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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
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バグースの砂獣9


●バグダディス:砂の国の民。バグー人。

●ボグルー族:バグダディスの中で最も砂上生活に適した種族。砂獣ヤーとの関わりが最も緊密。

●ハーメン:ボグルー族の中に稀に生まれる、下半身が砂獣の人間。砂獣の言葉が分かる。下半身に、砂獣と結合する神経穴を持っている。

●ティンバレン:現在のハーメンの長。大砂相。

●ゲールグリッサン:バグーの砦や城の巨大な石の門。門上が橋になっている。高さ50〜100m。

●ギューデ:聖の間

●シシリー:ティンバレンの世話係の長。高齢。白髪。髭を蓄える。小柄だがガッチリとした体型。

●グリン:女のハーメン。34歳。世話係の次長。ハーメンの子供3人を育てている。心配性。

●ロッツォー:グリンと同じく世話係の次長。人間。高身長。

●フッカ:世話係。若い。優秀な人材。


----------------------------------------



...スーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


ガチャ、ジャン!

ガチャ、ガチャ、ジャン!ジャン!


ゲールグリッサンの回廊を、青い絨毯の上を、ソリが滑って行く。


4000年前の大砂相 ケンボラの為に作られたこのソリ。ロッキングチェアにも似ている。頑丈なジャイナ杉の木彫り。


創りは豪華だ。


しかし、変わりはない。


我らのハーメンの特異な下半身を隠し、地上でゆっくりとしか進めない我らを運ぶ道具。


重い重い我らの身体を。


...スーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


ガチャ!ジャン!!

ジャキッ!ガチャ!

ジャン!ジャン!


早く砂の地に戻りたい。


「... こちらは、大丈夫です。さぁ ...」

「... よいっしょっと。押してください。一緒に。...」

「... もうすぐです。みなさん頑張って。 ...」

「... こ、こっちはダメです!。見つかったら面倒だ。 ...」


...すまない。みんな。...


「... ハァ、ハァ...良くお休みになってる。良かった。 ...」


ジャキッ!ジャン!ガチャ!

グリンの鉄の杖(歩行器)の音がする。

良くグリンは着いて来ている。


しかし、この音が、追跡者の気付かれるかもしれない。


「... さぁ、シシリー様。もう一踏ん張りですよ。 ...」


でも、グリンは一生懸命だ。優しい娘だ。


陸の上では、私達は本当に人の手を煩わせる。私のように年老いて肥大化した者は特に。赤ん坊よりたちが悪い。


シシリーがいる時は、シシリーがソリを押す。二人には悪いが乗り心地も安心感も違う。そして、速い。


ソリが転べば、私は怪我をしてしまう。


シシリーは、器用に素早く、そして、確実に障害を避けて行く。愛と責任感の賜物だ。この者の家族は幸せだ。

神業と言っても過言ではない。


シシリーは小柄だがガッチリとした身体をしている。しかし、シシリーはとうに若くはない。


「... シシリー様、こちらです。! ...」


?。


空気が変わった。

温かく、ランプの油の匂いがする。


...ギュゥーーースーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...

...ギュゥーーースーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


敷物が変わった。


「... ふぅ。着いたな。 ...」

「... ふふ。笑。良くお休みになっている。 ...」


この者達の前で寝たふりをするのは容易い。あの方の前では至難の技だった。


お名前は何と言ったかな。


最近は、物忘れが酷い。


母様のお名前も思い出せぬ時がある。


あの方...。


アーシャ。そう、アーシャ兄様...。


「... フゥ、フゥ!ここまで来れば安心だぞ!。 ...」


「... まだ気は抜けませんよ! ...」


「... まぁ、そうだが。 ...」


「... それにしても良く寝ていらっしゃる。 ...」


「... さぁ!みんな、もうひと頑張り! ...」


「... よし。 ...」


...ギュゥーーースーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...

...ギュゥーーースーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...

...ギュゥーーースーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


「... ハァ、ハァ、ハァ、ヒー...ロッツォー!フッカ!鍵を開けてくれんか? ...」


着いたのだな...。ギューデに。聖の間に。


「... はい!シシリー様。 ...」


「... よいしょ!よいしょ!グリン様!押して頂けませんか?! ...」


「...あ、はいはい。...」


「...グリン!強く押し過ぎるなよ!...」


「..はい。分かっておりますわ。...」


ジャ!ガチャ!ジャキッ!ジャキッ!


グリンはハーメンなので、押す力は人と比べられぬ程強い。


ドン!


...ギギギギギギギギギィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「...はい!グリン!もう大丈夫!ストップ!ストップ!...」


