い。
コラ!あ、あのオカマ巨人。
何ボウっとしてる!!。
全く動いていない。
のんびり観客席を見回している。
後で怒鳴りつけてやらなければ。
「...うちの子は!!まだ試験を受けてないぞ!!うちの弟がまだだ!!。弟が!弟が!まだ試験を受けてない!!。」
ざわめきは一気に広がる。
「まだ、まだ時間はあるじゃないか!!14:00までならまだ20分ある!!」
男は時計を指差している。
このスタジアムの電光掲示板。
確かにまだ13:34分だ。
指を差しながら走って行く。
子供を呼んだ。
ダグアウトの子供を。
必死で手招きをしてる。
「アユムー!来い!アユム!!こっちに来い!!。」
!!?
あの坊や。
まだ、トライアウト受けて無かったのか!?。
可哀想に。
あぁぁ...。
来てはいけない!。
あの汚れた練習着の少年。
呼ばれるままに父親の元に。
これでは晒し者だ。
少年にさっきのような目の輝きは無い。
ショックを受けている。
だからただ言われるままに。
ざわめきが。
スタジアムにどよめきが広がって行く。
...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ......ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...
毎年、暴れる奴はいる。
でも、主催者に直談判する奴は初めてだ。
彼らは一等市民。
自動的に治安警察が出動する。
バカな奴だ。
何ていう無防な父親なんだ!。
我が子の命が心配にならないのか!?。
...ザワ...ザワ...何やってんだバカ野郎!...ザワ...ザワ...何?あの汚らしい子供...ザワ...ザワ...ザワ...ああいうバカがいるんだな?...ザワ...ザワ...何だあいつ...ザワ...ザワ...ザワ...あれだけのことするからには、覚悟あるんだよ...ザワ...ザワ...テメェのせいで何千人の人が迷惑すると思ってんだ!クソ野郎!!ザワ...ザワ...引っ込め!ゴキブリ市民!!ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...引っ込めクソ野郎!...ザワ...ザワ...ザワ...きっとあれ下層市民よ...ザワ...三等市民かな?じゃないと銃殺されるかも...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...消えろゴミ野郎ども!!...ザワ...ザワ...汚ったならしい親子!嫌ね...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...消えろよ!貴様の汚ねえガキがどうした!...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...失せろ乞食ども!...ザワ...ザワ...見ろよ!あの汚い身なり。痛いぜ。...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...恥ずかしくないのかなぁ、笑...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...
〔... キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン ...〕
あ!。
主催者がマイクを取った。
〔... 警備の人。この人達を摘み出してくれ!。 ...〕
「ジェシーっ!何やってる!そんな所に突っ立ってて!!早く何とかしろ!!」
うわっ!!。
あ、アイルさん!!。
真っ赤になってカンカンに怒ってる。
私はまた走り出した。
ロメールもオーエンも、他の者達も、みな呆然と見てる。
私が立ち止まったからだ。
「ジェシー。今日終わったら私の事務所に来てくれ。契約のことで話をしよう。ただのど素人に払う金は無い!。」
!!?。
しまった!!。
どうする!?。
みんなの生活が...。
ここは何とか上手く収めよう。
私は全力で走り始めた。
クソ!あのデカいの。
D区画のゴールポストの隣でしゃがんでやがる。かたわのオカマ巨人が!。
「デカいの!!おい!デカいの!!」
チッ!。名前を聞くのを忘れた。
ざわめきで声が届かない。
近くにいるのになぜ止めない!?。
そもそも、あいつの雇い主誰だ!?。
?!?。
私じゃない。そうだ。あんな者はうちにはいない。
主催者側の用心棒じゃないのか?!。
ああ!!。
作業着の男が主催者からマイクを取り上げた。
もうメチャクチャだ!!。
何てことをするんだ!!。
〔... 頼む聞いてくれ。アユムは。ゼッケンナンバー18番の俺の弟は朝5:00に起きて準備したんだ。この日をこの日のためにずっとずっと準備して来たんだ! ...〕
...そんなこと知らねぇよ!...
...そんなのみんな、どこの子も同じよ!...
...だから何だ!バカ野郎!...
ドリンクの瓶や、メガホン、ゴミ。
次々とグランドに投げ込まれて来る
!!?
