ダヌアの空に22
少し温かで穏やかな午後。
大気はしっとりしてる。
時たまひんやりとした風がほのかにクヌンの香りを運んで来る。
黒い土の水たまりに二つの太陽が映ってる。
少し高い丘の上。
ゾーグ平原の丘にみんないる。1万7000人全員。
沼地より数メートル高いだけの丘。
学校のグラウンドがいくつも入りそう。
クヌンだけじゃなく、大きな苔が生えてる。苔にも花が咲くらしい。白、ピンク、オレンジの花。
少しほっとする。
ここを拠点にすれば良いのに。
戦闘機隊、飛行艇隊も追いついた。
アルバーン方向に着陸してる。
あんな至近距離に整列して着陸するなんて、やっぱりプロだ。
地震に備えて距離を置いてるって。
もっと隣接しても、コックピットに入ってから1分で離陸できるらしい。
神業って言うんだよね?。確かこういうの。
みんなの笑い声が聞こえる。
...ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ...こっちよ!...ガヤガヤガヤ...アハハハッ!...ガヤガヤガヤガヤ...何でだよ!笑...ガヤガヤガヤガヤ...それでよぉ笑...ガヤガヤガヤガヤザワザワザワザワ...あははは...ガヤガヤガヤガヤ...オーー!!ワッハッハッハッハ!...ザワザワザワザワザワザワ...はっはっは...ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ...ホントに?!...ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ...ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ...
『...お待たせしました。ただいまより、第17班の給仕を開始します。この回で最後になります。もう一度ハラール食、ビーガン食も出ます。まだ食べていない方はこの最後の回を...』
給仕の放送だ...。
あっちこっちで放送が流れてる。
アギュラーラムダからだ。
凄くハイテクな放送塔。笑
かなりの数のアギュラーが慌ただしく移動し始めたから、一時は騒然としてた。
これだったんだ...。笑。
あの緑色のトレーラーは。
大きなドラム缶を横にしたようなトレーラーは、いったい何に使うのかなって思ってた。
何台も何十台も連なって、コンテナが横に開き始める。
圧巻な景色だ。
ご飯、パン、サラダバー、スープ、スイーツ、飲み物、そして大きな大きないくつもの鍋に噂のチキンカレー。
みんな次々とトレーごと受け取って行く。
最初で最後の給仕になるのかもね...。きっと。
シムセプトのボディーに座ってカレーを食べてる人たち。
軍の敷物を敷いて輪になって座ってる女兵士さん達。
「...うわ。うんまっ!。...」
「...お、美味しい!。..,」
立ったまま、食べてる人。
地面にあぐらをかいて食べてる人たち。
「...美味ぇ。...」
黙々と食べて、何も喋らない人も多い。
「...おかわりの方は、あちらの列に並んでください。こちらは、まだ食べてない人のトレーラーですよー!!。...」
「...どうぞー。こちらも空いていまーす!!。...」
「...よし来た!。...」
「...おい!行くぞ!笑。...」
大の大人達が大はしゃぎだ。
グググギュルギュルギュルグゥウ...
腹減った...。泣。
「...空戦が長引いたろ?それで結構食材が余ってたらしいぜ。...」
「...賞味期限切れる食材ばかりなんだってさ。...」
「...おかわりの方どうぞー。...」
はぁぁ...。腹が...。
《...おーーい。...》
何!?。
!?。汗。
怖っ。
《...おーーーーい。リュウ...》
お、俺!!?。
どこ!
