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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 天狗
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奇跡の約束

 全員分のお茶と茶菓子を用意して、茶菓子……っていうか黛隊員の私物? だけど。

 私は空いていた副隊長の横に座った。ああ、ちょっと幸せ。


 目の前のソファでは黛隊員が茶菓子、もとい自分の食物たちをひたすらに口に運んでいる。

 小林隊員は鈴とゲームに夢中だ。

 どうも、鈴はコンピューター相手には強いけど、私以外の人間相手では弱くなるらしい。今回も連敗記録を更新中だ。


「副隊長、あの……」


「今回の件は全て三嘉凪支部長個人で決めたことだ。我々に被害は及ばんし、お前もグレネーダーを抜ける必要はない。後で礼でも言っておけ」


「はい……ありがとうございます。それとごめんなさい」


「いや、私ではなくだな」


「いえ。その、いろいろと……」


 ふむ? と首を捻り、意味が分からないといった顔をする。

 いいんです、どうせ私一人が感謝してるだけですから。

 でもよかった。副隊長と敵対関係にならなくて。


「黛、勝負しよ勝負ッ!」


 鈴は既に警戒を解いたのか、全力で勝負に挑んでくる小林隊員に嫌気が差したのか、次のターゲットに狙いを変える。

 面倒くさそうに黛隊員が立ち上がり、替わりに小林隊員がソファに座って疲れた顔でお茶を飲んだ。


「あれが、最強クラスの妖使いですか」


「らしいな」


「まるっきり子供じゃないですか」


「私はもう子供じゃないッ!」


 小林隊員の言葉に反論する鈴。その瞬間ゲーム画面から2PWINの文字がテカテカと点灯する。


「うがぁ!? また負けたッ!?」


「ふまふぃふぇふ」


 浮菓子を口いっぱいに詰め込んでなにかをいう黛隊員、たぶん弱いって言いたいんだろう。


「なぜ、あの少女が抹消対象に?」


「さて、ラボが関係ある以上私からはなんも言えんし、下手に調べれば次の抹消対象に指定されるだろう。グレネーダーの暗黙のルールだ。口にだすのは構わんが、その存在を調べることはタブーとされている。詳しく知っているのは支部長だろうが。聞くのは止めておけ、ラボから送られてきた人物がどこで聞いてるとも限らん」


「ラボから送られてきた人物?」


「内部監査官といったものだろうな。ラボという場所にとって不利になりそうな情報を掴んだ人物を抹消するためにグレネーダー内に送り込まれたようなものだ。お前らも、不用意にラボの噂はするな」


 なんていうか……闇の部分って感じがするね。

 でも、それはつまり、グレネーダーが妖能力研究所って所と密接なつながりを持っているってことだ。

 そして、外部に漏れてはいけない秘密があるからこそ、そういったスパイまがいの人材をグレネーダーに紛れ込ませておく必要がある。


「分かりました。とにかく、不用意にラボに付いて聞いたり調べたりはしないようにします」


「うむ、それでいい。斑鳩、お前も、いいな」


「はい、鈴が無事なら、それ以上は望みません」


「ところで斑鳩」


 話は一段落したと、副隊長が部屋を見回す。


「な、なんですか?」


 改めて思うと、副隊長が私の部屋に……ち、ちらかってるけど、大丈夫かな? がさつだって思われてないかな?


「絵本が多いように思うが、好きなのか?」


「あ、ああ、絵本ですか? 大好きですよ。小さい時はよく折鹿と読みっこしてました。中でも人魚姫は、思い出の本です」


「人魚姫か。確か、最後は泡になって消える悲劇ではなかったか?」


「あれ? 風になるんじゃなかったですか副指揮官?」


 小林隊員も話に加わってきた。

 人魚姫といってもいろいろと結末は変わっているのだ。

 作者が違うというか、後付けで変更されたとかなんだけど。

 どの道叶わぬ恋の話であることは確かだ。


「身分の高い人に恋をして、その人に会うために全てを投げだす人魚姫。それ程に人を好きになれるって、素敵だと思いません? 確かに最後は私も納得行きませんよ、やっぱりハッピーエンドが好きですし。でも、王子様には婚約者がいるんです。だから、これはこれで、きっとハッピーエンドなんでしょうね」


