ダヌアの空に5
キーーーーーーーーーーーーー
キーーーーーーーーーーーーー
ゴゴゴゴ
ドドドドドドドドドドドド
ファイヤーバードの動力源、アルマダイ高圧炉の回転音、そして巨大な反重力推進器の爆音が鳴り響く。
この状態が8時間続いてる...。
もう、鼓膜がおかしくなってる。
それに、かなり激しく揺れる。
もし、このファイヤーバード17号が、無事に最前線に着陸しても、そこから、ハイドラ全軍の10倍の数のデューン軍、そして、殺人アンドロイドボルボーレの大軍と闘わなくてはいけない。
前衛艦隊だけでも10倍だ。
それなのに、長い時間をこの不快な爆音に耐えなくちゃいけない。
気が休まる暇がない...。
敵は、南の軍事超大国デューンと、北の超大国アマル帝国の南の拠点。
既に、このハイドラをどこで分割するか、デューンとアマルの間で話がついているという。
圧倒的に不利な戦。
もし、この戦いに負ければ、ハイドラの美しい大地は、無数のデューン兵に道端の草のように踏みにじられる。
そして、かけがえのない肉親は、薄汚れたテッシュのように捨てられる。擦切れるまで何回も何回もレイプされて。
国を守るって、責任が重い...。
今ある少しの救いは、草の香りを運んで、そよいでくる暖かい朝の風。コンテナの中に。
モニターは、ずっと傾斜し続けるアルバーン平原を映している。
時折、茶色い塊が見える。
塊は全て人の形をしていて、紐のように、根で繋がっている。
大きいものは10メートルを越える。
食人植物オライドーンの死骸だ。
2年前に、大量発生し、ハイドラ軍に駆逐された。
どれも、鋭い牙を剥き出して死んでいる。
オライドーンの残骸は、もう2年も経つのにいまだに残っている。干からびた茶色い一つ目の巨大なミイラになって。
この植物は、どのような野望を描き、人間社会に闘いを挑んだのか。
オライドーンの頭にとまっていた、白い鳥達が、ファイヤーバードの爆音に驚き飛び上がった。
しかし、巨大な反重力ジャイロ推進器の嵐に巻き込まれ、小さな綿毛のように散っていった。
土が目立ち始める。
ファイヤーバードの巨大な船体は斜面を下っていく。
突然、ジャイロ推進器の音が静かになった。
ファイヤーバードの両側、彼方に見えていた山脈が消え視界が広がった。
急斜面の下に、落差の下に、無限に広大な大地が広がる。無限に。
思っていた以上に絶望的な景色だ。
まるで下界に、いや地獄に降りたように。
大気が黄色い。
特殊なフィルターをかけているようだ。デューンの国境近くは、多量に生息している植物クヌンの実が粉化して、大気に浮遊している。
クヌンの粒子は、光の黄色だけを強く反射する。
これから戦場となる大地には、ツタと木の間の植物ケーヌや、蓮に似た植物や、クヌンが生えている以外、全く何もない。
雲が低くモヤのように広がっている。
見渡す限りの湿地帯だ。地平線の遥か彼方まで、どこまでもどこまでも。
これでは、ジャミーは足を取られてしまう。
気が狂いそうなほど、何も無い。
今まで、苦楽とともにあったアルバーンが、ハイドラが、小さく、遠くに離れていく。ジャイロ推進器の爆音とともに背後でまるで塵のように小さくなって行く。
見渡す限り、地平線まで剥き出しの、黒土の湿地帯が広がる。
時折、モニターが焼けるほど眩く光る。レバンナの超長距離粒子砲が、デューンのバルデス大艦隊を攻撃している。
アマギとファイヤーバード達は、地上にモヤのように広がる雲に突入して行く。
雲から出ると、すぐに銀色の大艦隊に遭遇した。銀色の巨大な船達。冬を越えるクジラの群れのように、天敵から仲間を護るように、一糸乱れず艦隊列を組んでいる。ハイドラの第七艦隊だ。
この重厚で荒々しい艦隊にとっても、デューンとの激戦地のここは、危険な場所だ。
激しい振動が広がる。
第七艦隊の全ての艦がスラスターに点火した。
物凄い光と音の洪水。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
地鳴りが起きる。
第七艦隊は、前進し始めた。アマギと、僕たち残りのファイヤーバードの合流を待っていたんだ。
ゴゴゴゴーーー
キィーーーーーーーーーーーーーーー
コンテナ内にどよめきが。
17号を真ん中に、静かにファイヤーバード群を先導していた、アマギは、降下しながら、突然爆音を上げ始めた。
モニターにアマギが映し出されている。
「見ろ!アマギが!」
「アマギが変形するぞ!」
「アマギが変形を始めた!」
兵士達が口々に叫ぶ。
ハイドラの最強の戦艦が変形を始めた。
もはやアマギは超高速航行をしないつもりだ。
ゴゴゴゴ...
