幼馴染
三、
目を覚ますとそこは病院の一室だった。
「・・・驟雨、大丈夫?」
隣にはあ母さんと父さんの心配そうな顔がある。
「ああ・・・大丈夫・・・・」
記憶があいまいな中、俺は体を起こす。体中がかなりいたいのだが・・・動いているということはそこまで大事ではないのかもしれない。
「・・でも、何で俺は病院にいるんだ?」
「驟雨、覚えてないの?あなたは隣の家の夏華ちゃん家から帰ってこようとしてはねられたのよ」
「無用心にも飛び出したのはお前のほうだろう?」
隣の・・・家?
「・・・・?」
「お医者様は頭を強く打ったからもしかしたら記憶がないって言っていたかもしれないけど・・・覚えてないの?」
「いや、夏華さんのことは覚えてるけど・・・」
「夏華ちゃんはあなたの幼馴染でしょ?」
そう・・・・だったのだろうか?俺は漠然とした不安と違和感を感じながらベッドから降りようとした。
「・・・お医者様はもう大丈夫だって言ってたけど・・・」
母さんがそこまで言うと病室の扉が開いて・・・・
「しゅ、驟雨君!」
夏華さんが飛び込んできた・・・・俺の胸に。
「・・・!?」
「あらあら、私たちはお邪魔のかしらね?」
「そうだな、父さんたちは息子の無事を確認できたから仕事に戻るからな」
抱きついている彼女にかなりの疑問を抱きながら・・・俺は首をひねるばかりだった。彼女が幼馴染・・・本当にそうなのだろうか?
「・・・・よかったぁ・・・いきなり私が見送っている前で撥ねられましたから・・・あわてて駆け寄ったんです・・・あの、覚えてませんか?」
はねられる以前の記憶を思い出すと・・・確かに、彼女の姿があったことは確かだったと思う。だが、何かがおかしい・・・・
「・・・?」
「あの、もしかして・・・私のことを忘れたとか?」
「・・・いや、覚えている・・・瀬見津夏華さんだろ?」
うなずく彼女に俺は困惑していた。
「そうです!私は驟雨君の幼馴染ですよ?」
「・・・・」
余計なことは考えないほうがいいのかもしれない。第一、父さんと母さんがそういっているのだから・・・間違いはないのかもしれないし、お医者様も記憶喪失になってしまったかもしれないといっていたではないか。
その俺の表情をどうとったのか、彼女は俺の顔をじっと見始めた。
「・・・・とても心配そうな顔しているけど・・・どうかしました?」
「え・・・あ・・・」
「親友の私に話してくれませんか?」
親友・・・なんだかその言葉も何かを思い出せそうな響きを持っているのだが、今の俺には無用の長物だったようで・・・わからなかった。しかし、彼女が親友だということは間違いないのかもしれない。
「・・・え〜と、驚かないで聞いて欲しいんだ。実は、夏華さんとの思い出がほとんど思い出せないんだ。家に行ったことはあるんだけど・・部屋の内部までわかるんだけどさ・・・どうにも、あんまり記憶が安定してないみたいなんだ・・・」
おおむね、そのようなことを俺が伝える。俺だったら親友で幼馴染にそんなことを言われたらちょっとしたショックを受けるだろう。だが、彼女は笑っていた。
「・・・大丈夫です・・あれだけの事故だったのに驟雨君が生きているんですから・・・私のことだって覚えているし、思い出なんてこれから作ればいいじゃないですか?」
ポジティブな考えに俺は驚く。彼女はこんなに明るい性格だったのかと・・・だが、そういう考え方のほうがいいのかもしれない。
「・・・・あ〜ありがとう・・・」
「いえ、かまいませんよ。私たち、親友じゃないですか?ところで、記憶はどの程度まで失っているんですか?」
「・・・・そうだなぁ、俺の記憶では・・・撥ねられる前に夏華さんの家に言って『七不思議』の話を聞いた・・・」
そこまで俺が言うと唐突に彼女が口を開く。その目は何をとられているのだろか・・・どこも見ていないようにも見える。
「・・・それ、違いますよ?私たちの高校の不思議は七つまでありませんけど?」
「え、そうなのか?」
「ええ、他の方に聞いても事実は変わりません・・・ということはそこらへんから記憶があいまいになっているみたいですね?」
「う〜ん、そうみたいだなぁ・・・学校のことはある程度まで覚えているんだけど・・・・」
「他に、私のことでわからないことを言ってください」
「夏華さんのことでわからないこと・・・・?そうだなぁ、なんだか名前以外ほとんど忘れたような・・・・・」
俺はそういって考え込んだ。何か思い出すことができないだろうかと悩んだのだが・・・出てくるものは一向に疑問符だけだった。
