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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 天狗
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サムズアップ三嘉凪

 やっぱり、副隊長は鈴の存在を知ってしまっていた。

 やってきたのは安住荘。つまり、鈴の隠れ家にして私の家だ。


「斑鳩、邪魔するぞ」


「……はい」


 まだ、副隊長の真意が分からない。

 三嘉凪支部長の企みが分からない。だから従う。

 部屋のカギを開け、副隊長を招き入れる。


「黛、小林、お前たちも入れ、お前たちにも知っておく権利がある」


 と、家の前で戸惑いを浮かべていた二人に、中に入ってくるようにと副隊長が促した。

 三人の仲間と共に、リビングルームへ向う。


 付けっぱなしのゲーム機と、テレビ。

 慌てて投げだされたコントローラー。読みかけの絵本。

 鈴の奴、こんな本まで引っ張り出して……人魚姫。か、懐かしいな。よく折鹿と読み合いっこしたっけ。


「いるのは分かっている、素直に出て来い、鵺」


 リビングルームに一歩足を踏み入れ、副隊長が静かに告げた。

 だけど、鈴は出てこない。


「ではそのまま質問に答えろ」


 副隊長はどこにいるとも分からない鈴に問う。


「まずは妖能力研究所からの脱走理由だ」


 懐から取りだした手帳に目をやり、副隊長は淡々と告げる。

 シャッと副隊長に飛んできた細長いなにか。

 手帳を見たまま難なく交わす副隊長。


「次は左から、同じく尻尾で攻撃か」


 呟き、ページを捲る。

 左の方から飛んできた細長いなにか、副隊長はこれも綺麗に交わして見せた。

 右から左から、あるときは頭上からの攻撃さえも避け続ける副隊長。

 やがて、一瞬の沈黙。


「止めておけ、その声を使えば、斑鳩も被害を受けるぞ」


 どこにいるとも分からない鈴に告げる。

 以降、一切の攻撃がやんでしまった。

 風呂場のドアからゆっくりと出てくる鈴。

 目は初めて会った時と同じ。敵を見つめる時の顔。

 スカートからは尻尾のように蛇が顔をだしていた。


「一つ、勘違いをしているようなので言っておくが、戦いに来たわけでも抹消に来たわけでもない」


 先手を打って副隊長が答える。


「それをどう信じろと? 後ろの二人は明らかに敵意を向けているわ。あなたも、すぐにでも反応が出来るように隙を見せていない」


「当たり前だ。たとえ話し合いでも気を抜けぬ相手だからな。鵺……いや、妖使いの融合体クラッターとでもいうべきか」


「妖能力研究所からの脱走理由、だったかしら? 唯一つよ」


 一瞬、私を見て、副隊長に向き直る。


「退屈だった。研究所の生活は。朝起きて、餌ともご飯とも付かないものを摂取して、別の妖使いの力を移植され、昼の食事と良く分からない薬。付加した妖使いの力のテスト。睡眠。激痛。怨嗟。諦め。嘆き。もう沢山。だから……」


「斑鳩に接触したのは?」


 再び私を見る。少し辛そうに目を伏せ、


「利用するため。調べは付いてるんでしょう? グレネーダーだものね、昨日の男が来た時点で分かっていたわ。残念ね、間抜……けな女を利用して……」


 言葉が止まった。なぜか挙動不審な鈴。


「そうよ。私は……利用して……生き延びるために、馬鹿でお人よしの女を……」


「そうか、では……鵺。覚悟は出来ているな」


 ……え?

 ぺらりと日記を捲る隊長。目線だけは鈴に向け、足を一歩前にだす。


「ま、待ってください、副隊長、鈴は……」


「聞いただろう? 川辺鈴は逃走のためにお前を利用した。奴自身が今言っただろう?」


 それは……本当だろうか?

 少なくとも、私は知っている。

 鈴が見せた笑みは、仕草は、本物だった。私といることを嬉しいといってくれた。


 三嘉凪支部長とゲームしていたとき、凄く楽しそうだった。

 あれが、全て演技だと?

