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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
139/364

ハイドラの狂人52

.........

...

.......

............


「はっはっは。下手くそめが。こうやって遠くに投げるのだ。ん?。」


「はははは。釣り針が川を飛び越してしまいましたな?。笑。」


「何と狭い川なのだ。下らん川だ。」


「あぁ...私の凧が...私の...泣。」


「あぁ。あれほど言ったのに。仕方がない。俺のをやろう。今度は上がっても手を離してはならんぞ。」


「そうではない。このようにやるのだ。モル。紐の巻き方が雑だから上手く回らぬのだ。貸してみよ。」


「どうしたのだモル?。ハッ!。頬がこんなに腫れている!。酷い熱ではないか!?。ここで待っておれ。今直ぐ大神殿から母様達を連れ戻してきてやる。今直ぐだ!。待っていろ!。死ぬな!。」


「泣くな。胸を張れ。格好悪くなどない。良く頑張った。ぶざまなどではない。毎日溺れそうになりながら頑張っていたではないか。シャガールのおまえが。兄は誇りに思うぞ。」


「そいつは俺の弟だ。離せ。おまえごときが触れること許さん。」


「今後は一人で勝手に戦ってはならん。この兄に必ず報告せよ。俺が二度と奴等を立てなくしてやる。」


「何を?。公平であることが何が悪い。おまえは悪くない。教師達が何と言おうと。詫びてやる必要などない。」


「兄者が二度と立てなくしてくれると言ったではないですか!泣。」


「ば、バカ...。母達は別だ。母達に果たし状を渡すとは...おまえ正気か?。」


「良くここまで勝ち残った。流石は我が弟。俺が本当に強いと思う戦士はおまえだけだ。誇らしい。本当に誇らしい。本気でこい。俺を殺す覚悟で来るが良い。」


「モル。今日は海に行くぞ。このように晴れた日に稽古をするのは愚か者のすることだ。両母君には内緒だ。」


兄者?。


バカ正直者は嫌いなのではなかったのですか?。


兄者?。


兄者どこです?。


兄者...。

....


子供の泣き声?。


....


サンザに....。


........


何をする!。


........


離せ!。サンザを!。


.....?


.........


兄者!........


....


トラフィン...


......................


トラ...?


!?


ハッ!。


眠ってしまった!。


トラフィン!?。


「兄者ぁーーー!。サンザが死んでしまう!。」


何だあの兵曹は!?。


迷路のように置かれている簾の塀から大きな身体が見える。


アマルの兵曹ではないか!?。


黒い戦闘服を着ている。


ここは?。


タンジアへの砂漠からの入り口。


防護壁の上からタンジアの木々が入道雲のようにもくもくと盛り上がっている。


サバランのレンガ砂からタンジアに近づくにしたがい徐々に草は増え白い地面に変わっていく。


私としたことがこんな場所で眠ってしまうとは不用意な。


...ズザーーーーーーーーーーーーーー...


トラフィンが塀から弾き出され僅かに草の生える土の上を滑る。


兵曹がサンザの首を絞めている。


「ふん。目覚めたか?。マジゥ。残念だ。だが、こいつは始末させてもら...。」


...ズザッ...


簾の塀が砂と共に舞い上がる。


...ブウン...


私の突きが空を切る。


こいつ。


早い...。


只者ではない...。


サンザから手を離した。


しめた!。


奴はこの間に数十メートル後退した。


「ふっ。流石はマジゥ アンティカ。身の重いシャガールにもかかわらず恐るべき速さ。流石と言わざるを得ない。」


危なかった。


私としたことが...。


私は兵曹から目を離さずにサンザを抱き上げた。


トラを手招きして呼び寄せた。


もしあのまま呑気に寝ていたらと思うと血の気が引く。


「ふっ。遊び過ぎて手柄を逃したわ。笑。直ぐに殺して置くべきだった。」


こいつ。


生かしてはおかぬ。


「おっと。ここでの戦いはお互い分がない。ハイドラの狂人よ。」


「貴様...。何者だ。」


...ドーーーーーーーーーーーーーン...