シンプルな平たいロケットのような形をしていたアマギ。最上層のジニリウム装甲が船体に格納され始める。
代わって銀色の迫撃反射装甲タイダルが鈍く光を放つ。アマルの最新鋭艦ヒステリアとほぼ同じ装甲と言われている。
アマギの艦首、艦尾は、横に開きはじめた。
まるでスフィンクスだ。
ウィーーーーーーーン
ウィーーーーーーーン
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
アマギの誇る5500mm主砲が船体からせり上がり始めた。
23門の主砲、54の副砲。
そして、2門の艦首拡散迫撃粒子砲は、まるでアマギの二つの目のように、艦首にせり出し、地平の彼方をを見据えている。
無数のミサイル発射管、そして、小型艇迎撃用の機関砲やレーザー砲。
ガガグーーン
上下弦の艦橋がアマギの船体からせせり出した。
デューン軍のローレア粒子の濃度はほぼ1%を越えた。アルマダイ、アフロダイ、電波通信、全ての通信は閉ざされる。
光学レーダーのみ。目視で戦うつもりらしい。
同時に、アマギの前方のハッチが開き無数の小型攻撃機が飛び立った。あたかも、スズメバチのようだ。
おぉぉ...
アマギのあまりの変貌ぶりに誰もが息を呑んだ。
更に、後方ハッチが開き、銀色の小型駆逐艦が次々と現れた。
「見ろ!ジンズウとアズマが出るぞ!」
小型駆逐艦達は、クジラの子供達が産み落とされるように、アマギの後方ハッチから後ろ向きに滑り落ちた。そして、スラスターを点火すると、母船であるアマギの周りをゆっくりと秩序正しく回転し始めた。
アマギの2つのメインスラスターが消え、7つのサブスラスターが点火した。
アマギはさっきの流線型にも似た美しい曲線が嘘のように、重厚で、攻撃的に、風態を変えた。
ゴワーーーーーーー
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
今度は、第七艦隊がアマギを中心に左右、真っ二つに別れ進路を変え始めた。
アマギを中心に、真っ二つに。
まるで、巨大な回遊魚の大群のように。
この戦いでの旗艦アマギに、第七艦隊の774の全艦艇は、待ち構えていたかのように、一斉にアマギに道を譲った。
今まで艦隊の指揮を取っていたハイドラ軍 主力航空戦艦ユキカゼは、左の艦隊へ。
そして、アマギに次いで大きな戦闘艦が、2隻。アマギの後方へ付く。シラヌイとゴウテンだ。
アマギが先頭に立つと、第七艦隊は横に大きく広がり始めた。
ドドーーン!
ガラガラガラガラ
アマギと、アマギの周りを回りながら飛行する小型駆逐艦は、高圧炉をブーストし防御シールドを展開した。
更に小型駆逐艦は、バリアをはり、敵艦の大型の砲撃を弾き返し、アマギを護っている。
ドーン!
