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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 氷柱女
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マグギャン解放

 パチパチ


 そんな火の爆ぜる音に、ようやく私は気が付いた。

 薄暗く冷たいその空間は、焚き木の炎を灯火代わりにしているだけで、火の周囲以外は真っ暗で見えない。


 外はゴウゴウと吹雪が吹き荒れ、この洞窟からは出られそうにない。

 そして、篝火一つの洞穴には私以外に幾人かの気配があった。

 私は警戒しながら身体を起こす。


「目が覚めたかお嬢ちゃん」


 一番最初に声をかけてきてくれたのは、真横にいた40代くらいの男の人だった。

 服装はダウンジャケットにスキーウェアと私とは雲泥の差な雪山登山用ファッションで、近くには集音器なるものが置かれていた。

 周りを見れば、レポーターファッションの女の人や、カメラを地面に置いた若い男の人など、職業丸分かりな人たちがいた。


「君たちも雪女に襲われた口かい」


 男の人の言葉に素直に頷く。

 どうやら遭難した例のマグギャンのテレビ局の人たちらしい。

 ……ん? 君たち?


 ふと周囲を見回したが、誰もいない。

 真奈香はどうしたのだろうか?

 君たち、ということは真奈香もこの辺りにいるはずなんだけど……


「あ、目覚めたの?」


 なんて声とともに、入り口から入ってきたのは、私と同じ学生服を着た女生徒。

 真っ青な髪は首筋辺りでばっさりと乱暴に切られたように乱雑に伸び、壊れたように光を失ったガラス玉のような瞳。

 無理して笑顔を作って入るが、疲れというか、悲壮というか、絶望感が端々から滲みでている少女。

 断じて真奈香ではなかった。


 豪雪で遮られ薄明かりの差し込む入り口から、女生徒はゆっくりと灯火に照らされた内部にやってきた。

 暖かな色に照らされて、幾分悲壮感が和らいで見える。


「私は舞之木刈華。服装から察するに同じ中学よね? 私一年生なの」


「あ、ボクは二年の高梨有伽」


「うおっ!? ボクっ娘!? 初めて見た!」


 なんだ? その珍獣発見みたいな好奇心に溢れた驚きようは?

 しかも一年生のくせにちょっち言葉遣いが生意気だぞ! なんて思ってみたり……

 雰囲気から暗い感じの娘かと思っていたが、声の調子はよっちーバリの元気娘だ。

 うーん、悲壮感ってのが声から感じられないなぁ。私の勘、外れたかな?


「はぁ……もう三日か……」


 レポーターの女性がため息を吐く。

 そういえば彼らは三日前に行方不明になったんだっけ?


「あの、皆さんマグギャンの人ですよね」


「ああ、そうだけど?」


 私の言葉に反応してくれたのは、真横の男の人だけだった。


「食事とかってないのに、良く保ってますね」


「ああ、そいつは……」


 と、刈華を目線で指し示す。


「あの娘が毎回取ってきてくれるのさ」


「舞乃木さんが?」


「彼女は寒さに強い妖使いらしくてね。毎日食料とか毛布とか届けてくれるんだよ」


 とても感謝していると、優しい口調で彼は言う。

 だけど……それはあまりにも都合が良いのではないだろうか?

 雪女に捕まりここに監禁された時、たまたまここにやってきた刈華がたまたま寒さに強い妖使いでご丁寧に食料などを調達してきてくれる。

 しかも助けを呼ぶことも無く?