私のシーアナンジンが起動する。


「おいおい...。笑。貴様。本当にやる気なのか?。」


許さん。


貴様をここで始末してやる。


「ふっ...では、このバッカスで貴様らを冥土に送ってやる。」


「バッカスだと?。」


聞いたことがある。


魔器バッカスの遣い手がいると。


赤碧の使徒に。


「貴様は赤碧の使徒だな?。」


「笑。いかにも。俺はファルサ。赤碧帝の第9使徒ファルサだ。そしてこれはおまえの怖れている魔器バッカス。しかし、トリダルタンの毒を受けて生きているとは。恐るべし。」


わざわざ説明をして来るとは親切な奴だ。笑。


しかし、魔器であれば弟達は本当に危なかった。


「貴様。バッカスをなぜ使わなかった?。」


「ふふ。我らの戦術予報士は厳しくてな。」


「戦術予報士だと?。」


「おっと。喋り過ぎてしまったようだ。殺さなかったのではない。おまえの弟達は賢い。随分と安い芝居を見せられた。貴様はもうしばらく寝ていれば良かったのだ。」


もはや、トラフィンもサンザも普通の人間ではない。


トラフィンは賢い。


こいつを只者ではないと見抜いていたのだ。


しかしこいつは更にそれに気づいている...。


「いつの間にシーアナンジンを...?。シーアナンジンは深い野生にしか生息しないはず。危険な場所にしかいないはずだ。」


ファルサが言う。


「貴様に言ういわれはない。」


「それならば...。」


ファルサは、バッカスを抜き構えた。


...ビュウゥゥゥゥゥーーーーーーーー...


バッカスは眩いほど美しい銀色に輝いている。


反射する光で目が焼けそうだ。


先端に輝く銀の球がありその周り銀色の太い金属が螺旋状に巻かれている。


トリダルタン、ピオネールともに、三種の魔器と言われるバッカス。


振るたびに風を切る音がする。


私はサンザを地面に下ろした。


第9使徒ごとき恐るに足りない。


わざわざ私達に挑むとは。


サンザとトラフィンが私の足の後ろに隠れる。


そうだ。


それで良い。


弟達は二人とも慎重だ。


私とファルサの様子を見極める気らしい。


あくまで自分達の本当の姿は隠す気だ。


それで良い。


本当に大きくなった。


「...俺も手ぶらでは帰れぬ。赤碧様の元にな。」


...ドスンッ...


ファルサの体内から鈍い破裂音が響く。


破裂音はこだましタンジアの森から鳥達が飛び立って行く。


...ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


ファルサを中心に砂ぼこりが舞う。


ファルサの体内から重機のエンジンのような重厚な音が。


ファルサは巨大化し始めた。


そしてバッカスを振る。


....ビュゥオオオウーーーーーーーーーーーー...


バッカスが空気を切る。


光を放ち巨大化していく。


...ビュゥオオオオオオゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーー...


兵曹がバッカスを振るたびにバッカスの螺旋状の部品から激しい光の竜巻が。


...ビュゥオオオウゥゥゥゥーーーーーーーーーーーー...


違う。


光が竜巻の中だけ捻じ曲げられている。


光が屈折して景色が捻じ曲げられている。


そして光の渦のように見えている。


ファルサがバッカスを振るたびに簾の壁は噴き上げられその竜巻に触れると粉のように消える。


竜巻を浴びた木々が一瞬で真っ白に粉になり消える。


その細く長い鞭のような竜巻が狂ったように回転し続ける。


しかしこれはこの魔器の予備動作。


こんなものではない。


...パーーーーーン...


...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


...パーーーーーーーーーン...


...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


トラフィンとサンザがついに兵曹を上げた。


そうだ。


そうした方が良い。


「はぁっ!。」


ファルサがバッカスを大きく振り私めがけて飛び込んで来る。


...ブゥウオーーーーン...


バッカスの噴き出す竜巻が数百倍に巨大化する。


...ゴガッ...


...ズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


竜巻を直前で交わしファルサと激突した。


...ブゥン...


...ザザァ...


