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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
117/364

ハイドラの狂人35

...ドゥンドゥンドゥン...


スロードープは細かく振動しながら密林を飛ぶ。


スロードープは最高時速120kmだ。


この1機で全てを探索するのは難しい。


地平線の彼方まで広がっているこの密林地帯を。


サバンナや樹海は範囲が広いためプロスファル様のシャトルやエルカーが別れて探している。


プロスファル様のフォンナクには500台近いエルカーやシャトルがある。


そしてそれは一つの軍隊のようだ。


ネスファル様のフォンナクとはまるっきり違う。


バハヌノアの警察や軍には内通者がいるかもしれないので知らせないそうだ。


カバディルおじいさんの家は今月3番目の孫が生まれる。


おじいさんは孫が結婚するまでは頑張りたいと...。


何度も言っている。


おじいさんはワシが行って欲しい方向と逆ばかり飛ぶ。


何かあってはプロスファル様に合わせる顔がないと。


「おじいさん。ヒドゥィーンタイガーを見た場所に連れて行ってくだされ。」


「ジャングルの深くに入ることは危険じゃ。サンザの足ではジャングル入り口にすら入れてはいないだろうて。」


「サンザは今や熊や虎の型の達人です。移動する速さは師匠のモル兄様を超えております。サンザが全力で走ればシャトルよりも早いのですぞ!。」


「トラフィン。ここにはギリノアなどの飛行虫に乗ってケラムの生き物も入って来る。プロスファル様はトラフィンの願いを聞いてくださる代わりにわしに呉々も気をつけるように言われた。2度もじゃ。念を押して。奥地に行けば飛行虫も大きな肉食の鳥達もいる。危険じゃ。」


「ではここで降ろしてくだされ。ワシはヒドゥィーンタイガーを探します。サンザの絵はハッサンと言う名のヒドゥィーンタイガーだった。」


「降ろす?!。降ろすじゃと!?。子供のおまえ...いや、あなたがどうやって助けるのじゃ!?。なぜ、プロスファル様の前で言わな...。いや、おっしゃらなかったのじゃ!?。この老いぼれとポンコツの乗り物では助けるどころか逆に飛行虫や鳥の餌になってしまう。さ、サンザ...サンザ様ばかりか、おま...あなた様をも失ってしまう。プロスファル様の信頼もネスファル様との約束も裏切ることになる!。そんな!。そんなバカなことが出来るか!。」


ガバディルおじいさんが激昂しておられる。


「カバディルおじいさん。ハッサンのいた方角を教えてくだされ。ワシはモル兄様やデフィン兄様とは違う。そのような立派な者ではありません。5年前までは橋の下の孤児だった。サンザは孤児で少し変わっていてもワシにとってはかけがえの無い大切な宝物。みんなにはただの孤児でもワシには血を分けたたった1人の家族。もし危険で行けない場所ならここで降ろしてくだされ。ワシだけはサンザを助けに行きます。サンザが死ぬ時はワシの死ぬ時。降ろしてくだされ。」


「バカな!。死にに行くようなものじゃ!。わざわざ獣に食われに行く奴があるか!。ダメじゃ!。教えられん!。」


「ガバディルおじいさん。短い間でしたが優しくしてくれてありがとうございました。感謝します。では...。」


ワシは飛び降りようとした。


「ば、ば、バカ、バカ!。この高さから落ちたら...死んでしまう!。」


ガバディルおじいさんはハンドルを離しワシを抑える。


「分かった...。分かった。ハッサンのいた場所まで行こう。しかし...危険ならば直ぐに帰るぞ。犬死にはごめんじゃ。来月、孫が生まれるのに...。娘に何と言えば...旦那をこの密林で亡くしておるのじゃ...。生まれてくる子に誰が飯を食わせる...。」


「ここで降ろしてくだされ。ガバディルさんはもうお帰りください。トラフィンが制止を聞かずに言ったとお伝えくだされ。」


「そんな可哀想なことが出来るかっ!。獰猛な生き物ばかりのこの場所に子供を置き去りにするなんて!。鬼のすることじゃ!。」


「ガバディルおじいさん。ワシもサンザほどではないが心得があります。サンザを見つけたらおじいさんは帰ってくだされ。足手まといですじゃ。」


「なんじゃと!?。なんじゃと!。この頑固者が!。...モルフィン様とそっくりじゃ....この歳になって、何でこんな怖い思いをせにゃならん....神様.....一体ワシが......何をしたと言うのじゃ.......孫が.....生まれるんじゃ......。」