 そうじゃない。今、私に視線が合わせられず気まずそうに、辛そうに、心の中で泣いている彼女の言葉の方が信用するに値しない。


 私は副隊長から眼を離して、鈴へと近づく。

 黛隊員や小林隊員が止めようと声をかけるが関係ない。

 鈴が私に向かって尻尾を振るう。毒の牙を持つ蛇。

 でも、副隊長に向かってきた時に比べて遅すぎる。


 素手で掴み取る。

 そのまま鈴に近づく。

 もう、鈴は抵抗らしい抵抗をしなかった。

 私に浴びせられるだろう罵声に耐えようと、目を瞑って歯を食いしばる。


 私は蛇から手を離し……鈴を抱きしめた。

 優しく、丁寧に、彼女が壊れてしまわないよう、包み込む。

 もう二度と、壊したりはしない。


「あ……え?」


 なにが起こったのか、鈴はわからなかったろう。

 私に抱きすくめられたまま、驚いた表情をしていた。


「大丈夫だよ。鈴は一人じゃない。お姉ちゃん……ちゃんと分かってるから」


「あ……」


 鈴の肩から力が抜ける。


「裏切られたと思った? 違うよ、入鹿を信じてくれたのに、入鹿が信じないわけないじゃない。大丈夫、鈴は、妹はもう。誰にも傷付けさせないから」


「お……姉さま……」


 鈴は私を抱き返す。


「ごめん……なさい。ごめんなさいッ」


 堰を切ったように泣き崩れる。それは鵺と呼ばれる化け物じゃない。

 危険な妖なんて想像することもできないくらい弱く、ちっぽけで、孤独な少女。

 私が守るべき妹だ。


「違うの……私、お姉さま、莫迦だなんて思ってないッ。言いたくもなかったッ。私は……私はっ」


「いいんだよ。それと、泣いちゃダメ。辛いときは笑うの。壊れちゃいそうな自分を誤魔化すために、打ち消すために笑うんだよ。そうしたら、次の一歩が踏み出せるから」


 彼女は化け物なんかじゃない。ただの女の子だ。

 家族に憧れ、家庭の温かみを知りたがっているただの恵まれない女の子。

 居場所を見失っていただけの子供なのだ。


 裏切られたと勘違いして、それでもやっぱり私が裏切ったなんて信じられずに、私の手にかかっても構わないと、この場所から逃げなかった私の可愛い妹だ。


「副隊長。グレネーダーに大切な三つのこと……知ってますか」


 鈴を抱きしめたまま、副隊長に質問。


「うむ? 支部長が言っていたな」


「敵であるならば例え何者であれ臆することなく立ち向かえ。自分の信念を貫き通せ。例えどんなに理不尽な指令であっても、自分の出来うる最高の努力で皆が助かる方へと改善することそして……」


 私は鈴を離して立ち上がり、三人の仲間たちを見た。


「判断を下す前に自分で見て、知って、考えろ。抹消対象は本当に抹消されるべき人格なのか? 状況は? そいつの持つ思考、過去は? ……だから入鹿は考えました。見て、聞いて、沢山考えて、それで、やっぱり鈴を受け入れました」


 それは、つまり敵対宣言。

 グレネーダーに対する裏切り行為に他ならない。

 だから、叶わない恋に涙して。

 それでも、もう二度と、妹に悲しい思いをさせたくないから……


 私は副隊長に走り寄る。

 慌てる小林隊員、怯える黛隊員。

 副隊長に掴みかかろうとした瞬間、


「はわぶッ!?」


 ゲーム機のコードに引っかかり、派手に転倒する。

 コンセントが抜けてテレビがブツンと音を立てて真っ暗になった。


「ああッ!? せっかくラスボスにまでいけてたのにッ!?」


 鈴の嘆きの声が聞こえたのは……なぜだろう。物凄く悲しくなった。

 顔を押さえて立ち上がる。

 なんともいえない雰囲気の中、三人の元仲間がどうしたらいいんだろうと、困惑の表情で私を見ていた。


「斑鳩……先ほども言ったが、私は川辺鈴を抹消しに来たわけではないのだが」


 呆れた口調で言われた。

 え?

 えーと……もしかして、私一人、勝手に熱くなってました?


「とにかくだ、一応、お前が家主だ。せっかく来た客に持て成しくらいはしてもらいたいものだな」


 余計話がややこしくなったとでも言いたそうに、副隊長がソファに座りこむ。


「……って、だったらこんな大人数でなにしに来たかったんですか副隊長!」


「そう言われてもな。支部長命令だ。私に拒否権はなかった。任務内容は川辺鈴のゲームの相手。黛と小林にでもやらせておけと言われてな。ついでに今の質問と台詞回しだ。支部長はお前たちの行動パターンも読めるらしいな」


 白く光る歯をニィッと覗かせて嫌みったらしく笑う三嘉凪支部長が思い浮かぶ。

 またやられた!? チクショウ、いつか絶対仕返ししてやる。

 名前:  川辺かわべ すず

 特性:  寂しがり屋

 妖名:  鵺

 【欲】: 大声で叫ぶ

 能力:  【蛇之尾】

       蛇の尻尾が生えている。

       自分の意思で自由に動かせる。

       最大射程10M。麻痺毒有り。致死性はない。

      【身体強化】

       たび重なる妖の増設で全身が強化されている。

      【怨嗟之声】

       四六時中増設された妖から生前の苦しみが聞こえる。

      【虎之腕】

       虎の腕に変化する。腕力が強化され、鋭い爪が生える。

      【呪いの咆哮】

       トラツグミの啼くような声。

       聞いた相手の寿命を縮める。

       効果範囲は声を聞いた者全員。

      【融合妖能力】

       研究のため他者から増設された妖能力。

       さまざまな能力が扱える。

       この能力群を移設させるために、

       鵺の妖能力を初めに移設された。

      【同族感知】

       妖使い同士を認識する感覚器。

       個人によって範囲は異なる。

      ※ 鵺の場合、感知される側に立つと、

        複数の同族が一箇所に集まっている反応が出る。

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