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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 氷柱女
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レモンとミルクとブラックがありますがどうしますか?

 日が暮れた道は街灯があってもかなり暗い。

 一寸先は闇という諺があるように、街灯を過ぎると次の街灯までが真っ暗闇になってしまう。


 確かに、普段の道路ならビルからの光やらパチンコ店のネオンなどでムダに明るいものの、人里離れた山だとそうもいかない。

 私が刈華を見かけたのは学校以外ではこの山しかなかった。


 墓場からの帰り道に出雲美果の家にも寄る……というか外から見てきただけだが、その時には見当たらなかった。

 そこで出雲美果の家から刈華の残り香を嗅いで追ってみたところ、本日もどうやら雪山に昇っているらしいというところまで突き止めた。


 すでに時刻は八時過ぎ。

 最近疎かになっている親父の夕食が心配ではあるが、あの親父のこと、お酒でお腹を膨らませていることだろう。


 だから私は安心して刈華に会えるわけだ。……あ。そろそろ親父に小遣いあげないとお金ないんじゃないかな? ま、いいか。


「有伽ちゃん、暖かい格好してからの方がよくない?」


「んーそうも思ったんだけど、用意する時間も惜しいし」


「それに私も目の前に居るし?」


 うんそうそう。っと答えそうになって声のした方向を見る。


「刈華!?」


「来ると分かってたからね、妖反応見て急いできたんだ」


 刈華は目を細めて微笑む。


「どうやらこちらに付くって雰囲気じゃなさそうだね」


「付くとか付かないとかじゃないでしょ。刈華、復讐しようとしてるなら止めて、グレネーダーに敵対したら絶対生き残れないんだよっ」


「有伽ったら心配してくれるんだ。でもね、私たちがしようとしているのは復讐じゃないの、いうなれば……引継ぎ」


 引継ぎ?

 どういうこと? 引継ぎって……なんの?

 それは、出雲美果が突き止めようとしていたことなんじゃ……


「死ぬかどうかは私には関係ないの。もう失う物は一つだってないからね。だから、最後に、友人が残していった謎を探そうと思った。たとえ美果が生きてたって私は止まらないよ有伽。私を救いたいとか、守りたいとか、自己満足がしたいならあなたも私の敵」


 ゴゥと吹雪が吹き荒れる。急激な温度変化と視界を塞ぐ雪の粉。舞之木刈華が雪の中へと消えていく。

 後には何も残るものはなく、ただただ吹雪だけが唸りをあげていた。


 私じゃ……彼女は救えない。きっと、殺すことでしか救えない。

 彼女を助けられるんだとすれば、きっと、もう既に居ない、出雲美果だけなのだろう。

 そしてこの瞬間、彼女はグレネーダーへの敵対を宣言したということだ。




「……もう、いや」


 私は呟いてテーブルに大げさに伏せた。

 常塚さんのバイト先であるファミリーレストランに着いたところだった。

 目の前には真奈香が座っているけど彼女の顔すらまともに見る気が起きない。


「気を落としちゃダメだよ有伽ちゃん」


「分かってるよ。分かってるけどさぁ……結局刈華は敵対してくるでしょ……殺し合いなんて……」


「あらあら、つまり交渉決裂したわけね」


「そうなんだよ真奈……」


 って、今の声は真奈香じゃなかったですよ?

 私は慌てて顔を上げる。私の横からかかった声に振り向くと、ここの制服を着た常塚さんがニコニコ顔で立っていた。


「し、ししし、支部長!?」


「単独行動した挙句交渉決裂、しかも逮捕も抹消もせずおめおめ逃げ帰ってきた……と?」


 うわっ、何コレ? 笑顔なのにめっさ怖いんですけど!?

 いや、もう、なんて言いますか、背後に羅漢仁王像でも浮かび上がりそうな怒りの感情がびしびしと感じると言えばいいのだろうか?


「し、支部長、あのですね、これは……」


「お客様、先にご注文を……ご安心ください、説教はグレネーダー支部にお帰りの際にじっくりと致しましょう」


 丁寧口調に怒気を混ぜるとなぜこれほど恐ろしい言葉に聞こえるのだろう?


「お客様、ご注文を」


「は、はい、アイスティ一つっ」


 思わず頼みはしたけれど、食事を頼むことを忘れてしまっていた。

 言った直後にオーダーをと思ったけれど常塚さんはすでに真奈香に向いてしまっていて声が掛けづらかった。


「私トマトジュースとモツ鍋、ハツステーキ」


 いやいやいや、ハツステーキってなんですか真奈香さんっ!?

 しかも心臓オンパレードにトマトジュースはどうなんだ!? あ、モツは内蔵か。


「トマトジュースとアイスティにはレモンとミルクとブラックがありますがどうしますか?」


 ありえねぇしっ!?

 アイスティはともかくトマトにレモンとかミルクとかブラックってどうなのよ? しかもブラックってアイスティじゃなくコーヒー類の時に聞く質問じゃないの!?


「じゃあレモンミルクで」


 頼むのかよ真奈香さんっ!?


「かしこまりました。高梨さんは?」


「え? あ、レモンで?」


 注文を聞いて下がっていく常塚さん。完全に夕食のオーダーが出来なかった。真奈香のモツ鍋でもつついてやろう。

 まぁ、なんだかんだで今のでちょっとは冷静になれたかな。


「有伽ちゃん、これからどうするの?」


「そうだね、ボクとしては刈華をむざむざ死なせる気はないし抹消する気もない。抹消命令がでる前に止めよう」


「うんっ」


 元気よく答えて、真奈香は私に顔を近づけてくる。


「有伽ちゃん、もし上手くいったら、デートしよう。私頑張るからっ」


 ……真奈香さん、意味分かって言ってます? 私たち女の子ですよ? 確かに上手くことを運べりゃ私だってウインドショッピングくらいは出かけたいですがね。


「まぁそうだね~、上手くいきゃ空中散歩くらいはしてみたいね。デートはしませんが友達としてなら遊びに行ってもいいよ」


「ほんとっ! よ~し、私頑張るよ有伽ちゃんっ。刈華ちゃん倒して有伽ちゃんと空中デート!」


 真奈香の思考回路にはどうやら相手の言葉を自分の都合いいように変換する機能でも付いているらしい。刈華倒してどうすんだ。


「お待たせしました~」


 やってきたのはモツ鍋とハツのステーキ。ようするに焼肉ね。

 そしてアイスティーと……レモンミルクトマトジュース。本気で出してきちゃったよ?


「いただきまーす」


 嬉しそうに両手を合わせる真奈香、私も真奈香の為に両手を合わせて南無阿弥陀仏。

 あ、ああ、飲んじゃうの? ソレを本当に飲んじゃうんですか真奈香さ……あ、あ~あぁ……


 しかし、ぐびぐび飲んでいく真奈香はケロリとした様子。

 意外においしいのだろうか? とは思いつつ、結局一口貰ってみる勇気は私にはなかった。


 若い身空で死にたくないし。

 躊躇いなく飲み干す真奈香に胸焼けがしてくる今日この頃。この子との友情についてちょっと考えを改めようかと思う私でした……

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