アユム6
申し込みは、兄ちゃんが、ユルダーム新人選抜事務局に、怒鳴り込んで、何とか受付てもらった。
ブルースから、借りたボールも念のために持って来た。僕のジャージ。あまり綺麗じゃないから、会場の更衣室で着替える。でもムウは、逆に上手そうで格好良いって言う。ムウ、ホントにいい奴。
兄ちゃんがどうしてもついてくるって言う。でも、今日はスロードープ(路線バス)で行こうって言ってくれたから、少しホッとした。
あの、ボロい、業務用のエルカーに乗って行くと、ケチがつくからって。
ケチってどういう意味?。
スロードープがゆっくりと地面に降りてくる。白いボディにフレームだけ赤。朝とか、爽やかとか、スロードープのイメージってそんな感じ。
「あ。」
兄ちゃんがサイフでタッチしたあと、点滅してる後ろの三角ボタンを押した。
「いいから、いいから。」
兄ちゃんがお金出してくれた。スロードープ代は基本こずかいから出すことになってる...。
選抜試験は、いつもとは違う場所。バイアール自然公園のエイジンビッククラウド ルコントスタジアム。
最近できたルコント場。
ユルダームのホームグラウンド。
あと、2つ先の停留所。
こっちの歩道も、10車線向こうの歩道も、何か凄い人。
一杯に歩いている。女の子肩車してるおじさん。ユルダームの赤いユニフォームを着ている。首にタオル巻いてる。
帽子かぶったお姉さんも、ユルダームのユニフォーム着てる。手には黄色いメガホン持ってる。お年寄りの夫婦もユニフォーム着て歩いてる。みんな階級は何だろう。3等市民もいるのかな...。3等市民の人なら、エルカーで行くよね。ごった返してるけど、みんな楽しそう。みんなユルダームが、いや、ルコントが大好きなんだね。
「凄い人だな...。これ全部スタジアム行く人だ。」
何万人いるんだろう。
兄ちゃんと一緒に来て良かった。
もう少し人は少ないと思ってた。
ジュニアのトライアウトだし。
あの大きなスタジアムに人がパラパラ的な?。
停留所を、降り、石の階段を登ると、スタジアムが見える。
大きな公園の中に建ってる。
大きな宇宙船みたいだ。
スタジアムを囲むようにぐるっと大きな広場もある。周りは木が茂っている。
広場にはトライアウトに合わせて屋台が沢山出ている。
ユルダームの赤いユニフォームを着た大人や子供でごった返している。ジュースを飲む子、屋台の食べ物を頬張る人、風船を持っている男の子、メガホンでユルダームの応援歌を歌うお兄さん達。走り回る子供。
「夜、バルデスとユルダームの一軍の試合があるみたいだな。」
「そうなんだ。」
「また、連れて行ってやるよ。笑」
兄ちゃんは、笑って言った。僕達には、ルコントの試合だって安くない。
「いいよ。高いから。」
「でも、今度は一人で行くんだぞ。笑」
「いいのに。別に。」
「ユルダームは、バイアールのチームだからこんなに盛り上がるんだな。」
「どういうこと?」
「バイアールは、下層市民が多い街だってことさ。」
「え?」
「国民的スポーツ、ルコントの地元チームってだけでなく、みんなルコントドリームを期待してるからこんなに盛り上がるってるんだよ。みんなプラトーのようなサクセスストーリーを待ってるんだ。マダクシムラさんに感謝だな。」
「マダクシムラ。何で?...あっ、あんなに人数いるんだね。。」
「ん?どこだ?」
入場口を指差した。
色とりどりのユニフォームを着た子供達が300人くらい並んでいる。
お母さんかお父さんが付き添っている子も多い。
「あれ?ユニフォーム着てるじゃないか。」
「そうだね。」
「まだ、入っても無いのに!」
「レプリカだよ。w。それより、みんな綺麗な格好してる。ホントに大丈夫かな。」
「大丈夫だ!兄ちゃんを信じろ!」
今日は、涼しい。
もう秋だ。
治安警察の人達がいる。
今日の治安警察の人達、いつもと違う。何か人間らしく、優しい気がする。麦酒飲んでる人もいるし、おばあちゃんの荷物持ってあげている人もいる。
等級侵犯で、射殺とか、いつもはそんな感じなのに。変だな。
でも、いい感じ。
一人だけ大きな警官の人がいる。凄く大きい。制服も他の人と違う。警官じゃないのかな?片腕が無い。右の腕が。何で義手付けないのかな...。今時。イブラードの義手でも、無いより全然いいのに。お金が無いのかな...。可哀想。ちょっとだけ、なよっとしてる。
「ねぇ、兄ちゃん、あれ。」
「ん?え?どれ?」
「あの人。治安警察の人。」
僕はその人の方を指差した。
「あぁ。アユ。あれ、治安警察の人じゃない。多分警備員の人だ。銃も、ラジュカムも持ってないだろ?」
「警備員さんなの?。腕が無くて大変そう。」
「兄ちゃんとこ来たら、いいの探して着けてやるけどな...。」
「何で義手付けないのかな?」
「多分、金が無いんだろう。身体もあんなに大きいと、イブラードでも特注になるな。可哀想だけど。」
「何で、あの警備員さん腕が無いんだろう?」
「お金が無いから、治安警察に雇われてるんだよ。1番危険な場所に飛び込んで行く仕事だよ。可哀想に。腕もその時なくしたんだろ。」
「それ、酷いね!だって。」
「アユ。ほら、早く並ぶよ。おまえは何しにここに来た?」
「うん。そうだけど...。てか兄ちゃん、アユって呼ぶのやめてよ。女みたいじゃん。」
