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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 氷柱女
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帰ってきた有伽と放置されたマヨネーズ

「お~やっと着いたぁ~……」


 小雪をなんとか振り切り、深夜零時を時計が差す頃。

 ようやく私はグレネーダー高港支部へと帰還した。

 すでに勤務時間外なので開いているかどうか不安だけど……っと、お~開いた開いた。


 建物内部に入ると、照明は消えていて真っ暗だった。

 空気がひんやりとしている。

 手探りで廊下を歩き、なんとか作戦会議室にたどり着く。

 ドアを開くと照明の明るさに思わず目を瞑ってしまった。


 明るさに慣れた頃、目を開くと、目の前に誰かのシルエットが浮かび上がる。

 やがて次第に影から人の形を成すその正体は……


「常塚さん?」


 私の声に、ようやく常塚さんが手にしていた本から視線を上げる。

 心配した様子は全くなく、事務的に対応してくる。


「ああ良かった。やっぱりこっちに帰ってきたわね」


 まるで私が無事なのを初めから知っていたとでもいうように、薄い笑みを浮かべて本をパタンと閉じた。


「上下さんは先に帰らせたわ。あなたを探すと最後までダダをこねていたから明日は無事をちゃんと報告してあげてね」


「は、はぁ……」


 違和感の拭えない態度に私はついつい生返事で返してしまう。

 私、そんな嫌われてたっけ? いや、そもそも、なんで家に直帰せずここに来ると分かってたんだろう?


「ん? 何? 腑に落ちないって顔ね?」


 私の顔を覗き込むようにして常塚さんは顔を曇らせる。

 しかしすぐに何かに気づいたような顔になった。


「ああ、どうして帰ってくるって分かったか……ね?」


 私はこくりと頷いた。


「知っていたのよ。私の妖は思兼。妖同士の認識はされないし出来もしないけど、代わりに浮かんでくるの。知りたい情報も、関係ない情報も、ここにね」


 自分の頭を指して常塚さんは答える。

 常塚さんの妖は思兼。

 彼女自身が言うように、普通の妖使いとは違い、思兼は妖認識能力というものがない。


 ようするに相手から妖使いだと認識されないし、自分から相手の妖使いを知覚することもできない。

 それって普通の人間なんじゃ? なんて思ったりもしたけれど、臭いは妖使い特有のものだし、能力も欲もあるそうだ。


 そしてその能力も特殊で、自分で扱うことの出来ない、自動的なモノだった。

 頭の中に知識が沸いてくるのだ。


 それも近所のおばさんが何時起きたかから、アメリカ軍秘密基地で新開発中の機密事項までさまざま。

 自分自身では知りえない情報まで知らないうちに知識として身についているというから驚きである。


 新人歓迎会の席では江戸時代に実在したらしいお峰さんとお刀祢さんの壮大な百合恋愛話とか聞かされた。誰得だよ!?

 このように本当に関係ない事も多いらしい。

 真奈香が感動してたけど私にはちょっと。


 自分の知らない癖とか知られてるかと思うとドン引きです。

 同じような妖使いでサトリという相手の考えていることを知ることが出来る妖使いもいるそうだけど、そっちの妖使いよりたちの悪い能力だと、珍しく隊長がぼやいていたのは記憶に新しい。


 なにを知られたのか気にはなりますが、聞かないでおこう。どうせ教えてくれはしないだろうし。いや、酒飲ませれば常塚さん喋るかも。

 ま、要するに能力で私の帰還を知ったらしい。


「あれ? ってことは犯人像とかってすでに知ってたり?」


「稀にそういう時もあるけれど、今回に限っては雪女の正体は分からないわね。マグギャンの人たちがあなたと共に解放されたのは分かったけど」


 思兼っても万能ってわけじゃないらしい。

 まぁそうだろう。人間の脳ってのは確か140年分くらいしか記憶できないようにできてるはずだ。


 常塚さんもおそらく自分の脳以上の記憶は出来ないはず……いや、妖使いなわけだから分からないか。

 あくまで私の予測なんだし。


「さて、私はこれからも仕事があるけれど、高梨さんはどうする? 帰るのなら出退勤カードに記入しておいてね」


 常塚さんは言うこと言ったと立ち上がり部屋を出て行く。

 私の横を通り過ぎ、ふと思い出したように呟いた。


「ああ、そうそう。柳ちゃんが明日は覚悟しておけって言ってたわよ」


 ……あ、やっぱりですか?

 うあ、勝手に独走した上に雪女に捕まって一日不意にしたもんだから隊長がお怒りでいらっしゃる!?

 不気味な伝言を残して常塚さんは立ち去った。


 背筋に嫌ぁ~な汗が流れるのを感じながら、私も帰ることにする。

 どうしよう。明日顔を合わせづらい。

 怒られるだけならいいけど、折角出来た信頼関係にヒビが入るのは避けたい。最悪土下座でもなんでもして許しを請うしか……

 いや、むしろ色仕掛けでこの際隊長と恋人関係に向うのもありかも。

 ……さすがに、無理だよねー絶対。


 追伸、家に辿り着くと、親父は朝の格好のまま寝入っていた。

 尻にはマヨネーズご飯がこびり付きカピカピに。

 床にはマヨネーズご飯と割れた茶碗が散乱し、酒瓶と零れた酒が乾いた染み。

 しかも親父の目がうっすら開いている。いびきをかいているので寝ているみたいだが、もう、死んでてもおかしくない状況だ。


 もはやどこの殺害現場だよ! とツッコミ入れたくなる程だった。

 可哀想だったので夜ご飯はしっかり作ってやることにした。

 結局起きてくることは無かったけど……

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