別部署の男
指定した場所に、私はやってきた。
私の横には真奈香。公園の手前で先に来ていた隊長たちに合流し、公園の一角で彼女たちの到着を待っていた。
「あら。随分と物々しいお出迎えね」
公園のベンチに座っている前田さんと日記を読みふける隊長の横で暇を持て余して真奈香に抱きつかれていると、刈華が二人の仲間を連れてやってきた。
案の定。箒頭の男。そして……
「樹翠雪花……」
小雪の言っていた通り、雪花先輩は彼らの仲間だったようだ。
相も変わらず虚空を見つめるような呆けた顔で、煌びやかにこちらに近づいてくる。
刈華たちが立ち止まったのに気付かず近づいて来ようとした雪花先輩の襟首を刈華が掴んで行動を制限し、無理矢理に立ち止まらせる。
もしかして、雪花先輩、本当に何も考えてなかったりするのだろうか?
「さて。ここに来いと言われたけれど。何を教えてくれるの有伽」
「話をするのは私だ。だが、その前に一つ約束をしてほしい」
代表するように隊長が日記を閉じ、ベンチから立ち上がる。
「約束?」
「これ以上。深く探らない事。お前たちが死ぬのを見逃すわけにはいかん。出雲美果もそれは望まないはずだ」
「戯言ね……」
ため息を吐き、刈華は隊長から視線を逸らす。
「話にならないわ。来た意味がなかったのかしら」
「私は秘密を知ってしまった。だからもうすぐいなくなるけど……探したりしないでね。だったか? その秘密。知りたくないのか」
隊長の言葉は刈華の興味を引いた。
視線を戻し、ニタリとほほ笑む。
「なるほど。それは興味深い話しのようね」
「さて、そちらの答えを聞かせて貰おうか。翼に辿りついた君たちだ。おそらく、この話で出雲美果が辿り着いた正解も想像がつくだろう」
「へぇ……そこまで辿りつけるのに、その先はダメだっていうの?」
隊長は応えない。ただ、刈華の答えだけを待っている。
「まぁ、いいわ。でも、こちらが了承したところで、本当にそこで終わるかどうかは分からないんじゃない?」
「結果はすぐに出る。お前たちの安全を思って言っているのだ。これ以上無視して勝手に死んでもそれはお前たちの自業自得だ。私達は関知しない。これは、出雲美果の友人だというお前だからこそ伝えようと思っただけのことだ。その結果、お前が死に向うというのなら止めはせん」
隊長、それは酷いんじゃ……
刈華たちを救う方法を探すんじゃなかったんですか?
「これからの話しはお前たちには外して貰う。聞かせるような話ではないからな」
隊長が私たちに振り向き告げる。
有無を言わさぬ雰囲気に、私達は誰一人反論することなく隊長から距離を取る。
「舞之木刈華だったな。話すのはお前だけだ。他の者にまで伝えて巻き込むのは避けた方がいいだろう?」
「……ええ。わかったわ。二人とも、高梨さんとでも話していて」
言われた箒頭と雪花先輩が私達の元へとやってくる。
「雪花先輩、やっぱり刈華と知り合いだったんですか?」
「……ええ。刈華ちゃん、凄く可哀想だったから」
雪花先輩の話を聞く限り、刈華が一人で所在無げに居たのを見かけたことから、協力することを決めたらしい。
いちおう、箒頭にも聞いてみたが、こいつはやはり雪花先輩目当てらしい。やっぱあの手紙はただのラブレターじゃなかったのだろうか?
殲滅しといて良かったと思う。
少しして、話が終わったらしい隊長と刈華がやってきた。
隊長の顔は相変わらずだが、刈華の表情はあまり良くない。
難しい顔で何かを考えているようにも見える。
「おう、舞之木、なんて言われたんだ? わかったのか?」
「……ええ。そうね。分かった……のかしらね」
要領を得ない。
「少し、一人で考えたいわね。これはちょっと……簡単に告げていいものか……まさか見つけた秘密が……」
「告げる必要はねェじゃんYO、嬢ちゃん」
不意に、声が聞こえた。
私には聞き覚えのない声だ。
つまり、私の知り合いじゃない、赤の他人。
視線を向けると、そこに居たのはバンダナを付けたイケイケな男の人だった。
ピアスを付け指にはドクロの指輪が全ての指に嵌っている。
服もドクロシャツにラメ付きジャケット。なんか刺々しいベルトで止めているのは、毒々しい感じのハーフパンツ。
唇に銀のリングを付けたそいつは、どう見てもお近づきになりたくない部類のストリートミュージシャンといった様相だ。
髪型は箒頭とどっこいどっこいのトサカ見たいに盛り上がった髪型。トサカ頭とでも呼ぼう。
そいつはガムを噛みながら左手をポケットに突っ込み、右手で刈華を指し示す。
ご指名された刈華は警戒したように男を睨みつけた。
「俺ァ妖専用特別対策殲滅課ぁの犯罪撲滅追跡係っつー所属でよぉ、ちょいと上から頼まれてここに来た訳だ」
……え? まさかの同業者!?
なぜ、同業者の人が、しかも犯罪撲滅追跡係? 確か犯罪を犯しそうな人物を追跡したり、危険度調査の時に身内を調べたりする係だったよね。
確かに刈華は犯罪者予備軍になりそうだったかもしれないけど、幾らなんでも動きが早すぎるんじゃ……
私は戦闘にでもなるのかと、口内の骨の位置を確認しておく。
やはり奥の手は必ずセットしておくに限るよね。
戦力として私ができるのはこのくらいだし。
もしも刈華と戦いに来たのなら、この人を止めないと……
「おい、高梨」
私が男に警戒していると、不意に翼が私の横にやってきた。
「なに翼ちゃん?」
「ちゃん付けすんな。……って、そうじゃなくてな。これから何が起きても決して手を出すな」
「え? なんでよ?」
「上からの命令に動いてる奴らしいからな。下手に邪魔すりゃ反逆罪になりうるぞ」
翼の言葉に、私は唾を飲む。反逆罪……つまり、あの男が刈華たちに何かしようと私達は何も出来ないということだ。
どうすればいいのか答えのでないまま、男が刈華に向けて歩き出した。