一撃を加えた後ファルサは一瞬で後退する。


...シュッ...シュッ...


トラフィンとサンザがファルサの両脇に移動する。


見えない早さだ。


ファルサが少しでも動けば弟達の攻撃の直撃を受ける。


既に我が弟達はその辺りの兵曹とは比べものにならないほど強い。


しかしファルサがどの程度の力を持っているのか分からない。


もし、第9使徒というのが虚で、赤碧に近い戦闘力を持っていたら...。


弟達は一瞬で返り討ちに合い粉々に。


「驚きだ。ここまで成長しているとは...。」


弟達を見てファルサが放心状態だ。


...ガラ..ガラ...ガラ...


...ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...


...ドン...ドドン...


...ドンドン...ドンドン...


...ドンドンドンドン...


...ゴゴゴゴーーー...


...ガラガラガラガラ...


...ズズーーーーーーーーーーーーーーーン...


バッカスの竜巻の直撃を受けた部分だけタンジアの防護壁が崩れて行く。


ジニリウムの巨大防護壁が。


凄まじい砂ぼこりだ。


「ふっ。笑。流石に分が悪過ぎる。」


ファルサは言った。


その通りだ。


貴様は複数の虎のいる洞窟に自ら飛び込んだのだ。


「ハァッ!。」


ファルサが再びバッカスを強く振る。


より巨大な竜巻が私に向かって来る。


その斬撃から少し遅れ地面を這うように。


私はかわした。


しかし竜巻が激しく変化し弟達も襲う。


トラフィンはかわした。


ギリギリだ。


!!


サンザは竜巻を打ち返した。


何と...。


打ち返された竜巻はバッカスの先端から離れ再びハイドラの防護壁を直撃する。


巨大防護壁が消し飛んだ。


...ウオーーーーーーーーーーーーーン...

...ビーーーーッ...ビーーーーッ...ビーーーーッ...

...ヒュュウ...ヒュュウ...ヒュュウ


...ウオーーーーーーーーーーーーーン...

...ビーーーーッ...ビーーーーッ...ビーーーーッ...

...ヒュュウ...ヒュュウ...ヒュュウ


しまった!。


流石にこれを見逃すことはあるまい。


...ウオーーーーーーーーーーーーーン...

...ビーーーーッ...ビーーーーッ...ビーーーーッ...

...ヒュュウ...ヒュュウ...ヒュュウ


タンジアから警報が鳴り響く。


....ゴゴゴゴゴゴゴゴ...


...ドン...ドドン...


...ドンドン....ドンドン...


....ドンドンドンドン...


...ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーー...


...ガラガラガラガラ...


...ズズーーーーーーーーーーーーーーーン...


連鎖し更に防護壁が崩れる。


大気が真っ白に。


ファルサが空を見上げた。


来る!!。


「トラ!。サンザ!。来いっ!。」


私は叫びハイドラの防護壁へ向かった。


オグワンだ!。


ペルセアが防護壁を護りに来た。


「急げ!。着いて来いっ!。」


私と弟達は崩壊した防護壁から一気にタンジアに飛び込んだ。


大気がスパークする。


...チカチカチカッ...


...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ズズズズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


爆煙が噴き上がる。


オグワンがファルサめがけ衛星粒子砲撃を開始した。


...チカチカチカッ...


...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ズズズズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...

...チカチカチカッ...


...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ズズズズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...

...チカチカチカッ...


...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ズズズズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


軍事衛星の衛生砲は人間の兵器としては最も威力が強い。


防護壁の隣は森だ。


そしてその100m先には陸車用の舗装された綺麗な道が広がっている。


片側15車線の。


「兄者!。タンジアですね?。」


トラフィンが緊張気味に言う。


「ああああ!。うああ!。」


サンザもだ。


「急ぐぞ。マトゥバ達が出てくる前に。」


マトゥバは潜んでいる。


我々を見逃してくれる気だ。


恐らく...。


ファルサであったことが幸いだ。


私たちは一瞬で公道に降り移動した。


オグワンの粒子砲撃の音が遠くなっていく。


...チカチカ...


..ドドーーーーーン...