ガバディルおじいさんは泣いておられる。


巨大な蛇のように曲がりくねった川を越え奥地へと飛んで行く。


綺麗だった鳥や蝶は大きく薄暗い色へと変わっていく。


賑やかだった密林はまるで潜んでいる猛獣のように鎮まっていく。


これが殺気と言うものだろう。


恐怖心しか感じない。


カバディルおじいさんは震えておられる。


大きな熊の群れが移動している。


甲殻の無い熊はハイドラでは珍しい。


生き残ることが出来ないからだ。


中央に途轍もなく大きな熊がいる。


「ダメじゃ....あれはクローチの群れ...。見つかったらどこまでも追ってくる。」


「クローチ...。群れる熊は珍しい。」


「トラフィン。あれはケラムの生き物。いつの間にゴードへ...。」


「ケラムの?。」


「そうじゃ。ケラムの獰猛な肉食ネズミじゃ。」


「ね、ネズミ...!。」


「そうじゃ。熊のように大きな目の無いネズミじゃ。あの群れで何もかも食らいつくす。見ろ。あの真ん中にいる奴。あの桁外れに大きな奴がボスじゃ。」


「...あ...あれが、ネズミ...象みたいに大きい!。」


「バカを言うな!。象どころか20mはある!。」


「さ、20m...。」


「トラフィン。悪いことは言わん。帰ろう。」


「....ここでここで降ろしてくだされ。」


「...まだ、そんなことを...。あんな化け物のいる所へなぜ行こうとするのじゃ...。」


クローチは数百はいる。


スロードープは高度を上げクローチの群れから離れて飛ぶ。


「!。見ろトラフィン!。ハッサンじゃ!。」


少しだけ開けた場所に白い巨大なヒドゥィーンタイガーが。


岩の上に立っている。


ハッサンは血だらけだ。


牙が片方折れている。


!!


クローチに周りを囲まれている。


何十頭ものクローチが血を出して死んでいる。


...グオオオオーーーーーーーーーーーーー...


ハッサンは勇ましく吼える。


しかしハッサンはこの後ろに無数のクローチが押し寄せていることを知らない。


ハッサンは大きな岩の周りを回っている。


茶色い苔の生えた小さな岩を大きな岩の真ん中に置いて。


周りを回っている。


クローチを威嚇しながら回っている。


よほど大切なものなのか...。


クローチ達はハッサンの隙を窺って飛び込もうとしている。


死んでいるクローチは1匹だけ一際大きい。


変な型をしている。


「み、見ろ!...トラフィン...た、た、タイオールだ...。」


タイオール...。


首が二つある...ゴリラだ!。


口から血を吐いている。


目がワニのようだ。


大きい。


布を纏っている。


白い木の棒が一杯ばら撒かれている。


近くには、歪な籠のようなものが...。


うわっ...臭い...!。


何かの腐った匂い...。


木の棒じゃない!。


ほ、骨だっ!。


人の...子供の骨...だっ...。


籠の中は骨だけじゃない...人間の子供が...食われかけの人間の子が...まだ動いている子も...。


クローチが籠に顔を突っ込んだ!。


「ャーーンッ。」


こ、子供のひ、悲鳴、悲鳴だ!。


「トラフィン!。見るなー!。見ちゃいかんっ!。」


カバディルおじいさんはもどした。


...グェッ...


スロードープはバランスが崩れる。


...グオオオオーーーーーーーー...


ハッサンがまた吠える。


...ゴゥ...


...ガッ...


クローチが飛び込んで来た...。


苔の岩を...。


ハッサンがクローチに噛み付いた。


ハッサンは10m近くある。


クローチは3mくらいだ。


じゃが数が多過ぎる...。


クローチの1匹が小さな苔の生えた岩の一つに噛み付いた。


赤い煙...?


ち違う!。


血!血だ!。


違う!。


岩じゃない!。


赤ちゃん!。


ひ、人の赤ちゃんじゃ!。


苔じゃない!。


布で包まれておるのだ!。


カバディルおじいさんも驚いて振り向く。


「に、に、人間の子だ!。赤ちゃんだ!。生きている!。」


カバディルおじいさんが叫ぶ。


また1匹が赤ちゃんに噛み付いた!。


た、た、食べてる...。


ハッサン最後の1人に身体ごと被さって庇った。


どうしても隙が出来る。


こうするしかないのだ...。


次々とクローチがハッサンに噛み付く。


鋭い牙だ...見る見るハッサンの肉が削り取られていく...。


...グウアァァァァ...


ハッサンが悲鳴をあげている。


苦しそうだ...。


何とか、何とかせねば...。


ハッサンが死んでしまう。


「と、トラフィン...バカなことを考えるでないぞ!。」


カバディルおじいさんはまたもどした。


どうすべきか...。


...ガーーー...


....ゴッガーーーーーーーー...


