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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 震々
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ストーカー、スト―キングを依頼される

「あ――――ぅ――――」


 ようやく常塚さんのお小言から開放された私は、公園のベンチに辿り着き気力のぬけ切った顔で心の底から息を吐いて体の力を抜いた。

 横に座っている真奈香は終始楽しそうで、常塚さんの叱責中も満面の笑顔で常塚さんを呆れさせていた。


 さて、まずは刈華たちがこれからどう行動するかが問題なんだよね。

 しばらく動かないならいいものの、もし今すぐにでもグレネーダー襲撃体勢を整えてたりすれば大変だ。


 止められるかどうかはわからない。

 確率としてはきっとかなり低いのだろう。だって雪山以外に彼女の足跡が分からないわけだし。


 誰か……力になってくれないかな。

 なんてそうそう都合のいい人がいるわけもないし。

 私たちが授業とか出てる間も刈華を見ていられるような……

 ん? いつでも監視?


 おお。小雪って確か氷柱のある場所を見ることが出来るとか言っていたような。

 よし、明日は彼女に頼んでみよう。




 家に帰るといつものごとく、親父が一升瓶抱えて高鼾していた。

 飯抜きなので可哀想だといえば可哀想ではありますが、まぁ放っといても問題ないし。

 お腹減ったら勝手に何か買って食べるっしょ。


 真奈香としっかり買い込んできたから食事の材料は事欠かないし、親父には余った一万円を小遣いにしてあげよう。

 また貯金降ろしにいかなきゃな。


 食事を終えて部屋に戻ると、ベットに後ろから倒れこむ。

 刈華……か……

 出雲美果の友人で翼を捜している少女。

 雪女の妖を持ちグレネーダーの何かを探ろうとしている。


 しかもあの子は私たちと言っていた。

 つまり協力者が何人かいるってことだ。

 気にはなるが私では何もできない以上……本当に、何もできないのかな?


 気持ちはわかるんだ。

 私だって友人である真奈香やよっち~がいなくなったらきっと刈華と同じ選択をすると思う。

 だからこそ止めたいのだけど……深入りすると隊長に言われたみたいになっちゃうかもしれないんだよなぁ。


 やっぱり隊長に……ううん。だめだ。

 隊長を信頼してないわけじゃないけどグレネーダーである以上刈華にとっては敵でしかない。


 ねぇ出雲美果。あなたはこうなることを願って彼女に秘密のこと漏らしたの?

 彼女の居場所を奪い取りたかったの? 後を追ってほしかったの?

 なぜ、彼女だけを残して……


 知りたい。

 なぜ彼女が死んだのか。

 私も刈華に協力して調べたい。納得したい。

 でも、その思いをぐっと堪える。


 今の私はグレネーダーだ。彼女にとっては敵対組織に所属している私に自分の組織を調べる度胸はない。

 何よりせっかくできた居場所を失うなんて……私には……




 さあさ、やってきました次の朝。

 出かける前に、昨日のうちに冷凍庫で作っておいたツララを取り出し話しかけてみる。


「おーい小雪~。聞こえる~?」


 さすがに返事はないようだ。傍からみたら変な人だよね今の私。


「話があるんだ。今から会えない?」


 ピンポーン


 なんですかねこのタイミングの良さは?

 ツララを冷凍庫に収め玄関に向かう。覗き穴を覗いてみると……

 うわ。マジありえないし。なんで小雪がここに?


「聞こえました私を呼ぶ声! 有伽の甘く切なく途切れるような熱に浮かされた声に誘われて、私、今日こそ女になりますっ!」


 いや、意味わかんないし!?

 思わず開きかけたドアを閉じた私。

 がちゃがちゃ向こうからドアノブいじってくるけど全力でドアを閉めにかかる。

 今のドアは隊長が破壊したせいで蝶番の無い状態。鍵もかからないので両手で押さえなければならない。

 まぁ、体重掛ければ向こうに倒れるから小雪を黙らすことくらいはできるけど、今やって大怪我されても困るし。


「あれ? ちょっと有伽? 何してるの? 入れて、私に入れてよぉ」


「待てぃ、今なんか文法おかしくなかったか!? まぁどっちみち小雪を部屋に入れる気はないっ」


 強気に発言してさらにこちらの要求を伝える。


「小雪、悪いんだけどお願いがあるの。ある人を監視してほしいのよ」


「え? 監視?」


「ええと、私が雪山で遭難してたとき一緒にいた女の子なんだけどわかる?」


「……ああ、あの子? まぁできるけど……まさか浮気!?」


「違うっつーに」


「うーん、でも只ではなぁ……」


 などと困った顔ににへらと笑みを隠しつつ、小雪はこちらの様子を見てくる。

 下手すればデートやらキスやら迫られかねない。そんなことになるくらいなら……


「お弁当作ったげようか?」


「おべ……お弁当!? 有伽の作った手作り弁当!?」


 何を想像したんだかいきなり鼻血吹きだし着衣を朱に染める小雪。あほらしいのでツッコミ入れるのは止めにした。


「お弁当……有伽の手作り……愛妻弁当!!」


 ああ……もうダメですなコイツ……ぶっ飛んだまま帰って来なさりませんよ。


「んじゃ成功報酬ってことで、頼んだからね」


 もう、ドアを開けることはないだろうと部屋に戻り学校に行く用意を済ませ、私はドアを開く。というか取り外す。

 小雪は未だにその場で斜め上を見ながら焦点の合わない顔でにへらと笑っていらっしゃた。


 邪魔だったけど、気にせず近くにドアを立て掛け、逆に外側から持ち上げ元の場所へと戻す。

 ドアを閉じて一応鍵を掛け、小雪を放置しさっさと向かう。

 まぁ小雪のことだ。そのうち現実世界に戻ってくるだろう。

 本当に頼むよ小雪。雪女を止められるかはあんたが鍵なんだから。

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