...ズズズズーーーーーーン...


_____________________________________


タンジアにはいってから10日。


のんびりとタンジア州を移動している。


トラもサンザもタンジアを歩くに連れ、時折不安そうな顔をする。


辛い記憶を思い出しているのだろう。


私が側にいてやれる間に弟達にこのタンジアの澄んだ海や川、山々、のどかな風景、美しい自然や温かい人々を見せてやりたい。


橋の下の過酷な景色だけではなく。


だが所詮は子供。


すぐ忘れ私の足にしがみついて遊んでいる。


頼られること。


そして愛する者の側にいてやれることは幸せだ。


母ネスファルも今は亡き育ての父ダンもきっとこのような気持だったのだろう。


この景色を母にもアリシアにもジュエルにも見せてやりたい。


どれだけ喜ぶことか。


何の不安も心配もなく伸び伸びと過ごさせてやりたい。


全てが終わったらみなをここに連れて来よう。


この美しい土地に。


陰謀や、策略、恐怖、悲しみ、苦しみ。


全てから護ってやりたい。


双子の弟達はまだハイドラでは知られてはいない。


他国ならなおさら。


しかし、最も危険な部類の者達は漏れなく私の弟達を知っている。


どこの国も。


このタンジアですら自由に歩くことは当面危険だ。


ファルサのような刺客がいつ来るか分からない。


そして、一度キドーに入門してしまえば稽古で遊んでいる暇は無くなる。


征天大剛スサが双子達を護ってくれるだろう。


スサは父オルフェの兄。


私は父よりもスサとの相性が良い。


スサは強いだけではない。


双子達を安心して託せる。


今日はカリビアのバンドゥルール(宿泊施設)に泊まることにした。


双子はきっちりとした洋服が嫌らしい。


道着が良いと言う。


流石に道着で歩くのは目立つのでハイドラの統一民族衣装を着させている。


バンドゥルールはカリビア(遠浅の熱帯海)の上に建っている木造の宿泊施設だ。


部屋の真下には透明な海水が。


色とりどりの美しい魚や貝蟹や海老が泳いでいる。


双子は大騒ぎでカリビアに降りて行く。


必要の無い浮き輪やゴーグルをして。


浮き輪もゴーグルもシャガールか外国人しか使わない。


ダンヌ族の酋長ゴットーエケメテヌが首長会に処刑されたらしい。


ここはダンヌ族が多い。


次の酋長がダンヌから選ばれる。


そして首長はダンヌの酋長となるはずだ。


ここでは。


マトゥバも私もこのタンジアに首長会の介入は許さない。


ペルセアは指名手配されている私を全くマークしていない。


キドーへは古い知人を何人か遣いをやっている。


変わりはない。


まだ双子をセティへ送ろうとする動きもあるらしい。


しかし、一度スサに預けてしまえばここタンジアではそれを覆そうとする者も出来る者もいない。


私は、数日バンドゥルールの庭のソファに寝そべり弟達が水辺で遊んでいるのを見ている。


寝て、食べて、シャワーを浴びまた寝る。


そんな生活をしている。


また、朝日が上がり涼しい潮風が吹く。


芝の香りカリビアの運んでくる潮の香りが混じり合っている。


風が心地よい。


_______________________________________


タンジアの総合市場ユナタイを過ぎた。


ユナタイは大きな市場だ。


1つの大きな街。


海だけではなく空の港もある。


双子はユナタイで買った水鉄砲で遊んでいる。


会釈をしてくれる人が増えた。


私達をキドーの者だと思っているのだろう。


間も無くキドーの総本山のあるロコウだ。


タンジアにはロコウと言われる高い山がある。


ロコウは大半がなだらかだが一部が高い塔のように聳えている。


その山塔はジーナン(戦闘神の足掛け)と言われる平地を不規則に持っている。


これはバノアと言われるハイドラ特有の山の形状だ。


アルマタイトが豊富に含まれることからこのような形になると言われている。


ロコウはバノアの中でも一際高い。


私達はロコウの外環道に入った。


「うわぁー。大きな山じゃ!。」


トラフィンはロコウを見上げている。


