ハイドラの狂人41
「...み、見ろ!。アンドゥ。あれが爆震だ...マジウだ!。」
「...マジウが...。こ、ここまで暴虐の限りを尽くすとは...。」
樹海は怒り狂っている。
激しく音を立て燃えあちこちにキノコ雲が立ち上っている。
「ど、どうする?!...。」
「マジウの正面でゆっくり着陸態勢を取る。スリーブノーク隊、ノーホーク隊は、そのまま現座標で待機。マジウを刺激するな!。」
『...ノーホーク隊。了解。...』
『...スリーブノーク隊。了解...』
「着陸態勢に入る。」
アンドゥのフライヤーは翼を広げ垂直に降下し始めた。
「見ろ!。マジゥが手に何かを乗せている...。」
「何だ!?。に、人間の子供じゃないか...。...ひ...酷すぎる...。串刺しだ。...か、拡大しろっ!。まさか!。」
...ボボボボボボゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーー...
爆音が鳴り響き樹海に全体に広がり反響して行く。
マジゥが吼えた。
アンドゥ達の乗る大型フライヤーは激しく振動する。
...ボンッ...
...ボン...
...ボンッ...
...パリン...
...パリン...
「おぉ...。」
エネルギーメーター系が一気にショートする。
「計器が!。計器が!。」
...バリバリバリバリバリバリ...
...バリバリバリバリバリバリ...
マジゥが緑色の炎を纏おうとしている。
...ウオオオオーーーーーーーーーン...
...ウオオオオーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ウオオオオーーーーン...
巨大な狼の叫び声。
「ろ、ローレライだ。」
...バリバリバリバリバリバリバリバリッッッ...
マジゥの背中の壊れた放電翼が広がって行く。
雷鳴のような音をさせながら。
孵化したばかりの蝶が羽を広げるように
...バリバリバリバリバリバリバリバリ!バリバリバリバリバリバリバリバリ!バリバリバリバリバリバリバリバリ...
....ウオオオオオオオオーーーーーーーーーン...
....ウオオオオオーーーーーーーン...
....ウオオーーーーーーーーーーーーーーン...
...チカチカ...
大気がフラッシュする。
「うわっ!。な、何だ?!。」
....ボボボボボボゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーー...
...ボボボボボボゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーー...
マジゥが叫んでいる。
凄まじい爆音。
...ピシィッッ...
フライヤーの生体金属の窓に亀裂が入る。
「窓の位置を変えろ!...機体が裂けてしまう!。」
「駄目です!。亀裂部分から生体液が染み出しています。炉で制御できません。反重力板!。出力低下します!。」
「アンドゥっ!。下を見ろ!。下だ!。」
男が下弦モニターを指差す。
「あれは...。確か...。ネスファル様の執事!。血だらけじゃないか!。」
「足元!。足元っ!。」
「サンザ様だ!。ヒドゥィーンタイガーがいる!。」
「ひぃっ!。」
「何だ!?。どうした?。」
「こ、この黒い山は...。お、オエーーーーーーッ!。」
「何だ。どうし...く、く、クローチ...。皆潰されている...なぜクローチが...。」
...ドウウーーーーーーーーーーーーン...
...ドウウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
フライヤーが激しく揺れる。
「重力板持ちません!。このままではサンザ様や執事の上に落下してしまう!。汗。」
「何もかもローレライに吹き飛ばされる!。ノーホーク!。スリーブノーク!。高度を上げろ!。巻き添えを食うぞ!。」
『...あれは...あれは一体.....』
『....馬鹿野郎!。どこを見ている!....』
『...接近してくる編隊があるが....』
『...そうじゃない!....ノーホーク!。聞こえるか!。東の方角を見ろ!。...』
『...あぁ...。イプシロンが。...』
『...違う!。下だ!。下を見ろっ!....』
遥か彼方に赤い何かがこちらに向かってくるのが見える。
赤い何かの周りには土煙が広がっている。
『...なっ...。マジアだっ!。見ろ!。マジアだ!。あれは!。....』
『...ヒッ!。こ、こっちへ来るっ!。...』
『...こんなところまで音が響いてくる。....』
彼方で大木がなぎ倒される音が響いてくる。
...ガラン...ゴローン...ドスーン...ドスーン...
...ガラン...ドスーン...ゴローン...
『...距離約7900(746km)ノード、速度...8200ノード...物凄いスピードだ...。い、1時間でここに到達してしまう。.....』
『...このままではマジアとマジウがかち合ってしまう...。激突は避けられない。...』
...チカッ...チカッ...チカッ...
