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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
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ハイドラの狂人28

爆炎、土煙、砂埃、舞い上がった残骸...。


大気は曇ってしまった。


緑色の火の粉が踊っている。


まるで妖精のように。


ローレライだ。


のどかで美しかった景色は、荒野のように風が吹き荒れる。


地面は黒く溶け焼けただれている。


地獄の景色のように。


...ドンドーーーーーーーーーーーーーン...


...ドーーーーーーーン...


...ドン...ドーーーーーーーーーーーーーン...


ハイドラ空軍の旗艦レバンナが上空で静止している。


その巨大な船体は小さな金属の破片に見える。


アルマダイエンジンの音を轟かせながら。


レバンナの艦首識別灯は赤赤白白白と輝きを放つ。


識別灯はその兵器がどの勢力の指揮下にあるかを表すものだ。


ハイドラ国内だけで有効な信号。


ハイドラが、首長会、酋長や族長達による大酋長の会、国民評議会、国務執行システム(ペルセア)と、複数の対立する国権機関を持つ国だから。


ペギリウム鉱石はアルマダイを浴びるとハロゲンの数千倍の光を放つ。


照射されるアルマダイの波長により様々な色に変わる。


ハイドラには、兵器に限らずその豊富なペギリウムを活かした様々な装飾がある。


狼煙や木の配置で様々な情報や感情を共有して来たヒドゥィーン達は、ペギリウム鉱石の発見により多彩な意思の伝達や共感が出来るようになった。


攻撃衛星オグワンの多彩な光の洪水は戦略的な意味が込められている。


ヒルマ殿跡は溶けた溶岩と塹壕そして残骸しか残っていない。


巨大な青い兵曹は黒焦げになって転がる兵曹の頭部を踏みつけている。


巨大な頭部を。


聴こえる。


声ではない。


『......貴様は祖国を売った......貴様はヒドゥィーンの魂を売った......取り返しのつかないことをしてしまった......』


あの青い巨兵の思念なのか。


それともあの死んだ黒い兵曹の怨念なのか...。


巨大な生首はそれだけで高い。


かってあった観客席よりも。


赤い光を失った二つの目、苦悶の表情、開かれた大きな口...。


神判を受けた化け物の姿。


悪神に逆らい滅ぼされた怪物の憐れな姿。


恐怖に硬直したその表情はもはや石像のように精気がない。


...ゴンゴンゴン...


...バリ......バリ......バリバリバリ...バリバリバリバリバリ...


...ドシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...


生首は無慈悲に踏み潰された。


脳が飛び出す。


とても巨大な脳が。


....ゴンゴーーーーーーーーーーーーーン...


...ゴンゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


レバンナの高圧炉の振動音が急速に遠ざかって行く。


青い巨人は彷徨っている。


楽園から地獄に転落したヒルマ殿の辺りを。


あちこちで火がくすぶり白い煙を燻っている。


未だに宙を舞っていた瓦礫が降ってくる。


青い巨人が何かを探している。


堕ちた人間を喰らおうとする餓鬼のように。


思念が聴こえる。


ローレライのせいだ。


『....魂を売り祖国を売った....』


...ギューーーーーーーーーーーーーー...


...ガラガラガラガラガラガラ...


...ギューーーーーーーーーーーーーー...


...ガラガラガラガラガラガラ...


虫の鳴くような歯車の回るような音がする。


大きな金属の蜘蛛の様なものが転がっている。


青い兵曹は蜘蛛の方にゆっくりと向かった。


金属の蜘蛛は10m位の大きさ。


シーアナンジンだ。


死んだ兵曹の。


金属の甲殻が割れ多彩な血管がむき出しになっている。


配線なのか血管なのか分からない。


青鬼が近づくに従いシーアナンジンは暴れる。


仰向きのまま。


金属の脚を激しく動かして。


逃げようとしている。


...ツィーーーーーーーーーーーーーーン...


...ィーーン...


...ツィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


蜘蛛は甲殻についている二つの透明なモーターの重みで起き上がれない。


モーターが回転するたび甲殻が光り修復されていく。


『....恐れたからか...己をのみを利するためか........』


思念がうわ言のようだ。


まとも現象ではない。


シーアナンジンの二つのモーターは複雑な構造をしている。


この透明な金属はハイドラのものではない。


『...この証が一体何になろうか.....』


青い鬼の大剣がシーアナンジンを両断する。


爆発を起こさず半分に切れた。


金属だったはずのそれは、足の早い野菜のように悪臭を放ち腐って行く。


シーアナンジンは滅びた。


もう再生することも宿主を選ぶこともできない。


青い鬼の武器は赤く光り始めた。


金属の脚が鬼の腕を肩まで登って行く。


シーアナンジンが回転を始める。


エネルギーを蓄積している。


『...敵は去った。何に備えている?....』


この思念はあの青い兵曹のものだ。


武器がより一層激しく光る。


アスバードドラゴンは神器の中では狂気の神器といわれている。


その性質は魔器に近い。


いとも簡単に主人を捨てることで知られている。


アスバードドラゴンはハイドゥクに次ぐ実力を持つジンシハンの元に900年の時を経て現れた。


当時のマジウ アンティカ ジンシハンは、アスバードドラゴンによってオルフェを倒し新しいハイドゥクになるはずだった。


全ての預言者の予言はそうだった。


1人の巫女を除いて。


ジンシハンは強いアンティカだった。


決戦の日アスバードドラゴンはジンシハンを見放し、父の戦いを見守る少年を主人に選んだ。


ジンシハンはオルフェに敗北し死んだ。


その少年がアンティカに上り詰めた日、預言者エメドラドは、マジウ(空と力の)の四方名をマタブマではなくモルフィンに与えた。


エメドラドはたった一人ジンシハンの敗北と強いアンティカの出現を予言したシャーマン。


巫女エメドラドはハイドラで最も尊敬され愛される救世主となった。


シャム双生児の救世主。


エメドとドラド。


エメドラドは同時に100人の声を聞き100人の救うとされている。


素顔のエメドラドは優しく可愛らしい。


冗談が好きな老婆たち。


愛に満ち溢れている。


常に誰かの世話をしている。


エメドラドの周りには常に大群衆が集まる。


みんな笑顔で彼女達についてきてしまう。


悩みを相談したい者。


怪我を癒して欲しいもの。


奇跡を見届けたい者。


エメドラドと話したい者。


ただ、そばにいたい者。


双頭の老婆は幾多の奇跡を起こしてきた。


彼女達の年齢は既に900歳。


そろそろ寿命が尽きる。


!!


閃光が走る。


...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


光は青い鬼に直撃し大爆発を起こした。


ハイドラ空軍の最新鋭巡洋艦インティバルからの砲撃...。


インティバルが青い鬼を攻撃した。


インティバルの識別灯は赤黄赤黄白赤に輝いている。


指揮権はハイドラ部族軍に移行した。

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