サンザはあまり興味が無いようだ。


見つけた木の棒を振っている。


シャトルやエルカー車、人や、トリュック、このゴチャゴチャした状況が苦手なのだ。


まだ少し遠くに見えるロコウが高く聳えている。


大きな入り口だ。


門柱はジャイナ杉の大木で出来ている。


多くの国道が1つに集結しロコウの外環道に繋がっていく。


外環道は陸用のトラック用の道、車専用、トリュック(トカゲやダチョウの馬車)用、そして人の歩く道に分かれている。


...ピピーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


...ピピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


外環道への合流地点では幾つもの信号灯の下に交通整理用の交番がある。


多くの警察官が交番の上に立ち交通整理を行っている。


スピーダー(飛行バイク)に乗った警官達がエルカーを捌いている。


シャトルやコヌタ(飛行虫シンワートの引くゴンドラ)は、それぞれ飛行する空域は決まっている。


主に、その空域に紛れ込むエルカーを捌いている。


ジーナンのある山塔の麓までは反重力板で動く登山鉄道、シャトル、そして大トカゲに引かせるトリュックもある。


だが、私達は歩いて行くことにした。


ロコウに近づくに従って道も整理され喧騒は治まっていく。


サンザは、景色を見るようになってきた。


「あぁ、あぁ、ぁぁ。」


いろんな事が理解できるし決して発達に問題がある訳ではない。


しかし、サンザには言葉が殆ど理解できない。


思考パターンが人と少し違うのだ。


とても可哀想に思う。


本人が一番気にしているからだ。


しかし、私やトラフィンとの意思疎通には全く問題はない。


私はこのままで、ありのままで良いと思っている。


サンザは、天才だ。


技も、風景も一瞬で覚えてしまう。


そして、私やトラが気づかないことに気づいてしまう。


僅か数年後には天才の名を欲しいままにして来たこの私を簡単に超えてしまうだろう。


サンザの精神的な脆さが心配だ。


出来れば私が側に着いていてやりたい。


しかし、サンザは私が側にいると何もしなくなってしまう。


それで良いのだろうか。


この子の持っている桁外れの能力は、不世出な才能は永遠に死んでしまう。


人それぞれ宿命を持っている。


おまえの宿命はもしかしたら私の宿命よりも重いのかもしれない。


しかし、その宿命を生まれる前に自ら選んでおまえは生まれて来たのだ。


その宿命を乗り越えることが、それこそが生きる目的ではないのか?。


サンザよ?。


「ああぁ。うわぁ。」


どうした?。


蓋を開けて欲しいのか?。


「自分でやりなさい。」


「ああぁ!。あああ!。ああ!。」


どうしておまえには分からないのか。


私がいると何もできなくなるのであれば私は側にいてやれないではないか。


「サンザ貸してみよ。」


トラフィンが言う。


「トラ。サンザを頼むぞ。」


「兄者...。本当に行かれてしまうのですね...。」


「そうだ。私にはやらねばならぬことがある。」


「はい....。しかし、人のためにあるのに首長会は、なぜ...。」


「そうだな。トラフィン。しかし、その件はこの兄に任せよ。おまえ達は自分達のすべきことを精一杯するのだ。サンザを頼む。お前には苦労をかける。」


外環道から木々の緑の葉を通してタンジアの海そして綺麗な街並みが見える。


風は秋の香りを運んで来る。


「サンザ。辛くても自分らしくある努力を諦めてはいけない。私の心配はお前の荷物の重さではない。それに負けてしまうおまえの弱さ。」


「兄者はここ数日サンザに厳し過ぎはしませぬか?。寂しさをサンザにぶつけるのではサンザが可哀想じゃ。」


「ううう。ああぁ。」


サンザは、また脚に捕まってくる。


私の話など無視しているのだ。


アクトジーナン(最初のジーナン)の入り口に入る。


数時間歩けばシーヌジーナン(2番目のジーナン)に入る。


シーヌジーナンから登山鉄道に乗ればセクトルジーナンはすぐそこだ。


キドー総本山の麓セクトルジーナンは。


