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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
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バグースの砂獣2

涼しい風がふいてる。


陸カモメが。ああ、いいわね。笑。

あなたもお散歩?。


オアシスに緑が写ってる。いつもと同じ。


ここはサバランと違って白い砂。


今日はお天気が良いから、お洗濯も良く乾く。


ここは少し高くなってるから、いつもはタンジアが良く見える。でも、今日は見通しが悪い。


主人と義父は、お漬物を届けに、タンジアに行ってる。大市場ユナタイまで。


タンジアも緑が多くて綺麗なところ。


今日は、大きな砂上タンカーがユナタイの港から出るって。


家の人はなぜか砂上船が大好き。


タンカーはクノッサスというよその大陸に行くらしいの。だから今回は大船団なんだって。ケラムを通らなきゃいけないから、ハイドラ軍の砂の軍艦が何隻もついて行くって。


ハイドラ軍は本当に大変。

アルバーンでも戦っているのに。


家はお漬物屋さん。

オアシスの街ルビアナの。

タンジアとはサバラン砂漠を挟んで100キロノード離れてる。


でも、砂上船の行き来があるし、ここも、もともと豊かな土地だから栄えてる。


ルビアナの湖は、湖底でボルガ大河につながってる。だから、乾かないし、水も綺麗。お魚も沢山いる。


また?。


...ガタガタガタガタ....


「あ。地震が...。」


朝から時々揺れる。


「チィちゃん、ガス。ガスお願い。」


何かしら。


「あ、はい。あ.....やんだ。変ね。今日は朝から。」


井戸の隣に、外にもお台所がある。

ハイドラの家は大体そう。

タンジアだけかしら?。

半分透明な水色の屋根がついている。


シサンっていう野菜を煮てる。お漬物にするために。


「大丈夫かね。二人とも。もうユナタイに着いてる頃だけど。」


「今日はお届け置いたらすぐ帰って来てくれれば良いのに...。」


「そうねぇ。なんでもクノッサス行く船が出航するから遅くなるって言ってたよ。こんな時に行くこたないのに。」


「あの人、3日前から大騒ぎだったんですよ。アロガンタが出るって。」


「10年ぶりらしいね。クノッサス行く船がでるの。アロガンタってデェーっけえ船だろ?。そーりゃ帰って来ないね。笑。チィちゃんも一緒に行ってくれば良かったのに。」


何か外が騒がしい。

どうしたのかしら。


「いえ、このお野菜今日中に全部茹でちゃわないと。」


人が集まってるみたい。


「えぇ?!。私がやるから良いのに。ごめんねぇ。あたしも気づきゃ良かったんだけど。」


「こんなに沢山お願いできないですよ。笑」


!!?


激しく揺れる。


....ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!...


「きゃーー!チィちゃん、チィちゃん!。」


「お母さん?!。お母さん!。」


...ガタガタ...ガタ...ガタガタ...


ユッサユッサユッサ


私も義母も、辺りを見回してる。

いつもの景色しかないのに。笑。


「笑。怖いねぇ。ふぅ。一体何なんだろうか。」


「変ですね。朝から。ちょっとニュースでも見てみようかしら...。」


「あら?。騒がしいわね。ちょっと見てくるよ。」


ブゥーン


『... 大群は、ハイドラとバグーのほぼ中間地点、既に6000キロノードの距離を驀進しています。昨日捉えた映像を ...』


え?!。


『... 途中パラガイヤ中域系から急に進路を変更し...』


あら?。


『... 既に7日経過しており ...』


どのチャンネルも。


『... 890キロノードと急激に速度を上げました。爆音の状況から全ての個体がリールチャンバーを噴射し始めたものと ...』


ここもだ。


ヘリコプターからの砂漠の映像が。


「えぇ?。何これ...。な、何なのこれ...。」


これどこ?。

サバランじゃないわよね...。

もの凄い砂嵐だけど。

何か凄い物が...。


『...ご覧下さい。サバランがこのように激しく荒れています。未だかつてサバランのこのような姿を見た人があったでしょうか?。...』


へ?。こ、これ、サバランなの...。

静かな砂漠が...。

砂丘とラクダと月と星の...。


『...きっとタルカントをモンタギューから奪い返した時がこのような感じだったのでしょう。ハイドゥク戦記の第132章にあったような。...』


『...なるほど、伝説の中のあの有名な一節の風景が正にこのような状況だった訳ですね。本日は歴史検証学にお詳しいシアバール国立大学第一歴史課のバトゥ教授においでいただいております。...』