女性が主催者にマイクを持って来た。
〔... ピィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーガァーーーーーーーーーーーキィーーーーーーン ...〕
〔... アユムの!家の弟の順番は113番だった!。ちょうど真ん中だ!。何故 ...〕
〔... AIRAのジュリアスです。バイアール支部長をさせて頂いています。ちゃんと登録はされましたか?おい。君、受付のリストを持って来なさい。 ...〕
支部長が女性に指示をした。
オーロラビジョンは、主催者側を映し出し始めた。
やっと着いた。
有無を言わさず摘み出すのが私の仕事だ。
が、支部長さんが私たちを制した。
ちゃんと話を聞いてやるつもりだ。
流石だ。
一安心だ。
だが、危機に対処出来るようにいつでも取り押さえられる位置に、オーエンも私もロメールもいる。他の者達も。
チッ!あの片腕の大男だけはあぐらをかいて動こうとしない。
何なんだあいつは!!。
女性が走って戻って来た。
〔... このように、受付された選手はみんなトライアウトを終えています。 ...〕
ジュリアス支部長は、バンドルタブレットの画面をオーロラビジョンに向けた。
画面の内容が映し出される。
これで決まりだ。
父親が...。
弟と言っていたな?
兄かこの男。あの少年の...。
ていうことは、若いのか?。
ウッカリ受付を忘れたんだろう。
さぁ、分かったらお引き取り頂...。
〔... そんなはずは無い!間違いが無いように、ちゃんとバンドルのカメラで撮ってある。 ...〕
男は必死にバンドルの画面を見せている。
オーロラビジョンには映し出されない。
いずれにしても...。
...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ...おおぉぉ
会場のどよめきがまるで嵐のように広がって行く。
映し出された!。
〔... 馬鹿者!映さなくて良いんだ!...〕
支部長の声をマイクが拾った。
AIRAのもう1人の男が耳打ちをした。
〔... すみません。機械のトラブルです。申し訳ありませんが、次回のトライアウト。三年後にまた ...〕
〔... アユムはもう14歳です!。今年が最後のチャンス何です! ...〕
...14じゃ無理だろ!どうせ!!引っ込め!でしゃばり!...
観客席からの非難は止まない。
〔... 時間が ...〕
〔... まだ10分あるじゃないですか!機械のトラブルならそちらの問題じゃないですか! ...〕
...諦めろよ!自分を特別だと思ってるのか!...さっさと帰りなさいよ!人の迷惑考えなよ!...
しかし、この男。この汚い作業着の男、度胸がある。
少年は下を見てる。
でも、帰る気配は無い。
〔... そうとも言い切れない。あなた失礼ですが何等級の市民ですか? ...〕
〔... 6等級です。ですが、募集要項には、等級制限無しと!。年齢も8歳からと。ジュニア規定の年齢なら制限無しと! ...〕
〔... 6等?え?6等級ですか? それでしたら、あなた...。だからじゃないんですか?笑...〕
会場からも笑い声が聞こえる。
失笑、苦笑。
スコールのように...。
6等級...。
彼らはこういうことがあった時、誰も庇ってくれない階層だ。
可哀想だが。
〔... それにオタクのお子さん、いや、弟さん、ボール持って無いでしょう? ...〕
...そうだ!マイボール無しに何のトライアウトする気だ!...下がれバカ野郎!...
〔... 募集要項には、ボールのない者には貸与と書いて、書いてあるじゃないですか!それに、アユムは、アユムはちゃんとボールを持って来ました!友達から借りたボールを。ここの会場で無くし、いや盗まれたんです! ...〕
...甘えてんじゃねぇよ......むしろ盗むのはお前達だろ!...嘘つき野郎!死ね!!...
〔... 嘘を言いなさい!。あなた方の収入で買えないルコントのボールを誰ががおいそれと貸してくれるのです? ...〕
いや、ルコントのボールが買えないほど彼らの収入は引くない。
「何をやってるジェシー!!早くマイクを!」
アイルさんだ。
しかし、主催者が...。
「いいから行け!!。」
「...から...ル...て...やって...れー!」
...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ......ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...ザワ...
今度はこちら側のスタンドがざわめき始めた。
「...から...ル...て...やって...れー!」
誰かが叫んでる。
注目を浴びて...。
あ!!。
あぁぁ...。
ブルースだ。
ユルダームジュニアのブルース!。
ドブッ!!
