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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 氷柱女
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隊長と墓

 高港支部の作戦会議室では、隊長がいつもの如く日記を読みながら待っていた。

 他の係員はいない。翼たちはもう仕事をしているようだ。


「今日は無事に来たか」


「すいません問題児で」


 謝る私に、隊長は日記を閉じて立ち上がる。


「気にするな。アイツに比べればずいぶんマシだ。まぁ無断欠勤は初めてだがな」


 うぅ……やっぱりちょっと怒ってるのかも。


「付いてこい」


 隊長はおもむろに立ち上がると私たちを無視するように部屋をでて行く。

 真奈香と二人顔を見合わせ、どうしようかとアイコンタクトした結果、隊長の後を追うことにした。

 隊長は行き先を告げずに外に向かうと、そのまま施設を出て行ってしまう。


「どこに向かうんだろ?」


 真奈香の呟きに同意する。

 電車で一駅。今まで通ったことのない道を通り、凶悪な数の石段を登り、隊長はある場所へとやってきた。


「あれ? ここって……」


 真奈香の呟きと共にやってきたのは、過去の英霊達を弔う場所。墓場。

 幾多の人生の終着地点にして歴戦のツワモノどもが夢の後……ってのは少々大げさすぎるけど、まぁぶっちゃけちまいますと近代的な綺麗に整ったお墓や古い墓碑が立ち並ぶお寺の後ろにあるお墓だった。


 お寺への入り口には三つの鳥居が何故かあったし、狛犬というか狐と言うか、意味不明な動物の石像が二体、寺の前に設置されている変わった寺だった。これって神社じゃないの?


「ここの住職とは顔馴染みでな」


 説明しながらあるお墓の前で立ち止まる。

 簡素な造りのものだった。彫られた名前はないが綺麗に手入れされ、両脇に生けられた花と墓前に置かれた饅頭。

 参拝者からの親愛の念が感じられる。この墓に入っている人は幸せ者だ。


「今は詳しいことは言えんが、彼女は二人の先輩に当たる」


 彼女……? 先輩ってことはグレネーダーの人?


「本来なら誰にもこの場所を教えたくなかったが……お前たちの行動は似通ったものを感じるのでな」


 ええと……それってつまり、この墓の人はムチャばかりやったり一人勝手に突っ走った結果死んじゃいましたってことですか?

 ようするに今までどおり行動してると早死にするぞと言いたいわけですか隊長……


「いいか有伽。この世には知ってはならないこと、深入りしてはいけないことがある。私や他の知り合いが守れる範囲ならまだいい。だがそれ以上の組織的な闇に手を出すのは止めておけ、自分ばかりか周りを巻き込んで自滅するぞ」


 厳しい言葉だった。

 体験したことを語っているような妙に重々しい言葉。

 私も真奈香も隊長の真剣さに気圧され、思わず固唾を呑んでいた。


「だが、お前のことだ。こちらが止めようとしても好奇心は止まるまい。ならばせめて、一人で動く前に私に相談しろ、お前は……」


 幾分語調と表情を和らげ、隊長が言う。

 私たちの引き締まった気分も一気に解れた。

 解れたのはいいのだが、次の一言に私は……


「お前は私が死んでも守る」


 卒倒しそうなほど赤面した。

 隊長、それってつまり……こ、告白と受け取ってよろしいのでしょうかっ!?

 真奈香はわぁ~おと楽しそうに顔を綻ばせている。


 隊長は未だに真剣そのもので、愛の告白という気持ちがないのは理解していたが、隊長みたいなカッコよか男性に面と向かってこんなこと言われた日にゃぁ女の子冥利に尽きるってもんでござぁますことあーりませんかっ!?


