ハイドラの狂人40
どこまでも広がる見渡す限りの樹海。
第1太陽が沈み茜色に輝く上空をフライヤーの編隊が飛んでいる。
78000ノード(マッハ8)の壮絶な速度だ。
先頭は白いアザラシのようなフライヤー。
続いて煌びやかな装飾がなされた黒塗りの豪華なシャトル。
窓の無い2段バスのような形だ。
シャトルの上下左右後方には、
ハイドラ軍の小型駆逐艦が防御を固めている。
「大神官様。ご覧ください!。前方に巨大な兵曹がいます!。」
神官の衣装を着た若い操舵手が振り返って言う。
「何と...。」
2人の操舵手は前のコックピットに。
大神官はその後ろの指揮官の席に座っている。
右下、左下には、更に2人の神官が戦闘態勢でレーダーを見つめている。
操舵手の指差したコントロールパネルには、アフロダイレーダーで捉えた熱源がモニターに映し出されている。
モニターは赤く大きな人型の物体の動きを捉えている。
「距離感が分からない。ズームを等倍に戻してくれんか。」
「大神官様、こ、これは等倍です。」
「何!?。」
「体長約およそ135m。ノード8200(時速860km)。物凄い速度です。樹海の西の爆心の方角..座標L12645 M78643219。密林地帯に向かっています。あぁ!み、見てください!赤い赤い波紋がっ!。」
「光学モニターに投影します!。マ、マジア !マジア アンティカです!。」
光学モニターには巨大な赤い兵曹が深い樹海を移動するのが映し出されている。
樹海の木々はデフィンの巨体の腰辺りまである。
一度人が迷い込めば2度と出てこれない海のように広大な樹海。
巨人の背中が遥か前方に見える。
途端にフライヤーが大きく揺れ始めた。
「な、何?なんだ...。」
「衝撃波と爆風が。マジアからです。」
大型モニターに映し出されている赤い巨人が足を踏みしめるたび、なぎ倒された大木や土が地面から猛烈な速度で空に噴き上げられる。
「参った...これは...もう少し早く気づければ良かったのだが...。エメドラド様のギンター(エメドラド用の催事用シャトル)が心配だ...。」
「も、申し訳ありません。」
「いや、デフィン様が緑の光を纏っておられる。見つけるのは不可能。お前達のせいではない。私の読みが甘かった。それより何か良き対処を!。」
「ハハッ!。」
「ハイドラ軍 駆逐艦グノーサスから入電。エメドラド様のギンター(エメドラド用の催事用シャトル)はこの衝撃波に耐えられない。高度を上げ我々ハイドラ軍艦艇が連携を取り下層で防御シールドを展開するとのことです。」
「ネンよ。」
「ハハッ!。」
「エメドラド様のギンターは、な、なんぼ登れるのか?。」
「恐れながら...今の高度が限界かと...。エメドラド様のギンターは、エメドラド様の天界での御位に合わせ、それ以上高度を上げられない仕組みなのです。」
「分かっている。迂回するべきか?パン?。」
「恐れながら大神官様...。迂回したとしてもギンターが持ちません!。マジアがローレライを解かない限り。戻るしかありません!もし、マジアが我々を撃ち落とす気ならどこへ逃げても無駄かと...。イプシロンがトリスタンの裏まで追って参ります。」
「無駄などと...。言っている場合ではない。エメドラド様に何かあってはそれこそ取り返しがつかない。」
モニターから音声が響く。
ギンターからシャム双生児の巫女エメドラドだ。
エメドラドはハイドラのメシア(救世主)そして800歳の老婆。
『...ジェーよ。大丈夫じゃよ。デフィンはわたしらの子のようなものじゃ。何もしやせん。...』
「エメド様...しかし。」
『...エメドは私だよ。笑。ジェー。案ずるな。...このまま飛ぶが良い。』
「失礼しました。ドラド様、しかし、マジアは緑の炎を纏っておりまする。このまま飛ぶのでは、お乗りのギンターは持ちませんぞ。それに、マジアは、今は人の心は持っておりません。万が一...。」
『....デフィンと話したよ。...』
『...デフィンが約束してくれたよ。...』
「マジアとお話になられたのですか?。」
『....マジアと呼ぶでない。大神官よ。デフィンは人の心をなおも持っておる。なぁ、エメド...』
『....そうじゃドラド。デフィンは、モルフィンをなだめに行くだけじゃ...』
『...おぬしも聞いたであろう?モルフィンの悲痛な叫びを...』
『...弟達を探す悲しい悲しい叫びじゃった...』
『...デフィンとモルフィンは元は仲の良い2つ子のようなそれはそれは仲良き兄弟。顔は似ておらない気質も真逆。しかし、合わせ鏡のような魂じゃ.....』
『...デフィンはナジマの炎を降ろし暫し止まる....』
『...デフィンとて、幼き双子が心配でならないのじゃ...』
「分かりました。エメド様ドラド様。ネンよ。パンよ。このまま進むとグノーサスに伝えよ。双子達は一刻の猶予も無い。」
『...双子らもまた、天から授かったハイドラの宝。...』
『...ジェイよ良く知らせてくれた。.....』
『....気づかぬとは、我らも随分と衰えてしまった。....』
『...ジェイよ。これからは、おまえの力で人々を導くのじゃ。...』
「マ、マジア!。マジアがっ!。マジアが止まります!。」
...ドウウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンン...
...バリバリ...
...バリバリ...
...バリバリバリバリバリバリ...
光学モニターに巨大な赤い兵曹がゆっくりと停止するのが映った。
巨人が止まってもなお慣性で土煙は吹き上がり波及していく。
フライヤーを揺るがす振動も爆音も鳴り止み樹海は深い深い静寂を取り戻した。
赤い巨人は緑色のシールドを解いている。
フライヤーはマジアの僅か数十メートル直上を通り過ぎた。
...ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...
巨人から地鳴りのようか音が聞こえる。
ギンターはマジアの肩の上をやっと通り過ぎ、護衛のフライヤー、そして、ハイドラ軍の駆逐艦6隻が次々と続いた。
....ガスッ...
ギンターはマジアの身体から跳ね返って来た自らの衝撃波で反重力板の一部を破損した。
船団は高度を下げ密林に向かい進んで行った。




