ダヌアの空に11
ゴウテンが撃墜された!。
突然。
要の一つが、大黒柱が、心のより所が、脆くも粉々になって消えた。
冷や汗が、動悸が収まらない。
立っても座っても落ち着かない。
一瞬、ここがどこで、自分が誰なのか分からなくなる。
空は青く雲一つない。
そして、彼方まで続いている。
一つの太陽が眼が焼けるほどの眩い光を発している。
大平原は途方も無く広い。
目で見える範囲は、第一太陽グラディアが地平に消え、第二太陽ゼノンだけが地上を照らしている。
この時、最も高い地位に登るゼノンは、気高く力強く輝きを放つ。
ゼノンの圧倒的な支配の下、大地に落ちる影はくっきりとそれぞれの形を暴かれる。
そして、鬱屈としたモヤや、雲は存在することすら許されない。
大気に舞うクヌンの粉は、ゼノンの命じるままに、宙に浮く微かな水をも捕らえ、地面に引き連れひれ伏す。
そして、大地をゼノンと同じ金色に染めていく。
一点の曇りも許されず、澄み渡った大気は、黒く輝いていたはずのバルデス艦の、傷跡や、焦げ、汚れを、あからさまに白昼の下に晒していく。
巨大で無数のバルデス前衛艦が、はっきりと目視できること。それは、得体の知れない恐怖を消す代わりに、確実な絶望感を与える。
地平の彼方から、美しく黄金に輝く22個の光が、寸分の狂いも無く整列し、一斉に飛来する。
その大きな光の塊は、大空を滑るように、それでいて唸るように、接近して来る。
空気抵抗も、質量も無視して、音速を遥かに越える速度で、音も無く。
やられた。
ゴウテンは、こいつらにやられた。
ビルよりも大きいメインモニターに、バルデス大艦隊 主戦級 ジルカンダーが映っている。
『...ジルカンダー来ます!数22!敵主力艦ジルカンダー来ます!数22!数!22!。...』
艦内音声とラジュカム(アフロダイ通信機)が同時に叫ぶ。
22...。
22隻の敵主力艦 ジルカンダー。
想像より遥かに大きく、遥かに手強い。
そして、その澄んだ黄金の輝きは、夢に出て来そうなほど美しい。
おおぉぉ...。
艦内にため息と一緒に、諦めや、恐怖が広がっていく。
...。
そして、沈黙が続く。
誰もが、微動だにしない。
またしても形勢は圧倒的不利に...。
...ウイィィーーーーーーン
...ドダーン!...ドドーン!...ドダーーン!...ドダーーン!
アマギの魚雷発射管が開いた。
...バスッ!...バスッ!...バス!...バスッ!!
「次元魚雷だ。」
ダン隊長だ。
「ジルカンダーは潜航してないが...?。」
バンガルーロ伍長が。
シューーーーーーーー
シューーーーーーーーーー
シュウーーーーーーーーーーーーー
ググゥ
ボン!ボーン!ボバン!!
ソニックブームだ。
白い軌跡を残し、4本の次元魚雷が真ん中のジルカンダーに向かって飛んで行く。
銀色の鈍い光を反射しながら。
艦内の誰もが息を殺して見つめている。
「次元魚雷は、潜航してない敵にも有効です。迎撃してくれれば、こちらの思う壺だけど。」
リリアーノさんだ。
何回も絶望から立ち直って、みんな、ショックを受けることに慣れてしまった。
「粒子砲撃で魚雷を破壊すれば、全ての計器が狂う。狙いはそれだ。」
ジャイロ副隊長だ。
魚雷はジルカンダーに迫る。
「ん?!。迎撃しない気か?!。」
バンガルーロ軍曹が組んでいた腕を解きながら声を上げる。
フューーーゥウ!
フューーーゥウ!
フューーーゥウ!
右舷のジルカンダーから何かが打ち上げられた。丸い灰色のボール状のもの。
バゥウーーーーーーーーン!
バゥウーーーン!
バゥウーーーーーン!
ズッッドーーーーーーーーーーーン!!!
ズドドーーーーーーーーーーーーーン!!!!
ズズズズズーーーーーーーーーーン!!!
ブゥワッ!!
次元魚雷が空中で爆発した!。
熱風がダクトを通してここまで来る。
あぁぁ...!
おおぉぉ...!
