アユム7
半袖シャツの襟や裾。
風がさらりと肌を撫でそよいでいく。
柔らかく温かい2つの太陽の光が心地良い。
雲ははるか彼方、空と宇宙の間に。
青い空にこだまする人々の声。
ここはバイアールにあるルコントスタジアム。
真っ白なその流線型の曲線は、まるで近未来の宇宙船だ。
カルマン州最大級のドーム施設。
このエイジンビッククラウド ルコントスタジアムは、国内最大手企業の1つ エイジンネットワーク社が社運をかけて開発した。
除幕式は5年前。
まだ新しい。
バイアール自然公園の中にある。
濁っていた池も、今はまるでハイドラ首長国連邦のカリビアのように美しい。
何の取り柄も無くだだ広かった公園は、これから整備されて行く。
カルマンやバイアールの人々のルコントのチーム ユルダームへの期待と共に...。
スタジアムの外は、屋台や出店が沢山出てる。
企業のブースもある。
イベント会場にはアイドルも来るらしい。
大勢の人々で賑わっている。
今日は、バイアール発祥のルコントチーム ユルダームのトライアウト選考会だ。
3年に一度の街を上げてのお祭り。
...オオーーオウオーーー。オウオーーーエイオーーー...
外野席では、ビッククラウドのマーチングバンドが、アトラ ルコントリーグのテーマを演奏している。
1000人近いサポーターが、肩を組んで合唱している。
タオルを首にかけ、真っ赤なユニフォームを着て。
黄色いメガホンを持っている人も多い。
今日終われば、私は三連休。
明日には初孫が生まれる。
...ファーファーファーファーーーーダンダンダダン...
鼓笛隊の演奏が終わった。
この大きなスタジアムが静まり帰った。
そろそろだ。
〔...お待たせしました。第181回ルコントS1リーグ ユルダーム ジュニア。公開入団トライアウトを開催します。どなた様も未来のスター候補生達の入場を温かい拍手でお迎えください。...〕
ウグイス嬢の声がこだまする。
...タンタンタンタンタンタンタンタンタランタタンタン!...
小太鼓の音...。
始まった。ユルダームの応援歌だ。
〔...皆様!温かい拍手でお迎えくださいませ!選手、入場〜。選手、入場〜。♪...〕
若い女性の陽気な声がスタジアムに響き渡る。
来た。w
水色のゲートから、子供達が入って来る。
300人ほど。
ちびっ子ルコントプレイヤー達が。w
皆、一丁前に、ユルダームのユニフォームを着ている。笑
自前のボールを持って。
それぞれが、自分の好きな選手のゼッケン、その時代のレプリカユニフォームを着ている。
その時代のヒーロー達の。
この日のためにあつらえた、新しいユニフォームなのだろう。
8歳から11歳の子供達。
とても、清潔で礼儀正しい。
今のユルダームのエースストライカー パッキオのゼッケンか、皇帝プラトーのものが多い。
プラトーさんは、ユルダームのジェネラルマネージャー。
3等市民から、ルコントの実力と名声で、順一等市民まで駆け上登った人。
アトラ。いやエイジン、ローデシア大陸の男なら、誰もが憧れるルコントドリームを正に体現した人だ。
私も昔は、ルコントプレイヤーに憧れていた。
毎日ボールを蹴っていた。
来る日も来る日も...。
飯の時も、学校へ行く時も。
トイレに行ったり、デートの時でさえ。笑。
学校が終わると、仲間達といつもルコントをした。
道路でも公園でも、どこでも。
私は仲間の中では1番上手だった。
比べられる者がいないほど。
隣町にも知られていた。
そして、このトライアウトに一度挑戦したことがある。
でも、全く通用しなかった。
もの心ついてから、毎日ルコントに打ち込んでいたにも関わらず。
今から47年前のことだ。笑。
この子達は、こう見えて、びっくりするほど凄い子ばかりだ。
我々とは素質が違う。
羨ましいことに...。
今でも、私の生活はルコントを中心に回っている。
朝はスポーツ誌を読むことから始まる。
シーズン中は、毎晩、モニターにかじりつき、麦酒を片手にユルダームを応援している。
休みの日は、サンタナ界隈の草ルコントチームで汗を流すか、ここに観戦に来ている。
仕事で、ここに来るのは、初めてだ。
ありがたい。
一人娘レナは男女混合のルコントサークルに入っている。
娘も堂々たるエースストライカーだ。
私譲りの。
娘は、そこで知り合った男と結婚した。
奴は、ルコントの推薦でカルマン州立大に入り、国体にまで行った男だ。
素晴らしいドライブシュートを持っている。
自慢の息子だ。
...ダダンダダダンダダンダダダンダンダンダン...