だ、誰!?。
ファラール(大型高速装甲車)の後ろから、大きな人影が。ファラールは、装甲歩兵用の装甲車。
手招きしてる。
怖。
「...おい!何してる!。早く来い!。...」
聞き覚えのある声。
あ!。
何だバンガルーロさん?。
ほっ...。
笑。どうしました?。
ヒソヒソ話なんかして。
凄い怖い顔してる。
手招きしてる。
なんだろ...。
告られたりして...。汗。
エンムジープの裏へ手招きしてる。
何かいい匂い。
あ!!!。
ち、ち、チキンカレーが!!!。
エムジープのステップに、スープも、さ、サラダも!。
何で?。
これ、誰の?。
「食え!。」
ええ!!!。
何で!?。
「え!。何で?ですか??。軍曹殿のは??。」
「いいからさっさと食え!アホタレ!ジャイロや、隊長に見つかったら面倒だ。俺が見張りしてっから早く食え!。」
「でも...。」
「人の施しは素直に受けるもんだ!。ほら早く食え!。誰かに見られる。」
「はいっ!。ありがとうございます!。」
「あ、アホンダラ!声がデカい。」
バンガルーロさんはちょービビってる...。
髭だらけの顔が真っ赤だ。
汗かいてる。
バンさん、ホントいい奴だ。
「実はな。装甲騎兵隊のダチが手配してくれたのよ。まじでいいやつでな。」
「その方はカレー食べられたんですか?」
「多分な。ファイヤーフォックス分隊はカレー配って回ってたぜ。騎馬に積んでな。」
「ファイヤーフォックス分隊!?」
「そう。そういや、お前のこと知ってるって言ってたぞ。よろしくって。」
「もしかして、その方」
「あぁ。有名人だよ。」
「ドンキさん!?」
「あ、アホンダラ!声がでかい!名前出すな。ドンキに迷惑がかかる。」
「す、すいません!」
「ほら。早く食え。」
うわ美味い!。
「うわっ!何これ!ちょーうめぇ!。」
「あ、アホタレ!汗。」
「す、すみません...。」
辛いけど、コクがあってまろやか...。
スパイスのいい香り。
ダシが効いてる。
凄く効いてる。
肉が一杯入ってて柔らかーい。
何杯でもおかわりできそう。
ズズズズ...。
美味い。
これチャウダーだ...。
う、うっわぁ!
幸せ過ぎる。
「笑。もう食っちゃったのか?。」
「はい。笑。ありがとうございます!軍曹。」
「違う。軍曹じゃない。今は休憩時間だからバンガルーロだ。よし、食器かせ。俺の番だ。笑。おい。口の周り拭いとけ。笑。じゃあな!。急が急げ急ぐ急ぐ時。五段活用だ。へっへっへ。あー無くなっちまう。うへへ。カレーカレー。笑。」
ドスッドスッドスッドスッ。
バンさんは大柄なのに素早い。
鍋を抱えて走って行った...。
こっちをチラ見した。
ありがとうバンさん。
ふぅ。
食ったわ。
あれならあと5杯はお代わりイケるな。
おっといけない!。
腹さすって歩いてた。
怪しまれる。
さすがに。
「...おーーい。....」
早足でくる。
リリアーノさんだ。
ガサガサガサ。
うわ。
リリアーノさんがビニール袋に入った何かを僕の開いた軍服の中に...。
暖かい。
「五個ある。バレないように食べろよ。俺に渡されたって言うな?。絶対。じゃあな。」
リリアーノさんは何も無かったみたいに、反対側に歩き出した。
返って不自然だよ。
!!?。
いい匂い。
うわ。パンだ。
やった!!。
焼きたて!!。
やった!!。
シムセプトの影で食べよう。
このシムセプトにしようか、取り敢えず。他のより個人スペースが広いな。
何でだろ。
このレオパード、ハートマークがついてる。
女の隊員さんのだ...。
結構な、修羅場を超えてきた感じだ。
装甲のキズとハートマークがアンバランス。
でも、貫禄がある...。
何か見覚えが...。
ハッ!!。
うわっ!!?。
誰かが腕を引っ張る!。
げげっ!!!!。
やべえのに見つかった。汗。
ルイス少尉だ。
鬼のルイス!。
レオパード隊の戦隊長 ジョアンナ•ルイスだ。汗。
ちょっとグッキーだけど。
綺麗•可愛い系。
でも、メッチャ性格がきつい。
タイプなのに。
「ちょっと来なさい!。」
なんだよ!。
いったい!。
腕が痛い。
この女バカ力だな...。
「何なんです?。一体。」
「いいから裏に来なさい。」
「なん何ですか?。汗。何かしましたっけ?。」
こ、殺される...。
デカイ、レオパードの裏側に引っ張られていく。これ、やっぱり少尉のだった。
何で気づかなかったんだろ...。汗。
キスされたりして...。笑。
ないか。笑。
うわ痛ぇ。ホントこの女、乱暴...。
レオパードは大型トレーラー並、いやそれ以上に大きい。見上げるほど。間近に見ると凄い迫力。
「何?この匂い?。パンね?。」
「えっ!!。」
バ、バレてる。女の嗅覚は鋭い...。
ヤバい。マジでヤバい...。
「誰に貰ったの?。」
ハイドラ軍、最重量シムセプト(地上戦車)レオパードは、普通の戦車の倍以上大きい。
「す、すいません!。」
ちょー怖い...。
「まぁいいわ。」
人の声が。
...はははは....
...えぇ?そうなの...