...バシィ...バシ...ドン...
「アンドゥ!。火の粉が...。」
...バゥーーーーーーーーーーーン...
フライヤーが右側に大きな衝撃波を受ける。
「ぁあ!。汗。アンドゥさん!。落ちます!...。」
操舵手が叫んだ。
フライヤーは回転し始め真下に落下し始めた。
『...ノートルワンがっ!。アンドゥ!。アンドゥっ!。...』
青の巨人はますます濃い緑色の光を纏い始めた。
伴って光と接触する大気は爆発を繰り返し始めた。
....バリバリバリバリバリバリバリバリ!バリバリバリバリバリバリバリバリ...
青い巨人の背の放電翼は完全な形を取り戻した。
多角形の放電翼は眩い幾重もの光を放ち回転し始める...
...バーーーーーーーーーーーーーン...
...バンバーーーーーーーーーーーーーン...
「反重力板半数が炎上!。」
フライヤーは激しく回転し始めた。
「も、もうダメだ...!。」
フライヤーは加速して落下し始めた。
「か、貸して見ろ!。」
アンドゥは、操舵桿を必死で引いた。
「動けっ!。うーごーーけっ!。」
「あぁぁ...落ちる落ちる...。」
外が眩く光る。
目が焼けるようだ。
誰もが身体を抱え込み耳を塞いだ。
...フォーーーーーーーーーーーン...
警笛とともに白いフライヤーがマジウの肩を通り越す。
ゆっくりと旋回している。
「浮いている!。」
アンドゥ達のフライヤーは落下せずに宙に浮いている。
『...何だあの白いフライヤーは...』
白いフライヤーの上に白い装束の男が立っている。
爆風に晒されながら。
男の白い不思議な形の帽子は一瞬で吹き飛ばされた。
『...危ないぞ、あの男!...』
男は持っている杖で足元を突いた。
『...拡声器だ!。警告をする!。何をやっているんだ!。あの男は。...』
...ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
穏やかで柔らかい白い光が球状に広がって行く。
男の杖から...杖の上の光が...。
光はマジウのローレライを覆うほど巨大に。
「何だ、この光は...。」
マジウが吼える。
...ゴゴゴガガガガァァァァーーーーーー...
男の出した球状の光は一瞬で消滅した。
緑色の光がマジウの身体を覆い始める。
爆風が吹き荒れる。
『...危ないっ!...』
「うわあぁぁぁ!。」
アンドゥのフライヤーは一気に降下した。
白装束の男はフライヤーの上から振り落とされそうになり必死にしがみつく。
フライヤーには捕まる場所が無い...。
男は滑りながら杖を空に掲げる。
...ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
再び男の杖から白い光の球が広がる。
今度はマジウだけではなく辺り一面を覆って行く。
緑色の炎は一瞬で消え全ての落下物は空中に静止した。
...ゴゴゴガガガガァァァァーーーーーー...
マジウが吼える。
男はしっかりと立ち上がる。
力強く杖を天に向かって押し出した。
「見ろ!。亀裂が修復されていく!。一体、一体、あの男は誰だ...。」
白い暖かい光はマジウのローレライを消した。
そして全てのものに力と平穏をもたらして行く。
『....見ろ!。串刺しになっている子が動いている!。.....』
『...あの方は一体...』
...ドゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
破裂音が響きわたった。
...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
ジェットタービンが激しく回転するような音が轟く。
「あっ!。」
マジウが白い光を吹き飛ばす。
白装束の男も吹き飛ばされた。
マジウの放電翼が眩い輝きを放ち回転する。
『...おおぉ...あ青いイプシロンが。...』
『...また緑色の炎が。...』
「堕ちないぞ...。フライヤーが浮いている...。」
「見ろ!。あの白い人が!。」
吹き飛ばされた男は宙に浮き再び光を放っている。
白いフライヤーは空中に静止している。
「あっ!。」
「どうした?。アンドゥ?。」
「大神官...あの方は大神官様じゃないか!。」
「な、何だと...。」
「セクハンニの大神官 ジェー•ディーだ!。」
「ジェー•ディー...。あの大神官の奇跡は本物だったのか...。」
「凄い...凄すぎる...。」
「あぁっ!。」
ジェー•ディーが血を吐いた。
...ズダーーーーン...