マーチが終わり、少年達は入場し終わった。
?
会場が騒めいている。
なんだろうか?。
列の後ろの方に背の高い少年がいる。
痩せているが、他の子に比べて明らかに大きい。
あの子は中学生なのではないのか?。
よれよれの薄汚れた白い練習着。
それに小さ過ぎる。
サイズが合っていない。
あの子だけボールも持っていない。
身奇麗な子達の中にあって、とても目立っている。
ボールは主に3種類。
劣化の具合もあり、トライアウトには自前のボールを持って来るのが当たり前だ。
自分の最高のプレーが出来るかどうかに関わって来るのだ。
道具にこだわれない者は、ルコントは上達しない。
私の時代もそうだった。
忘れたのか、持っていないのか。
恐らく、買えないのだろう。
あの身なりでは...。
そんな子がなぜここに?。
明らかに場違いだ。
恥ずべきことだ。
「アユムー!頑張れ!。」
父兄観覧席ブルペンから声がする。
あの子の名前?。
何だあの男は?。
作業着じゃないか?。
どこの父兄もきちんとした服を着て、この神聖な場を行儀良く見守っているというのに。
品の無い男だ。
「...そんな大声を出す場面じゃない。少し周りをご覧なさい!...」
見たことか。
周りの父兄に注意をされている。
まるで町工場からそのまま来たみたいだ。
この選考会は、一見お祭り騒ぎだが、遊びじゃない。
才能ある子供達の将来ばかりではない、この街や、カルマン州の未来がかかっている。
何よりも私の雇い主エイジンネットワーク社の業績がかかっている。
軽い気持ちで来るべき場所ではない。
にも関わらず...。
あのみすぼらしい身なりの少年にも視線が集まった。
しかし、あの少年。
赤くなり俯いている。
常識はあるのだな。
父親とは違い、聡明そうな綺麗な顔立ちをしている。
よく見れば汚れているが、靴も練習着も手入れをされている。
きっと階層の低い市民なのだろう。
残念だがチャンスは無い。
可哀想だが。
しかし、あの父親。
嫌な予感がする。
面倒を起こさなければ良いが...。
〔... ゼッケンナンバー1番、18番、124番、65番、A区画へ集合。 ...〕
場内アナウンスが流れる。
男の声、コーチの声だ。
は、始まった...。
こっちまで緊張する。
〔... ゼッケンナンバー116番、48番、3番、33番、D区画へ。 ...〕
コーチといってもジュニア二軍のサブコーチだ。
一次選抜は、大体こんなものだ。
ジュニア二軍のサブコーチと言っても、パッキオや、シャルルナールを発掘した者もいる。
このユルダームには。
〔... 4番、7番、14番、55番 F区画だ!。早くしろ。グズグズするな!。 ...〕
次々と小さな戦士達が飛び出して来る。
色とりどりのユニフォームを着てボールを持って。
鮮やかな緑のマバナ芝の上を。
マバナ芝は色が鮮やかなだけではない。
耐久性や繁殖力に優れている。
夢と希望の塊だ。
〔... 2番、256番、55番、67番、B区画。待ってるぞ。 ...〕
キビキビと動く。
意識が高く、良く訓練されている。
今日はどんなドラマが見られるだろうか。
「ゼッケン18番、ムンバ!。よ、よろしくお願いします!」
選手は、試験官のいるブースに挨拶をし、ボールをそこにいる上級アンドロイドに渡す。
記録係だ。
真剣なこの場は、人生の縮図と言っても良いくらいだ。
「...116番カナルで...。よろし...お願...しま...!。...」
彼方で、銀髪の子が叫んでいる。
シャルルもあんな感じだった。D区画だ。D区画に当たった子は可哀想だ。
審判用ブースの関係で、少しゴールが遠く位置がズレている。
シャルルナールもD区画だった。
... ファーーーーン!...