この超重量のジニリウムの塊を、この女は、まるでオモチャのように扱う。
バッ。
あ!。
何人かの兵士さんが。
敷物に座ってる。
半分以上女の人だ...。
一斉に振り向く。
大きな鍋。
鍋ごとだ?。
ルイス少尉は、性格も豪快。
見た目と全っぜん違う。
でも...。
わぁ。サラダもスイーツもある。
シムセプトの間は、個人スペースになってる。機材長だからスペースが広いんだ。
「あら?。誰?この子。」
「ようこそシムセプト隊へ。」
「みんな、この子がリュウよ。リュウアーデン。」
...出た!笑。
...えぇ!この子がリュウアーデン?。笑。
...おぉ!良く来たな。笑。
いきなり爆笑されてる。
「みんな!仲間に入れてあげて!。」
...ラジャ!
...了解ー。
...こっちへ来てリュウ。
嫌われてはないみたい。
「さ。リュウ。仲間に入れて貰って。好きなだけ食べなさい。」
少尉はやっぱり優しい人。
普段厳しいだけに、メチャうるって来る。
泣きそう。
...あら、泣いてんの。笑...
...よしよし...
...おい!。おまえ嬉しくて泣いてんのか?笑...
やっぱり美味い。
『...この後、15時15分からRSS隊およびグレードワン(入隊したばかりの隊員)の実践訓練を行う。食事の終わった者から順にポイント254に機材ごと集合。分かっていると思うが最後部のものは隊の先頭に出るのに30分かかる。適切に...』
「...おーい、リュウーー!...。」
「...リュウーー!!。どこにいるのーー!!。隠れなくてもいいわよー。あたしにビビってんのー?。...」
「...リュウアーデン!ナムジー様から逃げなくても良いぞー。...」
あいつら。
チッ。
誰が逃げるか。
「リュウ。食べたら行っていいよ。人気者ね。笑」
少尉がパンをかじりながら言う。
「...おーーーい。」
「...おおぉーーーい。」
あの声は、サムサ、ウルヘリエス、そして、ナムジーだ。
サムサは色白で眼鏡をかけた典型的な優等生。操縦は正直下手だけど、ホント頭が良い。
ウルヘリエスは、背が高い女の子。
色黒のタント族。チリチリの天然パーマだ。それに豪快だ。そして雑...。
ウルヘリエスは喧嘩がメチャ強い。84の男達からは、ハイカーって言われてる。アトラの兵曹ハイカーに似てるから。
そして、ナムジー。
みんなジャミー84の仲間達。
「あ!。いた!。おまえどこ行ってたんだよ。探したぞ。」
「そーよ。フラフラしてんじゃないわよ。」
「リュウ。良いものがあるんだ。来てくれ!。」
良い物って、まさか...。
「こっち、こっち!。」
「早く、早く!。」
「早く来いよ。」
いつの間にか、僕のジャミーの周りに、みんなのジャミーが停まってる。
でも、背中を丸めて何かを隠そうとしてるのがバレバレだ。
しかも、僕のジャミーはウイング付きのド派手な奴だ。
意地悪な大人がいたら一発でバレる。
ナムジーのジャミーの手に何か乗っかってる。どこで探して来たのか、テーブルクロスかかけてある。
「じゃーーーーーーん!!。」
ナムジーが誇らしそうにテーブルクロスをめくる。
うわ。
チキンカレーだ...。
うっぷ。もう食えない。でも、でも...。
「みんな、食べた?。お代わりした?。」
「おー。食べたぜ!。」
「私は8回お代わりした。笑。」
「サムサは?。」
「俺は一回お代わり。少食だし。」
みんなが命がけで、用意してくれたカレー。食べないワケにはいかない。
据え膳食べぬは武士の何とかって言うし。
別に武士じゃないけど。
「あれ...リュウあまりカレー好きじゃない?。」
「あんまり嬉しくなさそう...。」
「結構大変だったんだぞ?。」
「...い、いゃぁ、う、嬉しいよ!。美味しそう。もう、腹ペコ、ウップ!。」
「えぇ?。何か...。」
「いやいやいや!そんなはずないでしょ!。」
さっきルイス少尉のところで5杯喰った...。
僕は思いっきりかき込んだ。
「ははは!。やっぱり腹空いてたんじゃないかよ!。」
「凄い勢いね。よっ!機材長!。笑。」
ウップ。
ヤバ!。
戻しそう...。
やっぱりもう食えない。
でも、せっかくのみんなの好意を無駄には出来ない。
「誰か呼んでんぜ?リュウ。」
「え?」
ナムジーが言う。
「...リュウーー。」
ホントだ。
「...おーーーい。リュウ!!。」
あ...。
う、ウップ!。
ジャイロ副長がデカイ鍋を持って歩いている。




