バグースの砂獣7
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大気が震え、耳をつんざくような爆音が轟く。
大気はバグースの砂でオレンジ色に染まっている。
まるで、爆音がバグースの砂を、空高く巻き上げているかのように。
石橋の両端にいる、ダーイエの巨大な石像は、カラカラを護り、バグースの彼方を見つめている。
今日、この日。ゲールグリッサンから見渡すバグースには、ここカラカラを中心に、1万を超える砂獣、そして、ハーメン(砂獣使い)達が集まっている。
地平の果てまで連なる無数の巨獣が、あちこちで、噴砂口からの砂を噴きあげている。
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●バグース:砂の帝国バグーを囲む砂漠。
●ダーイエ:バグーの伝説にある黄金の砂獣。
●ゲールグリッサン:バグーの砦や城の巨大な石の門。門上が橋になっている。高さ50〜100m。
●カラカラ:バグースにある岩山で囲まれた聖地。小都市。13万年前に建立されたゲールグリッサンという名の大きな砦門がある。
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無数のハーメン(砂獣使い)そして、砂獣ヤーの雄叫びが響き渡る。
来たる時に備えて...。
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私は、ゲールグリッサンの手摺に手を置き、無数の砂獣とハーメンを一目した。
我々ハーメンは、ボグルー族にだけ産まれる。人間でありながら、下半身は砂獣ヤーと同じ形をしている。
ハーメンは皆両腕が発達している。ハーメン用の杖、金属で出来た三又の杖を両方の手に持ち、下半身を海老のように前に曲げ、引きずるように歩く。大砂相である私のものは巧みな彫刻が施されている。
我々は、腕で歩き、腕で文字も書く。
しかし、高齢の私にとって、歩くということは、容易いことではない。
そして、私は、他の老いたハーメンのような、連足歩行器を使えない。
下半身が肥大し過ぎて身体が入らないのだ。
肩も、腕も、肘も常に悲鳴をあげ、いよいよ限界に近づいている。
支度係のシシリーが身体を支えてくれている。
シシリーは、普通のバグダディス(バグー人)だ。
雄叫びあげる者たち。
しかし、やはり何も語るべきではない。
今は。
語るべきことは何も無い。
高く風の強いゲールグリッサンの、今来た道を戻る。
首の高さまで、手摺がある。
バグースの岩を、くり抜いて作られた壁。古の伝説が描かれている。
モンタギュー、バグダディス、そして、砂獣ヤーの大群。木彫りのように極限まで削られた、古の伝説。この石壁の彫刻は、バグーのいや、世界の遺産となっている。
ゆっくりと強風の中身体を引きずる。
ゲールグリッサンの上は身の縮む思いだ。
高くて恐ろしい。
壁の彫刻も、ヤーの進撃の、最近章を過ぎた。
ダーイエの石像。階段塔である門柱はすぐだ。
砂相が近づいて来る。
「大砂相様!!!。だ、大砂相様!!!。みなを鼓舞してくださいませ!!!。大砂相様!!!。」
皆まだ若い。
ズズズズズズーー
ズズズズズズズズズーーー
杖を付き、身体を引きずり、大勢の砂相達が付いて来る。
「ティンバレン様!!!みなにお言葉を!!!。大砂相ティンバレン様!!!。どうか温かい激励のお言葉を!!!。」
まるで私が何か罪でも犯したかのように、全ての砂相が詰め寄って来る。
支度係のシシリーが、砂相達を制止し、階段塔へと私を誘う。
「...ティンバレン様こちらです。今は、ギューデへ。取り敢えずは聖の間へ。さぁ。こちらでございます。...」
砂相達が迫り来る。
「大砂相様!!!どうか我らにお力を!!!お力をお貸しくださいませ!!!。大砂相様!!!。」
何をそんなにいきりたっているのか。
何故いとも簡単に踊らされてしまうのか。
あなた達は。
砂獣が出る。それは即ち、尊い、無数の人間、そして生き物達の命が失われること。
そして、哀しみの連鎖はこの星の深淵な場所にまで、そう、星の魂にまで届くであろう。
「...大砂相様!!どうなされたのです!!大砂相様!!。...」
「...ティンバレン様...。こちらでございます。...」
シシリーは、素早く螺旋階段へ私を誘導する。シシリーは、ゲールグリッサンの中を知り抜いている。
私のために。
「あぁ、すまぬ...。」
心臓が破れそうだ。
砂相達は、迷路のようなゲールグリッサンの中で、次々とシシリーに撒かれていく。
「......大砂相様ぁーーーー!!!大砂相様ぁーーーー!!......」
追っ手が迫って来る。
突き当たりの壁。
ヤー彫刻に、石の蝋燭立ての腹に、シシリーがコインを押し込んだ。
...チャリーーーン...
...ギギギィーーーー
壁が大きな石戸のように、左右に開く。
冷んやりとした、暗闇の中に、大きくそして急な、石の螺旋階段が見える。
ゴンドラも見える。
怖いが行かねば成らぬ。
人でも恐れる急な螺旋階段。大きな大きな石の螺旋階段。
下半身の不自由な、年老いたハーメンには、命がけのこと。
「...ティンバレン様、お、お早く、お、お早くお乗りくださいませ。お、お、追っ手が迫っております。...」
シシリーは、この小柄な付き人は、いつも命がけで私を守ってくれる。
シシリーの息が匂う。緊張感から口が渇いているのだ。
興奮した我らハーメンは、砂獣と同じ。砂獣の下半身で押してしまう。あの数の砂相達に押されれば、私もシシリーも容易く押し潰されてしまう。
小柄なシシリーは、必死で私を持ち上げようとする。
小柄でも私の身体は200kgを越える。下半身が肥大化し過ぎたせいだ。
シシリーには持ち上がらない。
自力で、私は身体を引きずる。
肩も、腕も、肘も、もはや限界。
「うぅぅ...。うぅぅ...。」
バプテスマの神よ。どうして私をこの身体に産みなさった。産まれた時より何万回この問いを神にしただろうか。
ズズズズズズズズズ...