「・・・それなら、また自己紹介をさせてもらいますね?」
「ああ、そうしてくれるとうれしいよ」
「・・・私の名前は瀬見津夏華・・・神塚高校二年生で驟雨君の隣のクラスです。趣味はぬいぐるみを作ることと読書・・・嫌いなものは約束を破ること・・・こんなものでいいですか?」
「ああ、充分だ」
何故だかはじめて知ったようなことなのだが・・・記憶を失っているからかもしれないな。いずれ、なくした記憶も元に戻るかもしれない。
彼女とはその後談笑してわかれ、俺は医者からの簡単な診察を受けた。既に、異常ないそうで明日からは普通に学校に登校して結構だといわれたのだった。
「よっ、撥ねられたと聞いたときは正直、ヒヤッとしたぜ?」
「まぁ、心配かけたな」
そこには少々不思議現象が好きな俺の友達が待っていた。
「・・・なんでも、瀬見津さんがずっと看病してくれていたそうじゃないか?うらやましいなぁ・・・」
「そうなのか・・・ぜんぜん知らなかった・・・それより、ちょっと聞きたいことがあるんだが・・・・その夏華さんのことをぜんぜん覚えていないんだ」
俺がそういうと奴は驚いたような顔をしていた。
「覚えていないだって?まったく、お前は瀬見津さんの幼馴染だろう?ここは空気を読んで『俺は夏華との愛があったから生き返れたんだ』とかそういうことを言えばいいのにな・・」
「まぁ、それはいいとして・・・とりあえず、教えてくれないか?」
あれから一向に彼女のことを思い出せない。
「・・・しょうがないなぁ、お前と瀬見津さんは幼馴染・・それはわかっているな?よし、それでその幼馴染ぷりはすごかったぞ?幼稚園、小学校、中学校、高校・・・までずっと一緒にいるからな。帰るときも一緒だし、今じゃ、一週間に何度かはお前の家に住んでいるそうだけど?」
「・・・そうだったのか・・・」
「それでなぁ、一番有名な話は『約束を守った瀬見津』っていう奴だな・・・」
その話に俺は当然のように食いついた。
「・・・どういう話だ?聞かせてくれ!」
「・・・おいおい、そう噛み付くなよ・・・簡単にまとめると・・・去年の夏・・・そうだな、あの日はよく蝉が鳴いていた。そのときに瀬見津さんが・・・確か、屋上から貧血で落ちそうになったんだ。それを、お前が必死で止めた・・・それで、逆にお前がそのまま落ちたんだ」
そうだったのか・・・よく、この屋上から落ちて死ななかったものだ。この高校は五階建てだろう?
「・・・その後からがすごかったんだよなぁ・・まぁ、去年の夏からだったんだけどな・・・ずっと、お前の隣には瀬見津さんがいるぜ?」
「そうだったのか・・・そこまで深い仲だったとは・・・」
そこまで俺が言うと奴は
「しかし・・・」といったのだった。
「・・・俺からみればものすごいカップルとしか見えないんだが周囲の目は間違いなくお前たち二人を
「親友同士」としか見てない気がする・・・そうだな、この世で一番仲がいい友達の見本だって言われてるぐらいだからな」
「まるで運命共同体だな」
「ま、そんなもんだろうよ・・・ほら、瀬見津さんがきたぞ?」
後ろの扉のほうからは夏華さんが手を振っている。
「いってやれよ」
「ああ、いってくる」
俺はそういい残して彼女に会いに行った。しかしながら、ずっと隣にいる女の子をいまだに彼女にできていない俺は奥手なのだろか?ずっと一緒にいればさすがに・・・彼女と彼氏の関係になっている思うのだが・・・・
「夏華さん、どうしたんだ?」
「え・・・いや、体調はどうかなぁと思ってきたんです」
うん、俺のことを心配してくれていたのか・・・本当に心配そうな顔をしているなぁ。
「・・ああ、元気だが・・・友達とかから夏華さんとの話を聞いたりしたんだが、ぜんぜん思い出せないんだ。ごめんな」
「かまいませんよ。前にも言ったじゃないですか・・・これから思いでは作ればいいって・・・あ、そうだ・・・驟雨君が私のことを思い出したいのなら今日の昼休み、図書館に来てくれませんか?」
それは願ってもないチャンスだ。彼女のことを知ろうとしている俺にとっては渡りに船だ。
「わかった」
昼休み、俺は授業がすぐに終わるとそのまま弁当を広げずに図書館へと向かった。外から回ったほうが若干の近道になるので俺は図書館の近くを通って・・・
「・・・?」
何かしらの違和感を覚えた。辺りにあるものは大きなゴミ捨て場・・・それだけだ。ここが彼女の変わりに俺が落ちた場所なのだろう・・それを思い出しているのかもしれない。