「...あわわ。はいっ!はいっ!...」


少し古めかしく、安らかな香りが。


聖の間の扉が開いた。


聖の間。


正面には、バグーの神ハプテズマ様の像を飾った大きな祭壇がある。


数十メートルはある巨大な石像。


大きな壁画。

古代シャイアン帝国を砂獣がモンタギューから救った時のもの。


天井には我がバグーの神バプテスマから、伝説の砂獣使いバーメルンが啓示を受けている絵が描かれている。


歴代の大砂相達の絵、伝説の砂獣。


マクイーや、ブライマー...。


他国の人々は、恐らく、砂獣を真似て、電車、列車なるものを編み出したのだ。


それは、砂獣のように様々な顔を持っている。


ここ、聖の間は、ゲールグリッサンでの私の居場所。


「... 段差が ...」

「... 持ち上げるぞ! ...」

「... はい! ...」

「... フッカは前を持て ...」

「... はい! ...」

「... せーのっ! ...」

「... よいしょっ! ...」

「... いよっ! ...」

「... ううん! ...」

「... よし。 ...」


ドドン。


ギューデの絨毯は更に深い。


シュッシユウゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...。


「... んん!うぅ。 ...」

「... よっせ!こらせ! ...」


シュッシユウゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...。


ギューデは広い。

私の寝室は奥にある。


ソリがゆっくりとギューデの傾斜を下って行く。


「... ここまで来れば。あとは、私が。 ...」


「... フゥ。そうか。グリン。 ...」


「... お疲れでしょう。皆さん。先はまだまだ長い。お休みください。 ...」


「... でも、グリン様も。 ...」


「... いえいえ。私は1人で心配して騒いでいただけですもの。ここからはいつものお仕事。お任せくださいな。 ...」


「... 笑。騒いでいただけとは、これはまたご自分にお厳しい。笑 ...」


「... おいおい。フッカ。笑っては失礼だぞ。 ...」


「... 確かに。グリンはおチビ達の晩ごはんの支度もあるだろう?。 ...」


「... 大丈夫ですわ。もうみんな赤ちゃんではないのです。今日はジェンに自分たちで作るか、出前を頼むように言ってあります。 ...」


「... ジェンは、小学の三年生くらいだったか?。 ...」


「... いえ。もう、中学二年生です。 ...」


「... おぉ。 ...」


「... へぇ。 ...」


「... 何と。随分大きくなったものだ。 ...」


「... あまりそのような話もしておらんな。最近は。 ...」


「... お互い、そうですなぁ。笑 ...」


「... 大砂相様をこのままにしてお話しては。 ...」


「... そ、そうだな。 ...」


「... それでは、私は警備室に泊まる。お前達はどうする?フッカは非番だったろう?。 ...」


「... 私は、家族が待っておりますので今日は。ロッツォー様は。 ...」


「... 私は、いつも通り。大砂相様のお杖やらお手入れがあるので。 ...」


「... グリン。すまんな。何かあったら呼んでおくれ。隣にいるから。では、一足先に。 ...」


「... はい。お疲れ様でした。シシリー様。 ...」

「... お疲れ様です。...」

「...お疲れ様でした。...」


ファッ、ファッ、ギュッ、ギュッ、ファッ


厚い絨毯に革靴の擦れる音が遠ざかって行く。


「... では、グリン様。私も。 ...」


「... ありがとう。フッカ。 ...」


ファッ、ファッ、ギュッ、ギュッ、ファッ、


「... グリン殿。あとは頼みます。あぁ、後で来ますよ。杖。 ...」


「... はい。ロッツォー様。よろしくお願いします。...」


ファッ、ファッ。


「...さぁ。大砂相様。参りましょう。いつも通り。...」


グリンが優しく囁く。

そうだ。

いつも通りだ。


...ススーーーーーーーーーースススーーーーーーーーーー...スススーーーーースススーーーーーーーーーーーーーーー...


ソリは不規則だが柔らかく押されて行く。シシリーのそれより力強く。


グリンが押している。

砂獣の足で押している。


坂を下る。

グリンが押さえている。

ソリが加速することはない。


ソリが左に曲がる。


柔らかい匂いがしてくる。


微かな香水の香り。

日に干した布団の香り。


スゥーーーーーーーーーーーーーーーー


ソリから私の身体が横に滑る。


スゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私の寝台へ、グリンが移してくれている。


パサッ。


グリンが布団を掛けてくれる。


カチャ、カチャ、ガチ。


水だ。いつも枕元に置いてくれる。


...タタン、タタン、タタン、タタン


グリンが絨毯を歩いている。


ジャキッ。ジャキッ。ジャキッ。ジャン。


近くで金属のぶつかる音がする。

恐らく私の歩行器だ。


「....グリン殿。...こちらへ...」


「......ありがとうございます。ロッツォ様。...。」


「大砂相様。ゆっくりとお休みくださいませね。」


グリンが囁く。


...タタン、タタン、タタン、タタン

...タタン、タタン、タタン、タタン


グリンは、働き者だ。暫く部屋にいるだろう。


「フゥーーーーーーーーーーーーーーー」


自分でも驚くほどの深い息が。


皆の手前、少し気を張っていたが、そのタガが外れ、深く深く意識が沈んでいく。


深く、深く。


「...フゥーーーーーーーーーーーーーーー」


深く。


「...ゴゴゴゴ.....。」


ドラゴンがどこぞで鳴きはじめた。


...私のいびきだ。笑。


....


.......


....................


.....


....


.......


....ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


....................


.....


.............................


.....


.....

.............................


.....


.....


ビ...


ビ................ス..............


...................ケ


...........ス.............



....


.......


....................


.....


.............................


.....


.....


....ビ....ス....ケ....ス....


誰だ?


私の名を呼ぶのは?。


私の幼名を知っているのは。


「....ビスケス。....」



「ビスケス!。何をグズグズしてるの!早く歩きな!。」


「は?。」


「は?じゃないよ!全くこの子はボーっとして!。」


「おばあちゃん。何でビスケスにはいつもそんなに厳しいの?。可哀想よ。」


!!?。


クロッカ姉さん。


おばあちゃんも。


はっ!


また叩かれる...。


「全く。この子はグズでのろまで。おまけに醜いと来てる。」


「おばあちゃん、止めて!。お母さんに言いつけるわよ!。」


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