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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
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バグースの砂獣7


...ワーーーーヮーー<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーー<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーー<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ーーヮーーーーー<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーー<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーー<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮ<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーー...


大気が震え、耳をつんざくような爆音が轟く。


大気はバグースの砂でオレンジ色に染まっている。


まるで、爆音がバグースの砂を、空高く巻き上げているかのように。


石橋の両端にいる、ダーイエの巨大な石像は、カラカラを護り、バグースの彼方を見つめている。


今日、この日。ゲールグリッサンから見渡すバグースには、ここカラカラを中心に、1万を超える砂獣、そして、ハーメン(砂獣使い)達が集まっている。


地平の果てまで連なる無数の巨獣が、あちこちで、噴砂口からの砂を噴きあげている。


----------------------------------------

●バグース:砂の帝国バグーを囲む砂漠。

●ダーイエ:バグーの伝説にある黄金の砂獣。

●ゲールグリッサン:バグーの砦や城の巨大な石の門。門上が橋になっている。高さ50〜100m。

●カラカラ:バグースにある岩山で囲まれた聖地。小都市。13万年前に建立されたゲールグリッサンという名の大きな砦門がある。

----------------------------------------


無数のハーメン(砂獣使い)そして、砂獣ヤーの雄叫びが響き渡る。


来たる時に備えて...。


...ワーーーーヮーー<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーー<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーー<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ーーヮーーーーー<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーー<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーー<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮ<<...ウーーー...ウーーーーー...ウーーーー...>>ーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーーワーーーーヮーーーーー...


私は、ゲールグリッサンの手摺に手を置き、無数の砂獣とハーメンを一目した。


我々ハーメンは、ボグルー族にだけ産まれる。人間でありながら、下半身は砂獣ヤーと同じ形をしている。


ハーメンは皆両腕が発達している。ハーメン用の杖、金属で出来た三又の杖を両方の手に持ち、下半身を海老のように前に曲げ、引きずるように歩く。大砂相である私のものは巧みな彫刻が施されている。


我々は、腕で歩き、腕で文字も書く。


しかし、高齢の私にとって、歩くということは、容易いことではない。


そして、私は、他の老いたハーメンのような、連足歩行器を使えない。


下半身が肥大し過ぎて身体が入らないのだ。


肩も、腕も、肘も常に悲鳴をあげ、いよいよ限界に近づいている。


支度係のシシリーが身体を支えてくれている。


シシリーは、普通のバグダディス(バグー人)だ。


雄叫びあげる者たち。


しかし、やはり何も語るべきではない。


今は。


語るべきことは何も無い。


高く風の強いゲールグリッサンの、今来た道を戻る。


首の高さまで、手摺がある。


バグースの岩を、くり抜いて作られた壁。古の伝説が描かれている。


モンタギュー、バグダディス、そして、砂獣ヤーの大群。木彫りのように極限まで削られた、古の伝説。この石壁の彫刻は、バグーのいや、世界の遺産となっている。


ゆっくりと強風の中身体を引きずる。

ゲールグリッサンの上は身の縮む思いだ。


高くて恐ろしい。


壁の彫刻も、ヤーの進撃の、最近章を過ぎた。


ダーイエの石像。階段塔である門柱はすぐだ。


砂相が近づいて来る。


「大砂相様!!!。だ、大砂相様!!!。みなを鼓舞してくださいませ!!!。大砂相様!!!。」


皆まだ若い。


ズズズズズズーー

ズズズズズズズズズーーー


杖を付き、身体を引きずり、大勢の砂相達が付いて来る。


「ティンバレン様!!!みなにお言葉を!!!。大砂相ティンバレン様!!!。どうか温かい激励のお言葉を!!!。」


まるで私が何か罪でも犯したかのように、全ての砂相が詰め寄って来る。


支度係のシシリーが、砂相達を制止し、階段塔へと私をいざなう。


「...ティンバレン様こちらです。今は、ギューデへ。取り敢えずは聖の間へ。さぁ。こちらでございます。...」


砂相達が迫り来る。


「大砂相様!!!どうか我らにお力を!!!お力をお貸しくださいませ!!!。大砂相様!!!。」


何をそんなにいきりたっているのか。


何故いとも簡単に踊らされてしまうのか。


あなた達は。


砂獣が出る。それは即ち、尊い、無数の人間、そして生き物達の命が失われること。


そして、哀しみの連鎖はこの星の深淵な場所にまで、そう、星の魂にまで届くであろう。


「...大砂相様!!どうなされたのです!!大砂相様!!。...」


「...ティンバレン様...。こちらでございます。...」


シシリーは、素早く螺旋階段へ私を誘導する。シシリーは、ゲールグリッサンの中を知り抜いている。


私のために。


「あぁ、すまぬ...。」


心臓が破れそうだ。


砂相達は、迷路のようなゲールグリッサンの中で、次々とシシリーにかれていく。


「......大砂相様ぁーーーー!!!大砂相様ぁーーーー!!......」


追っ手が迫って来る。


突き当たりの壁。

ヤー彫刻に、石の蝋燭立ての腹に、シシリーがコインを押し込んだ。


...チャリーーーン...