「いいか有伽、そして真奈香。何かあるときは必ず知らせるんだ」


 私はもう、首がもぎ取れるのを覚悟で縦に振りまくる。

 真奈香が楽しそうに微笑んでいるけど全く気にならなかった。

 こいつ、百合なくせに私が隊長とくっつくこと問題にしてないのか? いや、むしろくっつくことなどありえないとかタカをくくってそうだ。


「最後に、ここで見たこと、聞いたことは誰にも言うな。いいな、翼や秋里にもだ」


 なんだろう? 今までの熱が一気に冷めるような冷たい空気。

 まるで誰かに言ったらお前たちでも殺すとでも言われたような妙な迫力があった。


「あ、あの……これって、誰のお墓なんですか?」


「……言ったはずだ。詳しいことは今は言えん。そして誰にも聞くな。時が来たら……話す」


 妙に沈んだ隊長の声に、何か危険な雰囲気を感じ取る。

 きっと、この墓の女性は闇に触れたのだ。

 触れてはいけない闇の部分に好奇心で乗り込んで、消された。


「隊長、一つだけ、いいですか?」


「なんだ?」


「私のこと守るのは……好奇心が強いからですか? それとも……」


 この墓の人への償いですか――――

 つい、聞いてしまいそうになって、隊長の心の傷を無闇に抉るだけだと踏みとどまる。


「すみません、忘れてください」


「……察しが良いな有伽は。その通りだ。私も、そしておそらく翼も、君に大切だったものを被らせている」


 隊長は、私の聞きたかったことに気づいて答えてくれた。

 別に聞きたかったわけじゃない。本当に私のことを想ってくれているのか、彼女でもないのに確かめたかっただけだ。


 ヤな女だね私。

 隊長の大切な人の代わりだって思われてると知るとちょっと複雑。

 でも……


「翼も同じ?」


 そういえば私をスカウトしに来た時にそんなことを言っていたような記憶がある。

 あの時は翼をどこの馬の骨とも分からない変態男と認定していたので話半分だったのだけど、改めて思うと翼も墓の彼女が好きだったのだろうか?


「翼の場合は出雲美果だな。似ているのだ、彼女も」


 はぁ……出雲美果が? そういえば刈華も似たようなことを口にしてた。私は美果だとかなんとか。


「出雲美果も、好奇心旺盛だった。彼女の死を調べるべく単身グレネーダー支部に侵入しよく調べていた」


 ……え? 出雲美果が、グレネーダーを調べていた?

 少し口を滑らした。とでも言いたそうに顔を顰める隊長。

 やっぱりあるのか? グレネーダーにも闇の部分。

 なんだ? なんだか私の中でいろんなものが一本線に編みこまれていく気がする。


 隊長の大切な人である、墓の中の人。

 それを調べる出雲美果。

 出雲美果が死の直前に残した刈華へのメッセージ。

 出雲美果の死の原因となった隣人の【陰口】、そして出雲美果を始末せざるおえなかった従兄の志倉翼。


 なんですかこの繋がり?

 世間は狭い。なんていうにはあまりにも繋がりすぎているのではなかろうか?


 確か、翼は言っていたはずだ。出雲美果は死の前日、遊園地に行って翼に言ったと。「もうすぐ結婚できるね」だったか? 詳しい言葉は忘れたけど、そんな感じの言葉だったはずだ。


 それは、まるでもう二度と叶わない思いを最後に告げるような……考え過ぎかな? でも、彼女が私に似ているというのなら、私が起こすだろう行動を起こしているんじゃないだろうか。

 私なら、自分が確実に死ぬとわかったら、親しい人に最後に一度だけ会っておきたいと思う。思い人がいるのなら、なおさらだ。一生に一度のデートぐらいは誘うかもしれない。


「隊長、やっぱり一つ言っても良いですか?」


「なんだ?」


「雪女が出雲美果の知り合い……って言ったらどうします?」


 言った瞬間、隊長の顔が変わった。


「有伽、お前……何を知った?」


 隊長の声音が変わる。

 ちょっと焦ったような言葉に、私は無言で相手の言葉を待つ。


「それ以上を知れば地獄に落ちるとしても、聞くか?」


「そ、それは……」


 言葉に詰まる。

 戸惑う私に、隊長は右手を私の頭の上にポンと乗せ、軽く撫でた。


「忘れろ有伽。相手の名前だけ教えてくれれば私たちで片付ける。任せるんだ」


 片付ける? それってつまり……

 殺すってこと? 秘密を調べようとした刈華を抹消するってことなの?

 ダメだ、そんなの言えるわけがない。話せるわけがない。

 あの子のことなんて会って殆ど話したことはないけれど、出会ってしまった。知り合ってしまったんだ。

 もう、他人ではなく知ってる人。ううん。むしろ友達のように思ってしまっている。

 そんな刈華を抹消されると分かって名前を出せるわけがない。


「……わかった。庇いたいのなら聞かなかったことにする。だが雪女が出雲美果繋がりだとすれば、翼を狙ってくるのは近いぞ。お前まで辿り着いたのだ。少し調べればすぐ分かるからな」


 どうしよう。あちらを立てればこちらが立たずだ。

 グレネーダーを取るか刈華を取るのか。

 でも、私はグレネーダー。入ってしまった以上抹消対象は消さなきゃならない。

 でも、出来るだけ努力はするつもりだ。

 まずは……そうだね、刈華に留まるよう説得してみますか。


「……さて、当初の目的に戻ろう。新人研修で私から二人に伝えるべきことはたった三つだ。一つは敵であるならば、例え何者であれ臆することなく立ち向かえ。二つ目は自分の信念を貫き通せ。例えどんなに理不尽な指令であってもだ。自分の出来うる最高の努力で皆が助かる方へと改善すること。三つ。判断を下す前に自分で見て、知って、考えろ」


 一呼吸置いて隊長は幾分柔らかな語調で話題を変えた。


「今日のところは支部に戻ったところで書類整理程度しかない。かなり早いがここで解散にしよう。お前たちにもやりたいことがあるだろう」


 隊長……私が刈華に会おうとしてること気付いたのかな?

 まぁ、どっちもいいや。会えるならなるべく早い方がいいし。

 このまま山に向う事にしよう。

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