第一話
「俺は王子じゃないッッ」
女性に四方を囲まれてうら若き青年は叫んだ。
彼の名前はセラン・カーウルド。普段は女性に対しては紳士的な対応で適度な距離をとろうと努力しているが、そうも上手くいかないのが現実である。現に今彼は進退窮まっている。ファッションと称して伸ばし気味の髪でさえ、いわゆる整った顔立ちのせいでかっこよく見えているらしい。歴史の授業で習った遠い辺境の部族の創始者が長髪の男性であったことも彼の立場を悪くしていた、というのも丁度教科書に載っているどこぞの王国の王族と彼の髪型が色も形もそっくりそのままで、それからというものクラスメイトからは王子と呼ばれはじめ、噂は学年の垣根を越え学校中の知るところとなった。彼からしてみれば若作りのおっさんの肖像画一枚でまさかここまで自分が追いつめられるとは思いもしなかった。いっそ坊主にしようか?しかし季節は秋を過ぎ冬に入ろうとしている。これから寒くなるというのに何も悪いことはしていない俺が何故坊主頭にしなくてはならないんだ?大体坊主になったら収まるのか?今度はどこぞの坊主頭の写真一枚であだ名をつけられることになるに決まっている。そんな親友を傍らのこげ茶色の猫っ毛風味の短髪頭がなぐさめた。
「嫌われるよりもいいじゃないか」
「お前に譲るよ」
「嫌味だなぁ。そんなこと言ってるとそのうち人気も下がるぞ」
「だといいんだがな」
セランが彼女たちのことを煙たいと思っている反面、内心少し嬉しいことは察しが付く。しかしいちいち指摘しても喧嘩のもとだ。久良岐当麻はそう考え、ただぼうっと青い空を見つめた。
そんな感じでいつもふたりは屋上で束の間の青春を浪費していた。