... ファーーーーーーン!...
あちこちで、ホイッスルが鳴る。
上級アンドロイド達が区画の白線の外側に並ぶ。
各区画10〜15体。
どれもルコント専用機体だ。
「ng、rt、行け!」
「ラジャ!」
「了解!」
...トーーーン...
指示を受けたアンドロイドの片方が、少年めがけボールを高く蹴り上げる。
二体のアンドロイドは、白い区画に入って行く。
トラップ チャレンジだ。
あの子は足が速い。
いいぞ!。
速い!速い!。
そうだ!。
追いつけ!。
二体のアンドロイド達が追って行く。
あのアンドロイド達は、ルコントプレーヤーを完全にコピーしている。
パッキオや、シャルルは無理だが、恐らくあのレベルの者達がコピーできるのは、Aクラスリーグの選手くらいだ。
しかし、チビッコ選手達にとっては、とんでもない難関だ。
恐らく私ではボールに触ることすら出来ないだろう。
チビッコ達は、このアンドロイドが誰なのかとても楽しみにしている。
一昨年前は、S1のリバウンド王アルベルト型のアンドロイドが出た。
当たった少年達は、落胆するどころか、感激のあまり気絶する者もいた。その後、少年達は最高のプレーをレプリカのアルベルトの前で見せた。
残念ながら、二次選考には選ばれた者はいなかったが。
...バスッ。タン。...
良し!いいぞ!。
上手くキャッチした。
...ファーーーーーーン!...
電光掲示板のライトがグリーンに輝く。
「...116番カナル。トラップワン グリーン...」
掲示板から音声が流れる。
あちこちから。
集中力も試される。
あっちでは、黒い巻き毛の選手が、アンドロイド二体を相手にドリブルをしてゴールに向かっている。
10種のトラップは全て一発でクリアしたのか?。
いや、トラップとパスどちらかの免除者だ。
地区大会以上で優勝したジュニアか、m2以上の大会でmvpを取ったことのある者。
す、凄い...。
早くも一次通過者が。
あ!?。
...ううーー。...
観客席からも落胆の声が。
と、取られた...。
惜しい...。
完全にケアレスミスだ。
なぜあそこでシュートを打ち急いだ?。
勿体無い...。
ワンフェイントで、完全にフリーになるのに。
痛恨のミスだ。
〔...ビーーーーーーーーーーーッ!ゼッケンナンバー111 ニノ。トライアウト終了です。お疲れ様でした。...〕
無情に全体アナウンスが流れる。
選手は泣きながら歩いて行く。
無理もない。
指導員達が追い立てる。
時間がタイトなのは分かるが、そう追い立てるな。
可哀想に。
誰か観客席から飛び出して来た。
父親だ。
肩を抱いている。
...ウォーーーーーーーーー!...
歓声が湧き上がる。
Aゾーンからだ。
パスだ。
ロングカーブパス。
この歳の子供には難しい。
ほほぅ。結構曲がる。
...おおぉ!!...
観客席からもどよめきが。
最後の一球!。
ガンバレ!!。
...ドーン...
...あぁぁぁ...
