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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 赤嘗
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少年が近づいた理由

「いやぁ、まさかあんなとこでなぁ」


 笑いを含んだ声で目の前の少年が口走る。

 口封じ……絶対口封じする。樹海埋める。抹殺する。


「悪かったって、睨むなよ、ちょっとしたジョークのつもりだったんだからよ」


 けらけら笑いながら片手を振ってジョークジョークと笑い転げる少年。

 ジョークなんぞで敵意だしてくるんじゃないってなもんですよ。

 一回殺されかけたわけだし笑い事じゃない! 殺意覚えたよ、マジで!


「誰かに言ったら絶対殺す」


「わってるわってる、言わねぇよ、テケテケ怖がって洩ら……」


「わああああああああああっっっ!!!」


 私は慌てて少年の口を塞ぐ。

 周囲の人が注目する。

 ……大丈夫。ああ、しちゃったんだって哀れみの目じゃなくて迷惑そうな目だ。

 秘密漏洩阻止成功!


「だから、言うなってんでしょうがっ!」


「いやぁ俺のせいじゃねぇだろ」


「あんたのせいだっ!」


 なにはともあれ、この少年が言うことには、グレネーダーは通報があってから綿密な調査を開始し、危険度Aクラス以上に認定された妖のみを対象にしているらしい。


 B、C、D、Eランクは保護観察程度だとか。

 どういった基準なのかわかんないけど。

 グレネーダーにでもならないと教えてくれそうになかった。


 とりあえず、私は誰からも通報されてないし、ランクもC程度らしいので犯罪さえ犯さなければ抹殺対象にはならないとか言われた。

 こいつを信用すればだけどね。


 まぁ、ちょっと考えれば分かることだ。

 こういう調査をしている場合、警察って大抵二人組み以上で行動するのが常識のはずだ。

 それにどんなに隠れようと妖反応がある以上すぐに見つかる。

 見つかった時点で抹消されるんだったら、今頃妖使いなんて一人もいなくなってるんじゃあないだろうか。


 恨んでやる。怨んでやる。憾みまくりですよチクショー。

 私、逃げ損恐がり損洩ら……(以下都合により削除)。

 いつか必ず後悔させると心に深く刻み込み、私はアイスティーを啜った。


 私が不覚にもハーフパンツを濡らしてしまった後、こいつは私とただ話がしたかっただけだとか告げてきた。

 正直殺意すら覚えたけど、相手はグレネーダーなので、殴ることも蹴り倒すこともできない。


 妖の能力も不意を突いても敵わなかったので、私がこいつに抗うことは残念ながらできなかった。

 幸い話をするだけということで、警戒はするものの、付いて行くことに同意した。

 いやま、選択権はなかったわけですが。


 ついでに、せめて下着くらいはっ。と、無理矢理ハーフパンツ共々弁償させた。

 公衆トイレ前で新しい下着の到着を待ってた時間が酔っ払いに絡まれてまた最悪だったし。

 ねぇちゃんいくら? とか言ってきたから三十万とか言ってやったら本当にだそうとすんだもん。

 思わず男の急所を蹴り潰しちまいましたよ。


 着替えを済ませ、近くのファミレスに来た私たちは、アイスティーとジンジャエールを頼んだ。

 で、ようやくあいつが口にだしたのが、


「俺、志倉翼。あんたは?」


 何故か自己紹介だった。

 さっきまで追いかけ追い回されしていたとは思えないくらいになれなれしい態度。


「…………高梨有伽」


 私は戸惑いを覚えながらも、名前を教えた。

 相手が名乗ってるのに答えないのは失礼だからね。

 私、良い子ちゃんですから。


「有伽ねぇ、変わった名前だな」


「あんたの温かい頭の中ほどじゃないわ」


「そりゃどうも」


 私の悪口に笑みすら浮かべている翼。

 言葉攻めされるのが好きなタイプの人なんだろうか?

 マズい人に目を付けられたようだ。


「妖の能力は?」


「言わない。誰が好き好んで変態野郎に教えるかっ」


 不機嫌な顔で答えると、翼は含みある笑顔を浮かべる。


「有伽に興味がある。といったら?」


 うあ~やっぱり変態だ。今決めた! 即決めた! 私が決めた!


「ウザイ、クタバレ、キエテシマエ」


「手厳しいな全く。そりゃ、俺のせいで洩ら……」


「だからいうなあああああああっっっ!!」


 怒りに任せて鉄拳制裁っ! 鼻面向かって正拳突きぃっ!