『...遥か昔のことですが、あれは伝説などでは無かったのです。オブライエンのことも、ジャイアン帝国のことも。このようなことは観測史上初ではないでしょうか?。本当に戦記の記載そのままです。天まで砂嵐が噴き上げ、砂は空に留まる。怒り狂う砂漠は湧き上がり...』


『...なるほど、架空の話との説が多かった訳ですが、戦記の記載は正に現実のものとなっている訳ですね?。本日は風土研究にお詳しいハイドラ第13地理院...。』


「何か外に大勢集まってるよ!。ヤモンさんとか、サカちゃんとか。...どしたの?チィちゃん。そんなにびっくりして。」


「お母さんこれ...。サバランですって。」


『...当初の速度から10日前後の予測でしたが、現在の移動速度では数時間後には我が国の領域に入るものと思われます。リールチャンバーの存在が実際に証明されたのはこれが初めてで ...』


義母も顔色が変わる。


「えぇ?...。これっ、これってチィちゃんあんた...。ひぃっ!!こ、こ、これは、す、凄い数じゃないの。凄い数。凄い。た、た、た、た、大変!。このお日様だと、これ、こ、これ、ハイドラに向かってるじゃないの!!...。」


『... はい。こちらアルバーンのハイドラ軍ダヌア基地前です。この度のバグーからの宣戦布告に対し、ハイドラ軍は緊急の対応を迫られています。主力の第七艦隊は現在ゾーグ平原にてデューンのバルデス大艦隊と交戦中であり、バグー軍に対する充分な戦力を集められていない状況です。また、 ...』


「えぇ?せ、宣戦布告って...。」


「せ!せんせん、せ!、せん、せ。」


「お母さん。落ち着いて。」


「大変!。お父さんに知らせないと!。た、た、大変だ。で、で、電話で、でんで、電話...。」


「はい。お母さん電話!。わ、わ、かけて、私もトンちゃんにか、かけてみます!。」


「あわわわ...手、手が震えてかけらんないよ。あぁ。手が震えちゃって。」


「落ち着いて!。お母さん。落ち着い...わ、私も手が、手が震えちゃって、手が震えてね...」



『...現在大変混み合っております。恐れ入りますが後ほどおかけ直し下さい。現在大変混み合って...』


で、電話が通じない。


『...現在大変混み合っております。恐れ入りますが後ほ...』


「で、電話が、電話が通じない。」


『...現在大変混み合っております。恐れ入りますが後ほどおかけ直し下さい。現在大変混み合って...』


「キャアアアアア!!。」


「ど、どしたの!!?チィちゃん!!。あらやだ。は、は、ハイドラの船が。ハイドラの船が...あぁぁ。」


テレビが。

ニュースが。


大きな船が...。

あんなに大きな船が...。

紙切れみたいに。


「砂上のお船だよ!。あぁ、あぁ、何てことだろう...。」


ズタズタになってる。

これ何...。


みんな、粉々に...。


サバランに粉々になった大きな船が...。

鉄の大きな大きなお船が、こんなになって...。


沈んでる!


あそこはコウサ(液体のように細かい砂)地帯。サバランの。


人間が入ったら、深く沈んでしまって二度と浮き上がれない。


怖い場所。サバランには、あっちこっちにある。


砂の生き物か、砂上船以外みーんな呑まれてしまう。


テレビから変な声が。


『...ぁ!!!ぁぁ!!バリバリバリバリバリバリ!ドドーーーーーーーーーーーーン!!!砂上艦隊が!!砂上艦隊がぁぁ!!...』


あぁ!あぁぁ!!!


クノッサスの、クノ、クノ...。


アロガンタが、あの人が大好きなアロガンタ粉々に、粉々に!!!。


怖い...。


ドタドタドタ


誰か入って来た。


「ちょっと!!ナムヤさん!チィちゃん!!何やってんの!!。」


あぁ、ハムルさん。


「あ!!ハムルさんっ!!テレビが、テレビが凄いことに...。」


「何ぁにやってんの!!女、子供は、皆んな逃げんだ!!島中の飛行艇で、ハンサとワラジも飛行艇出してくれる!!大きな奴!!。女と子どもは全員乗れるから!!早くホルト桟橋まで!!早く!!。」


