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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 釣瓶火
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欲望の暴走

 六限目の体育のときだ。ちょっと問題が起こった。

 私の学校では生徒数が少ないために、二クラス合同なのだ。

 つまり別のクラスと一緒になるわけで……


 自分のクラス、2‐Cなら毎日私が行ってる良い子ちゃんとしての善行で、ただの噂と納得してくれたけれど、他人が相手じゃ話が別。

 特に真奈香の告白が有名な学園伝説化してるせいで百合な人のレッテルは悔しいことに剥がすことがほぼ不可能だ。


 仕方なく、敵意ある視線を浴びながらも健気に体育をこなす私だったが、変に気の強い女子が絡んできた。迷惑以外の何者でもない。

 大人しく冷ややかな視線だけ送っててよ目の前にまで来て変態やら殺人鬼の癖にとか、噂に踊らされてさ。アンタ等バカじゃない?


 終いにはもう二度と学校来ないでよねとかいわれてバケツいっぱいの水をかけられた。

 真奈香が必死に抑えてくれなかったら殴ってたよ、手の甲で。


 と、まぁ、そんな事情で、私は今、真奈香と一緒に保健室に居た。

 二人ともずぶぬれ状態。

 飛び掛ろうとした私を抑えてくれた時、真奈香も一緒に水を被ったのだ。


「濡れ濡れスケスケだねぇ有伽ちゃん」


 とても嬉しそうな真奈香。手をワキワキと怪しく動かしている。

 なぜだろう? ものすごく背筋に寒気が走るんですけど。


「そ、そうだね、はやく制服着よう。タオルある?」


「うん、保健の先生にだしてもらっといたよ。ほら、真っ白ふわふわぁ」


 と一度自分の頬に当ててからタオルを差しだしてくる。

 私は受け取って、服を脱……ごうとして真奈香の視線に気づいた。


「な、なに?」


「有伽ちゃんの裸……ゴクリ」


 言葉の後に本当に喉を鳴らす真奈香。

 少し考え、私は即座にベットを区切っているカーテンを閉めた。


「ああっ、有伽ちゃん~」


「見るなっ、真奈ちゃん見るの禁止っ!」


「そんなぁ~」


 やばい、真奈香が百合の人だって忘れてた。

 気をつけなきゃ私が襲われちまいますよ。


「先生、なんででていったんだろうね?」


 仕方ないといった口調で、真奈香が別の話題を振ってきた。

 保健の先生は、私たちが入ってすぐにでて行った。まるで危険なものから逃げるように……って、どうみても私から逃げてたよあれは。


「噂のせいか」


「ええ~、保健の先生もなのぉ」


「まぁ仕方ないでしょ、話題の噂なんだし」


「私意見してくる」


「は? ちょっ、真奈ちゃん?」


 私の声は届かず。カーテン越しにドアの開閉音がする。

 慌ててカーテンを開くも、すでに真奈香の姿はなかった。

 ま、いいか。制服に着替えよう。


 体操服を脱ぐ邪魔になるので制服を衣装籠に放り込み、ふと、真奈香の濡れた体操服に気づいた。

 私より数段早く着替えたらしい。

 すでにきちんと折りたたまれて丁寧に衣装籠に収まっている。

 ……濡れてるけど。


 ゴクリ。喉が鳴った。

 ……あれ? 私、何しようとしてますか?

 無意識で舌なめずりしてますよ?


 更衣室には私一人。

 目の前には真奈香の脱ぎたての体操服。

 運動して……真奈香の【垢】が付きまくった魅惑の獲物。

 意識した瞬間。【垢舐め】の本能に火が付いた。


「や、やば、舐めたい」


 ダメ、ダメよ有伽。

 誰もいない部屋でんなもん舐めてたりしたら変態以外の何者でもないじゃない。

 ほら、小学校のとき私の縦笛舐めてた明鷹くんと一緒の部類になっちまうんですよっ!

 見つけてしまった時の居た堪れない空気、忘れた訳じゃないでしょ有伽!


 ああ、でも……じゅるりと舌なめずりをしてしまう。

 どうしよう? 真奈香の体操服が輝いて見える。

 呼んでる。呼んじゃってるよ。私に舐めて欲しいと体操服が……

 おいでって。ほらおいでって言ってるよ。手招きしてるよ。

 お……おいしそう……


 一歩。また一歩。自然と足が前にでる。

 手がゆっくりと伸ばされる。

 しゃがみ込み、手にした服を鼻先へ。

 これ以上はダメ、引き返せなくなる。


 ……ダメ……ああ……でも……でもぉ……

 ……舐めたい。

 もう、自制なんてできなかった。

 体操服の垢をこそぎ取ろうと舌を伸ばす。


 体操服に舌が触れる。

 ああ、し・あ・わ・せぇ――

 そして、お約束。


「濡れちゃった体操服乾かそう有……」


 言い逃れなんてできるはずがなかった。

 目線だけはなんとか帰って来た真奈香を見て驚愕に見開かれたものの、長く伸ばされた舌は、欲望のままに真奈香の体操服を嘗めようと伸ばされたまま。とっさにしまうこともできなかった。


「あ……ちが……これは……」


 何か言い訳。そんなの意味なんてない。


「有伽……ちゃん?」


 信じられないものを見たというような驚いた顔に絶望が吹き上がる。


「ごめん……ごめんなさい真奈ちゃんっ」


 無理矢理舌を口内に納める。もはや躊躇う暇もない。


「あ、有伽ちゃ……」


 開いていた窓から飛びだして、校庭を無我夢中で走りぬけた。

 幸いだったのは、窓が開いていたことと保健室が一階にあったこと。

 三階にあって窓が閉じていたとしても私はきっと飛びだしていたに違いない。


 気配は感じてたのに、私バカだ。

 いや、それだけじゃない。

 バレた。妖使いとバレてしまった。一番知られたくなかった真奈香に。


 もう、だめだ。真奈香との仲はもう戻らない。

 きっと彼女は警察に報告するだろう。そして私は処理される。

 翼の手によって……あれ? でも、私って危険度Aクラス認定されるのかな? 確か翼がCクラスって言ってたよね? あ、じゃぁ大丈夫かも。

 でも、さっきのって犯罪になっちゃうのかな?