 まるで生き長らえさせることだけを目的にしているようなタイミングと要領の良さだ。

 確かに、この豪雪では助けには来れないかもだけど、マグギャンの人たちの生存が外の隊長たちに伝わって無いのはおかしい。

 彼女が怪しくて仕方が無い。


「ちなみに……ここには何の用で?」


「え? 私? ……ああ。親友のお墓参りだよ」


 と言って少し考え、刈華はちょっと違うか? と一人物思いに耽る。


「親友の家に行った帰りはね、いつもここに来るの。私のお気に入りの場所だからさ。有伽は?」


 要領を得ない回答を返されたばかりか、私に聞き返してくる。

 さて、どうしたものだろう? 雪童子が彼女の能力だったとすれば私の正体は知られているはず。

 でも単に偶然居合わせた民間人ならグレネーダーだって言われたら前の私みたいに不安にさせるかも……

 迷っていると、刈華の方から声をかけてきた。


「あれよね? やっぱりグレネーダーとして雪女探索に来たんだよね?」


「え……」


 まさか向こうからその話題が出てくるとは思っても見なかった私は、一瞬答えることができず、間抜けな顔を返していた。


「ま、ここにくる女子学生なんか滅多にいないし、来るなら来るで刈華ちゃんか俺ら探しに来た奴くらいだろ。女子学生に知り合いはいないから未成年でもできるそういう職業っちゃ、グレネーダーくらいだろ」


 なんて事をマグギャンの方々がフォローしてくる。

 なんですか? その常識だろみたいな空気は? 皆して彼女が私の身分言い当てたことの不自然さを帳消しにしてる? さすがにそれは気のせいか。


「それとも……」


 言葉を続ける刈華、急に顔を俯かせ表情を見せないようにする。


「私をつけてきた?」


 ビュオッと雪の混じった風が吹き込んできた。

 大した強さではなかったのか、炎は揺らいだだけで消えることは無かったが、あまりのタイミングの良さに背筋がゾクリとした。


 気のせいか? 私が身震いした瞬間、口元が笑ったような……

 しばし沈黙が流れた。

 それだけで彼女もマグギャンのスタッフも私の言葉を待っていることは容易に想像できた。

 戸惑いながらも言葉を整理して、私は観念したように声を出す。


「その通り。ボクはグレネーダー。皆さんが言ったとおりにマグギャンの行方不明の人たち捜索と、雪女の捕獲、または抹消を任務にしてます。山に来たのは偶然見かけた舞乃木さんがこの山に入っていくところを見かけたから。だから……」


一度言葉を切り、刈華を見つめて私は問い詰める。


「聞かせてもらえる舞之木刈華? あなたがここに、マグギャンの人たちを監禁してる理由を」


 初めからあなたが雪女だ。と、疑ってかかった物言い。

 外れてたら失礼千万ではあるものの、私には半ば彼女が雪女だという確信があった。

 引っかかるのだ。彼女が言った言葉。


 親友の家に行った帰り。

 少なくとも、今日彼女が立ち寄った場所は一軒だけだ。

 私の考えが正しければ彼女の目的は……


「ふふ……」


 クスクスと、小さな笑いが刈華から漏れた。

 指摘されて観念した? いや、それよりもまさか……

 私は軽はずみで彼女のペースに乗せられ口にしたことを後悔した。

 真奈香も隊長もいないこの状況。下手をすれば……殺られる!


「ダメだよ……それじゃダメだ……」


 言って彼女は私に近づく。

 なんだ? 何がダメなの?

 近づく彼女に恐怖を感じたのか、知らず私は一歩退がる。

 彼女の手が上がる。肩に手がかけられる。

 がしりと捕まれ、私は……


「ダメ! 絶対ダメだよ有伽! ボクっ娘なら相手のことはあなたじゃなくって君でしょ!」


 …………

 なんですかね……そのこだわりは?


「ほら、さっきの台詞もう一回! ついでに最後に『さ』をつけて」


「え……と、聞かせてもらえる舞之木刈華? あ~と……君がここに、そのマグギャンの人たちを監禁してる理由を……さ?」


 棒読みプラス尻上がり。同じ台詞なんざ恥ずかしくて二度も言えるか。


「ん~、及第点。ま、今回はそれで許してあげる」


 なぜ口調で刈華にダメだしされないといけないんだろう?


