雪女らしきモノは雪童子?
――――っ
「はっ!?」
眼が覚めると同時に飛び起きた。
「お~、さすが高梨。復活魔法もかけてないのに生き返りやがった。おお高梨有伽よ死んでしまうとは情けない。なんつってな」
嫌な声が聞こえたのでキッと睨み顔で振り向いてやった。
簡素な部屋の入り口の壁にもたれている少年が眼に入る。
少年はやる気なさそうに両手を頭の後ろで組み、ガムか何かをくちゃくちゃと噛んでいた。
ぷく~っと膨らませているので風船ガムだろう。色からしてグレープだ。
「なんだ翼か」
はぁ~っと大げさに溜息を付いて周りを見る。
さっきまで居たはずの小屋ではなく質素ながらもしっかりとベットがある。
しかもインテリアも付いて暖房までが付いてるワンルームだった。
ベットは二人分あるけど、隣には誰も眠っていない。
「ここは?」
「俺らが泊まってるホテル。隣の部屋に師匠も前田も上下も居るぞ」
用は済んだとでもいいたげに部屋を出て行く翼。
私は後を追うようにベットから這い出ると隣の部屋へ。
ドアを開けた瞬間、
「全く、生身で登山させるバカがあるか。仲間を焼死させる気か前田」
丁度前田さんに隊長が説教をしているところだった。
前田さんはすすすすすいませぇぇぇぇ~んと本当にすまないと思っているのか怪しい言葉で謝っていた。
というか、雪山登山で凍死じゃなく焼死させかけるって、ほんとこの娘も異常だよね。
そして、その後ろから隊長の隙を付いて私を殺しかけた前田さんを亡き者にしようと心臓を狙う真奈香が舌なめずり。
しかし隊長の隙を掴めずやきもきしていらっしゃる。
あんまり放置していると、何かの隙に前田さんがお亡くなりになりそうだ。真奈香の気を逸らしてあげよう。これ、貸し一ですよ前田さん。
「隊長。昨日ぶりッス~」
すちゃっと左手を上げつつ元気なく挨拶。
「ああ、起きたか有伽。無事で何よりだ」
隊長は今日も全身を黒く染め上げていた。
黒いコートに黒ズボン。黒の靴は部屋の入り口にそろえて置いてあるが、靴下も黒だし髪の毛も漆黒だ。
唯一、服に隠れていて見えないが、銀色の首飾りをしている。
それだけが隊長の中で肌色以外に黒とは違う分だったり……
隊長は前田さんに視線を促す。
それに気付いた前田さんは座ったまま私に一礼。
ごめんなさいと震えながら言ってきた。
やっぱりぜんぜん気持ちが伝わって来なかったけど。
「あはは……いいよ、前田さんボクを助けるためにしてくれたわけだし……」
あと少し気絶するのが遅かったら内側から燃えてたかもしれないとか、体質で風邪引くことないから別にあそこまで暖めなくてもよかったのにとかは思っていても言わないでおく。私、良い子ちゃんですから。
「それでは有伽も来たことだ。真奈香が倒した雪女についてもう一度詳しく教えてくれ」
隊長が真奈香に向き直る。
私の死角に移動していて今にも飛びつこうとしていた真奈香は、話を振られて驚いて、それでもめげずに私にダイビングキッス。
空中泳いであっりかちゅわ~んとか言ってくんの。ちょっとキモかった。
即刻叩き落としました♪
起き上がった真奈香の証言では、雪女は心臓を貫いた瞬間、全身が崩れるように崩壊。
心臓の方も雪で出来ていて、そのまま真奈香の手の中で溶けて消えたそうだ。
その雪女が消えると、今まで吹雪いていた風はぱたりとやんで、雪も吹き込まなくなった。
その後発熱のしすぎで気絶した私を真奈香がお姫様だっこしてこのホテルに担ぎ込んだんだとか。
状況を想像した瞬間、恥ずかしくて赤面する私。
翼が茶化してきたのでグーで胸骨の中心を砕いて黙らせた。
実際は砕けなかったけどね。
「ふむ。やはりそっちにでたのもそいつか」
一通りの説明が終わったあと、隊長は頷いて私たちを一度見回した。
「そっちにでたのもってことは別の場所にも?」
「うむ。ついさっきこのホテルの外にな。翼のテケテケが首を狩ると雪になって消えた」
「つまり複数体いるってことですか?」
私の言葉に隊長は首を振る。
縦じゃなく横だ。つまりははずれってこと。
「我々が倒した雪女らしきものは雪童子ではないかと推測している」
「ゆき……んこ?」
雪童子と言えば藁を屋根みたいに被った小さい子供みたいなイメージの奴だ。
「雪童子というのは雪女が雪から作る子供でな。冬の間彼らを遊ばせることで吹雪を起こすと言われている。春の訪れと共に溶けて消えるらしいが……」
「ようするに雪女の能力だって可能性ッスね師匠」
翼がぺっと噛み終えたガムを吐き出しながら答える。
一応吐き出されたガムはゴミ箱に見事ホールインワンだったけど……きちゃないなぁも~。
「じゃあ雪女本体を倒さない限りあの雪童子? 限りなく出てくるかもしんないわけだ」
私が言うと、隊長は正解だと言いたげに首を縦に振った。
どうでもいいんだけどさ、私の隣に座った真奈香。
私の左腕をホールドして胸を押し付けてくるんですけど……誰か助けてくれませんかね。
見て見ぬふりな先輩方に無言の助けを求めながら、背けられる視線に泣きたくなる私だった。
追伸。明日の学校に差しさわりの無いようにとのことで、真奈香にお姫様抱っこされて山駆け下りて終電使って無理矢理家に帰らされた私。
深夜に帰った自宅では、酒のツマミの柿ピーを夜食代わりに食いつないでいた親父を見つけて同情心から食事を作ってやることに。
一時頃に居間に食事を持っていくと、親父は待ちきれずに眠っていた。
明日の朝食にしておこうと結論付けてお風呂直行。
深夜2時過ぎにようやく就寝できた。