 校門をでて、街中を走りぬけ、息が切れてきた頃には、川と土手のある道に来ていた。

 足は走りすぎてがくがくと震え、おぼつかない足どりで石に躓く。

 こけた。


 ……情けない。

 あんな変態行為に幸せを感じるなんて。


 埃を払い立ち上がり、私は自分の服を見た。

 制服……置いたまんま来ちゃった。

 濡れた体操服が体に張り付いてなんだかやらしい気がする。

 しかも真奈香の体操服持ったまんまだし。


 泣きたくなった。

 川でも見て黄昏たい気分だ。

 むしろ叫んでやる。翼のバッキャロォ~って叫んでやるっ。


 足を土手の方に向け……殺気が走った。

 とっさに飛んで横に転がる。

 ついさっきまで私の頭があった場所を黒い革靴が薙いで行った。


 すぐに体勢を整え顔を上げる。

 目の前に男が居た。


 黒いコートに身を包んだ男。背は170以上ある。

 黒い髪は腰まで長く、手には黒の皮手袋。黒い革靴を履いている。

 全身が黒。黒一色。不気味なまでに漆黒だった。

 そんな男が私の前に立っていた。

 男は手にした手帳と私を見比べる。


「高梨……有伽だな?」


 言葉だけでゾクリと背筋が凍った。

 この人、翼より危険だ。それに妖使いの臭いがする。

 でも、妖使いとして認識ができない。


 こんなことは初めてだった。

 いや、翼もテケテケ発動してないと認識ができなくはなる。

 だけど、接近されても攻撃してきても……全く認識できなかった。

 妖使いなはずなのに妖使いじゃない? どういうこと? 誰なの?


「あ、あなたは……」


 私の問いに手帳を閉じて、私を見る。


「妖専用特別対策殲滅課、抹殺対応種処理係、指揮官。白瀧しらたき柳宮りゅうぐう


 グ、グレネーダー? いくらなんでも早すぎる。


「市民から通報があった。高梨有伽、出雲美果はわかるな? 拉致、監禁及び婦女暴行、殺人容疑で、抹消する」


 ……は?

 なにその容疑? グレネーダーだよねこの人?

 出雲美果? グレネーダーの方が私より事件に詳しいじゃん? なんで?


「殺害ってなによっ! 他のもデマだけど死んでる被害者どうやって殺すってのよ!」


「言い訳はあの世で聞こう」


 問答無用と柳宮が走りだす。

 やば、思ったより速……

 後ろに飛んだ私が地面に着地するより早く、真横からの衝撃で体が吹き飛んだ。


 戦いなんて平凡学生の私ができるわけがない。

 結果、がら空きの胴を水平に飛んできた蹴りが直撃。

 肺から一気に空気が吐きだされ、息すらできず私の体が土手を滑り落ちる。


 思考が停止する。


 何も考えられない。


 息が吸えない。


 体が痛い、動かない。


 殺……される?


 かすむ視界で黒い靴に踏みにじられる草の生えた斜面が見える。

 靴はだんだんと近づいてきて、私の目の前で止まった。

 柳宮がしゃがみ込んでくる。


「お前、殺人犯には見えんな。特有の怯えがない」


 私は返答ができなかった。

 口は空気を求め、話どころじゃなかった。


「まぁ、どうでもいい。あれだけ噂になっていれば生き延びたところで長くはなかろう。民衆に殺されるのがオチだ。せめてもの情け。一撃で送ってやる」


 この人は私を殺す気だ。

 噂の真偽も妖の階級認定も関係なく、自分の決定だけで私を殺そうとしているんだ。


 なにか、何か言わないと……

 今、この危機を乗り越えるためには言葉が必要だ。

 言葉、そう、長ったらしい話や言い訳でなく単語。

 今の私にはそれしか言えない。


 戦うとか逃げるとかそんなことも無理。

 この人から殺されないために必要なのは……

 私が殺人鬼かどうか?

 んなのこいつに意味なんてない。


 なら、共通点。

 私をまだ死なせられないと白滝柳宮が思うようになるキーワード。


 考えろかんがえろカンガエロ……

 明滅する思考の中で――

 こいつの職業はなんだった?


 思い出せ紡ぎだせ絞りだせ……

 消えていく記憶の欠片……

 アイツの、名前をっ!


「…………サ……」


 掠れた声で何とか言葉にする。


「シ……クラ……ツバ……サ……」


 その言葉の意味なんて知る者はほとんどいないだろう。


「なん、だと?」


 でも、この人が、白瀧柳宮がグレネーダーの指揮官であるならば。

 弟子の名を知らないはずがない。


「あ……会わ……せ……」


 朦朧とした意識の中、手を伸ばし何かを言った。

 記憶には残らない何かを言って……私は……

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