「それはねぇ……」


 刈華が言葉を発しようとしたその瞬間。


「有伽お姉ぇ~様ぁ~っ!!」


 なにか耳障りな怪音波が聞こえてきた。

 外の方から? と全員が視線を入り口に向け、やがて吹雪の向こう側から周囲だけ春来ちゃいましたとでもいった陽気さで手を振りながらかけてくる樹翠小雪が……いや、ストーカーが一匹。


「ま、確かにもう居てもらう必要は無いか……」


 小雪に注目していた私の横で、刈華が呟いた。

 とても小さな声で、ともすれば聞き逃していたかもしれない微かな呟き。

 その声に反射的にそちらを向いた瞬間、マグギャンのスタッフ一同が喚起の声を響かせた。


 驚いてそちらを見れば、どうしたことか?

 今までアレほど吹雪いていたはずの吹雪はパタリとやんで、空にはお月様が顔を出し、入り口にできた氷柱は月光を浴びて夜露を滴らせていた。


 ええと……どういう反応をすればいいんだろう?

 今までの豪雪地帯が嘘のよう。

 あたり一面の青く輝く銀世界が美しく広がっている。


 洞穴からでた一同はこれで帰れるとか感嘆の意を漏らし、誰一人この不自然さに不満を漏らそうとすらしていない。

 というよりも誰も不思議に思っていない。

 なんていうか、もう呆れたよ正直。


「それでは、有伽先輩、学校でまた……」


 耳元に声だけ残し、刈華がマグギャンの人たちを先導して下山を始める。

 慌てて追おうとした私だったが、ようやく私の元に来た小雪にじゃれつかれてそれどころじゃなくなった。


「し、心配してなんてないんだからねっ」


 謎のツンデレ属性言葉を言いながら、飛びついてきた小雪は慌てて離れて取り繕う。

 妙に清まして、時折見上げるように流し目を向けてくるのは何の合図だ? 分かりたくも無いので無視することにして、さっさと下山することにした。


 刈華については彼女の言葉どおり明日にでも会えるだろう。

 でも、あの娘関連かもしれないなら一応あいつに言っとくか?

 いや、止めとこう。もう、過ぎ去った過去を掘り返すのは悪いだろうし。


「んで? どうしてここに?」


 下山する間、寒いし何も暇つぶしが無いのと、すぐに挫けてしまいそうだったので、歩くためにも横の小雪に話を振る。


「ふふっ。そりゃもう有伽の居場所なら分からない場所は無いわ」


 うあっ。それってもしかしなくてもストーカーですか?

 ヤバイ。今日から部屋の中隈なく探すことにしよう。

 盗聴器とか普通に見つかりそうだ。


「っていうか、氷柱のある場所なら大体その辺りの風景とか分かるんだよ私」


 なるほど、冬場は人探しに向いた能力だね氷柱女って。


「大分冷えちゃったよね有伽? 温泉入ってから帰らない?」


「はい?」


「温泉だよ温泉。おっきなお風呂! 私の欲のためにも欲望のためにも是非!」


 へ~、氷柱女の欲はお風呂に入ることか。

 日常生活が欲だと捌け口に困ることなくって羨ましいよねまった……ん? 欲のためにも欲望のためにも?


 そっと横目で小雪を見ると、なんだか真奈香のトランス状態みたくハアハアと物凄く息が荒い。

 身の危険を感じたので温泉は辞退させてもらうことにした。

 名前:  樹翠きみどり 小雪こゆき

 特性:  惚れ易い・一途・ツンデレ?

 妖名:  氷柱女つららおんな

 【欲】: お風呂

 能力:  【千里眼】

       見たい対象の近くに氷柱があれば、

       その周辺の情景を見る事が出来る。

      【氷柱舞い】

       冷気で作りだした氷柱を飛ばす能力。

       氷柱女唯一の攻撃能力。

      【熱弱点】

       暑さに弱くなる。冬場は元気だが夏は確実に夏バテする。

      【同族感知】

       妖使い同士を認識する感覚器。

       個人によって範囲は異なる。


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