「あ、そうだった。ごめんごめん。」
今日は、たくさん出店が出てる。
シーフードをソースで炒めた、バリハー。
焼いたヤムアケブ。
クリームとパン生地の間の味と食感。
表面のパウダーの甘い美味しそうな匂いがここまで届く。
かき氷。
麦酒やお茶の店。
大きな警備員さんがお茶とパンの出店に向かった。
優しそうな顔をしている。普通の人の倍はある。
色は白いけど腕は丸太みたいだ。なよっとしてるけど、ヒゲが生やしてて、強そう。
でも、どんどん前に割り込まれてる。みんな何で順番守らないんだろ。警備員さんは笑ってる。
特大の水筒持ってる。喉が乾いているんだね。あの身体じゃ大変だね。
「治安警察に雇われてるのに、支給されないのかね?アユム。そろそろ、前見ろ?。大事なチャンスなんだから。」
兄ちゃんが言う。
そうだけどね。兄ちゃんは少し心配性。
「アユム!ちゃんと並んで!」
兄ちゃんが言う。
おじさんの番がやっと来たのに、屋台のお姉さんは意地悪。
聞こえない振りしてる。
おじさんは、肩で汗を拭きながら、お姉さんに注文してる。あんなに大きな声だから聞こえるはずなのに。
「こ、これに。お願いします。」
おじさんは、笑っている。
「こんなにバケツみたいに大きいのに入れたら、他の人のがなくなっちまうだろ!気持ち悪い。」
「いや、大を2杯分だけ。それと、大きいパンも2つください。」
あ、屋台のお姉さんは、一杯しか入れてない。
「ほらよ!」
おじさんは、受け取らない。
「お金はちゃんと払うから、意地悪しないで、入れて下さい。」
おじさんの喋り方は、見かけによらず、柔らかい。
「何だよ!あたしがちゃんと入れなかったって言うのかい!」
おじさんは、動かなかった。
「ねぇ!早くしてよ!オヤジ!!」
後ろの女の人が言う。
「ママ〜!お腹が空いたよー。えーん。」
男の子が泣きだした。
嘘泣きだ。
「ちょっと、早くしてよ!」
「ほらよ!」
屋台のお姉さんは、柄杓で投げるようにお茶を水筒に流し込むと、水筒とパンの乗った紙皿を突き出した。
「早く取ってよ!ちゃんと!」
「待ってください。私は片腕しかないから。」
「知らないよ!義手買わないあんたが悪いんだろ!迷惑なんだよ!!」
パンは1つ地面に落ちて、おじさんは、慌てて皿を受け取った。皿を受け取ってしまったから、水筒を受け取れない。
「あぁ、あの人、同じ6等市民の人なんだな。」
兄ちゃんが言う。
下層市民でお金のない人は、ホントにどこにいっても酷い扱いをされている。落ちた方のパンは人ごみに踏まれてしまった。
「ほらよ!」
出店のお姉さんは、水筒の蓋を固くしめて、おじさんに投げつけた。
酷い!
「兄ちゃん!ちょっと行ってくる。!!」
「おい!アユ...アユム!!ダメだ、もう入場の時間だぞ!」
「すぐに戻る!!」
僕は、人ごみをダッシュでかき分けて、警備員のおじさんの所まで走った。おじさんは、しゃがんで、足と腕に水筒を挟もうとしている。だけど、ツルツルと滑って取れない。
おじさんは、諦めてパンの載った紙皿を地面に置こうとした。人ごみは、容赦なくおじさんにぶつかる。みんな自分のことしか考えていない。
「おじさん!警備員のおじさん!」
僕が声をかけると、大きな男の人は振り返った。意外だけど、おじさんは、笑顔だった。
僕は大きな大きな水筒を拾ってあげた。
「ありがとう。坊や。」
おじさんは、もっとにっこりと笑った。
僕は、蓋を開けようとした。でも、固くて、中々開かない。
「アユー!!アユム!!何やってんだ!!早く来い!!。」
兄ちゃんが怒ってる。
待って!!もう少し。。
か、硬ってぇ...!開かないや。
「何やってんだ!!アユムー!!」
「坊や。ありがとう。ほら、行きなさい。もし、良かったら、このパン持ってって。私は食べられないから。笑」
おじさんは、片腕を見せておどけた。
「アユーー!!アユーー!!」
もう!恥ずかしい。
...グゥーー...
しめた!周り始めた。
「坊や。ありがとう。助けてくれて。でももう行きなさい。本当に...。」
...ポン!...
「空いたよ!おじさん空いたよ!!飲んで!!僕がお皿持ってるから!!早く。」
「アユーー!!アユーー!!」
兄ちゃんの声が泣きそうに。
「坊や。行きなさい。ありがとう。助かったよ!」
「早く!飲んで!」
「ねぇ。そこのお兄ちゃん。私が持ってるわ。あなた、行きなさいよ。トライアウトに参加するんでしょ?」
後ろに、髪の黒いお姉さんが。
え?。
変だって笑わないの?。
僕の練習着。
何回洗っても汚れが取れない。
おじさんは、黒髪のお姉さんにお辞儀して、水筒のお茶を飲んだ。
「アユーー!!おーい!!アユーー!!。」
「お父さんが呼んでるよ。笑」
「う、うん。」
おじさんは、喉を鳴らしてお茶を飲み始めた。喉がカラカラだったみたいだ。
ダッシュで人ごみをかき分けた。
ルコントのステップの練習になる。
多分、普通の人の半分の時間で人ごみを抜けられる。
ゲートの横の水色の鉄扉が閉まりかけてる。
「何やってんだっ!!全く。最初じゃなくなっちゃっただろ!!」
兄ちゃんごめんよ。
...スーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーードオウゥン!...
僕達の後ろで、扉が閉まった。