誰かがが背中を殴った。
アイルさんだ。
「早くしろ!!このノロマめ!!」
作業着の男を捕まえた。
思ったより若い男だ。
歳の頃は30前後だ。
遠目に見ると4,50代なのだが...。
黄色人種のこの男は我々より小柄だが、ガッチリしている。
汚い作業着からは、洗剤の香り。
だらしないのでは無い。
きちんと着ても脚が短いからだらしなく見えるだけだ。
岩石みたいな髭の濃いブ男だが、誠実そうな目をしてる。
あの少年の兄??。
似ても似つかない。
だが、この若い男。
一生懸命だ。
不器用だが。
私は男からマイクをひったくろうとした。
しかし、握力が強く、取り上げられない。
オーエンが助っ人に来た。
凄い力だ。
いや、弟のために必死なのだ。
オーエンと私。
大男が、二人掛かりでこの男を引きずる。
凄い力だ...。
すまない。
仕事だ。
ロメールは、少年の方に。
「お願いだ!頼む!アユムに手荒なことはしないでくれ!お願いだ!頼む!後生だ!」
少年も素直にロメールの言うことを聞かない。ロメールが襟首をつかんだ!。
「ロメ...」
「ロメール!!手荒なことはするな!!まだ子供だ!!ただのルコント好きな少年だ!!俺たちの子供と同じ良い子だ!!」
オーエンが叫んだ。
良い子って...笑。
義兄さん。同じだ。オーエンも同じ気持ちだ。
「すまないな...。仕事なんだよ...。泣」
オーエンが泣いている。まるで悲鳴だ...。
オーエン。
良い兄貴を持った。
作業着の男は引きずられてる。
あぁあぁ。
坊やが抵抗してる。
そうだよな。諦め切れないよな。
ロメールから逃げている。
坊や。抵抗しちゃいけない。
...トーーーーーーーーン!...
!!?
ハイパントだ。
高い高いハイパント!。
ルコントのボールが少年のいるD区画へ。
綺麗なボール。
青に赤いライン。
ユルダームジュニアのボール。
!!?
上級アンドロイドが動き出した!!。
そうだ。ハイパントで奴らは起動する。
あっ!!?
少年が動き出した。
ロメールを交わし、上級アンドロイドを次々に交わす。
...おい。見ろよ。あれ。...
...お?何だあれ...
な、な、な、な、何だあのステップ。
速い。
脚が...。
落下地点にはアンドロイドが五体。
背丈も違う。30センチは。
いくらジャンプしても無理...。
...あれは流石に無理よね。笑...
...何だ。あれ結構やるじゃん。...
あっ!!!。
飛び上がる瞬間に、前の何だ二体の足を踏み、後ろの二体に寄りかかるように飛んだ。
ワンオンワンにしてしまった!!。
...意外〜。あの子凄いね?...
観客の声がちらほらと聞こえて来る。
アンドロイドの肩を掴んだ。
私服の少年が私の前を走り抜ける!。
だ、誰!?。
...おい見ろ!!ブルースだぜ!?...
...ホントだ!!あいつ今年ナショナルチームに入るかも...
「ぶ、ぶ、ぶ、ぶ、ブルース!!。ブルーーーーーーーーーーー...」
...ドサッ!...
オーエンが気絶した。
何てことだ!?!。
ブルースが来た。
「アユムっ!カモン!!。」
...バスッ...
少年がヘディングをした。
ボールは矢のようにブルースの方へ。
何だ、何だ、何てことだ。
この少年。
...おい!!見たか!!今の...
...あぁ見た。何だあれ?...
す、す、す、凄い...。
...バッ...
...トーーーーーーーーン...
ブルースが胸でトラップをして、ボレーでボールを蹴った。
曲がった。
ブルースの真骨頂。
だけど...。
...おおい!今度は弟も来たぜ!...
青いユニフォームの少年が走って来た。
み、み、ミックだ。
ブルースの弟...。
...ドーーーーーーン!...
ミックがボレーを。
「アユムーー!。」
カーブパス。しかもキラーパスだ。
観客は全員息を飲んで見ている。
スタジアムは静寂で包まれている。
少年が走って行く。
そっちじゃ...。
止まった。
ボールが吸い込まれるように入って行く。
...ダン...
少年が、あの少年が、胸で止めて、ボールをリフティングしてる。
...おい。あれ。...
...やだ。曲がった。凄く曲がったわ。あの子のところへ...
...夢か?これ。信じられねぇ。あのボールを簡単にキープしたぜ。あれ、決め球じゃねぇのか?取れる奴がいるのか?パスに仕えるのか?信じられねぇ...
す、す、す、凄い...。
何だあのアユムという少年は...。
神か?。
...神だぜ...
...奇跡だ...
猛烈な勢いでアンドロイド達がアユム君の方へ向かう。
「ブルーーース!」
アユム君がブルースを呼ぶ。
と、友達か?。
...ダーン...
左足のアウトサイド。
あぁぁ...。
アンドロイドの真正面に...。
!!?