観客達の落胆の声。
ボールが区画の外に飛んで行く。
残念だ。
クリアされた。
やはりあの落差では、慣れた選手を交わすことはできない。
しかも、右足のインナーだけでは、どんなに強いカーブでも読まれてしまう。
シャルルナールは当時、右、左、インサイド、アウトサイドを自由に使えた。
あそこまで曲がらなかったが。
球威は、後で磨けば良いのだ。
...パンパンッ!。...
誰かが肩を強めに叩く。
何だ!?
こんな時に!。
あ!。
「ジェシー。お前に任せたのはトライアウトの監視じゃない!。ここの警備だ!。分かってるな!?」
エイジンセキリティシステム社のアイルさんだ。
依頼主だ。
しまった。汗。
つい、夢中に...。
「...278番リク。パス エイト 判定結果 グリーン。トライアウト続行です。パスナイン 11番コーナーで待機。...」
私は走り出した。
...ドタドタタッタッタッタ...
会場にいる全ての人間を見て把握しておく必要がある。いや、アンドロイドであろうと、ペットだろうと。
ゲート付近。
物騒な話だが、去年も選手が2人いなくなった。
飛びっきりセンスの良い子だった。
〔... 区画A。次の待機選手はダグアウトで待機をお願いします。75番、204番、1番、45番 ...〕
この辺りは、武器商人達がたむろしている。
...ピッピーーーーーーー!...
「.....ファール!....」
礼儀正しく、運動センスの優れた、ルコント選手。
特に下層の子供達が狙われる。
...おおぉーー!。パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ...
怪しい人物がいないか...。
!!?。
何だ!?。あのデカいのは。
何をうろついている?。
まるで兵曹だ。
......ケン...タ...ケンター!...が、頑張って!頑張って!...
極限まで張り出した筋肉。
こいつが本気になれば私など、一捻りだ。
〔... ファーーーーーン...。ゼッケンナンバー24。パブロ。次、ツーオンワン。5コーナーからスタートします。 ...〕
...ウォーーーーーーーーーーー!!...
3mは悠にある。
丸太のような手脚。
左腕が無い。
黒髪を後ろに束ねている。
特大のスーツにチョッキ。防弾だ。
...ピーーーーーーーーーーーーーーー...
「...カモン!...」
ボディガードの出で立ちだが...。
大男は、E6ゲートの方を向いている。
「...ナイスだ!いいぞ!...」
「き、貴様!!そこで何をしてる!?。」
何だ?!。
〔...ゼッケンナンバー99番 カミーユ。トラップ1 失格。トライアウト終了です。お疲れさ...〕
「い、いやね。ちょっとお茶を、お茶を、の、飲もうと思ってね。でも、蓋が開かなくて。片手だもんだから。ははは...」
なんだ、このなよっとした大男は。
「....ピッピッピーーーーーー。ノーカウント。続行。...」
気味が悪い!。
髭のあるこの厳つい顔から想像できないほどの軟弱さだ。
が、顔は真面目そうだ。
冷や汗をかいているのか?。
寧ろ気が弱そうだ。
こっちも、ドッと汗が流れた。
目をしばしばさせながら、水筒の蓋を開けようとちょこちょこと動いている。
寧ろ、こんな男にボディガードが務まるのか?。
この男も、こんな仕事したくないだろう。腕も仕事で失ったか。
「おい!。貸してみろ!。」
「あぁぁ。ありがとうございますぅ。の、喉がカラカラで...。なんせ、私はデカいものだから...。」
誰もが4等以下の市民の腕や足は、まるで虫かカエルの足ぐらいにしか思っていない。
...ガガガガ...ガガガガガガ...
まるで樽のような水筒だ。
が、もうあまり入ってはいない。
「ほら!」
何をやってる!。
私は忙しいんだ!。
脇に水筒を、樽のような水筒を挟もうとしてる。
蓋を受け取る気だ。
「おい!もう、飲み干すんだから、いいだろう!!。蓋を持っててやるから早く飲め!」
不器用な奴だ!。
「え?あぁ、あぁ。ありがとう。」
何かイライラする奴だ。
...ゴボゥッ!ゴボゥッ!...