登山鉄道はタント、イリーナ、ダンヌ族のように体格の大きな人種が乗ることができる。


大きく重くそして、急過ぎる山塔を登るためアフロダイモーターをメインエンジンに使用している。


階段状に傾斜している登山鉄道のホームから列車に乗る。


弟達と身体が特に大きな私は最後尾の車両だ。


貸切だ。


ホームの両側は模様のあるコンクリートで固められ木々や蔦が茂っている。


規格外に大きい列車だが私には小さい。


最後尾の車両にはホロを被せられないそうだ。


雨でも無い今日は問題ない。


列車の扉が空いた。


一般人サイズの弟達はちょこまかと扉から中に入る。


私は列車の壁をまたいで乗車する。


上から見ると特に弟達は可愛い。笑。


「あぁ!。あー。」


サンザが私の脚を叩く。


ルールを守れと言っている。


無理だ。


この小さな扉から入ることなど。


微かに錆びた鉄とビニールの匂いがする。


車両の後ろ半分は座席が無い私はそこに座り、弟達は赤い布の座席に座った。


「兄者...。1つ聞きたいことがあるのじゃが...。」


「何だ。」


「兄者が聞かれたく無いことだと思うが...。」


「人の聞かれたくないことを聞くのはいかんな?。トラフィン。笑」


「...。」


「おまえは、またタンジアの鈍りが出てきたな?笑。思い出したのだな?。」


「そうですかな...。」


「トラよ。デフィン兄者のことか?。」


「はい...。デフィン兄者と兄者はなぜ闘うのです?。」


「私にも分からない。」


「分からない..とは?。」


「首長会がアマルと繋がっていることは確か。その策略になぜ兄も父も気付かぬのが。」


「直接お話になってはどうですか?。」


「今、直接出向けば再び闘いとなる。お互いにそれほど危険な存在。懐に入った時、間違いは許されない。」


「手紙、電話、メール、遣いの者...。」


「笑。トラよ。兄達をバカだと思っているのか?。」


「いえそんなことは...。」


「全てやっている。何度もな。」


「伝わっていないのではないのですか?。」


「そうかもしれん。しかし、何度かジュエルを遣いにやり信頼のおける者も送った。確かに直接の面会は許されなかったそうだ。最後には、遣いの者は捕らえられてしまった。しかし、自ら気づかぬということがあるだろうか?。」


「...そうなのですか...。ジュエル兄者はご無事なのですか?。アリシア姉様。そしてネスファル母さまは?。」


「行方は分からない。ラジャの街で調べてみたのだが...。殺されはしないはずだ。私に対する人質にできるのだ。その気なら艦隊を派遣する前に提示して来ただろう。」


「そうなのですか...。ワシ達に何ができるのか...。」


「トラフィン。サンザ。おまえ達は他のことはこの兄に任せ自分のすべきことをしなさい。それが、皆を救うことにつながる。兄者も父上も、プロスファル様も、我が母も。そして、私も。」


「自分のなすべきこと...。」


「笑。強くなれ。トラフィン。器の大きな男になれ。思慮深く思い遣りのある人となれ。己の宿命を乗り越えて。サンザ。おまえもだ。」


サンザはふくれている。


「サンザ!。兄者に失礼ではないか。」


この猫のように媚びないマイペースなところが可愛いくてならない。


サンザよ。


今は分からなくても良い。


おまえはこの数年で大きく成長した。


私はおまえが必ず自分に向き合うことを知っている。


私と一緒にいる間は好きなだけむくれたり拗ねたりするが良い。


始発であるシーヌジーナンの駅で、係の者がレバーを力一杯引くと、駅全体が揺れ銀色の巨大な列車は浮き上がった。


アフロダイモーターの動力はとても力強い。


私の重さをものともしない。


そして、音もなく外環道よりも急なレールを浮きゆっくりと進み始める。


スルスルと空を滑るように弧を描き上昇する。


2時間をかけハイドラ最大の山岳都市セメティームハイドラがある、セメタム(23番目の)ジーナンに向かう。


キドーの総本山は、間も無くだ。

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