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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 雪童子
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お弁当、美味しかったです

 お昼になった。

 よっち~は真奈香の宣言どおり、ホームルーム一歩手前で先生と同時に反対のドアから教室に滑り込んでいた。

 どうでもいいことだが間に合ったようでなによりだ。


 昼はいつも通り、仲のいい五人で机を囲む。

 皆、思い思いに自分の弁当を広げている。

 そうして、今、目の前で真奈香によって作られた私用愛妻弁当を鼻歌交じりに開けていた。


 今日も恐怖の時間が始まろうとしております。

 でも、残念だったな真奈香。今日の私は一味違うぜ!

 その弁当は自分でお喰いなさい。


「お~♪ 見てみぃ有ちゃん。今日も真奈ちゃんの愛情たぁっぷりやで」


 花でん粉によるありかちゃんLOVEという文字がまたなんとも戦慄をそそる。

 女の子らしい可愛らしい弁当に入った、可愛らしい盛り付けのお弁当。

 なるほど、確かにこれを食えと言われて嫌がる男は居ないだろう。


 そう、男はいない。

 でも、私は女である。断じて百合ではないのである。

 そこのとこ、もう一ど言わせてもらうけど、重要だから。

 断じて、百合じゃありません。


「残念でしたぁ。ボク自分で作ってきたもんね~」


 カバンを取りだし、弁当箱を漁って取りだす。

 出てきたのは、ちょっと可愛いウサギさんの包みに包まれた素朴な弁当箱でした。……私、こんなの持ってないですが?


「あ、あれ?」


 見覚えの無い包みに違和感を覚え、カバンの中を改めて捜索。

 でるわでるわ三年生の教科書ノート。名前は全て樹翠雪花……

 ……お、おかしいな。私の鞄のはずなのに、雪花先輩の物しか入っておりませんよ?


「あれ? 有伽ちゃん、なんで雪花先輩の教科書?」


 三年の表示とノートに書かれた名前を見て、真奈香が首をかしげる。

 いや、私だって理由を知りたいよ。理由……あ。

 ハッと気付いた朝の邂逅。

 ぶつかった拍子に双方がカバンを投げ出し、拾ったのは両方私。


 ようするに……間違えて私のカバン渡しちまってますか!?

 カバンの中身をカバンに仕舞い、慌てて立ち上がる私、教室に入ってきたクラスの男子に名前を呼ばれて出鼻をくじかれる。


「この人がアリアリに用事だってさ」


 男子生徒に紹介されるように、ドアから教室にやってきたのは、雪花先輩だった。

 私を見つけると、ちょっとほっとした顔をする。

 相変わらず優雅な物腰で近づいてくると、私の目の前で立ち止まる。

 手には大事そうに私のカバンが握られていた。


 視点が定まっていないというか、虚空を見てるけど、これって私を見てるって思っていいのかな? いいんだよね多分。

 ぼーっとしてる感じがするからちょっと対応に困るね。


「え……と、カバン、ですよね」


「はい。今日は4時間目まで特別授業でしたので気付くのが遅くなってしまいました」


 すまなそうにカバンを返してくる雪花先輩とカバンを交換し、自分も必要な教科書類は殆ど机の中だったのでと苦笑いを返す。

 最後に教室を出て行く時に優雅に会釈して一言。


「美味しかったです」


 雪花先輩は自分の教室に戻っていった。

 気分的な問題だろうけど、雪花先輩の残り香みたいなものが周囲を漂っている。南国系のアレ、えーっとパッションフルーツだっけ? なんかミルクっぽい奴。ココナッツだっけ? 違うか?

 まぁ、あの辺の香りだ。ちょっと癒される。

 あれか、爆乳の香りという奴か?

 歩くたんびに揺れ動いてて凄かったもんね。男子釘付け。

 ちくしょう、羨ましくなんかないやい。


「うっわ~、めっちゃ綺麗な人やなぁ」


「だよねぇ、なんか憧れるわぁ」


 思い思いに感想を述べる百合薔薇好きな乙女ども。

 そんな真奈香の恍惚状態みたいな顔してため息吐かないでよ全く。身の毛がよだつってもんですよ。


 ……ん? そういえば、美味しかった?

 なんとなく嫌な予感がしてカバンを開く。

 カバンの中には弁当以外は何も入ってはおらず、探索の苦労なく弁当を取りだし包みを開く。


 持った瞬間、なんとなく理解できたけど、信じ切れずに箱を開いた。

 綺麗にすっからかんな空の弁当箱を覗き込み、そこにあったはずのハンバーグと野菜盛りを必死に探す。


 あっれー? ないですよ? 私のお昼ご飯が綺麗さっぱり消失しております。これ、どんな神隠し?

 思わず裏返して揺すってみるけど、食べカスすら降って来なかった。


「決まりやなぁ、有ちゃん♪」


 周囲の瞳が一斉に光を発した瞬間だった……

 嬉々とした顔で自分の作った弁当を近づけてくる真奈香。

 慌てて逃げようとするが、左右から肩を掴まれシッダウン。


 さらによっちーが私の首を固定して口を強制開放。

 真奈香が箸で取り上げたタコさんウインナーを私の口へと近づけてくる。


「まっへ。ひゃのふ、ひゃのふかひゃ、ひょひょうひゃはひゃはひゃひへぇ――――っ」


 よっちーたちに助けを求めるが、やはり彼女たちは私を助ける事はなかった。

 むしろ、私が救援を求める程に嬉々とした表情で真奈香に協力しやがんの。 


 この日私は、もう二度とドラマチックでお決まりな運命の出会いなんざ期待なんてしないと、心……いや全身に硬く刻んだのだった。

 雪花先輩のバカぁ。なして他人の弁当を食べたんですかぁっ!

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