二口で無くなった。
水筒を覗き込んでは、また口に持っていく。
「もう入ってないだろうが!!俺は忙しいんだ!!」
「へっ、あぁ...。ご、ごめんなさい。」
見た目は厳ついが、ノロマなオカマだ。
しかも、どこか抜けている。
こんなボディガード見たことが無い。
えぇっと...。
ビッククラウドは広い。
次のE7ゲートまでが私の守備範囲だ。
後は...
こうはしてられない。
E8の警備員を確認すれば、取り敢えず見回りは終わりだ。
はっ、はっ、はぁ、はあ。
息が上がる。
やはり私も歳だ。
これくらいで息が上がるとは。
あぁいたいた。
「社長。ちょっとトイレ行きたいのでここ変わっていただけますかぁ。」
ん!?
えぇ?。
ふぅ、ふぅ、はぁ、ハァ。
やっとここまで来たのに。
社長とは言っても、ただの班長のようなものだ...。
現実はこんなものだ。
まぁ、いいか...。
「おぉ。いいよ。ロメール。はぁ、ハァ、い、行って来て。」
ん?
...おおぉーーーーーー!!...
...そこだぁ!サンチェス行け!...
また、歓声が上がる。
んん!?
...トーーーーーーン!...
シュートを打った!。
...ガーーーーン!....
...おおぉ...
ゴールポストに当たった...。
ざ、残念。
〔...ゼッケンナンバー56番 サンチェス。シュート外れました。残念ですがトライアウトは終了です。また次の挑戦に期待します。お疲れ様でした。...〕
すらっとした少年だ。
かなりのレベルだったのに。
緊張したか...。
いつもの実力が出なかったか...。
いや、本番で出るものが実力。
ルコントはそういう競技だ。
しかし、残念だ。
「...んだよ。くっそ。ホントについてねぇ。」
「サンチェ。惜しいよ。今の。ワントラで前落とした方が良かったんじゃないのか?お前らしくない。」
「いや、あのr2とd2、動きが遅すぎるんだよ。全然こっちについてこれてねぇんだ。」
「確かに、お前にはあの動きは鈍過ぎるよな?。調子狂っちまうよな?。」
「くっそ!くっそ!。今年こそ行けると思ったのに。ルコントなんてクソ食らえだ!ふざけんな!」
あぁあぁ!。
ボールを区画に投げ込んだ。
しゃがんだ。
おやおや泣き出した。
そこで座ったら。
「おい。サン!そこで座っちゃダメだ。」
兄らしき男が少年の肩を抱いてこっち見た。
「くっそ。何でなんだよ!くっそ!今度こそ兄さん達と同じになれるとおもったのに!泣」
可哀想だが、進行の妨げになるのなら...。
兄がまたこっちを見て、すまないというような顔を...。
「おい。サン。行くぞ。分かってる。俺も兄さんも分かってるから。お前がどれだけ才能があるか、どれだけ頑張ってるか...。お前ならやれる。絶対に。お前は自慢の弟だ。天国で母さんも誇りに思ってるよ。さぁ。ほら。」
少年は、泣きじゃくりながらやっと立った。ボールは移動中の次の選手が蹴って返して来た。
兄の胸元に正確に。
「お。ありがとな。君もガンバレ!。」
兄は、ボールをキャッチし手を上げると、直ぐに弟の肩を抱え、話しかけながら退場ゲートに向かった。
...ダッダッダッ...
