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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四節 餓鬼
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翼の災難

 居酒屋【来やり】に指揮官に誘われた。

 新人歓迎会らしい。

 そう、新人歓迎会なのである。


 なのに、この状況は何だ?

 副指揮官ともう一人、小林先輩は、用事があると二人して辞退してしまったので、俺と指揮官の二人だけだった。

 たった二人の歓迎会。その相手は口数少ない上司様である。ついでに彼は今機嫌がすこぶる悪いというか、落ち込んだ御様子だ。


 しかも、この時間は魔の時間帯なのか、周囲に他の客も入ってない。

 店内には対応の為に出てきた店員と俺達だけである。

 カウンターの席に二人して腰掛け、指揮官の幼馴染という店員に注文を頼む。


「んじゃあお子様ランチ……はないか。お勧めないっスか?」


 さすがに居酒屋にお子様ランチは無いわな。あのケチャップで味付けされたご飯が美味いんだよ。旗とか各国のがあるからついつい集めたくなるんだよな。

 俺収集癖あるみたいだし、欲のせいで足を集めるようになってから人形収集にハマっちまったんだよな。


「じゃあ柳ちゃんと同じものでいいかな?」


「じゃあそれで」


 俺が店員と話している間、指揮官は手帳を見開いたまま微動だにしなかった。

 書かれた内容を何度も読み返しているような。衝撃的な内容に呆然としているような、愕然とした顔をしている。


「どうしたんだよ?」


「ん? ああ、いや、なんでもない。それより秋里、追加で一番酔えるものを頼む」


 取り繕うように手帳を指を挟んで閉じ、店員に告げる。

 一番酔えるって、そんな度数の高いのでいいのかよ。

 俺、上司連れて帰るとか無理だぞ?


「一番酔えるもの? じゃあ高純度芋焼酎かしら? ウチのはアルコールもお金も高いわよ物凄く……」


「何杯かもらうぞ。他の客用には足りるか?」


「もう、何杯飲む気? 滅多に頼まれないからまぁいいけどね、一杯千八百円以上するけどお金大丈夫?」


「……問題ない。いつもどおりカードで払う」


 店員が奥に引っ込んでいく。

 高っ、一杯ってコップ一杯だろ? どんな名酒だよ!? 

 つか、居酒屋でカード効くんだ。初めて知ったぞ。


 あ、メニュー表にあった。この酒だな。

 なになに、オリジナル銘酒・八塩折?

 ……確かヤマタノオロチに振る舞った酒じゃね? オロチもぶっ飛ぶ酒じゃねぇか!?


 まぁ、さすがに本物じゃねぇよな。製法知ってるような奴がいるわけねぇし。

 そんな知識持っててこんな場末の店で働いてるのがいる方が怖いわ。

 銘酒ってくらいだし上等ではあるんだろうけど。


「なんだよ? 嫌なことでもあったのか?」


「さて……私にも分からん。過ぎた未来のことだ。来るとは思えんが。だが……妙に引っかかる。短い間だったがいやに印象に残る奴だったからな」


 過ぎた未来? 過去の間違いじゃ……

 あ、待てよ。この人過去に戻れたうえに変える前の未来の事も日記に書かれてたとか言ってたな。

 てぇことは、あの日記にまた誰かが変える前の未来が載ったってことか?


 ほんと変わった能力だな。俺のと交換してほしいくらいだ。

 あの能力が自由に使えるなら美果の危機があっても即座に対応できるだろうし。

 ま、俺に扱い切れる能力かって聞かれると多分宝の持ち腐れになるんだろうけどな。


 しかし、この指揮官がここまで辛そうな顔をしてるのは何故だ?

 誰が未来変えて……

 ああ、そういえばあの女。俺の新人研修邪魔した奴って未来がどうのと言ってたな。

 今じゃもう会話内容全然覚えてないけど。


「ああ、あの食われちまった部下か」


「……ああ」


 それ以上、指揮官は答えず、芋焼酎を一気に飲み干し追加を頼んだ。

 確かにありゃぁ最悪な最後だ。黛副指揮官に喰われるとか。

 俺も犯罪者にならないよう気を付けないとな。餓鬼の餌とかじょうだんじゃねぇ。


「つぅか、新人歓迎会っすよね?」


「そうだが? 楽しんでるか?」


 いや、楽しめねぇだろ?

 そんな湿っぽいのが隣にいるし、他に話せる奴いねぇんじゃよ……

 店員さんと話すくらいしかない新人歓迎会って、もしかして歓迎されてないのか俺?

 しばらく話すらない沈黙状態のまま、指揮官は芋焼酎を何度も一気した。

 十杯は飲んだろうか? 不意に顔を上げ、俺に向き直る。


「ん? どうしたっスか?」


「……すまん」


 一言呟きウグッとなにかがこみ上げるのを必死に防ぐ……って待て、それは待てッ!


「な、なんの冗談? ち、ちょぉッ、待てッ! 待ってッ!? 話せば分かるッ! 話せば……」


 慌てて身を引く俺の肩を掴み取り、しっかりと自分の真正面に向かせる。目が据わっていた。


「よ、よせッ、やめろッ、来るなぁぁぁぁぁッ!?」


「ウッ」


「ひッ!? う、うわああああああああああッ」


 【来やり】に木霊す悲痛な叫び。

 その日、俺は一生残る心の傷を負った。

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