艦内からは、また呻き声だ。
悲鳴に近い。
「何だ!!?。」
「...爆発したっ!。」
「リリアーノ!。何だ?。」
「こ、これは...。ボルトレックス...。音叉爆雷。」
「音叉爆雷だと?!。」
「そうです。多分。」
「奴らは対策を知っていたのか?!。」
「次元潜航の技術と一緒に開発してます。多分。対の理論だし。さっきのは、不意を突かれたんですよ。我が軍の機密は護られていたってことです。」
リリアーノさんだ。
「しかし、まずいな?。」
副隊長だ。隊長に視線を向ける。
「そうだ。まずい...。」
フゥーーーゥ。
隊長は長いため息をついた。
「おおぉ。」
!!?
「...動くぞ!。ジルカンダーが動くぞ!。...」
おおぉぉ...
また、どよめきが渦巻く。
「チッ!。展開しはじめた。」
じ、ジルカンダーが上下左右に大きく展開して行く。
「やつらの本領はここからだ...。」
ズゴーーーーーーーンッッ!!。
ま、眩しい!。
何だ!この光は。
目が!め、目が...。
一隻のジルカンダーが艦首砲をいきなり発射した!?。
何の予備動作も、チャージも無い。
いきなり...。
「...え、エネリウム砲っ!。エネリウム砲だ!。...」
「い、いきなり撃って来た!。」
ジャイロ副隊長だ。
あぁぁ!。
一筋の閃光がファイヤーバード14号に向かった...。ファイヤーバード14号はデコイじゃない。ダヌア基地に着陸して、兵士を積んだ機体だ。
....
ズズズズ、ズ、ズ、ズ...
ズッッドーーーーーーーーーーーーーン!!!!
ドドドド
....
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ....。
...あぁぁ。
....。
あぁ。
粉々に...。
有人の機体が...。
大切な仲間達が...。
「ハァ、ハァ、い、いきなり撃ってくるとは...。」
軍曹の息が荒くなった。放心状態だ。
「このままじゃ、また....。」
ズズズズ。
ズドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
ボウン!!ゴゴゴゴ...!
『...テリオス!て、テリオス!、墜落しますっ。つ、墜落!!。...』
あ!。
また、アサカゼ級が、撃沈された!。汗。
たった一撃で...。
口の中がもうカラカラだ...。
ジルカンダーはそれぞれ、16に分かれハイドラ艦隊を追って来る。
アマギとシラヌイのいる僕らの所は、7隻だ。
こっちは、もうすぐ着陸体勢。
どうしても着陸させない気だ。
一機たりとも。
大丈夫なのかな...。
こんなにやられてしまって...。
みんな着陸出来なかったりして...。
背筋が凍る。
「まずいぜ!。これは!。何とかしないと!。壊滅させられちまう!。」
ジャイロ副隊長が叫んでる。
でも、どうやって?。
ズゴーーーーーーーンッッ!!。
おおぉぉおお...。
うわぁあ!!。
め、目が...。
ジルカンダーがまたエネリウム砲を...。
....
ズズズズ、ズ、ズ、ズ...
ズッッドーーーーーーーーーーーーーン!!!!
ドドドド
....
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ....。
『...ファイヤーバード6号消滅!ふ、ファイヤーバード6号...。』
6号。汗。
6号はデコイ。
...怖い。
バシッ!!
バシッ!!
バシッッッ!!!
バシッ!!
バシッ!!
バシッッッ!!!
「で、デンジネードだぁ!!!。」
....
ズ、ズ、ズ...
ズドドドドドーーーーーーーーーーーーーン!!!!ズドドドドドーーーーーーーーーーーーーン!!!!ズドドドドドーーーーーーーーーーーーーン!!!!
『...ハリマ被弾!ハリマ、つ、つ、墜落しますっ!!...』
!!?。
次々と堕ちて行く。
『...ち、チクショウ!!。や、やられた!!。...』
光学モニターに凄い数の戦艦や巡洋艦が黒煙を噴き上げている。
「お、おい、50、いや、もっとだ。」
バンガルーロ軍曹のうなされるような声が。
ご、ご、50隻も!!?。
あぁ。
『...ファイヤーバード1号、13号被弾!ファイヤーバード1号、13号被弾!...』
えっ!!?。
二機のファイヤーバードが。
巡洋艦のアフロダイシールド護られていたのに。
『...不時着します!不時着します!...』
目標に到達する前に不時着...。
「...どっちも目標まで100キロはあるぜ。どうするんだ!。汗。...」
バンガルーロ伍長が叫んでる。
威力の強いターシーエネリウム砲は、多少外れても敵艦を破壊してしまう。
!!?
