間幕・そして少女は動きだす
わたしはそこで、呆然としていた。
少し前、翼お兄ちゃんが引っ越ししてくれ美果。と突然言ってきた。
翼お兄ちゃんの突飛な発言はいつもの事なので気にはしないが、今回はまた厄介な話題である。
だって、引っ越しだよ?
親が言うならともかく、従兄が従妹に対して言う言葉じゃないよね?
でも、よくよく聞いてみれば、今回就職したらしいグレネーダーって所が、入社直後に解散となり、別の地域に配属されちゃったらしい。
それで、わたしと離れ離れになってしまうよりは、一緒にその地域に来てくれないかってことらしい。変な職場だ。
そういうことなら断れる訳がない。
だって愛しい翼お兄ちゃんのお願いだもんね!
一応、お母さんにも断りを入れる事になったけど、お母さんはイエスマンだ。
どんな提案をしても分かりました。の一点張り。
だから翼お兄ちゃんもお母さんに伝えるよりもわたしに判断を委ねることにしたようだ。
ふふん。残念だったね翼お兄ちゃん。私も翼お兄ちゃん相手ならイエスマンなのだよ。
翼お兄ちゃんと離れるのは嫌だから、わたしは喜んでその提案に乗った。
それで、本日、引っ越し作業を済ませたわたしは、お世話になった近所の人や、友人にさよならの挨拶をすることにした。
で、その全てを終えて帰路に着こうとしたんだけど、丁度安住荘という名のアパートの前を通る事になった。
そう、あの女の人の住んでる場所だ。
グレネーダーのお姉さん。わたしを助けてくれた人だ。
なんだかんだで出会った印象が強かったのでよく覚えている。
個人的に連絡が取り合えるように携帯電話で番号交換したり、住所を教えてもらったりはしたけれど、丁度いい。
向こうでどうせお世話になるわけだし、挨拶しておくか。
そんなつもりで向った部屋は、生憎留守だった。
もう引っ越しちゃったのかな? と確認のために大家さんに聞いてみた。
そこで、わたしは衝撃の事実を知らされた。
「なんだ嬢ちゃん、テレビ見てなかったのかい?」
聞けば、ここに住んでいたお姉さんは、グレネーダーへの叛逆の罪で抹消されたらしい。
そんなこと、信じられる訳なかった。
大家さんに詰め寄り嘘だと叫ぶ。
すると、大家さんは面倒臭そうに頭を掻きながら、マスターキーでお姉さんの家のドアを開く。
でも、ドアは開いたままだったようだ。鍵が掛かってしまったのでもう一度開くことになった。
ドアを開いて、わたしに中を見てみるといい。と促した。
そして、冒頭に戻る。
わたしは、その室内を見て、唖然としていた。
点いたままの電気。
慌ただしく家捜しされた様子で、様々なモノが散乱していた。
室内に成っている野菜はすでに枯れ始め、テーブルに置かれた幾つかのカップが、直前までそこに誰かがいたことを暗に示していた。
カップの数は五つ。飲みかけの物もある。
どうやら腐り始めているようで、異様な臭いを発していた。
「あちゃぁ。こんな状態で放置だったか。こりゃ早めに片づけにゃならんな……」
大家さんの独り言が耳を通過した。
一体、何が起こったのだろうか? なぜ、お姉さんは死んでしまったのだろうか?
どうして、翼お兄ちゃんはわたしに教えてくれなかったんだろうか?
気になった。
何が? と問われればよくわからない。
ただ、なぜお姉さんが死ななければならなかったのか、知りたいと思ってしまった。
だからわたしは……自分で調べることにした。
外伝・茶吉尼天の恋終了です。
明日からは第二章始まります。
ちなみに小林のステータスは第三章で開示予定です。