「けれど人魚姫自身は報われないでしょう」


「それでも、好きな人を殺して元に戻るよりは……幸せなんだよ」


 そう、愛しい人を殺して無駄な生を生きるよりはずっと……


「うがぁッ!? もう嫌ぁッ!」


 連敗記録が百を越えた辺りで、遂に鈴がコントローラーを投げ出した。通算二百連敗達成。

 私の隣に寄ってきて、茶菓子として置いてあったものから、クッキーを摘んでおいしそうに顔をほころばせる。


「お姉さま、お姉さま」


「うん? なに?」


「今がチャンスですよ、デートの約束交わしちゃえッ」


 うん? デート……

 そういえば、鈴がなにかそんな話題を言っていた……

 思い出した瞬間、私の顔はトマトよりも真っ赤になったに違いない。


「で、ででで、でぇえぇとなんて、そんな、あ、いや、え、う、で……」


 デートという言葉に、全員が私に注目する。物珍しそうに(小林隊員)、あるいは嫌ぁな含み笑い(黛隊員)などを浮かべて。


「どうした? 斑鳩?」


 ただ一人、状況を把握できていないらしい副隊長。


「あのですね、お姉さまはクリスマスの日に副隊長さんとデートをしたいそフガッ?」


 言ったっ!? 鈴の奴言いやがったッ!?

 慌てて口を止めたものの、既に肝心の言葉が鈴の口から漏れた後だった。

 まだ心の準備すら出来てないし、憧れだけでよかったのにっ。他人の口から漏れるなんてっ。


「ふふっ、やっぱり斑鳩さんは白瀧さんに……」


「え、あ、いや、違あ、そうじゃなくて、違うくないけど違うッ!」


「いやぁ、僕はてっきり支部長狙いかと思ってたんだが」


 いや、待てそこ。どうして三嘉凪支部長がでる!


「デートか……」


 呟きながら副隊長は日記を見る。


「二十五日は秋里に呼ばれているのだが、さて……」


 せ、先約済みッ!?

 ああ、そうだ。そうだったさ!

 幼馴染がいるという時点で気付くべきだった。

 幼馴染が自然にくっつくというパターンは王道中の王道。

 入鹿、一生の不覚ッ!

 終わった……


「あああああッ! 鈴のバカぁ~ッ」


 もう、泣くしかなかった。

 周りに知られての告白、ついでに見事な玉砕。

 当たって砕けちゃいました……


「まぁ待て、遊園地での借りもある。24日でよければ空いているのだが、どうする?」


 ポンと私の背中を叩く鈴。

 ついでに丸いお目々でニンマリ笑っている。


「お姉さま、チャンスです」


「で、でも幼馴染さんが……」


「幼馴染というのは大抵恋愛感情まで発展はしにくいそうですよ。きっかけがあれば別ですがね」


 助け舟をだしてくれたのはなんと小林隊員。私の未来に希望が差した。


「為せば為るです斑鳩さん、私も応援しますよ。楽しそうだし、お二人の座ってる姿、お似合いですから」


 座ってる姿がお似合い?

 言われて気付く、鈴が横にいるものの、反対側にいるのは副隊長。

 え? あれ? 私何時の間にこんな近くに接近して……


「あ、あの、えっと、あ……」


「場所は駅前の改札口でいいか? 時間はどうする?」


 高揚する私を周りから好奇の目が注目する。

 副隊長の言葉でさらに思考が停止する。


「わあああああ、もう、皆見ないでぇぇぇぇぇッ!」


 私の絶叫虚しく、それから散々に弄ばれた。

 あまりにも唐突の幸運で、私の思考回路が爆発した。

 もし、この時あの事を思い出していれば……

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