気づき
第二回目・・・まだ、コメディー調ではありません。
一、
校舎をぬけると、少々そこから校庭の端のほうを通って自転車置き場が一年、二年、三年と続いていく。
その次にバイク小屋が置かれていてさらにその先に教員用駐輪場がある。
その先を抜けると東の校門となり俺の家からは遠ざかってしまうのだが教員たちはこちらのほうから安全上、出て行ってほしいようだ。
何でも、西側・・・うわさの立ちこめる図書館とこの高校の資料館、そして旧図書館がその姿を見せる。
ちょうど、暗がりになったり職員室などからは死角になってしまい、そこでは俺の口からはいえないようなことがあったり、行われたりしているらしい。
まぁ、俺が通っている高校にそこまで不良な奴はいないようなのでくだらないことなのだろう。もしくは、この高校は男女間について口うるさい高校だから密会があったのかもしれない。俺にはその密会する相手がひとりもいないので関係ある話ではないのだがね・・・・それと、噂されているゴミ捨て場である大きな穴が関係していてただたんに危険なのかもしれない。
「・・・さ、帰るか・・・」
東を見ずに俺は危険とされている西のほうへと向かっていく。この時間帯なら夕焼けを浴びることができるのだろうが・・・残念ながら巨大な木が邪魔をしていてちょうど見ることができないので暗い。
「・・・・」
しゃべる相手もいないのでただ単に、黙々と歩いて帰る。自転車が使えればいいのだが、あいにくこの前壊れてしまった。今は修復中で俺は毎朝、仕事に行くついでとして父親に車で近くに下ろしてもらってそこから通っている。帰りは電話をしてもかまわないといっているがそこまでの距離ではないので健康のために徒歩で家に向かっている。
「・・・・」
最近、俺はこの世界に対して微妙に不安を感じている。ちょっと、おかしいのではないかと思っているのかもしれない。それが、正しくない、正しいというのはどうだろうかと思うのだが・・・まぁ、そんなことはどうでもいい。
そんなたわごとを考えながら歩いて約五分が経っただろうか?一定歩数で歩いていた俺は大きなゴミ捨て場に差し掛かる。
「・・・・」
俺は一瞥することもなく、その隣を歩いていく。視界の端にちらりとだけ黄色と黒の危険を示すであろう、ロープがはいったが、それ以外は何も見ることができなかった。
だが、俺の耳には異常な音が聞こえてきていた。
ガチャリ・・・
例えるなら・・・鍵を開けたときの音。周りには確かに建物があるが、そのような音がしたことなど一度も聞いたことがない。この時間帯に鍵をかける人はまだいないはずだ。
「・・・・」
振り返ってもしかしたら非日常に飛び込むか、このまま歩いて帰って明日の勉強をするか・・・
俺はその前者・・・絶対にどちらかしか選ぶことができないであろう選択肢二つのうち、一つを・・・選んだ。後悔がなかったとはそのときは思っていない。後悔というものは後から悔やむことだ。
そこにはこの高校の昔の制服を着た黒髪の少女が立っていた・・・血まみれで・・・
「・・・・」
俺は尻が濡れていることに気がついた。いや、失禁してしまったわけでもなく・・・ただ単に、湿った地面に腰が抜けてしりもちをついていただけだったということだ。いや、誰だって目の前に血だらけの女子生徒がいたら目を疑う前に自分の正気を確認するだろう。だが、俺の場合は昼休み話していた怪談話を思い出していた。
「・・・・」
何かを発することなく、彼女は俺に一歩近づいてきた。俺はしりもちをついたまま、一歩下がる。
ゴフッ・・・
彼女は一歩歩くごとに口から血を吐いた。
「・・ひぃ・・・」
情けない悲鳴が俺の口から出てくる。だが、今はそんなことを言っている場合ではないことはわかっていた。別に彼女に恐怖したわけではなく、いきなり吐血したことに驚いたのだ。いや、血だらけの彼女を見ても恐怖していない自分の神経がおかしいということに気がついたほうがいいのかもしれない。
また一歩、彼女は近づいてきた。俺は二歩、下がる。こうしていけば、離れることができるに違いないと思った俺だったのだが・・・血だらけの彼女は血を撒き散らせながら俺の目の前で倒れた。
「・・・きゅう・・・きゅ・・・うしゃ・・呼んで・・くださ・・・」
俺の耳に蒼聞こえるようにだけ言って彼女は動かなくなった。
「え・・あ・・・」
パニックしている俺の頭の中では
「今までおばけだった存在」は
「怪我をしているこの高校の生徒」という感じに変わった。携帯を取り出し、あわてて救急車を呼ぶ。
その後、俺は警察に事情聴取をされていた。まぁ、当然のことだろう。
「・・・ようやく、開放されたかぁ・・・」
そろそろ面会時間が終了を迎える時間帯ということで俺は病院の中に入ろうとして・・・先ほどの血だらけ娘が頭に包帯を巻くこともなく、俺の目の前に姿を現していたのだった。
聞いた話では、外傷はまったくなかったそうで・・・健康体だそうだ。
