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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 天狗
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翼の初任務

 正直言うと俺はあの女の行動が分からなかった。

 いきなり窓から入ってきて、俺の試験を中断させた。

 かと思えば支部長と一緒に逃げていく。


 グレネーダーのはずだろう? なんで敵対するみたいに出て行くんだ?

 テケテケと共に事態から置き去りにされて呆然としていた俺の元に、電話を終えた指揮官がやってくる。


「いや、すまない志倉君。どうやらあれらはグレネーダーの敵だったようだ。叛逆の罪を今暴けただけでも良しとしようではないか」


「え? あ、でもよ……」


 敵? 仲間じゃないのか?


「君は妹さんと一緒にいたいのだろう? その願い俺が叶えてやってもいいんだぞ?」


「本当か?」


「ああ。だが、その代わり、君に頼みたいことがある」


「俺に頼みたいこと?」


「グレネーダー、抹殺対応種処理係の監視だ。ラボについて知る者、調べようとする者。逐一俺に報告してもらいたい。俺はもう、指揮官として監視することが出来なくなるのでね」


 それは、有無を言わせない頼みごと。命令。勅令。

 そうして取引は進められ、グレネーダーの一員としての初任務。

 抹殺対応種に指定された三人の捕獲、または抹消。


 対象の名は、川辺鈴。三嘉凪良太。斑鳩……入鹿。

 もし、彼らを抹消なんてしてしまえば、俺は美果に嫌われるかもしれない。

 でも、それでも。俺は美果の安全のために……




 作戦司令室に呼ばれた俺は、先に来ていた隊員たちと顔を会わせる。

 一度見た奴もいれば、知らない奴もいた。

 ただ、全員が戸惑いを浮かべたままに、入ってきた指揮官を見る。

 一人だけは戸惑いながらもチュロッキー食べてやがったけど。


「突然の召集に集まってくれて助かる」


「僧栄、一体どうした? 斑鳩と支部長が抹消対象に指定されたと聞いたが」


「その通りだ。先程、本部の重要な情報が元支部長によって抜き取られた。斑鳩がそれを補佐していた。俺はさっき現場を偶然見てしまってな。本部に伝えたら即抹消許可が降りた」


 ニヤリと笑んで、指揮官が伝える。


「それから、上層部より川辺鈴、鵺の再抹消指令が来た。これから、この三体の抹消体を君たちの手で処分してもらう。急な司令で手配書はまだできていないが、顔は分かっているだろ? 躊躇うことはない。彼らは敵だ。邪悪な妖使いだ」


 言葉を切って、退出する。

 ドアを開けたところで振り向き、副指揮官に言った。


「では、白瀧、お前が指揮を取ってくれ。今日より君が指揮官だ。副指揮官は君が決めるといい」


 ドアが閉まる。

 俺は周りを見回した。全員が浮かない顔をしている。

 そりゃあ当然だろう。同僚を殺さなきゃならねえんだ。


「斑鳩さんを……抹消?」


「先程まで笑い合っていたものをそう簡単に……」


「仕方がなかろう。グレネーダーの指令だ」


 そう言って席を立ったのは新たな指揮官。机の上に地図を広げだす。

 表情にはすでに戸惑いは成りを潜め、真剣な顔で地図上の現在地を確認。

 そこから指先をずらし駅を指す。


「では、早速だが作戦内容を説明する。二人一組で斑鳩たちを追うぞ。予想だが、既に自宅に向かい、川辺鈴を連れて逃走を図っている。で、あるならば、できるだけ遠くへと逃げようとする。この駅を使う可能性……駅?」


 ふと、なにかに気付いたように懐から日記を取りだす指揮官。

 内容を見て驚いたように目を見開き、慌てて閉じる。

 なにか駅で予定でもあったのだろうか?


「と、とにかくだ。この駅を……黛、小林、君たちに任せる。それから黛、悪いが副指揮官代理はお前に任せる。小林は黛のサポートをしてくれ」


 少し狼狽したように見えたが気のせいか?

 まぁこの指揮官に狼狽なんてのは存在しないだろう。

 気のせいだきっと。


「了解」


「いいんですか、副……じゃなくて指揮官。斑鳩君は」


 短く答えた副指揮官代理がチュロッキーを食べ終えポテトリップスのチーズ味に移る。それを横目に見ながら小林が指揮官に尋ねていた。


「迷いは捨てろ、小林。グレネーダーに大切なことを思い出せ」


 その言葉に、小林は姿勢を正す。

 グレネーダーに大切な事? 何か知らんが俺も覚えなきゃダメか?

 そういうの覚えるのは苦手なんだけどな。


「失礼しました。了解です隊長ッ!」


 あ? 隊長?

 俺が怪訝な顔で小林を見る。

 小林はしまったといった顔をするが、指揮官はむしろ嬉しそうだった。


「呼びたければ好きに呼べ。とにかく、駅は任せる。さて……」


 指揮官が俺に向き直り、手を差しだした。


「唐突の昇格で君の上司になった指揮官、白瀧柳宮だ。志倉翼君。グレネーダーにようこそ」


 薄い笑みを浮かべて真黒な革手袋をしたまま握手を求めてくる指揮官。

 先程までの凛とした態度が霧散していて、少し戸惑った。

 それでも、なんとか握手に応える。


「あ、ああ。よろしく」


「君には私と共に斑鳩の家に来てもらう」


 既にもぬけの殻だと思うが、何か証拠でも探すのだろうか?

 まぁいい。どうせ初任務つっても殆ど研修のようなものになるはずだ。

 美果のためなら、家探しだろうが告げ口だろうが何だってしてやるさ。


「ああ、了解だ」


 そして、俺はグレネーダーとして動き出す……

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