ズズズズズズ...
ドーン!
私の硬い甲殻が鉄の床に...。
乗った....。
タンタンタン。
シシリーは軽やかにゴンドラに乗った。
...キュルル、キュルル、キュルルルル、キュルル、キュルル、キュルルルルルル...
シシリーが、ゆっくりとハンドルを回す。
私とシシリーを乗せたゴンドラは、ゆっくりと螺旋階段を降りていく。
それに伴い、左右に大きく開いた石の壁も、ゆっくりと閉まって行く。
私とシシリーはゴンドラに乗り、奈落に降りて行く。深い深い奈落に。
...キュルル、キュルル、キュルルルル、キュルル、キュルル、キュルルルルルル...
レンガに取り付けられた黄色いランプが、怪しく光りを放ち揺れている。
このランプは、一年中ついている。地から湧き出す油によって。
...キュルル、キュルル、キュルルルル、キュルル、キュルル、キュルルルルルル...
焼ける油の香りは、穏やかな気持ちにさせる。この地の油は、スイリンの花が化石化したもの。スイリンの油は、眠りへと誘う薬としても使われた。
かつては。
...キュルル、キュルル、キュルルルル、キュルル、キュルル、キュルルルルルル...
ドウゥーン!
ゴンドラが床に着いた。遥か彼方上、壁から光が射している。小窓のように小さくみえる。
「クッ!。閉めて参ります!これでは砂相達が入って来てしまう...。ティンバレン様、ギューデへ。聖の間へ。後ほど、参ります。念のため鍵をお締めになってお休みくださいませ!。グリンがお待ちしています。」
...タタタタ、タンタンタンタンタン、ドタッ...ツッ!!タンタンタンタンタン...
シシリーは暗闇に消えた。螺旋の階段を駆け上がって行った。
シシリーももう孫とのんびりと過ごしても良い歳。
私のためにすまないことだ。
しかし、あれほどハーメンへの偏見の無い男はいない。
頑固者だが、あれ以上の人間はいない。
ガチャ!ズズズズズズーーー。
ガチャ!ズズズズズズーーーーー。
ガン!ズズズズズズズズズ。
ガチャ、ガチャ!ズズズ。
石の回廊を杖を付き、下半身を引きずりながら歩く。
ここはゲールグリッサンの頂上まで吹き抜けている。冷たい石の、岩の香り。
....ブゥヲォォーーーーー...
外から風が流れ込んでいる。
黄色いランプが優しく私を照らす。
ガチャ。ズズズズズズーーー。
ガチャ。ズズズズズズーーーーー。
ガン。ズズズズズズズズズ。
ガチャ、ガチャ!ズズズ。
息が上がっている。
しかし、我々ハーメンにはいつものこと。
回廊の先に、四角く眩い光が小さく見える。
ゲールグリッサンは大きい。この場ですら大闘技場がいくつも入る。
ガチャ。ズズズズズズーーー。
ガチャ。ズズズズズズーーーーー。
ガン。ズズズズズズズズズ。
ガチャ、ガチャ!ズズズ。
ガチャ。ズズズズズズーーー。
ガチャ。ズズズズズズーーーーー。
ガン。ズズズズズズズズズ。
ガチャ、ガチャ!ズズズ。
ガチャ。ズズズズズズーーー。
ガチャ。ズズズズズズーーーーー。
ガン。ズズズズズズズズズ。
ガチャ、ガチャ!ズズズ。
眩い光が近く。
ガチャ。ズズズズズズーーー。
ガチャ。ズズズズズズーーーーー。
ガン。ズズズズズズズズズ。
ガチャ、ガチャ!ズズズ。
ガチャ。ズズズズズズーーー。
ガチャ。ズズズズズズーーーーー。
ガン。ズズズズズズズズズ。
ガチャ、ガチャ!ズズズ。
「...ティンバレン様ぁ!?ティンバレン様ぁ!?...」
光の中から声が聞こえる。
女の声が...。
泣きそうな声だ。
私の帰りが遅いのでびっくりしたのだろう。
グリンだ。支度係の。
グリンはハーメンの女だ。
シシリーと同じく、私の面倒を見てくれている。あまり役には立たないが、明るくて優しく娘だ。
私にはそれで良い。
そのままで良い。
...チャカ、チャ...
グリンの杖の音だ。
「グリン!来ずとも良い!。今行くからそこで待ちなさい!グリン!。」
私は叫んだ。ここまで来るのは若いグリンとて大変なこと。
そして、グリンこそ。戻れなくなる。
優しい娘だ。
「あぁ!大砂相様!!ティンバレン様!!ご無事だったのですね!!よ、良かった!良かった!ホントに良かった。泣」
グリンはまた泣いている。
優しい娘だ。
ガチャ。ズズズズズズーーー。
ガチャ。ズズズズズズーーーーー。
ガン。ズズズズズズズズズ。
ガチャ、ガチャ。ズズズ。
少し、そしてまた少し、光は近づいて来る。