「ジェシーさん!じゃねぇや。社長!。ありがとう。終わった。笑」
「おぉ、ロメール。遅かったじゃないか。笑。タバコでも吸ってたのか?」
「いや、たんまりと出してたよ!笑」
「チッ。汚い。そんなことは言わなくていい。」
「はははは!。それよりジェシーさん。じゃねぇや社長!。」
「ジェシーでいいよ。どうせ社長だなんて思ってないんだから君らは。笑」
「そんなこと無いよ。笑。向こうで、結構凄いのがプレーしてるよ。何人か。バイアールジュニア達が。」
「ホントか?」
「いよいよ大本命登場だな!。去年もあの少年チームは全国大会準優勝だから。」
「去年は、三位。準優勝は2年前だ。まぁ今年こそ優勝と言われているがね。」
「そっか!行って来なよ。ジェシーさん。」
「区画は?」
「区画はEだよ。あのブルペンの方。」
「あぁ、私の所からは見えないな。残念だ。」
「いや、ガルシアにジェシーさんと、いや社長と変われって言っといた。どうせあのデブオタク、フライドチキンとアイドルにしか興味ないんだから。」
「ほ、ホントか!。悪いな。でも、アイルさんが何て...。」
「そんなもん、何とでも!。大事な選手が多いから、ここの区画は責任者である私がとか言えば良いんですよ!。」
「あぁ、なるほど。」
「早く行ってくださいよ!せっかく話つけて来たんだ。あ...言っちまった。汗。...さ、さぁ早く!。終わってしまうよ!」
「あそうか。いや、悪いなロメール!。いやいや。ありがとう!」
...ダッダッダッダッ...
「...後で感想聞かせてよ!社長!...」
私はロメールに手を上げE区画に走った。
...ワーワー...
...ウォーーーーーーー...
...ワーーーー...
...ワーワー...
...ウォーーーーーーー...
...ワーーーー...
...ワーワー...
...ウォーーーーーーー...
...ワーーーー...
一際、大きな歓声が...。
あの坊主の白い少年。
青いユニフォーム。バイアールジュニアのユニフォーム。ゼッケンの下から背番号が見える。
い、1番。
こ、これでも3番手だ...。
エースが4、次が11、その次が1番と決まってる。
少し大柄。
す、凄い...。
とても、小学生のレベルではない。
何だ、あの動き。
...トン...
交わして軽くトラップ。
...トン、ダン...
一回のリフティングでアンドロイドを交わして、ボレーでパス。
す、凄い...。
!?
最初からアンドロイドを着けさせてるのか!?。
勿論、最初から着けて良い。
その方が、パス、トラップ、ドリブル、全てをまとめて終わらせることが出来る。
だが、難易度は数倍に上がる。
「...いいぞ!キース!一気に片付けちまえ!...」
あ!
ぶ、ブルースだ。
ユルダームジュニアのブルースが...。
観客席に。
「おい。あっちはブルースの弟だぜ。ジェシー。」
「おぉお!!び、びっくりしたぁ。突然話しかけてくるな。オーエン!。びっくりするだろ。」
「大丈夫だよ。アイルさんなら昼飯に出かけた。」
「そういう問題じゃない。」
「そういう問題だろ!笑」
義兄のオーエンだ。家で働いてる。奴も大のルコント好きだ。
...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...
...ワーーーー...
...ワーーーー...
歓声は最高潮に達してる。
「見ろよ!。トミーとミックだ。ミックは、ブルースの弟だ。」
「おぉお!!」
...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...
スタジアムの全員が気づいた。
大、大、大歓声だ。
大気が真っ白に感じる。
地響きみたいだ。
ミックは、F区画、トミーはD区画。
隣だ。
子供なのに、何だこの人気は...。
「...ミックだ!ブルースの弟だ!...」
...オオーーーーー!...
...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...
〔...ゼッケンナンバー113。キース。シュート成功です。成功率1/1 100%です。総合得点977点。2次選考の日程は、9/24、10/7、10/23の3つの日程から選択できます。本日のトライアウトは終わりますが、次回日程の予約を事務局に通して帰ってください。...〕
おおぉ...。
初の成功者だ。
...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...
相変わらず凄い声援だ。
今回の募集枠は3人。
残酷だが、バイアールジュニアの3人で決まりだ。
...トーーーン!...
...トーーーーーーーーン...