獣の雄叫びが...どこ?どこじゃ?...。


草の生い茂った斜面の上に2匹のヒドゥィーンタイガーが...。


ハッサンの半分位の大きさだ。


一頭はハッサンと同じ色。


もう一頭真っ白だ...。


真っ白なヒドゥィーンタイガー。


白い方がお兄さんだ。


少し大きい。


二頭は一気に坂を駆け下りてきた。


二頭は次々とクローチをかみ殺して行く。


よ、良かった。


子供のヒドゥィーンタイガーとて大型のトラック並みの大きさ。


三頭いればクローチも歯が立たない。


ハッサンの死角を子供達が護る。


次々とクローチの死骸が重なって行く。


....ゴゴゴーーーゴゴゴーーーゴゴゴーーー....


!!


違う獣の雄叫びが...。


く、クローチのボスが...。


お、大きい...ハッサンの3倍はある...。


....ガガァーーー...


白いヒドゥィーンタイガーが勇敢に立ち向かって行く。


ハッサンともう一頭はクローチを必死に払い退ける。


「か、可哀想に...みな、みんな、食い殺されてしまう...虎も人の子も...。」


か、カバディルおじいさんは放心状態だ...泣き出してしまった。


上昇レバーの場所も分からない...。


...ゴゴゴーーーゴゴゴーーーゴゴゴーーー...


...ガガァーーー...


....ゴゴゴーーーゴゴゴーーーゴゴゴーーー...


...ガガァーーー...


....ゴゴゴーーーゴゴゴーーーゴゴゴーーー...


...ガガァーーー...


巨大なクローチと白いヒドゥィーンタイガーは威嚇し合っている。


白いヒドゥィーンタイガーはクローチのボスの前では子猫のように小さい。


それでも怯んでいない。


...ググガーーーーーーー...


ハッサンは心配そうに唸る。


ハッサンはもう動けない。


もう一頭の子供もいつの間にか血だらけだ。


クローチは目がないが聴覚が鋭い。


音波で視覚とほぼ同じ景色が分かるらしい。


音波で色も見分ける。


白いハッサンの子供はボスクローチの爪を交わし噛み付いた。


ボスの腕から体液が噴き出した。


ボスの爪が白いヒドゥィーンタイガーを狙う。


ハッサンの子供はかわした。


クローチがまた爪を。


ヒドゥィーンタイガーはかわしてまた噛み付く。


白いヒドゥィーンタイガーは身体が大きいのにすばしっこい。


このままいけば勝てるかもしれない。


とても勇敢だ。


...ググウ...


あ!。


ハッサンはもう動けない。


ハッサンを護っていたもう一頭の子供もハッサンを庇いきれずどんどん血だらけになる。


あ!。


危ない!。


ハッサンの顔にクローチの1匹が噛み付いた。


ハッサンが仰け反った隙にもう1匹が...。


白いヒドゥィーンタイガーが慌ててハッサンの元に...。


...ゴッ...


...シューーー...


大気中に鮮血が飛び散る!。


白いヒドゥィーンタイガーが巨大なクローチに噛み付かれ持ち上げられている。


ハッサンが飛び出した!。


ハッサンが巨大なクローチに体当たりをした。


ボスの口から白いヒドゥィーンタイガーは落ちた。


じゃが血が噴き出している。


ボスクローチがハッサンに爪を立てる。


...ギャゴーーーーーーーーーーーーーー...


ハッサンが悲鳴を上げた...。


ボスはハッサンに噛みついた。


クローチが赤ちゃんを!。


もう一頭が身体をぶつけて追い払った。


み、みんな死んでしまう...。


...ゴーーーーーーーーーーーーーー...


ハッサンが悲鳴を上げる。


おびただしい血の量だ...。


白いヒドゥィーンタイガーが立ち上がろうとくるくる回っている。


クローチは爪でハッサンを刺そうとした。


白いハッサンの子供が最後の力を振り絞って巨大なボスクローチに体当たりをした。


クローチはハッサンから顎を離し白いヒドゥィーンタイガーの喉に噛み付く。


白いヒドゥィーンタイガーは痙攣している。


...グゴゴゴーーーーーーー...


ハッサンは怒っている。


クローチのボスはそのまま動けないハッサンに爪を振り下ろした。


また赤ちゃんに別のクローチ達が飛びかかる。


もう一頭のハッサンの子供がもう一度体当たりをする。


岩から転げ落ちた。


もうダメだ!。


ワシが行く!。


...バッシーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


物凄い音がした。


ボスクローチは噛み付いている白いヒドゥィーンタイガーを離した。


...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


地面が揺れる。


サンザだ!。


サンザだ!。


サンザは腕を開いている。


熊櫓だ...。


巨大なボスクローチは立ち上がれない。


良しワシも行く!。


腕が取られた。


カバディルおじいさんが掴んでいる。凄い力だ...。


「トラフィン。行ってはいかん。あの化け物の力は、あのデカいクローチの恐ろしさは、こんなものではない...。今のは、戯れていただけじゃ...。」


カバディルおじいさんは、 目を見開きガタガタと震えている。

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