燃え尽きた犠牲者と次の被害者
「すいませんッ、遅れましづぁッ!?」
作戦会議室のドアを開いてすぐさま謝り頭を下げる。
まだ開ききっていないドアにしこたま頭をぶつけて卒倒した。
頭を抑えながら涙目の目を開けると、呆れた顔の三嘉凪支部長が中央の椅子に座って溜息を吐いていた。
「いや、もう、なんと言うべきか。怒る気も失せた。無事に席に着いてくれ」
「は、はい」
いやいや、全くもって面目ない。
三嘉凪支部長に心の中で謝罪しながら立ち上がって席に付く。
遅れたのは十分くらいだし、まぁ許容範囲、許容範囲。
三日連続遅刻だけど……
「さて、全員揃ったことだし、定例報告といくか」
「斑鳩の捕まえた野衾を依頼主に送っときました支部長。今日中にも感謝の電話があると思うんで」
小金川隊長がすぐに口を開く。
そうか、あの人無事引き渡されたんだ。
「おお、そりゃ良かった。私の首も繋がったわけだ。礼を言っておくぞ斑鳩君」
「あ、いえ、あはは……」
苦笑いで適当に返事する。
そういえば三嘉凪支部長の首がかかってたんだっけ。
どうでもいいから忘れてたよ。
「で、小金川君。妖能力研究所から君のいた遊園地に鵺が向かったとの連絡を受けているが、それらしいものを見かけなかったかね?」
「いえ? 半透明の青白い犬は二頭ほど駆け回ってましたけど、子供が追いかけてきても噛み付いたりしていませんでしたし、鵺ではないでしょう」
ジャッキー君たちだ。しっかり目撃されてるね。
まぁ、誰も悲鳴上げなかったのは幸いというかなんというか。
多分アトラクションかなにかと勘違いしたのだろう。
良く考えれば遊園地を駆け回る幽霊みたいな犬を本物と思う奴なんていないか。
新種のアトラクションだと勝手に客が自己納得してしまうだろうし。
「斑鳩君はなにか見ていないかな?」
「えっ!?」
急に振られて心臓が跳ね上がる。
知っている。鵺と会っている。
でも、それを言ったら……
「い、いえ。入鹿は野衾捕まえることで頭がいっぱいで。小金川隊長が服を脱ごうとしてるのをジャッキー君ごしに見たくらいです」
鼓動が早くなる。
どうしてこういう場面で嘘を付くのは緊張するのだろう。
いや、嘘じゃない。
実際あの時は野衾を倒そうとすることで頭の中は精一杯だった。
本当のことなのに、それを口にするごとに気力が削れていく。
不意に副隊長と目が合う。
冷めた目線。いや、実際には話を聞くために視線を合わせているだけだ。
でも、まるでなにかを勘繰られているようで、焦る気持ちが沸き起こる。
「それじゃぁ白瀧君」
「指揮官の指示ではぐれた斑鳩を捜索しに遊園地に向かった。その間鵺は見ていない。野衾捕獲後は現場の処理をしていた。斑鳩の割ったウインドガラスの請求書を貰っておいたので後で上層部にでも請求しておいてほしいのですが、支部長」
「おお、仕方ねえな。斑鳩君に請求しても無理だろうし、始末書書いとけよ斑鳩君」
マジッすか?
「それと、指揮官と話し合ったのですが、グレネーダーへの入隊希望者に実践テストをしたく思います。よろしいでしょうか?」
「ああ、この部署は人材不足だからな。入隊希望者大歓迎だ。イジリがいもあるし」
本音が……最後に本音がしっかりでてます三嘉凪支部長。
「では、私からは以上だ」
と、最後は私たちに向けて副隊長はそう告げた。
「では、黛君。食品の話は別にしなくていいからな」
「ふぁい。ふぁふぁってふぁふ」
なにかを口に入れながら喋ってる……
それからしばらく、黛隊員によるふぁふぁ言葉の報告が終わった。
その場の全員が解読は不可能だった。
「で、では小林君……ん?」
小林隊員は昨日と同じ表情で、白く燃え尽きていた。
「こいつは報告は無理だな。支部長、新人イビリは程々にしとかないと数少ない係員が別都市に異動してしまいますよ」
小金川隊長の言葉に三嘉凪支部長は頭をかいた。
「いや、小林君の反応が良すぎるんで、つい調子に乗っちまってな」
なにを……小林隊員にナニをしたんですか三嘉凪支部長ッ!?
「まぁ、そのうち戻ってくる。そういや、昨日と同じ体勢だな。これはしばらく戻ってこんかもしれないか」
私たちが帰った後にまたなにかが起こったらしい。
「斑鳩君、先に報告を済ませてくれ」
「あ、はい。って言われても、出雲美果の彼氏君の助けで野衾捕まえたのとガラス壊したくらいで他には特に……ないですね。うん。今日の出勤報告しましょうか?」
「いや、それはいい。だいたい予想が付いてしまったからな。では後は私だな」
頷いて、皆を見回す。
「さて、支部長である私が君たちの仕事に付き合うのは今日で終わりだ。明日から私は司令部の方に戻り、指揮官である小金川君を筆頭に動いてもらうことになる。言わば、今日で研修期間が終わるというわけだ。では、今日の仕事は鵺の捜索。合間に書類整理だ。斑鳩君は私とペアで。黛君は小金川君と。小林君は白瀧君とだ」
三嘉凪支部長と……ペア?
つい小林隊員を見る。
すでに人生終わりかけの絶望してる人みたいになってますけど?
未来の私……じゃないよね?
「それじゃ、行くぞ斑鳩君」
三嘉凪支部長はそれはもう嬉しそうに、スキップしながら退出して行った。
「ええと……逝って来ます皆さん」
「胃薬は常備しとけ斑鳩」
「天狗の軟膏だったら分けてやるぞ斑鳩」
二人の上司はとても優しかった。
胃薬……ホントに買っとこうかな。