「あ、あぶねぇっ。お前、いきなりなんだっ!? 俺を殺す気かっ!」


「もちろんそのつもりよっ! 証人と変態は隠滅するに限るからねっ」


「たく、冗談で怒るなよ」


「さっきのがわざと言ったってんなら殴るよグーで、おもっきし」


「たく、しゃぁねぇ。あんまイジるとホントに亡き者にされちまうからこの

辺でやめとくよ」


 こいつ、やっぱ殴ろうかな。

 んでも、ここまでされて私を殺そうとしないってことは本当に話がしたかっただけ、なのかな?


 多少は警戒しとくけど、お知り合いになっとこう。

 いざという時私の抹消を助けてくれるようにグレネーダーにコネ作っとくのもある意味良い手ではあるわけだしね。


 そんな私の小さな努力を知らない翼はジンジャエールを音を立てて飲み終えると、真剣な眼差しを向けてきた。


「さて……横道に逸れちまったな。本題は、だ。俺はグレネーダーの中でも抹殺対応種処理係っつうのに属している」


 はぁ? 今度は何の話?

 訝しい目線を送ると、ニタリと笑み返してきたので心底嫌そうに目線を逸らす。


「歳は十七だ」

 ん? 何でそんなことを? って、私より年上なのっ!!? 私より背低いのに。


「抹殺対象にされちまってな。グレネーダーに追われる羽目になりかけたこともある」


「それでなんで生きてんのアンタ?」


「処理係の指揮官である師匠のおかげで入隊できた。過去に戻るなんて貴重な体験できたしな」


 へ~師匠さんのおか……し、師匠!? 熱血格闘少年ですかアンタは!?


「ああ~、そいでグレネーダーに就職しちっまったわけですか」


 なんかね、もう頭痛してきたよ私。

 でも、待って。ということは、よ。

 その師匠のおかげで抹消対象だった? というかなりかけた? こいつがグレネーダーに入隊して生き延びたってことだよね?

 それはつまりグレネーダーに私が狙われても生き延びる可能性があるってことだ。


「その通りで。死にたかねぇからな。そのせいで今じゃ同属殺しの超極悪人さ」


 なんでだろ? 悲しそうな顔をしてる。


「趣味は服。主にウインドショッピングだ」


 女の子ですかアンタは。

 まぁ、私もウインドショッピングは好きだな。真奈香たちとよく行くし。

 丸一日潰せますよ。見てるだけで。


「妖はテケテケっつうらしい。よく怪談話にでてくるらしいけど興味なかったからそこんとこは詳しくは知らね」


「でもテケテケって妖じゃないよね。確か電車に轢かれた少女の幽霊ってのが一般説だった気がするけど」


「だから知らねって。そうだな……むしろ妖って言葉の方が間違ってるかな。俺たちグレネーダーじゃ妖使いを妖使いなんて呼びゃしねぇ」


「ふーん……じゃ、なんて呼んでるわけ?」


「原住民だ」


「原住民? 最初から土地に住んでた人?」


「なんかよぉ。人とは違うモノでありながら人と生きることを選んだ生命たちとかなんとか師匠が言ってた気がするな」


「あ~、分かったような分かんないような。とりあえずアンタの能力はテケテケさんってことね」


 ストローに噛み付き水滴をテーブルに飛ばしながら翼は頬杖を付く。


「ああ。ただテケテケにもいくつか種類がいるらしくてな。このテケテケは暗殺専門らしくてよ、振り返ってくれねぇと相手を攻撃することはできねぇ。しかも相手が振り返ると自動で首を落とす。本来胴を切り離すテケテケとはまた別種って奴だ」