「に逃げるって...どして?。」


「ナムヤさん、あんた放送聞いてないの!!?大群が来るんだよ!!。」


「大群が来るって...。」


「ん!もうっ!!砂獣ヤーの大群がここに!ルビアナに来るんだよ!!みんな押し潰される!!!」


「えぇ!!!。ほ、本当に!?。」


「あぁぁ...。」


「あぁ!。ルビアナはヤーの群れの丁度真ん中だ。残った者達は二手に分かれて砂上船で逃げる!さあ!急いで!!。あと20分で飛行艇が出る!!。」


「え?。あ。チィちゃん!チィちゃん!!行きなさい!!。ちょっと待ってて!」


お義母さんは、家に入って行った。


「何やってんだナムヤさん!!あんたもだよ!!。命だけ!身体だけでいいだろ!!。」


ドタドタ


「チィちゃん!これ持ってって!。」


義母が通帳と印鑑を...。


「お母さんこれどして?。」


「見つからないように、人に見つからないように気をつけて!。良い人ばかりじゃないからね!。島の外の人は。はい、持って!。自転車乗って行きなね?。お父さんとトンバ探してちょうだい。」


「お母さん!ちょっと待って!」


「ナムヤさん!!あんたも行くんだよ!!。なぁにやってんの!!。」


「私は足が悪いから桟橋までは20分じゃ行けないよ。大丈夫だよ。私はみんなと一緒にお船で行くよ。」


「そうか!!それなら、俺の自転車乗ってきな!!いいから!!なぁに、もう二軒声かけたら終わりだ!走ってくから!!。」


「お母さん。後ろに乗ろ。二人で行こう。」


「え!!?。ナムヤさん。自転車乗れないの!?!。」


「チィちゃん...。ありがとね。あたしゃ糠床があるからまだ行けないよ。ご先祖様からの。午後もかき回してやらないと。」


『... ハムル!!あと10分だぞ。急げ!!...』


「あぁぁ...。とにかく自転車置いてくから!。自転車で桟橋行って!!。ナムヤさん!。」


「ハムルさん!大丈夫!。自転車乗ってって!!。」


「え!!。」


「大丈夫!!。お母さんは私が乗せてくから!!。少しでも早く他のお家行ってあげて!。」


「ちょっとチィちゃん!。」


『... おい!!ハムル!!どうなってる!!?...』


「...。分かった。チィちゃんナムヤさんを頼むよ!。」


「はい。」


ダンダンダン...

タタタタ...

キー

ガチャーン

...キーー


「...後でまた来るよー!...」


ジャン...


ハッ!。


まただわ!。


ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ


今度は止まない。


「さっ。チィちゃん行きなさい。あの人達のこと頼むよ。」


「お母さん。私もここに残ります。」


「何言ってるの。しっかりしなさい。あんたはまだ幸せに暮らせる。トンバを宜しくよ。家の人には言っておいて。糠を混ぜてから行くって。笑。大丈夫よ。1番糠を持ってくから。先行ってて。」


「私も手伝います。お母さん。」


「二人でやっても同じだよ。時間は。だから先に行ってて。その方が確かだよ。一緒に過ごしていても、人はそれぞれ目的地は違うんだよ。チィちゃん。あんたの終着駅はここじゃないよ。乗り遅れないように先に行って。どうか元気な赤ちゃん作ってトンバと幸せに暮らしておくれよ。」


「お母さん...。うそ。お母さん、ここに残る気よ。」


「泣かないで。チィちゃん。大丈夫よ。ちゃんと後から行くわ。地下室にいるから意外に平気かも。さっ。早く。」


「...。」


「大丈夫だよ。笑。チィちゃん。ここか、タンジアのユナタイでまた会いましょう。あの人達もきっとそうするよ。」


「やっぱり、お母さんを残して一人じゃ行けない。」


「チィちゃん。大丈夫。ちゃんと行くから。約束するわ。指切りげんまん。私の宝物はここ。この家も、糠床も、そしてみんなとの想い出も。少しだけさよならしてそれからみんなとお船で行くよ。それに、もう、ちっとも怖くない。幸せだよ。チィちゃんも、あなたも宝物を大切にして。」



ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ


揺れがおさまらなくなって来た。


「泣かないで。チィちゃん頑張って。笑。大丈夫だよ。さっ。早く行って。お願いよ。チィちゃんの足ならまだまだ間に合う。自転車で行きなさい。ありがとね。あなたは自慢の娘だよ。私の娘。だから生きてちょうだい。生きて。さっ、早く。じゃないと私もお船乗り遅れちゃうよ。笑」

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