ググゥゥゥ...ボボボボボボボボ...
アマギと、シラヌイの方から大きな音と振動が伝わって来る。
キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ....。
アマギの2つの巨大なメインスラスター、そして7つのサブスラスター。
シラヌイのメインスラスター、そして5つのサブスラスター全てが点火した。
キーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
蛍光灯のように光が灯り、水銀灯のように徐々に光を増していく。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ.....
キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
全開になった主力艦達の全てのスラスターが、また、僕たちのファイヤーバードを激しく揺さぶる。
大気が眩い光で満たされる。
目を開けていることが出来ない。
まるで、ゼノンが地上に降りて来たように。
ドーーーン!!
ドーーーーーン!!
巨大な2隻の戦闘艦は、重量がまるで無いように一気に音速を超える。
バウゥーーーー!
バウゥーーー!
ズゴーーーーーーー!
ジルカンダーから粒子砲撃が乱れ撃たれる。
1000mを超える巨大な戦艦達が、まるで小型の飛行機のように、軽やかに軌道を変えてかわす。
...ブゥワッ!!
...ブゥワッ!!
...ババッ!!
ジルカンダーも一気に加速をする。
ドーーーン!!
ズドドーーーーン!!
次々と音速を超える。
「早い...。」
「見ろ!あれはアルマダイエンジンじゃない...。ターシーエネリウムエンジンだ!。」
スラスターの発光が緑色、アルマダイのように青白くは無い。
「あっと言う間だ。出力は恐らく倍...。」
アマギとシラヌイの巨体は、まるで滑るように軌道を変える。
しかし、ジルカンダーはそれを遥かに上回る。
流体金属で摩擦を寧ろ動力に変えている。速度が速い上に鋭角に軌跡を変える。
1000メートルを超える巨体では考えられない。
きっととてつもなく高度な反重力設備が艦内にあるんだ。
じゃないとデューン人は今頃ミンチになってるはず。
アマギも、シラヌイも全く追いつけない。
アマギとシラヌイは、ジルカンダーの全ての攻撃をかわしながら、全ての砲門を開き、全力で反撃を試みている。
ペルセアの演算に基づいて射出される網の目のような砲撃を、ジルカンダーは嘲笑うかのように、その巨体で、いとも簡単にすり抜ける。
アマギ、シラヌイ、そして、ジルカンダーが激しく軌道を変えている。
アマギの巨大な艦体が、あまりの重量でしなっている。
こちらも、反重力装置が無ければ、今頃中の人間は潰れている。
空中分解をしないのが不思議だ。
ポディション争いをしている。
お互いが敵の死角に入りロックオンをしようとしている。
「艦首砲で確実に堕とす気だ...。」
こんな巨大な戦艦が...。
まるで戦闘機のようだ。
考えられない。
「あぁ...!。シラヌイが!。」
「後ろに付かれた!!。」
シラヌイの背後に、二隻のジルカンダーがぴったりと張り付いている。
もう15秒は併走している。
シラヌイは、必死に旋回や上昇下降を繰り返している。
でも、振り払うことが出来ない。
どうしても。
ドドーーーン!
ズズーーン!!
ドドーーーン!
ズズズーーーン!!
2隻のジルカンダーの主砲が、シラヌイのシールドを直撃し続ける。
...ボゥン!!
...ゴゴン!!
...バン!
...ボン!!
シールド上で、ジルカンダーの砲撃が炸裂している。
「スコープに捉まったら終わりだ...。逃げろ!。」
どちらかのジルカンダーが艦首エネリウム砲を放ったらシラヌイは一撃で沈む。
ダメだ!
逃げられない!
出力は巨大。
一撃でも浴びれば、撃沈は必至。
...避けろーー!...逃げろー!...うわぁぁ!......援護しろー!アマギー!...
艦内のざわめきがスコールに打たれるトタン屋根のように激しさを増す。
「だ、駄目だ...堕とされる...。焦。」
!!?
キャーーーーーー!
女兵士が声を上げた。
シラヌイが突然失速し、激しく、きりもみ状態に入った。
つ、墜落する!。
あぁ!
反重力板の応力が反転してしまった!?。
シラヌイは所詮金属の塊。
一気に墜落する。
あぁぁ...。
ズゴーーーーーーーンッッ!!。
「うわぁぁ!。」
ま、眩しい!。
ジルカンダーの艦首長距離砲ターシーエネリウム。炸裂する。
ズドーーーーン!!