「いいの? んなことバラしちゃって。ボク、攻撃されても振り返らないよ絶対」


「どうせ仕事中は師匠とかと一緒だからな。俺は退路を断つ役さ」


 さすがというかなんというか、役割分担できてるんだ。


「さて、俺はこんな感じかな。次は高梨。テメェの番だぜ」


 ようやく、こいつが自己PRした意図が分かった。

 つまり、自分が親切に教えたのだからお前も礼儀として話しやがれこのすっとこどっこい。と、江戸っ子よろしく強引にそう言ってるんだ。

 とはいえ、別に「それじゃぁボクこの辺で」と話さず帰ってももちろんいいのだろうけれど……


「分かったわよ。ボクの負け。礼儀知らずになれない良い子ちゃんですから」


「自分で言うかそれを」


 翼が口元からストローをこぼして呆れ返った。


「ボクは鮠縄付属中学二年十四歳」


「…………え?」


 私の歳を聞いた翼が間抜けな声をだす。


「なによ?」


「じゅ、十四?」


「ん、十四。学生証見る?」


「い、いや。そうか、てっきり高校かと……」


「まぁ、背は高いからねぇ。百六十いってるし」


 翼から俺はやっぱロリなのか? とか小声が聞こえてるけど無視しとこう。

 まぁ、私に話しかけてきた理由だけは想像付いたし。

 警戒の必要マジでなかったし。


「えぇと、次は趣味だっけ? ……ない。ないったらないっ! 趣味なんかまったくこれっぽっちもないですよボクはっ!」


「なぜにそれほど強調する?」


 一瞬頭に浮かんだ自分の趣味。

 アレは違う。断じて違う。垢を舐めるのが趣味……なわけあるかっ!


「つ、次は妖だよね」


「あ? ああ。別に順番なんざいいけどよ」


「妖は垢舐め。風呂場を綺麗にしたりするっていう……聞いたことある?」


「聞いたことはな。なるほど、それであのバカ長げぇ舌か」


「ま、ね。ちなみに舌が垢をこそぎ取れるようになってるから、がんばれば骨を削ったりして武器にできるよ。あと、人一人なら持ち上げられるかな。疲れるからあんましやらないけど」


「舌が伸びるんで大蛇かと思ってた」


「悪かったわね。どうせ大した力を持たない妖使いですよ」


「おいおい、んなこと言ってねぇだろ。いじけんなって」


「いじけてないわよ」


「でもよ、能力は他にもあんじゃね? 俺のテケテケに気づいたしよ」


「垢舐めることで雑菌入ってくるでしょ? それをやっつける細菌ができてるんだって、白血球より強力な奴。おかげで風邪は一度も引いたことないね。あと、五感や第六感は人一倍かな。ほら、垢舐めってだいたい夜こっそりって奴じゃない。人に見つからないために危機感知感覚が敏感なのよ」


「なるほど、それで振り向かなかったのか。なら、やっぱり……」


 口ごもり、思考に耽る翼は不意に立ち上がる。


「んじゃ、用も済んだし、俺帰るわ」


「え、ちょっと……」


「安心しな。通報されねぇ限りお前はグレネーダーには狙われねぇ。これからも普段どおり生活すりゃいいさ」


「いや、そうじゃなくて……」


 引き止める間もなく、んじゃなぁ。と翼は店をでて行ってしまう。

 ここの代金……どうすんのよ?

 なんとなくわかっちゃいますが、私が立て替えるしかないようです。


 あ、フライドチキン買ったせいで翼の分が足りない。

 で、店に頼み込んだ挙句、一時間の皿洗いだけで清算を済ませることに成功した。


 志倉翼、ブラックリストの最上位に載せとこう。

 深夜二時近く、ようやく家に着いた私。親父の顔を見て酒を買い忘れていたことに気づく。

 親父が拗ねてふて寝したのは言うまでもなし。

 危険度ランクについて(一般人を基準)


 E: 有っても無くても別にいいかな? というレベルの能力を持つ妖使い。むしろ欲が有る分一般人の方がマシ。


 登録される妖使いの例:倩兮女けらけら・一つ目小僧・油澄まし 


 D: 人には使えない便利能力があるが、日常生活の足しにしかならない妖使いたち。


 登録される妖使いの例:思兼・豆腐小僧・以津真天


 C: 使いようによっては人に危害を加えられる能力を持つ妖使い。


 登録される妖使いの例:赤嘗・影口・べとべとさん


 B: 戦闘に特化した能力や危険な能力を持つが本人の良識がある妖使いなど。


 登録される妖使いの例:人魂・鎌鼬・テケテケ


 A: その気になれば大量殺人を行える妖使い。欲も危険なものが多い。


 登録される妖使いの例:茶吉尼天・河童・トイレの花子さん


 AA: 軍隊に匹敵する危険な妖使い。見つけ次第近くのグレネーダー支部から抹消の応援が駆け付ける。


 登録される妖使いの例:餓奢髑髏・燭陰・塵塚怪王


 AAA: 災害級妖使い。グレネーダー全部隊が抹消の為総動員されるレベルの妖使い。過去に一度だけ出現。


 登録される妖使いの例:炎之迦具土


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