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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四節 餓鬼
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脱出

今回は前半が翼視点、後半が入鹿視点です。

 指揮官と供に安住荘というところへ行った俺は、なんの成果もないままに先輩方に合流した。

 部屋には鍵が掛かっていたが、大家に借りて指揮官がドアを開けた。


 部屋の中は電気が付いたままで、テーブルには飲みかけのコップがいくつか。お菓子類は食べかけのモノもが数点あるだけで、茶請け用の大皿にあったであろう食べ物は誰かが持って行ったのか無くなっていた。


 慌ただしく家捜しをしたようで、衣類はそこらじゅうに散らかり、引き出しは開きっぱなである。

 テレビは真っ暗であるものの、どうやら電源は付いたままのようだ。

 映らないチャンネル。おそらくビデオ2とかになっているせいだろう。

 慌てていたために消し忘れたようだ。


 部屋を見回した指揮官は「やはりいないな」と少し安堵したように呟く。

 俺がテレビの電源を消そうとリモコンを取りに向うと、現場維持のために触れるなと注意された。

 そういうことは初めに言っておいてほしかった。


 で、抹殺対象がいないと分かると、安住荘を後にする。

 先に駅へと向かった二人の先輩と合流することとなった。

 駅前に着くと、路地裏に二人の男女。俺たちに気づいて近寄ってきた。


「隊長、報告があります」


 開口一番、副指揮官代理が指揮官に耳打ちする。


「……わかった。志倉はこれから黛副指揮官に従って支部長に報告に行ってくれ。小林はここの後片付けを手伝ってもらう」


 了解と二人が答えたので、俺もそれに習う。

 後片付けってなんだ?

 副指揮官は誰かの腕を手にしていた。そいつを俺に手渡してくる。


「ち、ちょっと待てよ、な、なんで俺にこんな……」


「副指揮官に荷物持たせる気? 立派な証明品なんだから落としたりしないで支部長に届けてよね。それに私が持ってると天邪鬼を偽った瓜子姫みたいに全部食べちゃいそうだから」


 なにか危険な言葉を聞いた気がする。


「わ、わぁったよ。持ってけばいいんだろ」


 上官の命令だ、聞かないわけにはいかないだろう。

 小林先輩と話していた指揮官が駅のホームへ向うのを尻目に、俺は黛副指揮官に追われるように国原支部へと向ったのだった。




 ----------------------------




 三嘉凪支部長が切符を買ってきて、丁度来た電車に乗って、国原市を後にする。

 電車の光と夜の暗闇のせいか、感傷的な気分になってしまう。

 もう、二度とこの市には戻って来ないんだ。そう思うと胸が締め付けられる気がした。


 これで、よかったのかな?

 もうやり直しは効かない。

 そして、副隊長と会う事ももう……


 折角、運命を感じた恋だったんだけどな。

 どうして私ってこう、ツイてないかな?

 一生に一度あるかないかの好機だったのに、何してんだろ私。


 結局、私の恋なんてこんなもんか。

 自分から墓穴を掘って、折角のデートも不意にして。

 ううん。でも、それで鈴が助かるなら。三嘉凪さんを救えたのなら……


 聞きなれた音と共にドアが閉まり、電車が発車する。

 私はなくなった腕を隠すように座席に座り、ふと、窓を覗いてみた。

 駅のホームに電灯があるせいで、窓は私を反射することなく外の風景を映し出している。

 そこに、居た。


「っ!?」


 ホームにたった一人の見送り人。

 黒の上下に黒い靴、皮手袋をつけた男性が、こちらに向って手帳を広げていた。


 それはまるで、あの約束を覚えている。とでも言うように……

 私に向けられているような副隊長のジェスチャー。

 ありえないはずの行為に私の身体が強張る。


 知らない……はずだ。

 あの未来は起こり得ないことになったんだから。

 なのに……ただの見送りだけのはずなのに……


 視界の中の副隊長はすぐに窓から消えて行った。

 走りだした電車は止まらない。

 窓も、鏡のように私を映すだけになる。


 外の風景は覗き込んでもなかなか見えない。

 でも、私は窓に顔を貼り付けたまま、視線を逸らすことができなかった。

 視界がぼやける。雫が伝う。


 隣では、鈴が安全確認を終えて対面に座った三嘉凪支部長と会話を始めていた。

 何を喋っているのかは理解できない。

 ただ、話しながら笑っているのは窓越しに見えた。

 会話の内容は間近で聞いていたはずなのに、頭に入っても来なかった。


 副隊長が私たちが逃げ切ったことに気付いた。

 見逃すかどうかは分からない。

 それでも私は期待する。

 副隊長は全てを知りながら私たちを見逃してくれたのだろうと。


 そして、もう二度と、彼に会うことは叶わないのだと、現実の辛さに涙が溢れた。

 このとき、もし会わなければ。視線を窓に向けていなければ。

 これほどの想いは募らなかったろう。

 もう一度逢いたいなんて、思ったりしなかったはずなのに……

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