「うわっ!うわっ!うわっ!うわっ!」
急ブレーキだ。
凄い急ブレーキ。
凄いカーブボール。
凄いカーブボール。
しかも、この細い身体のどこから...。
ブルースが走る!走る!。
キャッチアッパーも超一流。
ブルースにしか追いつけない。
...ダーン!...
ブルースが足でトラップした。
「イッテェーー!アユム!手加減しろよ!!笑。」
...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...
うおあ!!。
び、びっくりした。
大歓声だ!。
ええと...こ、こ、これでトラップ3とパス2まで終わってる。
しかし、しかし、トライアウトの、既にトライアウトのレベルじゃねぇ。
あ、ねぇだなんて俺らしくない。
あ?
私か、私が...。
「ロメール!出ろ!区画から出ろよ!!」
ガルシアが叫んでる。
そうだ!邪魔だ!そこに突っ立ってると!。
「ナイスプレイ!!ナイスプレイだっ!!。ナイスプレイ!!ナイスプレイ!!。」
オーエンが飛び上がって喜んでる。
歓喜のジャンプだ。
兄さん、ジャンプ力凄いな。
なぜ、これを俺たちの試合で出さない?。
アンドロイドが多すぎて、パントの種類が、出せない。汗。
もうこうなったら、応援するぞ!。
階層が何だ!!。
AIRAが何だ!!。
アイルがなんだ!!。
エイジンネットワークが何なんだ!!。
クソ食らえ!クソ食らえ!!。
「いいぞ!!行けアユム!!。行けぇーーー!!アユム!!。」
「俺の弟凄いだろ?」
は!!。
男が。
いつの間にか手を離してしまって...。
「何やってやがる!ジェシー!!」
アイルだ。
「うるせぇ!黙ってろ!!」
「何だと?貴様...」
...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...
いつの間にか、スタンドは全員アユム君の味方になっている。笑。
仕方ない。
こんなに上手いんだ。
彼は神だ。
青いユニフォームの少年が2人コートに、区画に入って行く。
「カモン!アユム!」
「こっちもOK!アユム!」
えぇっと、確か...。
そうだ!。
トミーとキースだ。
バイアールジュニアの。
パスを回し、アンドロイドを引き離している。
1つでもしくじったらそこで終わりだ。
トラップはあと2つだ。
パスはあと7つ。
〔...おい!。君たち。やめなさい!。何やってるんだ。...〕
主催者がマイクで叫ぶ。
辞める気配が無い。
しかし、1つ1つが凄い技術だ...。
パッキオや、シャルルの比では無い。
アユムがボールをカーブボールを蹴る。
キースがボレーで別の場所にボールを出す。
アユムは丁寧にワントラップする。
トラップはこれで終わりだ。
ボレーで普段はいけるのだろう。
凄い選手だ。
アンドロイドの頭上を越えて、ミックにショートパスを渡す。
アルベルトのオーバーヘッドパスを完全にコピーしてる。
ブルース、ミック、キース、トミーが区画のコーナーに立ち、移動しながら、アユムにパスを出す。
しかも瞬時にアンドロイドを交わしながら、ある時はボレー、ある時はゴロで。
まるで蹴鞠だ。
ライナーの応酬。
1つとして、ストレートな球は無い。
主催者も、コーチ陣も、みなあんぐりと口を開けている。
!!?
...ダーーン!...
ブルースがキラーパスをアユムに流す。
4人が下がって行く。
区画からダグアウトに下がって行く。
キースが手を挙げる。
「後は任せた!アユムー!」
ミックが叫ぶ。
「お前なら出来るぜ!アユム!」
トミーが叫ぶ。
「アユム!待ってるぜ!」
アユムはボールをキープして、待っている。
散々コケにされたアンドロイド達は、殺気を漂わせて走って来る。
ダグアウトの前でブルースが振り返った。
「アユム!!GO!!!」
アンドロイドは一斉にアユムに飛び掛った。
ここからは10オン1だ。
...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、...ア、ユ、ム、
何てことだ...。
大観衆から一斉にアユムコールが始まった。
全員が立ち上がっている。
圧倒的に不利な状況に立ち向かう、小さなヒーローにみんなが心から応援している。
スタンディングオベーションだ。
足を踏み鳴らしている。
1人残らず。
全員がだ。
信じられない。
きっと、これはアユムだけの戦いじゃない。
みんなの戦いでもあるんだ。
...キーーーーーーーーーーーー
...ブウゥウウオオン...
...ブウゥウウオオン...
...ブウゥウウオオン...
!!?
空にスピーダーが。
黒いスピーダーが8機。
遂に来てしまった。
治安警察隊が。