始まった。
2区画同時に。
アンドロイドのハイパントからスタートだ。
ミックとトミーは、全力で走り出して行く。
トミーが、ボールを足で丁寧にキャッチすると同時に、アンドロイドに激突。
アンドロイド越しに身体を回転させ...。
...ピッピーーーーーーーーーーー!!...
ボールがネットを揺さぶる。
い、いきなりゴールを決めた...。
...汗。
何だこいつは...。
〔...ボールイン継続!...〕
向こうのコートだ。
...トーン...
ミドルのパント。
...パン...
自分でパントを上げる。
子供の背丈では不利だ...。
アンドロイドが来る!。
...ガッゥ!...
いきなりアンドロイドを倒した。
...トン!ドーーーーーーン!...
...シャンシャン...
ゴールネットが揺れる。
いきなり...。
いきなりシュートを決めて来る。
...パン!ギュウィーーーーーーン!...
キラーパス。
変化して、キャッチ役のアンドロイドの所まで大きくカーブする。
...ダン!ターン!...
アンドロイドはボレーでボールを返して来る。まるでパッキオのようゆ。
ミックが躓いてボールを空中に引っ掛け上げて倒れかけた。
!!?
違う!!
ヒールシュートだっ!!
ミックが芝に倒れこんだ。
...ドーーーーーーン!...
...シャンシャンシャン...
「...ファーーーーーーーーーーーン!...」
〔...ゼッケンナンバー32。トミー。シュート成功です。成功率2/3。67%です。総合得点981点。2次選考の日程は、9/24、10/7、10/23の3つの日程から選択できます。本日のトライアウトは終わりますが、次回日程の予約を事務局に通して帰ってください。...〕
トミーとキースがハイタッチをしている。
ミックはさっきから、ドリブルで二体のアンドロイドを弄んでいる。
プロリーグ級の選手をコピーしているアンドロイドが、全くミックのボールに触れられない。
ミックのこの技術は圧倒的だ。
ブルース以上かもしれない...。
...ポーーーーーーーーン!トーーーン!...
次々とパスを通して行く。
〔...フォーーーーーーーーーーーン!ゼッケンナンバー17。ミッキー。シュート成功です。成功率2/2。100%です。総合得点1023点。2次選考の日程は、9/24、10/7、10/23の3つの日程から選択できます。本日のトライアウトは終わりますが、次回日程の予約を事務局に通して帰ってください。...〕
...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー...ワーーーーー...
...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...ワーーーー......ワーーーーー...ワーーーーーーーーーー...ワーーーー...
「凄い熱気だな?ジェシー。離席してすまなかった。バイアールジュニアを見ててくれたのか?ありがとう。彼らは別格だな?。ジェシー。飯を食いに言ってくれ。交代だ。」
アイルさんだ。
昼飯から帰って来た。
「あぁぁぁ。ありがとうございます。」
アイルさんがすっかりと上機嫌になっている。
私はロメール達に合図を送り、退場ゲートに向かった。
先にすまないな。
!?。
あの少年。
汚れた練習着。
ずっと立ってる。
ダグアウトに。
まだ呼ばれてないのか?
順番はもっと前だったはずだが...。
もうあと、1時間も無い。
ずっと立って、各区画を見つめてる。
そわそわしてる。
いや、ワクワクしてる。
少年らしい可愛らしい顔をしてる。
希望で一杯だ。
目がキラキラしている。
他の子と同じだ。
いや、他の子よりも。
可哀想に...。
下層市民というだけで。
順番を完全に忘れられている。
あの少年を悲しませい結末を望む。
選考しないまでもせめて同じことをさせてやってくれ。
排除するなら、せめてあの子を傷つけぬよう。
分からないようにしてやって欲しい。
ただ下層に生まれただけなのだ。
さあ、何を食おうか...。
ハンバーガーか。
少し先のソーコー地区のパスタにするか...。
腹がペコペコだ。