キーーーーーーーーーーー!!
ボボボボボボボボ
シラヌイの全てのスラスターが一気に噴射した。
やった!。
エネリウム砲を大きくかわした!!。
「おぉぉ!!。」
「ありゃ戦闘機の技だぜ...。」
シラヌイは空中で慣性で横滑りをしている。
キュワーーーーーーーー!
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
シラヌイも艦首粒子砲を放つ。
シラヌイの艦首砲が、ジルカンダー1隻を捉えた。
ドーーーーーーン!!!
ジルカンダーが爆炎を噴き上げる。
...ドーン
...ゴゴーン
...ボゥン
ジルカンダーの爆発が止まらない。
....
...
ズッドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
....
ジルカンダー中心から折れ、大爆発を起こした。
オオオオーーーーーーーー!!!!!
オオオオーーーーーーーー!!!!!
オオオオーーーーーーーー!!!!!
オオオオーーーーーーーー!!!!!
オオオオーーーーーーーー!!!!!
オオオオーーーーーーーー!!!!!
オオオオーーーーーーーー!!!!!
オオオオーーーーーーーー!!!!!
艦内の1万7,000人が一斉に大歓声を上げた。
空気がビリビリ響きコンテナ毎振動している。
鼓膜が裂けそうだ。
ゴゴゴゴ...
粉々になったジルカンダーが、地面に落下して行く。
バシッ!!
バシッ!!
バシッッッ!!!
デンジネードだ!!。
シラヌイが危ないっ!!。
....
ズ、ズ、ズ...
ズドドドドドーーー...
!!?
何だ?
!!バウン!!
!!バウゥン!!
!!!バウン!!!
光の大きな板が。
駆逐艦が、モガミとジンズウが、光の大きな板を全面に掲げ、デンジネードを弾き返した。
数百平方メートルもある巨大な光の板を。
幾何学模様で構成されている。
模様がプリズムのように、虹色に光っている。
!!?
空気が歪んだ。
大きく。
歪んだままシラヌイの方へ。
大波のように。
ジンズウと、モガミの光の板も消えた。2隻はゆっくりと放電極のついた左右のアームを降ろしいる。
「バリヤーだ!アフシロンシールド。」
リリアーノさんだ。
最も原始的なエネルギーシールド。
船体を覆うのでは無く、区画内にエネルギーの波紋を反復させる。
一瞬しか存在できない。
タイミングが合えば最強の防御だけど、攻撃のピークにタイミングを合わせるのは至難の技だ。
いや、何だ?。
近づいて来る。
歪んだ大きな空気が...。
猛烈な速度だ。
ズドーーーーン!!
ズドーーーーン!!
ズドーーーーーーン!!
シラヌイの4700mm主砲が火を噴く。
ガーーーン!!
ゴーーーーン!!
ドーーーーン!!!
シラヌイの放った主砲が、歪んだ大気に命中する。
...ガーン!
...ズドーーーーン!
...ボゥン!
爆発している。何かに当たって...。
...
ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
!!?
シラヌイに激突した!。
何かが...。
シラヌイに何かが激突した!。
「...おぉぉ...。」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリパリンバリバリパリンガチャン
何かがシラヌイの艦首砲塔を削り取って行く。
黄金の、黄金の巨大な塊。
巨大な...、巨大な鯉のような形...。
ジルカンダーだっ!!。焦。
もう一隻のジルカンダーが姿を現した。
シラヌイの艦首砲を壊しながら進んで行く。
ジルカンダーも右舷の装甲が引き裂かれている。
「あぁぁ...。艦首砲が...。」
「次元潜航を...。こんなところで...。」
「奴らも必死だ。捨て身で来やがる。」
バスゥッ!!
バスゥッ!!
シラヌイの艦首のスラスターが噴射し、メインスラスターも逆噴射している。シラヌイは後退していく。
キーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
ボボボボボボボボ...
空中で静止した状態。
格好のターゲットだ。
「...急げ!。シラヌイ!。...」
誰かが叫ぶ。
ググゴゴゴゴゴ...
右舷の裂けたジルカンダーの全ての主砲がシラヌイに向けられた。
フゥゥゥゥーーーーーーー
別のジルカンダー来た!。
ズゴーーーーーーーンッッ!!。
艦首エネリウム砲だ。
シラヌイを撃った!。
だ、ダメだ!!。
や、やられる...!!。




