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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 釣瓶火
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広まっていた謎の噂

 翌日のこと、私の周りに異変が起こった。

 いつもは六時に起きれたのに……ただいま七時十五分!

 残り四十五分で授業開始っ!


 いや、どうでもいいとか言わないで。

 これホントヤバいし。

 身支度している暇がないっ! 朝のシャワーが浴びれなぁいっ!

 無遅刻無欠席を心情としている良い子ちゃんな私としましては、寝過ごすわけにはいかんのですよ!


 起きたとたんに台所に駆け込み朝食と二人分の弁当を作る。

 親父、今日は簡単だけど気にするなっ! こうゆう時もあるってことさ!

 心の中で親父に謝り、野菜を切ったそばから弁当に詰める。


「あたぁッ!? 指ッ指ッ!」


 包帯ドコ? ああ、もうッ! この時間のないときにッ!

 よし、次ご飯詰めて、ヘルシー生野菜弁当完成!

 あ、ドレッシングないや。いいか、現地調達ってことで。


 結局、昨日は銀行行けなかったし、アルバイトさん並に働かされたし、疲れ果てて寝過ごすし、親父起こさなきゃいけないし。もう最悪。

 バタバタと慌しく支度して、あああもー、三十分かかる道のりを十分で走り抜けないと。


 家を飛びだし、全力疾走!

 ああ、もうッ、この家のせいで遠回りしなきゃ……いいや、庭通ろう。

 間に合えッ!


 赤信号なんて無視よ無視ッ! っわ、危ないじゃないもう、そんなスピードで横断歩道に突っ込んでこないでよッ!

 間に合わすッ!


 しまった、学校の真横にでちゃった。

 まぁ後ろにでて裏山登るよりはましか。

 それでも門まで距離がある。

 とりあえず、っと。右を見て。左見て……人はいないね。


 こういうときは、電柱に舌を巻きつけて壁を飛び越えるべしッ! そのまま学校側にジャンプ!

 うむ、ギリセーフ。


 今日も青空がまぶしいなぁ。

 学校の裏山が銀杏の木で覆われて綺麗に黄色く輝いてますなぁ。

 やっぱり人工変異種で一年中葉っぱつけてるっても春に咲く銀杏ってのは変だよなぁ……遠い目をして裏山を見ながらゆっくりと歩いて校庭にでる。


 汗を拭って、ようやく周りに気がついた。

 ……うわ、周りの学生から変な目で見られてる!?

 ん? でも、なんか視線が変な気が……


 互いに囁きあったり怯えた表情で見つめてきたり、敵意ある視線。蔑みの視線。

 いろいろな視線の中でイジメを受けているような孤独感。

 何かがおかしかった。


 服装……は乱れてないね。髪もはねてないし、さっきのジャンプのせいというわけでもないみたい。何かしたっけ?

 よく考えてみる。それでもやはり思い浮かばない。


 昨日やったこと。真奈香ちゃんをフッた?

 って、いやいや、先約があったからパスしただけだし。

 あ、もしかしてタダ働き? ウェイトレス服見られた? でも、それにしても噂広がりすぎだよね?


 学校の中も教室でも一緒だった。

 普段なら嫌でも向こうから話しかけてくる友達でさえ離れたところで奇異の視線を向けてくる。

 イジメ? でも、学校中で? んな不自然な。


「おはよぉ~有伽ちゃん」


 そうだ、皆の態度はなにかの間違いだ。そう思えてくるくらい能天気で陽気な声。

 振り向けば、そこにはいつものように真奈香が笑顔で立っていた。


「あ……おはよう真奈ちゃん」


「なぁに? 元気ないよぉ? どぉしたの?」


 うぁ、なんか目頭熱い。嬉しくて泣きそう。


「今日の皆の態度がさ……」


 控えめに言ってみると、真奈香が周りを見渡した。


「あ~そういわれてみれば冷めた目線で見られてるねぇ~」


 どことなく嬉しそうなのは何故?