フライヤーは大きく揺れ少しずつ落ち始めた。
「...ここまでか...俺たちも騒ぐまい...アンドゥ。大神官様がここまで身体を張っておられるのだ...。」
「何を言っている!。下だ!。下を見ろ!。俺たちの任務を忘れたのか!。」
そういうと、アンドゥはレバーを引いた。
いびつに丸く生体金属のボディに穴が空いた。
「おおおーーーい!。避けろ!。避けてくれっ!。」
老人もサンザも動けない。
動くことができない。
「飛降りよう!。アンドゥ!。」
「ダメだ...。もし2人の上に...。それに50mはあるぞ!。」
『...何だこの歌は...何だ...この美しい声は...』
『...懐かしい音...懐かしい声...』
「見ろ!。あのシャトル!。ギンターだ!。エメドラド様のギンター!。エメドラド様が来られた!。エメドラド様が我らを救いに来られた!。」
『...美しい衣装を着ている...人間?。人間?。神なのか?。歌を歌っておられる。何という...懐かしいしらべ。何という美しい声...』
「見ろ!。大神官の横に...空を飛んでいる!。バカな...。」
「おまえはエメドラド様を見たことは無いのか?。」
「ハッ!。あれが、あれが...あれがエメドラド...メシア...エメドラド様...。」
「そうだ...。」
『...見ろ!。マジウが...マジウが...翼を...放電翼を閉じ始めた。緑の炎を解いている...』
『...聞こえるぞ!。エメドラド様の声が!。聞こえるぞ!マジウの声が...』
「見ろアンドゥ...このフライヤーが移動している...。」
「た、助かったかもしれん...。」
「声が聞こえる...誰かの声が聞こえる。」
「美しい歌だ...。エメドラド様...。本当にいらっしゃったのだな...。」
「エメドラドは実在したのだ...。」
2つ首の老婆は宙で舞っている。
まるで天女のように光の羽衣を纏い美しい七色の光を発しながら。
この美しい歌が、この美しいしらべが、エメドラドがナジマの化身であることを証明している。
〔....マジウよ。嘆くでない。その子はまだ生きておる。...〕
〔.... マジウよ。おまえが暴れる程にその子は弱っている。...〕
〔.... エメドラド。この子は息をしていない。この子は死んでしまった。私は取り返しのつかない過ちを犯してしまった。...〕
〔.... マジウよ。案ずるでない。悲しむでない。おまえの優しい心はこの子に伝わっている。...〕
〔....マジウよ。おまえの足元にはおまえのもう1つの命が必死で息をしている。 ...〕
〔....エメドよ。ドラドよ。私は大切な宝を救うことは出来なかった。私は取り返しのつかない過ちを犯してしまった。...〕
〔....マジウよ。私がその子に命をやろう。私がおまえの宝物達を救おう。 ...〕
〔.... マジウよ。怒りに任せて全てを終わらせてはならない。絶望から全てを消そうとしてはならない。...〕
〔....助けてくれ。助けてくれ。エメド。助けてくれ。ドラド。助けてくれ我が弟達を。助けてくれ我が宝物達を。例えこの星を逆に回してでも。例え2つの太陽を破壊してでも。 ...〕
〔.... マジウ。信じることじゃ。...〕
〔.... マジウ。動かぬことじゃ。...〕
...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
マジゥから響いていた轟音はゆっくりと静かになっていく。
マジゥの身体から緑の炎は消えた。
攻撃色が低下していく。
「見ろ!。見ろ!。マジウアンティカがっ!。」
『...エメドラド様がマジウをなだめたぞ!...』
『...エメドラド様がマジウアンティカを説得した!...』
「助かった!。」
マジウからはあの激しい爆音も押し潰されるほどの殺気も無くなった。
樹海の燃える音だけが響いている。
樹海のあちこちに広がっていた炎も静かに消え始めた。
密林は静寂を取り戻した。
『...マジアがっ!。マジアがっ!。....』
『...どうした!。いったい!。....』
『...マジア アンティカが帰って行きます!...』
「やったぞ!。」
「助かったぞっ!。」
『...エメドラド様...エメドラド様...』
「無事に帰れるぞ!。」
クルー達は拍手し口々に歓喜の声を上げる。
シャトルやフライヤーは全て安全に密林の地面に着地した。
ジェー•ディーとエメドラドも地面に降りてきた。
...シュン...
...シュン...シュン...
...シュン...
次々とプロスファル家のフライヤーやシャトルが飛来する。
その数560。
...ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...キュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ...
赤いシャトルがサンザと執事の隣に着陸した。
医療用シャトルだ。
青い巨人はしゃがみ地面に下ろした。
複数のクローチの棘に串刺しになっている子供を乗せた手を。