ドンー!
ドン!
ズズーン!
ドーン!
次々と火山が噴火するような鈍い深い音が次々と響き渡る。
第七艦隊の艦艇も、一斉に薄く青白く光る防御シールドを展開し始めた。
バルデス大艦隊を光学モニターで確認できる距離に近づいた。
レーダーは、ある地点を境に真っ黒だ。
「艦長。メジャラージです。」
レーダー担当が言う。
どの艦のレーダー担当も、それはこの地域特有の、巨大スコール メジャラージの雲だと判断した。
そして、どの担当者も、ほぼ同時に気づき沈黙した。
それは、巨大な雨雲ではなく、バルデス大艦隊だったから。
バルデス大艦隊は、レバンナの超長距離粒子砲の攻撃から逃れるため、高度をギリギリまで下げている。
反重力波の反動で、自らに打撃を与えない、最低限の高さまで。
数1万を超えるバルデス大艦隊は、静かなに陣形を変え始めた。まるで、ハイドラ第七艦隊を覆い包むように。
バルデス大艦隊の変化に合わせ、他のファイヤーバードも17号と同じ高度まで上昇して来た。
ファイヤーバードが、16機に増えている。ダミーがいるのかもしれない。でも、それでも数が合わない。数が多過ぎる。
ハイドラ第七艦隊は、更に隊列を変え始めた。
ユキカゼ級主力艦の周りを、小型護衛駆逐艦達が囲みゆっくりと回転し始めた。
ユキカゼ級主力艦は、全てのファイヤーバードの護衛に着いた。
ババッ!
コンテナ内モニターが真っ白に光った。
熱風がコンテナ内に入ってくる。
大きな爆発がおきる。
ズズズーーーーン!
爆風でこのファイヤーバードも揺れている。
レバンナの超長距離粒子砲撃だ。
取り囲もうとしているバルデス大艦隊を分断しようとしている。
爆心に近づいたから、反動も大きい。
パシィ!パシィ!パシィ!パシィ!
連続してモニターが眩く真っ白に光る。
ドドドーーーン!
ドドドーーーン!
ズズズーーーーン!
ドドドドドーーーーーン!
暫く収まっていた、ハイドラの軍事衛星オグワン群がバルデス大艦隊に砲撃を行っている。
デューンのシナプスフレーム ゴトラは、ハイドラのペルセアに押されている。
制空権は、ずっとペルセアが掌握している。
今は、デューンの攻撃衛星 バゼイルはこの戦場に出られない。
ハイドラのスーパーシナプスフレーム ペルセアを倒せるのはアメンだけ。アマル帝国のスーパーシナプスフレームアメンだけだ。
バルデス大艦隊は、再び分断された。
ペルセアは、予定通り、デューンの最初の作戦を何とか阻止した。
数で劣るハイドラ軍が、デューンとの戦いを優位に進めるには、要は全て押さえなくてはならない。
戦場がどこになろうと...。
ユキカゼ級に先導され、第七艦隊は、16の艦隊に分かれた。
巨大なバルデス大艦隊は既にどこにでもいる。
デューンは、ペルセアに対抗するため、どこかで、シシィ•ドールをぶつけてくる。シシィ•ドールは大帝国アマルのコウソンライと並び称されるほどの戦術予報士。
いつシシィは、デューン軍の指揮を取りはじめる?。
ドドドーーーン!
ドドドーーーン!
ズズズーーーーン!
ドドドドドーーーーーン!
ドドドーーーン!
ドドドーーーン!
ズズズーーーーン!
ドドドドドーーーーーン!
ドドドーーーン!
ドドドーーーン!
ズズズーーーーン!
ドドドドドーーーーーン!
オグワンからの砲撃がより一層激しくなる。
ペルセアはオグワンを使いバルデス大艦隊の動きを封じている。




