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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五節 ダーキニー
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敵対するモノ

「おいおい、隊長はないだろう? 俺はもう支部長だ。それに、お前は既にグレネーダーではない」


 そこに、かつての凛とした隊長の面影はなかった。

 下卑た笑いでこちらを見る小金川僧栄。

 それは……ラボの崇拝者。

 ラボだけを崇め、それに敵対するものを徹底的に排除する者の化けの皮が剥がれた姿。


「なんで……なんでここが?」


「犯罪心理その二。犯人は殺害現場に戻る。といっても、俺はただ単に風に紛れた匂いを追ってきただけだがな」


 フフンと不敵に笑ってみせる小金川。

 こいつだ……こいつが居なきゃ、全て上手くいっていた。

 こいつが三嘉凪支部長を殺さなきゃ、全部、丸く収まってたんだッ!


 怒りが渦巻き全ての感情が塗りつぶされる。

 今は副隊長がどうこうよりも、目前の敵への憎悪で肩が震えた。

 私は副隊長から距離を取り、一気に跳躍。 


「小金川ぁぁぁぁぁッ!」


 気合と共に走りだす、今の私に失うものはなにもない。

 ただ生き残ればいい。それだけで構わない。

 でも、その前に、こいつだけは……殺す!


 だけど、走る私と小金川の間に立ちはだかる一人の男。

 嫌味に眼鏡を光らせて、私の進路の邪魔をする。


「小林草次ッ! 邪魔しないでッ!」


「……その前に、なにか言うことはありませんか?」


 言葉は丁寧。でも内に秘める怒りは抑え切れていない。


「黛君と約束しましたよね……ここには二度と近寄らないとッ! なぜッ!? どうしてなのですかッ! あなたという人はッ!?」


 小林が飛び掛る。

 咄嗟に飛び退くその背後、突如生まれる危険な気配。

 振り向きそうになる。でも、振り向かないッ!


「志倉翼ッ!? あんたもかッ!」


 後ろの気配は志倉の妖。テケテケだ。振り返ったら私の首が飛ぶ。


「悪いな。美果のために死んでくれや」


 マズい、一対三なんて勝てるわけない。

 どうにか隙を付いて……ダメ。

 逃げてどうする? 今やることは他にある。


 皆、なんで気付かなかったのか。

 気付こうとしないのか。

 踊らされてるだけだった。

 グレネーダーは正義の味方なんかじゃない。


 私は間違っていた。この施設こそが……隠れ蓑にしている妖能力研究所、ラボこそが悪だった。

 だから、全てを失った今、私がやるべきことは……ラボの壊滅。

 その第一歩で、逃げてどうするッ!


「ジャッキーッ!」


 精神体は精神体で攻撃できる。

 精神から生成される半透明の青い犬。

 出現と同時に私の後ろの気配に噛み付く。


 ぎゃッと悲鳴が聞こえ、志倉が血を吐いて倒れた。

 精神体は精神体の攻撃に弱い。

 ダメージは全て使役者の肉体へと返る。

 まず一人!


 小金川が慌てて志倉に天狗の軟膏を塗っている。

 それは、小金川も戦闘参加ができないということ。

 なら、敵は……一人だけ!


「あなたのせいで、黛君は……」


「そうよ、入鹿のせいだ! 全部入鹿が悪いんだ! でも、小金川が支部長を殺そうとさえしなければ、入鹿はグレネーダーのままでいられたのにッ」


 襲い掛かってきた小林の両手をガシリと掴む。

 均衡する力、一度はこの力を不意に食らって片腕を千切り取られた。

 でも、茶吉尼の力は負けないくらいに強い。


「黛君……ラボに送られました」


「ッ!?」


 少し押された。体が沈みそうになるのをなんとか耐えきる。


「死んでもいないあなたを食い殺したと偽情報を流した罪です。彼女は僕の罪まで被って一人で行きました。分かりますか? 彼女はあなたのせいで送られたッ! あなたが彼女に地獄に勝る苦痛を与えさせたのですよッ!」


 ミシリと骨がきしんだ。

 小林の言葉の一言一言が胸に突き刺さる。

 確かに、黛真由は私のせいでラボに送られた。それは認める。

 私は約束を破ったんだ。禁忌に触れたんだ。

 でも、それでも……


「……会いたかった」


 ぐっと足に力をいれて押し返す。


「なにッ!?」


「会えないって言い聞かせるほどに、会いたくてしょうがなかったッ!」


 押し返すまでは行かないまでも、拮抗状態にまでは持っていけた。


「ただ傍にいたかった。声を聞いていたかった。……それだけで、全てを捨ててでも逢う価値が入鹿にはあったッ! 好きな人に会えなくなる辛さを身に沁みるくらいに知っていたからッ!」


