舌戦・白百合たちの戦い
放課後、真奈香、よっち~、他数名と連れ立って学校を出ると、校門に佇む他校の生徒を見つけてしまった。
あまりにも見知ってしまっていた顔に、思わず私は真奈香の後ろに隠れる。
動き早ぇーっすよ。なんでその日の放課後にこっち来ちゃってるんですか。向こうの学校、かなり離れてたよね?
「何やってんの?」
真横にいた友人の声によっち~が気づく。
目先の他校の生徒と私を見比べ……物凄く良いこと思いついたみたいな顔をした。
友人たちに視線で指示を飛ばし、私をすぐに拘束してくれる。
「って、皆何すんの!?」
「ふっふっふ。どうやらあの娘が噂の第三の容疑者みたいやなぁ」
悪どい顔でよっち~が勝利宣言。謎は全て解けたと私を指差した。
「さぁ! 観念しぃや高梨有伽っ! もう言い逃れはでけへんで!」
私が何かしました。とでも言いたいのだろうか?
さらに視線で友人たちに指示。
私を他校の生徒の目の前に連行する。
「へい嬢ちゃん。お探しの赤髪プチツインテールでっせ」
商品を売りつけるかのごとく手もみしながら近づいていくよっち~。
物凄く怪しくて思わず相手も引いていた。
しかし、彼女が私を見た途端、傍目にも分かるくらい顔が赤くなる。
「樹翠小雪よ。朝はよくもまぁぶつかってくれたわね」
「いや、ぶつかったのそっちだし」
答えると、彼女は何故か不機嫌になる。
でもぶつかったのは小雪の方だし私はどちらかというと被害者で……
「あのね、人が名乗ってるんだからそっちも名乗りなさいよ」
……え? 今の自己紹介?
「え、と……高梨有伽……だけど?」
彼女の思考回路に戸惑いながら、つい反射的に名前を言う私。
言ってしまってからこいつが真奈香属性の危ない人だったことを思い出す。
「有伽……有伽か……」
呟くように繰り返した小雪は、私の正面に足を進める。
友人たちに拘束されたままの手を握り、
「責任とって結婚してよね」
顔を赤らめながら真奈香同様の爆弾発言をしてくれた。
もちろん周りを歩いていた生徒たちも聞いていて、ある男子生徒は手にしていたカバンを取り落とし、ある女生徒なんかはネタがどうとか言ってメモに何か書き始める始末。
「あ、あのね小雪ちゃん、私はおんぬぶ……」
せっかく普通の女の子だから百合な世界へは羽ばたく気はないと言おうとしたのに、真横からよっち~が口を塞いできた。
当然抵抗なんぞできるわけがなく私は言葉を封じられる。
「一生離さないでよね」
などと手に頬擦りなんぞしてくれて、全身に怖気と鳥肌が立った。
このまま彼女と結婚させられるのか私?
百合な世界が大手を振って待っているのかい私。
誰も助けてくれないのか!? 頼む、隊長、常塚さん、前田さん! この際翼でもいいから助けてプリーズ!
……とはいえそう都合良くグレネーダーの面々が現れるはずもなし、私の操絶体絶命? と思ったその時、ついに彼女が動いてくれた。
小雪の頬と私の手の間に入るように手を突っ込んで小雪を押し戻すか細い腕。
しかしその腕力はすさまじく、小雪の抵抗むなしく小雪は私から無理矢理引き剥がされていた。
「な、何よ!?」
怒り顔で見つめるその先には、私の守護神真奈香様……ピンチのときの、頼れるお方の登場だった。
「ダメだよ小雪ちゃん。有伽ちゃんが嫌がってる」
「そんなの本人が嫌なら嫌って言うでしょ?」
いやいや、私口塞がれちょりますがな。
しかも首振ることもできないくらいに拘束されてるし。
「だいたい、何の権利があって私と有伽の愛を止めるわけ?」
邪魔ようっとうしい。と右手を振ってあっち行けとジェスチャーする小雪、しかし、真奈香はニタリと不敵に微笑んだ。
「有伽ちゃんは……私の夫ですからっ!」
真奈香の衝撃告白炸裂。
否定しようにも私はよっち~に抑えられ身動きも口も開けない状態。
真奈香の言った意味が理解できず呆然としていた小雪は、不意に額に手を当て、まるで日差しがきついとでも言うようにへなへなと崩れ行く。
「あぁっ」とか声を発しながらお嬢様座りとも呼ばれるほとんど寝転びかけの状態になりながら、ハンカチを噛んでさめざめと泣き始めた。
「ひ、ひどい。すでに妻がいながら私にまであんな……君だけだよってあんなに優しく言ってくれたのに……」
言ってません。言ってませんですよ私は。
誰にもそんな言葉は言ってません。
「一緒に育てようって……」
何をっ!?
「死ぬまで君を放さないと……」
つーか一生あなたを解放しますんで二度と近づいてこないでください。
キッと真奈香を睨みつけ、泣くのを止めた小雪は怒りの言葉を吐きつける。
「これで勝ったなどと思わないでよ! 有伽は私が奪うんだからっ」
いや、奪うってあんた……
「有伽ちゃんを奪う? ふふ……そう言っているうちはまだ有伽ちゃんを私から奪うなんてできないよ」
自信満々に返す真奈香。
その根拠がどこから湧いたものか知りたいものだ。
「私は有伽ちゃんに強制はしてないもの。ただ帰る場所を作って待ってるだけ。他の誰とくっついてもいいし、嫌いになっても構わない。だって、運命で結ばれた私と有伽ちゃんはいつか必ずまた一つに戻るんだもん。あなたは体を奪えても有伽ちゃんの心までは奪えないもの」
なんですかその設定?
突っ込み入れまくりたいけどよっち~に阻まれ何もできないでいる私。
ストレス溜まるし息苦しいし、もう最悪だ。
しかも校門でこんな熱いトーク繰り広げられて、私明日からどんな噂が立つことか……
泣いていいですか? いいですよね? もう、泣かせてください。
「って、有ちゃん? 何泣いてんの?」
言い争いを続ける二人を見せ付けられながら、終わっている自分の人生に一人涙する私だった……
ふふ、人生オワタ\(^o^)/。
「そんなこと……そんなことないわ! だってあんなに激しく私をっ」
一体私が何をした!?
ああ、もう、よっち~の手噛み付いてでも反論してやろうかな?
でもそうするとまたなんか変な誤解生みそうだし、何かいい手は……!!
私の鼻が嗅ぎ慣れた、しかし未知の臭いを嗅ぎ取った。
妖使い特有の臭いでありながら、今この場にいる真奈香や小雪、まして雪花先輩でもない別人の臭い。
真横を通り過ぎそのまま校門を出て行く。
なんて言えばいいのだろう?
誰かに向ける殺気のようなモノを纏う女生徒。
後ろ髪しか見えなかったが、背筋のぞっとするような真っ青な髪が印象的だった。
「あ、有伽の浮気モノォッ!!」
突然の叫びに思わず視線を戻すと、小雪がちくしょーーーっとか叫びながら内股で走り去っていた。校舎の方に……
何が、あったのだろう?




