第6話 とあるエロ雑誌の逃走
おいセランっ!そろそろ髪を切れっ!当麻は制服をちゃんと着ろっ!シャツが出てるぞっ!という教師の迷惑千万なBGMが遠ざかってゆくまま、ふたりは本屋に入った。地下一階地上4階。高校の昼休みも図書室に入りびたりなふたりにとってこの大型書店はこころのオアシスであった。そんなふたりが向かった棚は・・・
「なあ・・・これ、発売日に買わないといけないほど大事な本なのか?」
セランは当麻が胸に抱えたマイナーエロ雑誌を横目で見ながらつぶやいた。
「分かってないなーセランはー。にしきゃわ先生の作品が読めるのはこの雑誌だけなんだぜ!ここら辺で売ってるのはこの店だけなんだから、万一売切れたら死活問題だし。」
「Amazon使えよ」
「親バレするじゃん!でもそれより妹バレのほうが嫌かなー。『おにいちゃんのエッチ!』とか言われたら立ち直れないよ~」
「あーなるほど妹ね。それはちょっと嫌かも」
小学6年生の妹に先日自室のエロ本を読まれそうになった話を聞きながらレジへ向かう。と、そこには同級生の滝川魅音がいた。
「あー!ふたりも本買いに来たんだー」
魅音のそんな声が届くか届かないかのうちに、当麻は真っ青の顔になって貴重な雑誌を抱えたままレジから外れ、魅音が来るのとは逆の方向に突進した。おそらく、かわいい同級生に秘宝を見られてドン引きされるのを恐れたのだろう。そんな当麻の心情など知る訳もなく、数十秒もせずに魅音はセランの目の前に来る。
「あれ?当麻くんは?」
「当麻はちょっと事情があって・・・」
さすがに真実を伝えるほど非情な人間ではない。
「あ~なんか地下に買い忘れた本があるらしくて、慌てて買いに走ったみたい」
「え~そうなんだ~。王子は~?」
「俺はただの連れだよ。魅音は?」
「英検の本買いに来たのー!」
魅音は抱えた本の表紙をちら見せしてきた。
「へー真面目だな。」
「ふたりはいつも不真面目だよねー。」
「俺は当麻と違って真面目に人生を生きてるよ。」
あえて真面目くさった顔で行ってみる。案の定魅音は笑ってくれた。
「じゃ、俺は当麻を追いかけるから。また学校で。」
「うん。じゃあねー」
魅音は笑ってポニーテールを揺らしながらレジに並んだ。
俺は逃走した親友を探す旅に出た。