 ジャッキーを呼び戻す。

 小林の背後から飛び掛らせ、小林が慌てて避けた瞬間を見計らって空に飛び上がる。


「入鹿にとって全てを捨ててでも、世界中の人に怨まれてでもッ! そうするだけの価値があったからッ! 後悔なんてしないんだッ!」


 空を蹴って小林へと飛び掛る。

 開いた右手は相手の心臓をめがけ、私は一気に距離を詰める。


「あなたという人はッ! 自分がなにをしたか分かって言っているんですかッ!」


 突き出された私の腕を小林の左手が弾く。

 返しの右拳、咄嗟に身を引いて避けた。


「分かってるッ! 分かってるよそんなのはッ!」


 素手同士の攻防戦、共に一撃が致命傷に繋がる。

 それでも私も小林も一歩も引かなかった。


「ジャッキーッ!」


 再び背後からの攻撃、小林がジャッキーの攻撃を逃れた瞬間、私の拳が彼の心臓を捉えた。


「ああああああああッ!」


 打ち抜く瞬間、迷いが生じる。

 腕に篭った力が拡散し、それでも一歩踏み込んで拳を打ち抜いた。

 しかし、彼の身体を破るに至らない。


 ものすごい鋼の身体に思わず安心してしまう自分がいた。

 背後の小金川を巻き込み後ろへと吹っ飛ぶ小林。

 壁に小金川ごと激突した。


「ぐはッ……」


 衝撃で立てなくなったようだ。

 四肢をだらんと下げてその場に座りこんでしまった。

 死にはしなかったらしい。

 小金川がクッションになって双方のダメージが和らいだんだろう。

 さすがは金鬼を冠するだけはある。


「黛君は、僕の罪まで被ってくれたのに……僕は、彼女を助けることすら……できないのか。参ったな……」


 俯きながら力なく笑って私を見る。


「満足ですか……斑鳩君?」


「満足なんて、入鹿は……」


 全て、私の行動が起こした結果だ。全部私が悪い。

 そのくらい分かってる。

 これから私や鈴や三嘉凪支部長は再び追われる身になるだろう。

 それに、黛隊員は……私のせいで行かなくていい研究所に……


「小金川僧栄。入鹿はもう、どうにもならないかもしれないけど、せめて、お前の心臓だけは……獲るッ」


 小林の背後からなんとか立ち上がった小金川に疾走する。


「ふざけろッ! 貴様が川辺鈴などを擁護するから悪いのだッ! 殺してしまっていればそれで全てが丸く収まった! 違うか斑鳩ッ!」


「散々彼女を弄んでッ! 逃げたら抹消? フザケてんのはあんたたちじゃないッ!」


 小金川の懐から取り出された黒い塊。拳銃!?

 警察でもよく使われてるS&WM37エアーウエイト。

 私に銃口が向けられた。


「死ぬか斑鳩ッ!」


 確か、目線と銃口をしっかりと見れば避けられるって聞いたことが……

 引き金が引かれる。とっさに横に避ける。

 乾いた発砲音とアスファルトに跳ね返される鉛球。


 な、なんとか避けれた……けど、全然わかんなかったしッ!

 誰よ? 銃口と目線が分かれば誰でも避けられるとか言った馬鹿はッ!?

 冷や汗が背中を伝う。

 次も避け切れるだろうか?

 アレの弾は、国原支部で扱っているのは確か……残り四発のはず。一発目が空砲の場合だけだけど……


「クソッ! 避けるか化け物がッ」


「化け物じゃないッ! 入鹿はダーキニーよッ!」


「どっちでも一緒だろうがッ」


 バンッと二回続けて放たれる。

 一度目は回避、でも、避けた場所に放たれた二発目は回避不能。

 私の腕に風穴が開いた。


「ちッ、貫通したか、運のいい」


 運がいいわけじゃない。それだけ接近してたってこと。

 もう、後は相手が撃ってきた瞬間にカウンターを入れれる距離だ。

 ただし放たれるのが一発のみ。二発連続で放たれたら死んじゃうかも。


 覚悟を決めて、一気に跳躍。

 目と鼻の先まで近づいて、小金川の指が引き金を引く瞬間、空を蹴り上げ真横に飛ぶ。


「しまっ……」


 声にならない後悔の叫び。

 進路を変えた私の横を通り過ぎていく銃弾。

 がら空きの脇にめがけて蹴りを放つ。


 容赦なんかしてやらない。

 足場はないけど内臓ブチ撒くつもりでおもっきし蹴り上げた。

 吹き飛ぶ小金川。持っていた拳銃が手からすっぽ抜け飛んでいく。


「トドメッ!」


 すかさず追い討ちの一撃を心臓へと打ち込む。これで確実に……


「し、白瀧ッ」


「獲っ……」


 小金川の身体へと打ち込まれるはずだった私の腕。

 そこへめがけて飛んできた黒いなにか……私の腕もろとも私を真横へと吹き飛ばす。


 なに? 今のは?

 志倉翼はまだのびている。

 小林草次も壁際から立ち上がってる気配はない。

 じゃあ……誰が?


 地面に手を付いて振り子のように地面に着地する。

 顔を上げて見た光景は……


「副……隊……長……?」


 蹴りを放つ格好で、副隊長が小金川の傍に居た。

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