しかし、体についていた血は間違いなく誰かの血だったそうだ。
彼女がいたと思われる大きなゴミ捨て場付近には俺が気がつくことのなかった赤色の水溜りができていたらしく・・・その量は人間が死んでしまう量を超えてしまっていたらしい。とりあえず、どこかで人が死んだのだろうということで警察たちがあの付近を捜索しているそうだ。まぁ、俺には関係の話だろう・・・とりあえず、今は目の前にたっている少女についてどうかしたほうがいいだろう。
「・・・・」
目の前の少女は何も話さないし、俺をじっと見ているだけだ。そうされても俺が何かしたほうがいいというわけでもないのだが・・・そうだ、そういえば、彼女は一人暮らしだったということだった。他にも情報をもらったしとりあえず、何か話したほうがいいに違いない。
「えっと、瀬見津夏華さんだよね?」
「・・・・」
警戒をしているのだろうか?あからさまに俺に対してあまりいい視線を送ってこない。その目は間違いなく、俺を怖がっていた。
「・・・・私を怖がりましたね?」
どうやら、俺が彼女を見つけたときのことを言っているようだ。つまり、彼女はその理由で俺に対して恐怖しているようだった。まぁ、考えようによっては自分が大怪我をしているような状態(いや、彼女の場合は怪我をしていなかったが。)で誰かに助けを求めたのだが、その相手は自分を化け物だと思っていた・・・ということだろう。彼女は誤解しているようだ。
「・・・いや、君を怖がったんじゃなくて、いきなり・・君が血を吐いたことに驚いたんだ。俺、ちょっと血を見るのが苦手で・・・」
これは事実だ。大量の血が出る何かを見てしまうと貧血を起こして倒れてしまう。過去にも、自分の血を抜いただけで顔が真っ青になり・・・そのまま病院行きになってしまったこともある。
「・・・本当でしょうか?あれだけの理由で私にあのような目を向けたりしないと思いますけど?」
一陣の風が吹き、俺と彼女の間に割ってはいる。その風で彼女の長い黒髪がぱっと広がって再び落ち着く。その目に浮かぶ色は疑惑・・・つまり、俺の説得は失敗ということだ。結構きれいだったからお近づきになろうと思ったのだが・・・半分本当半分嘘のことを言っても信じてもらえないなら本当のことを言うしかないのだろう。
「本当の話、俺・・・昼休みにこの学校の七不思議のとっておきを友達から聞こうとしたんだ。それで、ちょうど・・・・夏華さんが倒れていた付近にその話していた大きな穴があったんだ。だから、てっきり・・・その七不思議に出てくるお化けだと思ったんだ」
「七不思議・・・・?でも、それはその内容とちょっと違う・・・」
「ああ、俺は実際には聞いていないんだ。悲しい話だってそいつから聞いたからね・・・」
「・・・・・」
唐突に押し黙り、俺を見てくる。彼女の目は奥のほうをよく見れば琥珀色をしていた。血だらけとなっていた昔の制服はなくなっており、新しい制服を着ている。
「・・・そういえば、命の恩人の名前を聞いてなかったわ・・名前、教えてくれない?」
「俺?俺は・・・碌名視驟雨」
「・・・驟雨・・・なるほど・・それなら・・・」
彼女が何かを言おうとすると彼女の後ろから誰かの声が聞こえてくる。
「・・・すみません、もうここ閉じますので面会の方ならそろそろ帰ってもらえませんか?既に面会時間が終わっていますので・・・」
看護師さんがそういって俺たちをせかす。
「あ、すみません・・・」
俺たち二人は病院の外に出たのであった。
「・・・・これから、私の家に来る?」
「・・・いや、いいよ・・・俺も家に帰って両親に話さないといけないし・・・」
そういうと彼女は少しだけ悲しそうな顔をした。失礼だが、彼女は悲しそうな顔をしていると儚げな印象もあいまってより、美しくなる。
「・・・どうしたの?」
見とれていたのだろう・・・ぼさっとしていたのが悪いのだろう・・・俺はいつの間にか目の前に立っていた彼女に驚いて後ずさる。
「・・・・びっくりした!」
「え、ああ・・・ごめん」
彼女にはまったく非がないのだが・・・彼女は俺に謝った。
「・・え、いいよ・・・」
「そう?それよりさ・・・今度、私の家に来てくれませんか?」
「え〜と、何で?」
不謹慎なのだが、俺は彼女がいないのでそういうことをいわれるとどきりとしてしまう。
「・・私、友達できにくいんです。元々、根暗な性格だし・・・私が血だらけだと連絡してくれたのが同じ高校の生徒でよかったですよ」
そういって本当に
「よかったぁ」という顔をする夏華さん・・・・
「じゃ、じゃあ・・今度お邪魔させてもらうよ」
俺はそういって彼女と別れた。彼女の微笑む仕草を見ながら俺は彼女が血だらけであったことに感謝した。まぁ、そのときは別に・・・そう、別に彼女がおかしい人だと一ミリも思わなかった。
しかし、世の中陰険なものであると気がついたのは彼女の家に向かう途中だった。