...ギギギィーーーー


壁が大きな石戸のように、左右に開く。


冷んやりとした、暗闇の中に、大きくそして急な、石の螺旋階段が見える。


ゴンドラも見える。


怖いが行かねば成らぬ。


人でも恐れる急な螺旋階段。大きな大きな石の螺旋階段。


下半身の不自由な、年老いたハーメンには、命がけのこと。


「...ティンバレン様、お、お早く、お、お早くお乗りくださいませ。お、お、追っ手が迫っております。...」


シシリーは、この小柄な付き人は、いつも命がけで私を守ってくれる。


シシリーの息が匂う。緊張感から口が渇いているのだ。


興奮した我らハーメンは、砂獣と同じ。砂獣の下半身で押してしまう。あの数の砂相達に押されれば、私もシシリーも容易く押し潰されてしまう。


小柄なシシリーは、必死で私を持ち上げようとする。


小柄でも私の身体は200kgを越える。下半身が肥大化し過ぎたせいだ。


シシリーには持ち上がらない。


自力で、私は身体を引きずる。


肩も、腕も、肘も、もはや限界。


「うぅぅ...。うぅぅ...。」


バプテスマの神よ。どうして私をこの身体に産みなさった。産まれた時より何万回この問いを神にしただろうか。


ズズズズズズズズズ...

ズズズズズズ...


ドーン!


私の硬い甲殻が鉄の床に...。


乗った....。


タンタンタン。


シシリーは軽やかにゴンドラに乗った。


...キュルル、キュルル、キュルルルル、キュルル、キュルル、キュルルルルルル...


シシリーが、ゆっくりとハンドルを回す。

私とシシリーを乗せたゴンドラは、ゆっくりと螺旋階段を降りていく。


それに伴い、左右に大きく開いた石の壁も、ゆっくりと閉まって行く。


私とシシリーはゴンドラに乗り、奈落に降りて行く。深い深い奈落に。


...キュルル、キュルル、キュルルルル、キュルル、キュルル、キュルルルルルル...


レンガに取り付けられた黄色いランプが、怪しく光りを放ち揺れている。


このランプは、一年中ついている。地から湧き出す油によって。


...キュルル、キュルル、キュルルルル、キュルル、キュルル、キュルルルルルル...


焼ける油の香りは、穏やかな気持ちにさせる。この地の油は、スイリンの花が化石化したもの。スイリンの油は、眠りへと誘う薬としても使われた。


かつては。


...キュルル、キュルル、キュルルルル、キュルル、キュルル、キュルルルルルル...


ドウゥーン!


ゴンドラが床に着いた。遥か彼方上、壁から光が射している。小窓のように小さくみえる。


「クッ!。閉めて参ります!これでは砂相達が入って来てしまう...。ティンバレン様、ギューデへ。聖の間へ。後ほど、参ります。念のため鍵をお締めになってお休みくださいませ!。グリンがお待ちしています。」


...タタタタ、タンタンタンタンタン、ドタッ...ツッ!!タンタンタンタンタン...


シシリーは暗闇に消えた。螺旋の階段を駆け上がって行った。


シシリーももう孫とのんびりと過ごしても良い歳。


私のためにすまないことだ。


しかし、あれほどハーメンへの偏見の無い男はいない。


頑固者だが、あれ以上の人間はいない。


ガチャ!ズズズズズズーーー。

ガチャ!ズズズズズズーーーーー。

ガン!ズズズズズズズズズ。

ガチャ、ガチャ!ズズズ。


石の回廊を杖を付き、下半身を引きずりながら歩く。


ここはゲールグリッサンの頂上まで吹き抜けている。冷たい石の、岩の香り。


....ブゥヲォォーーーーー...


外から風が流れ込んでいる。


黄色いランプが優しく私を照らす。


ガチャ。ズズズズズズーーー。

ガチャ。ズズズズズズーーーーー。

ガン。ズズズズズズズズズ。

ガチャ、ガチャ!ズズズ。


息が上がっている。

しかし、我々ハーメンにはいつものこと。


回廊の先に、四角く眩い光が小さく見える。


ゲールグリッサンは大きい。この場ですら大闘技場がいくつも入る。


ガチャ。ズズズズズズーーー。

ガチャ。ズズズズズズーーーーー。

ガン。ズズズズズズズズズ。

ガチャ、ガチャ!ズズズ。

ガチャ。ズズズズズズーーー。

ガチャ。ズズズズズズーーーーー。

ガン。ズズズズズズズズズ。

ガチャ、ガチャ!ズズズ。

ガチャ。ズズズズズズーーー。

ガチャ。ズズズズズズーーーーー。

ガン。ズズズズズズズズズ。

ガチャ、ガチャ!ズズズ。


眩い光が近く。


ガチャ。ズズズズズズーーー。

ガチャ。ズズズズズズーーーーー。

ガン。ズズズズズズズズズ。

ガチャ、ガチャ!ズズズ。

ガチャ。ズズズズズズーーー。

ガチャ。ズズズズズズーーーーー。

ガン。ズズズズズズズズズ。

ガチャ、ガチャ!ズズズ。


「...ティンバレン様ぁ!?ティンバレン様ぁ!?...」


光の中から声が聞こえる。

女の声が...。


泣きそうな声だ。

私の帰りが遅いのでびっくりしたのだろう。


グリンだ。支度係の。

グリンはハーメンの女だ。

シシリーと同じく、私の面倒を見てくれている。あまり役には立たないが、明るくて優しく娘だ。

私にはそれで良い。

そのままで良い。


...チャカ、チャ...


グリンの杖の音だ。


「グリン!来ずとも良い!。今行くからそこで待ちなさい!グリン!。」


私は叫んだ。ここまで来るのは若いグリンとて大変なこと。


そして、グリンこそ。戻れなくなる。


優しい娘だ。


「あぁ!大砂相様!!ティンバレン様!!ご無事だったのですね!!よ、良かった!良かった!ホントに良かった。泣」


グリンはまた泣いている。

優しい娘だ。


ガチャ。ズズズズズズーーー。

ガチャ。ズズズズズズーーーーー。

ガン。ズズズズズズズズズ。

ガチャ、ガチャ。ズズズ。


少し、そしてまた少し、光は近づいて来る。

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