「ボク……何かやったのかな?」


「聞いてみようかぁ?」


 言葉に詰まる。

 今になってようやく、こうなる原因に気がついた。

 理由があるとするならば、一つしかなかった。


 やっぱり、友達なんて……絆は脆いものなんだ。

 バレたんだ。今日のあれが見られたとしてもこの広がり方にはならない。

 だから翼から逃げるとき、あの攻防を見られた。

 もしくはファミレスでの会話。


「聞いて……みたら?」


 きっと、真奈香も一緒だ。今は知らないだけ。

 私が妖使いだと知ったなら、必ず私から離れていく。

 友達たちの元にかけていく真奈香。

 何かを聞き、頷き、驚く。私をちらりと見る。


 やっぱり、そうなんだ。

 これで、私の居場所がまた一つなくなった。

 真奈香は最後の私の拠り所。

 真奈香だけだった。私の秘密を知らなかったのは。

 でも、今……知った。


 帰ろう。ここはもう私が居ていい場所じゃない。

 そう思い、カバンに手を触れたときだった。

 たたたっと軽快な足取りで真奈香が私に駆け寄ってくる。


「聞いてきたよおぉ」


 能天気にこいつは、私にどんな残酷な言葉を言ってくれるのだろう?


「なん……だって?」


 自分とは思えない抑揚のない声。


「えぇとねぇ、有伽ちゃんが妖使いなんだってぇ」


 やっぱり、バレていた。

 いつもと変わらない声で、とても不思議そうに真奈香は声を出す。

 でも、まるでそれがどうでもいいことのように聞こえる。


「んでぇ、出雲美果? って女の子にエッチなことした挙句になぶり殺し? したんだって。変な噂だねぇ」


 ……ん?

 ちょい待った。私は確かに妖使いだ。

 でも、なに? 出雲美果? 翼に抹消された妖使いじゃん。

 しかもレイプッ!? 私、百合なうえに変態じゃないですかッ!!


「何その噂はッ!? ボクは百合や薔薇な扉は開けてな~いッ!」


「え、そうなの?」


「そこ、泣きそうにならないッ! そもそも出雲美果っていったら今話題の死んだ妖使いじゃない! グレネーダーに消されたってテレビでやってたってこの前皆で噂してたでしょうがッ」


 私の言葉に、あれ、そういえば。なんて顔をしだした級友たち。

 よっち~たちがすまなそうに寄ってくる。


「ごめんな有ちゃん、皆が噂しとったからそうなんかなって」


 あとはもう、いつもどおりの教室だった。

 私が否定したのは百合じゃないこと。

 妖使いってことは保留したままだけど、皆そっちも噂と思ったみたいだね。いいやそのままでいてもらおう。


「むぅ、みんなものすごく自分勝手。私の有伽ちゃんに謝りもしないなんてぇ」


 いやいや、真奈香のモノじゃないですよ私は。

 でも、ありがとう真奈香。真奈香だけだよ。私を避けようとせずに噂を教えてくれたのは。


「あはは、ただの噂やったんやからええやん、な、有ちゃん」


「ま、まぁね……でも、なんで今日いきなり全校に広まったのかな? 昨日は噂なんて一人も知らなかったはずだよね?」


「そういえば変だねぇ?」


「真奈香は信じへんかってんなぁ?」


「うん? というよりもね、私はぁ有伽ちゃんがどんな性癖持ってても平気だよぉ。私と有伽ちゃんはぁ、ラヴラヴファイヤーですからぁ♪」


 嬉しそうに頬を赤く染める真奈香。

 ああ、だめだ。真奈香はこういう性格だった……

 真奈香は何かを妄想しているのか、モジモジしながらハフゥとか甘い吐息を洩らす。


「有伽ちゃん……あふぅ、有伽ちゃぁん♪」


 うああっ、なんだか背中がゾクゾクする。

 なに考えてるのですか真奈香さん?


 結局、噂の出所が分からないままに、午前の授業は何事もなく終了した。

 先生は普通に噂を信じてたみたいだけど、妖使いでも殺人鬼でもお前は俺の生徒だ。だから学校辞めたりするなよとか、いろいろと問題発言をしてくれた。

 ちょっと嬉し悲しくて泣きそうになったよ。

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